牡丹灯籠②
3行でわかるあらすじ
伴蔵とおみねが百両の金欲しさに幽霊のお米と取引し、新三郎の家のお札をはがして海音如来を盗む。
海音如来を失った新三郎は幽霊のお露に殺され、髑髏が首にかじりついた状態で発見される。
伴蔵は栗橋宿で荒物屋を開業して繁盛するが、お国との不倫が発覚して夫婦の破綻へと向かう。
10行でわかるあらすじとオチ
お露が新三郎に会いに来るが、家の回りにお札が貼られて入れない。
お米が伴蔵に百両を渡してお札をはがしてもらう交渉をする。
おみねが新三郎を行水させている間に、伴蔵が海音如来を盗んで偽物とすり替える。
伴蔵がお札をはがすと、お露が家に入って新三郎を殺してしまう。
新三郎は髑髏が首にかじりついた状態で発見される。
伴蔵は栗橋宿に引っ越し、荒物の関口屋を開業して繁盛する。
伴蔵が料理屋の笹屋でお国という女に入れあげる。
お国は実はお露の継母で、父親を殺して逃げてきた悪女だった。
おみねが伴蔵の不倫を久蔵から聞き出して問い詰める。
伴蔵が祭りの帰りにおみねを殺そうと脇差を抜くところで話が終わる。
解説
「牡丹灯籠②」は、三遊亭圓朝の代表作「牡丹灯籠」の第二話で、第一話で新三郎と幽霊のお露との交流を描いた後、伴蔵の悪事とその報いを描いた重要な部分です。金銭欲に目がくらんだ伴蔵とおみねが、幽霊と取引してお札をはがし、海音如来を盗むことで新三郎の死を招くという展開は、人間の欲望の恐ろしさを表現しています。
特に印象的なのは、新三郎が髑髏にかじりつかれた状態で発見される場面で、これは江戸時代の怪談噺の典型的な恐怖演出として観客に強烈な印象を与えました。また、伴蔵が盗んだ金で栗橋宿で成功を収めるものの、お国との不倫によって破滅への道を歩む構成は、因果応報の思想を色濃く反映しています。
お国がお露の継母であり、実の父親を殺して逃げてきた悪女という設定は、物語に複雑な因縁を持ち込み、単なる怪談を超えた人間ドラマとしての深みを与えています。最後におみねを殺そうとする場面で話が終わるのは、続く第三話への橋渡しとなる構成で、聞き手の関心を次回へとつなげる巧妙な演出となっています。
あらすじ
今夜も新三郎との逢瀬を楽しみにやって来たお露さんだが、家の回りにはお札が貼ってあって入れない。
家の中からは新三郎の読経の声が聞こえてくる。
お米 「萩原様のお心は変わってしまわれました。心の腐った男はお諦めなさいませ」と慰めるが、お露はとても諦めきれないと、さめざめと泣くばかり。
お米は孫店の伴蔵のところへお札をはがしてくれるように頼みに行く。
はじめは幽霊を怖がり、恩ある新三郎のところへ出る幽霊のいう事なんぞは聞けないと、断り続けていた伴蔵だが、女房のおみねから、「幽霊から百両の金を取ってお札をはがしておやりね」とそそのかされて、
伴蔵 「お札をはがして萩原様のお体にもしものことがあったら、私ども夫婦も後の暮らしに困りますから、百両の金を頂ければすぐにお札をはがしましょう」と、幽霊と掛け合う。
お米は百両の金と引き換えに、お札はがしと新三郎が肌身につけている海音如来像を盗み取ることで交渉は成立。
おみねは家に籠りっきりの新三郎を、垢だらけで不潔だと言って行水させて、その隙に伴蔵が金無垢の海音如来を抜き取り、その代わりに粘土の不動像を忍び込ませた。
海音如来はほとぼりの醒めたころ、売り払おうと庭に埋めた。
その晩、やって来た二人の幽霊、
お米 「ここに百両お持ちいたしました。どうかお札をはがしてくださいまし」、伴蔵は幽霊にお足があるのかと訝しがって金を確かめるが、ちゃんと本物の小判だ。
早速、伴蔵は幽霊たちを引き連れて新三郎の家へ行き、お札を全部はがしてしまった。
喜んだお露さんは伴蔵に礼を言って裏窓からすぅ~と、家の中に入って行った。
その夜は幽霊の手引きをした後ろめたい気持ちもあり、まんじりともせずに夜明けを迎えた伴蔵は、おみねと近くの白翁堂遊斎を連れて新三郎の家に様子を見に行く。
しんと静まり返って戸を叩いても、新三郎様と大声で呼べども答えず、中へ恐る恐る入って行くと、新三郎は虚空をつかみ、歯をくいしばって物凄い苦悶の表情で息は絶えている。
その首に髑髏(どくろ)が、しっかりとかじりついている。
三人とも腰を抜かすほどびっくりして、白翁堂が新三郎の身に着けている海音如来を探すと、これが泥の不動に変わっている。
白翁堂 「伴蔵、てめえを疑るわけじゃねえが、ちょっと人相を見せろ」、あわてて拒む伴蔵の様子から、こやつ怪しいと睨んだが、逃がしてはいけないと思ってそれ以上は追及はせず、新幡随院の和尚に頼んで新三郎をお露の墓の隣へ葬ってやった。
伴蔵はすぐにここを引き払うのは怪しまれると思ってしばらく経った頃、伴蔵の故郷の日光街道は栗橋宿へと引っ越して行った。
伴蔵は馬方の久蔵に頼んで一軒の家を買い、荒物の関口屋という店を出す。
二人して一生懸命に働いて店は繁盛し、奉公人も何人も置くようになると、伴蔵は上等な服を着るようになり金使いも荒くなる。
そのうちに栗橋宿の料理屋の笹屋で、年増の別嬪な酌取女にぞっこんになる。
足繁く通うようになり、金にものを言わせてこの女と怪しい仲になる。
この女こそ飯島平左衛門の妻女が死んで女中から後添いに居直ったお国だ。
平左衛門の娘のお露さんとはなさぬ仲で、お国を嫌ったお露さんは柳島の別荘で暮らすようになったいういきさつがあった。
お国は隣家の宮野辺源次郎と密通し、二人で企んで平左衛門を殺して逐電し、お国の故郷の越後の村上に向かったが、親元の家は絶えこの地へ流れて来たというわけだ。
源次郎は平左衛門から受けた疵が痛んで土手下の粗末な家に二人で暮らしている。
伴蔵に女ができたことをうすうす感づいたおみねは、久蔵に酒を飲ませて酔わせて、お国のことを洗いざらい喋らせてしまう。
おみねは帰って来た伴蔵にお国ことを問い詰める。
始めはしらばっくれていた伴蔵だが、久蔵から聞いた証拠をつきつけられてついに白状する。
二人は口論となり、怒った伴蔵はおみねに拳を上げる。
おみねは泣きながら伴蔵が幽霊と取引して百両をもらってお札をはがし、海音如来を盗んだことを大声で喋り始める。
あわてた伴蔵は謝って、二人だけで越後の新潟あたりへ行ってやり直そうと持ちかけ、おみねを手首を取って引き寄せて仲直り。「女房の角をへのこでたたき折り」で、夫婦とは不思議なもんだ。
翌日、幸手の祭りに二人で出かけその帰り道、夜も更けて土手あたりまで来ると伴蔵は、おみねに土手下に海音如来を埋めてあると欺き、掘り出すから見張っているよう言い、暗い中をおみねの後ろへ回って腰に差した脇差をそっと抜いて、おみねの肩先目がけて切り込んだ。
怪談牡丹灯籠のお札はがし、栗橋宿でございます。
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 海音如来(かいおんにょらい) – 仏像の一種。この噺では金無垢で作られた守り本尊として登場し、幽霊除けの霊験があるとされています。
- お札(おふだ) – 神仏の名や呪文を書いた紙片。悪霊や幽霊を防ぐための護符として使われました。
- 孫店(まごだな) – 大家から借りた家を又貸しする店子、または又借りした借家のこと。
- 髑髏(どくろ) – 頭蓋骨のこと。怪談噺では恐怖を演出する重要な小道具として使われます。
- 栗橋宿(くりはししゅく) – 日光街道の宿場町。現在の埼玉県久喜市栗橋にあたり、利根川の渡し場として栄えました。
- 荒物屋(あらものや) – 箒、桶、ざるなどの日用雑貨を扱う店。江戸時代の庶民生活に欠かせない商売でした。
- 酌取女(しゃくとりおんな) – 料理屋で客の酒の相手をする女性。芸者とは異なり、主に酒席での接待を行いました。
よくある質問(FAQ)
Q: 牡丹灯籠は実話に基づいているのですか?
A: 牡丹灯籠は中国の怪談小説『剪灯新話』の「牡丹灯記」を原作として、三遊亭圓朝が日本風にアレンジした創作です。江戸時代の風俗や地名を取り入れて、日本人に親しみやすい怪談噺として再構成されました。
Q: なぜ海音如来には幽霊除けの効果があるのですか?
A: 仏教では仏像や経典には悪霊を退ける霊力があるとされています。特に金無垢の仏像は、その純粋性と価値の高さから強い霊験があると信じられていました。
Q: 伴蔵が受け取った百両は現在の価値でいくらぐらいですか?
A: 江戸時代後期の百両は、現在の価値で約1000万円から1500万円程度と推定されます。当時としては大金で、商売を始めるには十分な元手となる金額でした。
Q: お札はがしの場面は実際にどのように演じられるのですか?
A: 演者は扇子や手ぬぐいを使って、お札をはがす仕草を表現します。一枚一枚はがしていく緊張感と、最後の一枚をはがす瞬間の恐怖を、間と表情で見事に演じ分けます。
Q: 牡丹灯籠は全部で何話構成なのですか?
A: 圓朝の原作は長編で、通常は3話から4話に分けて演じられます。第1話が新三郎とお露の出会い、第2話が伴蔵の悪事、第3話以降が因果応報の結末という構成が一般的です。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三遊亭圓朝(初代) – 原作者。明治の名人として知られ、速記本として出版された「怪談牡丹灯籠」は当時のベストセラーとなりました。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。格調高い語り口で、怪談の恐ろしさと人間の業を見事に描写。特にお札はがしの場面の緊張感は絶品でした。
- 林家正蔵(八代目・彦六) – 江戸前の粋な語り口で知られ、伴蔵の小悪党ぶりを憎めないキャラクターとして演じました。
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。淡々とした語り口の中に、登場人物の心理を巧みに表現。怪談噺でありながら人情味あふれる演出が特徴。
関連する落語演目
牡丹灯籠シリーズ
同じく「怪談・幽霊」がテーマの古典落語
因果応報がテーマの古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「牡丹灯籠②」は、金銭欲に目がくらんで悪事に手を染める人間の弱さを描いた作品です。伴蔵は決して極悪人ではなく、むしろ小心者の普通の人間として描かれています。それだけに、誰もが持つ欲望の怖さがリアルに感じられます。
興味深いのは、伴蔵が盗んだ金で商売を始めて成功するという展開です。悪事で得た金でも、真面目に働けば成功できるという皮肉な現実。しかし、その成功も長くは続かず、今度は色欲に溺れて破滅への道を歩むことになります。
現代でも、一度悪事に手を染めると、その罪悪感から逃れるためにさらなる悪事を重ねるという負の連鎖はよく見られます。伴蔵がおみねを殺そうとする場面は、秘密を守るためなら妻さえも手にかけようとする人間の恐ろしさを表現しています。
また、お国という悪女の存在も見逃せません。実の父を殺して逃げてきた彼女と、主人を裏切った伴蔵。似た者同士が引き寄せられるという因縁話としても読み解けます。
実際の高座では、演者によって伴蔵のキャラクター設定が異なります。小悪党として滑稽に演じる場合と、リアルな悪人として演じる場合で、作品の印象が大きく変わります。怪談噺の恐怖と、人間ドラマの深さを併せ持つ、落語の奥深さを感じられる名作です。









