導入
2025年の世界陸上東京大会で、心温まるエピソードが話題になりました。ブラジルの競歩選手カイオ・ボンフィムが、20キロ競歩のレース中、3キロ地点で結婚指輪を紛失。しかし、指輪を失くした心配をよそに見事金メダルを獲得しました。
その後、SNSで情報を拡散し、ファンに捜索協力を呼びかけたところ、帰国直前に日本人スタッフが指輪を発見。本人に届けられた時、ボンフィムは「Yeah!」と喜び、「アリガトウ」と日本語で感謝の意を表しました。
この美談を聞いて思い出したのは、日本人の「落し物を届ける」文化。でも、時にはそれが行き過ぎることも…。今回は、そんな落し物にまつわる人情と笑いを、落語でお届けします。
まくら
へい、毎度ばかばかしい話でございますが…
世界陸上で金メダル取ったブラジルの選手が、レース中に結婚指輪落として、それを日本人が見つけて届けたいうニュース、皆さんご存知ですか?
ええ話やなぁ思いましたけど、わたいも昔、大事なもん落としてえらい目に遭うたことがありましてな。
財布やのうて、嫁はんにもろた腕時計。「これ高かったんやから、絶対なくしたらあかんで」言われてたやつ。それを天王寺の駅で落としてしもて。
慌てて駅員さんに言いに行ったら、「落し物は3番窓口へ」。3番窓口行ったら「それは遺失物係へ」。遺失物係行ったら「本日の届け出はまだです」。
結局、3日後に見つかったんですが、その時計を拾うてくれたんが、なんと競馬で大負けした帰りのおっさんで、「時計売って競馬の軍資金にしよか思たけど、良心が痛んで届けた」言うてました。
良心痛む前に競馬で負けたことを反省せぇ!思いましたけどな。
あらすじ
天王寺の落し物
大阪・天王寺。ここに勝っちゃんという、ちょっと抜けてるけど心優しい男がおった。
勝っちゃん「ほな、今日も一日がんばるでぇ〜」
朝の通勤ラッシュの天王寺駅を歩いとったら、改札の前に何か光るもんが落ちてる。
勝っちゃん「なんやこれ…指輪やないか!それもえらい高そうな…」
拾い上げて見ると、内側に「Forever Love K&M」と彫ってある。
勝っちゃん「これ結婚指輪やな。落とした人、えらい困ってるやろなぁ」
届け出騒動
勝っちゃん、すぐに駅の窓口へ。
勝っちゃん「すんません!指輪拾いました!」
駅員「はい、落し物でしたら3番窓口へどうぞ」
勝っちゃん「いや、拾たんです!届けたいんです!」
駅員「ですから、3番窓口へ」
3番窓口へ行くと、そこには長蛇の列。30分待ってようやく順番。
係員「落し物の届け出ですね。まず、この書類に記入を」
勝っちゃん「書類!?指輪届けるだけやのに?」
係員「発見場所、時刻、特徴、すべて詳細に記入してください」
勝っちゃん「特徴って…指輪は指輪やがな」
SNS捜索隊
その頃、指輪を落とした正子さんは、旦那の正男さんにめちゃくちゃ怒られとった。
正子「ごめんなさい…でも、朝急いでて…」
正男「結婚10周年の記念に買うたやつやぞ!15万もしたんや!」
正子「SNSで呼びかけてみる!」
正男「SNSで何ができんねん」
正子「世界陸上の選手も、SNSで指輪見つかったって」
正男「あれは金メダリストやから話題になったんや!お前は何のメダリストやねん」
正子「…食べ放題早食い大会3位」
正男「それはメダルちゃう、参加賞や!」
意外な展開
勝っちゃんは結局、書類を全部書いて指輪を届けた。
係員「お礼の権利は要りますか?」
勝っちゃん「お礼?」
係員「拾得物の5〜20%を請求できます」
勝っちゃん「いや、そんなん要りません。持ち主が喜んでくれたらそれで」
係員「立派ですね。あ、でも3ヶ月経って持ち主が現れなかったら、あなたのものになりますよ」
勝っちゃん「え!?それも要らんて!他人の結婚指輪もらってどないすんねん」
一方、正子さんのSNS投稿は思わぬ反響を呼んでいた。
「#天王寺で指輪紛失 #拡散希望 #Forever Love K&M」
すると、コメント欄が大変なことに。
「私もK&M!」
「うちもイニシャル一緒!」
「もしかして私の?」
なんと、同じイニシャルの夫婦が15組も名乗り出てきた。
本物を探せ
駅の遺失物係も大混乱。
係員「えー、K&Mの指輪を落とされた方、順番に確認させていただきます」
1組目「これ違います。うちのはもっと太い」
2組目「デザインが違う」
3組目「そもそもうちのは昨日落としたから違う」
係員「昨日て!早よ言うてください!」
そして15組目、正子さんと正男さんの番。
正子「これです!間違いない!」
正男「ほんまか?よう見てみ」
正子「うん、内側の傷も一緒」
係員「傷?」
正男「料理中に包丁で付けた傷です。この不器用が天ぷら揚げながら指輪してて」
感動の対面
手続きが終わり、正子さんは勝っちゃんにお礼がしたいと申し出た。
駅の一角で対面。
正子「本当にありがとうございました!」
勝っちゃん「いえいえ、当たり前のことしただけです」
正男「お礼をさせてください」
勝っちゃん「そんな、ええですって」
正子「でも、世界陸上の選手みたいに、SNSであなたのこと紹介したい!」
勝っちゃん「え?」
正男「『日本人の親切な人が届けてくれました』って」
勝っちゃん「やめてください!恥ずかしい!」
でも正子さんは既に投稿の準備。
正子「『天王寺の親切な男性、通称”天王寺のボンフィム”が…』」
勝っちゃん「誰がボンフィムや!わい、競歩どころか普通に歩くのも遅いわ!」
連鎖反応
この一件がきっかけで、天王寺駅では落し物を届ける人が急増。
駅員「また指輪です」
「また財布です」
「また…え?入れ歯!?」
係員「なんで入れ歯が改札に落ちてんねん」
届けた人「知りませんがな。でも『天王寺のボンフィム』見習って届けました」
勝っちゃんのあだ名が独り歩きして、天王寺界隈では落し物を届ける人はみんな「ボンフィム」と呼ばれるようになってしもた。
オチへの展開
数日後、勝っちゃんは偶然、正子さん夫婦と再会。
正子「あ!ボンフィムさん!」
勝っちゃん「だからボンフィムちゃいますって」
正男「実は、あれから妻が落し物届けるのにハマってしまって」
正子「昨日は傘3本、今日は手袋2組届けました」
勝っちゃん「そんなに落ちてるもんですか?」
正子「探したら結構あるんです」
正男「探すて…落し物探して歩いてんのか」
正子「だって、届けたら皆喜ぶし、私も『大阪のボンフィム夫人』って呼ばれて」
勝っちゃん「夫人まで出てきた」
そんな話をしてたら、正男さんがポケットを探り始めた。
正男「あれ?財布がない」
正子「また〜?」
正男「いや、ほんまに…さっきまであったのに」
勝っちゃん「僕、探すの手伝います」
3人で必死に探し回る。すると、後ろから声が。
「すんません、これ落としはりました?」
振り返ると、小学生が正男さんの財布を持って立っていた。
小学生「僕も天王寺のミニ・ボンフィムになりたくて」
正男「ミニまで出てきたで…」
正子「でも、やっぱり日本人って親切ね」
勝っちゃん「まぁ、落とし物届けるんは当たり前ですけど」
正男「ところで、その子供、なんで俺の財布持ってたんや?」
小学生「おっちゃんのポケットから落ちそうやったから、落ちる前に拾といたった」
勝っちゃん&正子「それスリやがな!」


