ぜんざい公社
3行でわかるあらすじ
大阪から東京に来た大橋さんが「ぜんざい公社」でぜんざいを食べようとするが、申込書記入から健康診断、各種許可証取得まで官僚的な煩雑な手続きに振り回される。
何度も階段を上り下りさせられ、最終的に2000円も支払ってやっとありついたぜんざいは全然甘くない。
国家公務員に文句を言うと「甘い汁はとうにわてらで吸わせてもろておりますがな」と返されるオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
大阪から東京に来た大橋さんが新宿で「ぜんざい公社」を見つけ、東京のぜんざいの味を試してみようとビルに入る。
6階の窓口で申込書を書かされ、大阪から来たと分かると遠隔地者用のより複雑な書類に記入させられる。
印鑑がないので運転免許証を提示し、銀行で証紙300円を購入させられる(6階→1階→6階)。
餅入りを希望すると8階の診療所で健康診断を受けて「ぜんざい飲食許可証」を取得するよう指示される。
診療費を払って許可証を取得すると、今度は許可証交付手数料300円を銀行で納めるよう言われる(6階→1階→6階)。
餅を焼くために地下の消防事務所で火器使用許可書を取得させられる(6階→地下→6階)。
全手続き完了後、ぜんざい代金2000円を銀行で納めるよう指示され、上野の西郷さん近くの公社別館まで行かされる。
やっと運ばれてきたぜんざいは全然甘くなく、大橋さんが「全然甘くない汁やがな」と文句を言う。
すると国家公務員が「甘い汁はとうにわてらで吸わせてもろておりますがな」と大阪弁で答える。
これは公務員が国民の税金で甘い汁を吸っているという痛烈な風刺のオチ。
解説
「ぜんざい公社」は、お役所仕事の非効率さと公務員の特権意識を痛烈に風刺した現代落語です。
たかがぜんざいを食べるために申込書記入、証紙購入、健康診断、各種許可証取得など、理不尽なほど煩雑な手続きを要求される様子は、現実の官僚機構の縦割り行政と形式主義を誇張して描いています。
大橋さんが何度も階段を上り下りさせられる描写は、国民が行政サービスを受けるために払わされる無駄な労力を象徴しています。
最後のオチ「甘い汁はとうにわてらで吸わせてもろておりますがな」は、ぜんざいの「甘い汁」と公務員が税金で「甘い汁を吸う」という慣用句を巧みに掛け合わせた言葉遊びで、公務員の特権意識への批判を込めています。
この作品は落語という伝統芸能の枠組みを使って現代社会の問題を鋭く指摘した、風刺落語の傑作と言えます。
あらすじ
久しぶりに大阪から東京へ出て来た大橋さん。
新宿の高層ビル街を歩いていると、その一画に「ぜんざい公社」の看板。
東京のぜんざいはどんな味だろうとビルに入ると、受付で二人が暇そうにべちゃべちゃ話している。
大橋さん「ぜんざい、食べたいんやけど」
受付 「6階の6番窓口へ行ってください」、大橋さんエレベーターに乗ろうとすると動いていない。
大橋さん 「エレベーター動いてないがな」
受付 「経費削減、電力節約、国民健康増進歩け歩け運動のため運転を停止しています」
大橋さん 「あんたら毎日、大変やろ」
受付 「職員専用が裏にあります。乗るには職員身分証明書の提示が必要です」、仕方なくトコトコと6階の窓口へ。
大橋さん 「ぜんざい食べたいんやけど」
窓口⑥ 「この申込書に記入してください。・・・ちょっと待って、あなた東京にお住まいですか?」
大橋さん 「いや、大阪から来たんや」
窓口⑥ 「それでしたら、こちらの遠隔地者用申込書にお願いします」
大橋さん 「何が違うねん」
窓口⑥ 「ぜんざい食べて何か問題が起こった時に面倒なことにならないよう、東京以外の方は規約が細かくなっています」
大橋さん 「何が面倒なことや。
こっちの書類の方がよっぽど面倒やがな。住所・氏名・生年月日・学歴・特技・賞罰 ・・・これ履歴書やがな。・・・保証人?・・・ぜんざい食うのに何やこれ・・・」
窓口⑥ 「付き添いがいない方には保証人が必要ですが、まあ、今回は大目に見てけっこうでしょう。本人の氏名欄に捺印してください」
大橋さん 「印鑑なんて持ち歩いていやへんがな」
窓口⑥ 「それでは身分証明書か運転免許証、健康保険証が必要です」
大橋さん 「免許証はあるがな。ぜんざい食うのに免許証がいるとは恐れ入るこっちゃ」
窓口⑥ 「それでは銀行で証紙300円買って来てください」
大橋さん 「銀行はどこだねん」
窓口⑥ 「1階です」、6階→1階→6階、息を切らして、
大橋さん 「買うて来たで」
窓口⑥ 「ぜんざいは餅入りにしますか」
大橋さん 「餅入りに決まっておるやがな」
窓口⑥ 「それなら8階の診療所で健康診断を受けてください。
餅をのどに詰まらせる人が多発しておりますので。
診てもらって"ぜんざい飲食許可証"をもらって来てください。健康保険証をお持ちでないと実費を徴収されますが、その点ご了承を・・・」、6階→8階の診療所へ、勤務時間中なのになぜかビルの職員ばかりで混みあっていて、えらく待たされて、
医師 「今までにぜんざいを食べたことありますか」
大橋さん 「大阪でしょちゅう食ってるがな」
医師 「食べてアレルギー症状が出たとか、餅がのどに詰まったことは?」
大橋さん 「そんなこと一度もあらへんで」
医師 「それならのどのレントゲンは省略しましょう」、やっと許可証を出してもらい、診療費なんか払えるかと大橋さん再び6階の窓口へ。
だが、窓口には"ただいま昼食休憩時間"で、また待たされる。
やっと窓口が開いて、許可証を見せると、
窓口⑥ 「ぜんざい飲食許可証交付手数料300円を銀行に納めて来てください」、いい加減にしろと言いたいのをぐっとこらえて、6階→1階→6階のウオーキングだ。
窓口⑥ 「これで手続きは完了ですが、餅は焼きますか生まで入れますか」
大橋さん 「焼くにきまってんだろ」
窓口⑥ 「焼き方はどうします。Aはこんがり狐色、Bは中に芯がある生焼け、Cは炭のように真っ黒こげ」
大橋さん 「Aしかないだろ。炭の餅なんか食うやつおらへんで」
窓口⑥ 「当社では"お客様には丁寧で細かい心配り"をモットーにしておりますので」
大橋さん 「どこが丁寧で細かいのや。ただの嫌がらせやがな」
窓口⑥ 「餅を焼くので地下の消防事務所で火器使用許可書をもらって来てください」、ここまで来たら絶対にぜんざいを食うまでは大阪には帰れないとぐっと我慢して、6階→地下→6階の苦行に耐え忍んで許可証を窓口に見せると、
窓口⑥ 「おめでとうございます。
これで晴れてぜんざいがお召し上がりになります。その前にぜんざい代金2000円を銀行で納めてください」
大橋さん 「2000円!そんな高えぜんざい食えるか!もうええわ」
窓口⑥ 「もう、契約は成立しておりますので契約解除の違約金が発生することになりますが、それでもよろしければ」
大橋さん 「払うよ、払うよ、」で、また6階→1階→6階で、昼飯も食ってなくへとへと、腹ペコ。
大橋さん 「ぜんざい食うとこ何処やねん」
窓口⑥ 「上野の西郷さんの近くの公社別館です。この食券を必ず渡してください」、もう怒る気も口を聞く気もなくなった大橋さん、食券を握りしめて上野の別館へやっとたどり着く。
ガラガラなのにテーブルの上に置いた食券を誰も取りに来ない。
大橋さん、手を上げて、「おい、ちょっとねえちゃん」と呼ぶと、
「国家公務員さんとおっしゃい! 官僚です」、恐れ入谷の・・・だが、とにかく艱難辛苦の果てにぜんざいにありつけた。
やっと運ばれてきたぜんざいを口に流し込んで一息ついて、こんどはゆっくりと味わおうとしたが、全然甘くない。
大橋さん 「よお、国家公務員のねえちゃん。何だいこりゃ、全然甘くない汁やがな」
国家公務員 「甘い汁はとうにわてらで吸わせてもろておりますがな」(なぜか大阪弁)
落語用語解説
公社(こうしゃ)
国や地方公共団体が出資して設立した特殊法人。この噺では架空の「ぜんざい公社」として、官僚組織の象徴として描かれている。
証紙(しょうし)
行政手続きの際に手数料として購入する印紙のこと。実際の役所でも各種申請に必要となる場面がある。
縦割り行政(たてわりぎょうせい)
各省庁・部署が横の連携をせず、それぞれが独立して業務を行う行政の問題点。この噺では6階・1階・8階・地下と何度も往復させられる描写で風刺されている。
甘い汁を吸う(あまいしるをすう)
苦労せずに利益を得ることの慣用句。この噺ではぜんざいの「甘い汁」と掛け合わせた言葉遊びでオチとなっている。
国家公務員(こっかこうむいん)
国の機関に勤務する公務員。この噺では「ねえちゃん」と呼ばれて「国家公務員さんとおっしゃい」と返す場面で、公務員の特権意識が風刺されている。
よくある質問(FAQ)
Q: 「ぜんざい公社」は実在したのですか?
A: いいえ、架空の組織です。落語家が官僚機構の非効率さを風刺するために創作した設定です。「公社」という名称は、かつて存在した日本専売公社や日本国有鉄道などの特殊法人をイメージさせるもので、お役所仕事の象徴として使われています。
Q: この噺はいつ頃作られたのですか?
A: 比較的新しい創作落語で、昭和後期から平成にかけて作られたとされています。官僚批判や行政改革が社会的なテーマになった時代背景を反映した作品です。
Q: 江戸落語と上方落語、どちらの演目ですか?
A: 主に上方落語として演じられることが多い演目です。主人公の大橋さんが大阪弁を話し、最後の国家公務員も「なぜか大阪弁」で返すところに上方落語らしさがあります。
Q: 2000円のぜんざいは高すぎませんか?
A: この金額は風刺のための誇張です。証紙代300円、許可証交付手数料300円、診療費、火器使用許可手数料など、本来不要な手数料を次々と徴収される様子が、税金の無駄遣いを象徴しています。
Q: オチの「甘い汁」の意味を教えてください
A: 二重の意味があります。一つは文字通りぜんざいの甘い汁、もう一つは「甘い汁を吸う」という慣用句で「楽をして利益を得る」という意味です。公務員が国民の税金で甘い汁を吸っているという痛烈な社会風刺になっています。
名演者による口演
桂米朝(三代目)
上方落語四天王の一人。社会風刺を品格ある語り口で表現し、官僚批判を笑いに昇華させる名演で知られた。
桂枝雀(二代目)
独特の間とオーバーアクションで大橋さんの苛立ちを表現し、何度も階段を上り下りする疲労感を体全体で演じた。
桂文珍
現代的な感覚を取り入れ、役所の窓口対応をリアルに再現。サラリーマン経験を持つ観客の共感を呼ぶ演出で人気を博している。
笑福亭仁鶴
大阪弁の軽妙な語り口で、大橋さんの庶民感覚を愛嬌たっぷりに演じ、風刺の中にも温かみを感じさせる高座を見せた。
関連する演目
同じく「言葉遊び」がオチの古典落語


同じく「社会風刺」を含む古典落語


同じく「大阪から東京」が舞台の古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「ぜんざい公社」の魅力は、誰もが一度は経験したことのある「お役所仕事」のイライラを、笑いに変えて昇華させているところにあります。申請書類の煩雑さ、たらい回し、昼休みで窓口が閉まる、経費削減を謳いながら職員専用エレベーターは動いている…これらの描写は、現代社会でも通用する普遍的な風刺です。
特に注目すべきは、この噺が単なる悪口や愚痴ではなく、落語という伝統芸能の形式を借りて社会批判を行っている点です。聴く者は笑いながらも「確かにそうだ」と頷き、自分の経験と重ね合わせることができます。
オチの「甘い汁はとうにわてらで吸わせてもろておりますがな」は、公務員批判の決定打でありながら、言葉遊びとしても秀逸です。ぜんざいの甘い汁と、税金で甘い汁を吸うという二重の意味が、聴く者の溜飲を下げさせます。
実際の高座では、大橋さんが何度も階段を上り下りする疲労感や、窓口職員の事務的な対応、最後の国家公務員の開き直りなど、演者の演じ分けが見どころです。落語会で「ぜんざい公社」がかかった際には、風刺の鋭さと笑いのバランスに注目してみてください。


