湯巻誉め
3行でわかるあらすじ
横町の隠居が湯巻(腰巻)にこだわり、正月の門松柄から2月の初雪、3月の桜、5月の金太郎と鯉のぼりなど四季折々の柄を月ごとに使い分けている。
熊さんが隠居の見事な腰巻コレクションを見せてもらい、一年中季節感を楽しめる風流な趣味に感心する。
最後に「十月の松茸狩には何を締めて行くんですか」と聞くと隠居が「その時ははずして行くんだ」と答える下ネタオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
昔は男性も腰巻をしていた江戸時代、横町の隠居が湯巻に異常にこだわりを持っているという噂を聞いた熊さんが訪ねてくる。
隠居は長持ちを開けて色とりどりの腰巻コレクションを披露し、正月は門松・獅子舞・羽子板・独楽の柄で正月気分を味わうと説明する。
2月は初雪の俳句「初雪や二の字二の字の下駄のあと」が書かれた雪景色の柄、3月は桜でお花見気分を演出する。
5月は金太郎と鯉のぼり、6月は雨と柳に蛙、夏は夕立と雷と蛍、秋は紅葉狩りとそれぞれの季節に応じた柄が揃っている。
熊さんは人に見えない所にお金をかけて自分一人で楽しむ贅沢な趣味だと感心する。
しかし最後の腰巻を見ると餅つきの柄になっており、熊さんは疑問を抱く。
「町内恒例の十月の松茸狩には何を締めて行くんですか」と熊さんが質問する。
隠居は何の迷いもなく「あぁ、その時ははずして行くんだ」と答える。
これは松茸狩りに腰巻を「外して」行く=股間を「外す」という下ネタの洒落を効かせたオチである。
四季を楽しむ風流な話から一転、最後に下品な洒落で落とす江戸の庶民的ユーモアが光る古典落語の構成となっている。
解説
「湯巻誉め」は江戸時代の男性の着衣文化と風流趣味を背景にした古典落語で、最後の下ネタ洒落オチが印象的な作品です。この演目の最大の魅力は、前半の風雅な四季の楽しみ方から最後の下品な洒落への急転換にあり、聞き手の予想を見事に裏切る構成になっています。
物語の前半では隠居の洗練された季節感覚が丁寧に描かれ、正月の門松から秋の紅葉まで、一年を通じて腰巻で季節を表現する風流な趣味が紹介されます。特に2月の「初雪や二の字二の字の下駄のあと」という俳句を腰巻に入れるという発想は、江戸時代の教養人の粋な遊び心を示しています。これらの描写は聞き手に上品で雅な印象を与え、隠居への尊敬の念を抱かせる効果があります。
しかし最後の「松茸狩には外して行く」というオチは、「外す」という言葉の二重の意味(腰巻を外す/股間を露出する)を利用した巧妙な洒落で、それまでの風雅な雰囲気を一気に下品なユーモアに変えてしまいます。この急激な転換こそが江戸落語の醍醐味であり、現代でも多くの落語愛好家に愛され続けている古典落語の名作です。
あらすじ
昔は男でも腰巻をしていた。
横町の隠居は湯巻にたいそう凝っていると聞いた熊さんがやって来て、
熊さん 「世間では隠居の事を腰巻隠居、湯巻隠居なんて言ってますけど、そんなに腰巻が好きなんで?」
隠居 「あぁ大好きだ。普通の色とか柄ではつまらないので、工夫していろんな腰巻をして楽しんでいるな」
熊さん 「へえ、そんな派手な腰巻見たことありゃしません。ひとつどんな見せてくださいな」
隠居 「まあ、あまり人に見せるようなものではないが、おまえさんとわしの仲だからいいだろう。あの長持の中に入っているんだ」、開けると中には色とりどりの腰巻がいっぱい詰まっている。
熊さん 「この一番上の門松に獅子舞に羽子板に独楽、綺麗ですなあ」
隠居 「あぁ、お正月の風景だ。正月にはそれを締めて正月気分を味わうんだ」
熊さん 「なるほど次は雪の降っている中を傘をさして人が寒そうに歩いてますな。何か脇に字が書いてありますが・・・」
隠居 「それは"初雪や二の字二の字の下駄のあと"という句だ。二月はこれを締めて、雪見と洒落て一杯やるのが楽しみだなあ」
熊さん 「これは桜、お花見の三月か」
隠居 「町内のお花見にはこれを締めて行けば、目からも肌身からも桜が味わえると寸法だ」
熊さん 「なるほど、腰巻てえのは風流なもんですねえ。これは金太郎に鯉のぼりで五月、これは雨が降っていて柳に蛙が飛びついている柄で梅雨時の六月はこれか、夕立に雷、・・・夏の蛍で・・・紅葉狩でもう秋か」
隠居 「どうだ一年中、春夏秋冬、四季折々、月ごとに腰巻替えて楽しめるということだ」
熊さん 「へい、恐れ入りやした。
人から見えないとこに金かけて自分一人で楽しむなんてのは贅沢な遊びしてますなぁ、・・・けど、これはもう餅つきの柄になってる。町内恒例の十月の松茸狩には何を締めて行くんですかい?」
隠居 「あぁ、その時ははずして行くんだ」
落語用語解説
湯巻(ゆまき)・腰巻
江戸時代には男性も着用していた下着。腰から下に巻く布で、女性用は現在も和装の下着として使われている。
長持(ながもち)
衣類などを収納する大きな木製の箱。婚礼道具として使われることも多かった。
門松(かどまつ)
正月に家の門前に飾る松の飾り。新年を祝う縁起物として江戸時代から親しまれている。
二の字二の字の下駄のあと
「初雪や二の字二の字の下駄のあと」という有名な俳句。雪の上についた下駄の跡が「二」の字に見えることを詠んでいる。
金太郎
足柄山で育った伝説の童子。端午の節句(5月5日)に飾られる人形のモチーフとして有名。
松茸狩り
秋の行楽として親しまれた松茸を採りに行く行事。この噺ではオチに使われている。
よくある質問(FAQ)
Q: 江戸時代は男性も腰巻をしていたのですか?
A: はい、江戸時代には男性も腰巻(湯巻)を着用していました。現在は女性用の和装下着として残っていますが、当時は男女ともに使用していました。
Q: オチの「はずして行く」の意味は?
A: 「松茸狩りには腰巻を外して行く」という意味ですが、「外す」という言葉には股間を露出するという下ネタの意味も含まれています。松茸の形状と掛けた洒落になっています。
Q: なぜ隠居は腰巻に凝っていたのですか?
A: 隠居は「人から見えないところにお金をかけて自分一人で楽しむ」という贅沢な趣味として腰巻に凝っていました。四季折々の柄を楽しむ風流な遊び心が表れています。
Q: 腰巻に俳句を入れるのは実際にあった習慣ですか?
A: 実際には一般的ではありませんでしたが、江戸時代の教養人の間では着物や小物に句や歌を入れることが風流とされていました。この噺はそうした文化を誇張して描いています。
Q: この噺の教訓は何ですか?
A: 人の見えないところで楽しむ贅沢という粋な遊び心を描いていますが、最後の下ネタオチで風流を台無しにするところに落語らしいユーモアがあります。
名演者による口演
五代目 古今亭志ん生
隠居の風流ぶりを丁寧に描き、最後のオチで爆笑を誘う見事な落差を演じた名演で知られる。
六代目 三遊亭円生
四季折々の腰巻の説明を情緒豊かに語り、隠居の教養を感じさせる格調高い口演を見せた。
三代目 三遊亭金馬
熊さんの素朴な反応と隠居の風流の対比を面白おかしく演じ、最後のオチまで笑いの絶えない高座を展開した。
関連する演目
同じく「隠居」が主人公の古典落語


同じく「四季」を楽しむ古典落語


同じく「下ネタ洒落」がオチの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「湯巻誉め」の魅力は、江戸時代の粋な風流文化と下品な洒落を見事に組み合わせている点にあります。隠居が四季折々の柄の腰巻を月ごとに使い分けるという設定は、日本人の季節感への敏感さと、見えないところにこだわる美意識を表しています。
現代でも、下着にこだわりを持つ人は少なくありません。「人から見えないところにお金をかける」という贅沢は、自分自身を大切にする行為として共感できます。また、四季折々の柄を楽しむという発想は、日本の伝統的な美意識の表れでもあります。
しかし、最後のオチで「松茸狩りには外して行く」と下ネタに落とすところが落語らしいユーモアです。風流な話から一転して下品な洒落に転換するこの落差こそ、江戸庶民の笑いのセンスを表しています。
実際の高座では、四季折々の腰巻の説明が情緒豊かに語られ、聴衆が風流な気分に浸ったところで最後のオチが来るという構成が見どころです。落語会で「湯巻誉め」がかかった際には、演者がどのように風流と下品さのバランスを取るかに注目してみてください。


