よかちょろ
3行でわかるあらすじ
大店の道楽息子・孝太郎が吉原の花魁に入れあげて掛け取りの金200円を使い果たし、父親に何に使ったかを問い詰められる。
孝太郎は「ひげ剃り代に5円」「よかちょろに45円」と答え、父親が「よかちょろとは何だ」と聞くと、踊りを披露して「これで45円」と言い張る。
呆れた父親が母親に八つ当たりし、夫婦喧嘩に発展した末に孝太郎は勘当となる。
10行でわかるあらすじとオチ
大店の道楽息子・孝太郎が吉原の花魁に入れあげて家に寄りつかず、番頭の提案で掛け取りに行かせるが3日も戻らない。
帰ってきた孝太郎は番頭に花魁とのノロケ話をし、父親に意見されても体は花魁からの預かり物だから傷をつけるわけにはいかないと開き直る。
父親が与田さんから受け取った200円はどこに行ったと追及すると、孝太郎は「全部使っちまった。筋道の通った無駄のない出費です」と偉そうに答える。
まず「ひげ剃り代に5円」と言うと、父親は「一人30銭もあれば顔中ひげでもあたってくれる」と唖然とする。
次に「よかちょろに45円」と答えると、父親は「それは何だ」と身を乗り出す。
孝太郎が「安くて儲かるもの」と答えると、父親は商売人らしく興味を示して「何だそれは、見せてみろ」と言う。
すると孝太郎は「へい、女ながらもぉ、まさかのときは~、ハッハよかちょろ」と踊りを披露し始める。
「主に代わりて玉だすき~、よかちょろ、すいのすいの、してみてしっちょる、味見てよかちょろ、よかちょろパッパッ しげちょろパッパ。これで45円」と言い切る。
呆れて開いた口が塞がらない父親は、母親に「おまえの畑が悪いから」と八つ当たりするが、母親も「おとっつぁんの鍬だってよくない」とやり返す。
結局、孝太郎は勘当となってしまう。
解説
「よかちょろ」は、道楽息子の破天荒な振る舞いとそれに振り回される家族を描いた廓噺の傑作です。
タイトルの「よかちょろ」は、江戸時代の流行歌や踊りの名前で、実際には意味のない囃子言葉ですが、孝太郎はこれに45円という大金を使ったと言い張ります。
この話の面白さは、孝太郎の理屈にならない理屈と、それを聞く父親の反応の対比にあります。
特に「安くて儲かるもの」と聞いて身を乗り出す父親の商人らしい反応や、踊りを見せられて呆然とする場面は絶妙です。
最後の夫婦喧嘩も、子どもの出来の悪さを互いの責任になすりつけ合う、どこの家庭でもありそうな光景をユーモラスに描いています。
この演目は道楽息子ものの典型的な作品で、江戸時代の商家の家庭事情や親子関係、そして吉原という遊興の場の存在を背景にした、当時の世相を反映した作品でもあります。
あらすじ
大店の道楽者息子の孝太郎は吉原の花魁に入れあげていて家に寄りつかない。
番頭が心配して、「若旦那を信用して掛け取りに行かせましょう」と提案、大旦那もしぶしぶ与田さんの所へ二百円を取りに行かせたが、三日も戻って来ない。
大旦那は、番頭にお前が余計なことを言うからだと小言をいい、帰ったらきびしく説教するから奥へ寄越すように言いつける。
もうちゃっかりと帰っていた孝太郎は、番頭に吉原の花魁とのノロケ話を散々したあげく、親父に意見して来るという。
孝太郎は親父は癇癪を起すと、すぐに煙管(きせる)でぶつが、あたしの体は花魁からの預かり物だから、顔に傷をつけるわけにはいかない。
もし花魁が傷のわけを知ったらきっと、「なんて親です。
そんな親父なんてのは人間の脱け殻で、死なないようにご飯を当てがっとけばいいんです。そういう親父は早くは片づけてください」と言うだろうと、段々興奮してきて番頭の首を絞め上げる始める始末だ。
大声のやりとりが奥に聞こえ、「番頭!」と呼ぶ大旦那の声。
孝太郎は「あたしがやりこめて、煙管が飛んできたら体をかわすから、二円やるからおまえが代わりに首をぬっと出しな」と、番頭を買収し大旦那の所へ。
大旦那は与田さんから受け取った二百円はどうしたと追及する。
孝太郎は、「全部使っちまった。ちゃんと筋道の通った無駄のない出費です」と、偉そうに動じない。
大旦那 「何に使ったかちゃんと言ってみろ」
孝太郎 「まず、ひげ剃り代に五円」、「一人三十銭もあれば顔中ひげでもあたってくれる」と、唖然とする大旦那に、
孝太郎 「花魁の三階の角部屋で、花魁があたしが湿してあげます。こっちをお向きなさいったら」と、大旦那の顔をグイと両手でこっちへ向けたから、大旦那は手を振り払って、「何をするんだ。あとは何に使った」、
孝太郎 「よかちょろに四十五円」
大旦那 「それは何だ」
孝太郎 「安くて儲かるもので」、
大旦那 「安くて儲かる」と聞いて身を乗り出し、「何だそれは、見せてみろ」、
若旦那 「へい、女ながらもぉ、まさかのときは~、ハッハよかちょろ、主に代わりて玉だすき~、よかちょろ、すいのすいの、してみてしっちょる、味見てよかちょろ、よかちょろパッパッ しげちょろパッパ。これで四十五円」
呆れて開いた口が塞がらず物も言えない大旦那、そばのおかみさんに「二十二年前に、おまえの腹からこういうもんが出来上がったんだ。だいたいおまえの畑が悪いから」と、八つ当たりだが、
おかみさん 「おとっつぁんの鍬だってよくない」と、やり返し夫婦喧嘩が持ち上がった。
若旦那の孝太郎はこの後、勘当となる。
落語用語解説
掛け取り(かけとり)
売掛金を回収しに行くこと。江戸時代の商売では、ツケ(掛け売り)で取引することが多く、後から代金を回収する役割を担う人が必要だった。
吉原(よしわら)
江戸幕府公認の遊郭。道楽息子が金を使い果たす場所の代名詞として落語によく登場する。
花魁(おいらん)
吉原の最高位の遊女。美しく教養もあり、多額の金がなければ会えない存在だった。孝太郎はこの花魁に入れあげていた。
よかちょろ
江戸時代の流行歌や踊りの囃子言葉。意味のない言葉を歌いながら踊る一種の座興だった。
勘当(かんどう)
親子の縁を切ること。江戸時代には正式な手続きを経て行われた。放蕩息子への最終手段として描かれている。
煙管(きせる)
タバコを吸うための道具。江戸時代の父親が怒ると子どもを煙管で叩くという描写がよく見られる。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ孝太郎は「よかちょろに45円」と答えたのですか?
A: 孝太郎は吉原で遊んだ金の使い道を正直に言えないため、意味のない踊りの名前を使って父親を煙に巻こうとしました。「安くて儲かるもの」と言って期待させ、踊りを見せるという破天荒な言い訳です。
Q: 「おまえの畑が悪い」「おとっつぁんの鍬だってよくない」の意味は?
A: 父親が「息子の出来が悪いのは母親(畑)のせい」と八つ当たりすると、母親が「父親(鍬)も悪い」とやり返す場面です。農業の比喩を使って子どもの責任を押し付け合う夫婦喧嘩を描いています。
Q: 200円はどのくらいの価値がありましたか?
A: この噺の時代設定によりますが、明治時代であれば現在の数十万円から100万円程度の価値があったと考えられます。それを3日で使い果たすのは相当な浪費です。
Q: なぜ番頭は孝太郎を掛け取りに行かせることを提案したのですか?
A: 番頭は孝太郎に責任を持たせることで更生させようと考えましたが、結果的に裏目に出て、集金した金を吉原で使い果たされてしまいました。
Q: この噺の教訓は何ですか?
A: 放蕩息子の言い訳の巧みさと親の無力さを描いていますが、最終的に勘当という厳しい結末を迎えます。子育ての難しさと、親子関係の複雑さを笑いに変えた作品です。
名演者による口演
五代目 古今亭志ん生
孝太郎の開き直った態度と父親の呆れ顔の対比を見事に演じ、「よかちょろ」の踊りの場面で爆笑を誘った名演で知られる。
六代目 三遊亭円生
道楽息子の憎めない愛嬌と、それに振り回される家族の人情を温かく描いた。夫婦喧嘩の場面の掛け合いが絶妙。
三代目 古今亭志ん朝
テンポの良い語り口で孝太郎のノロケ話から勘当までをテンポよく聴かせ、最後の夫婦喧嘩まで笑いの絶えない高座を展開した。
関連する演目
同じく「道楽息子」がテーマの古典落語


同じく「吉原」が舞台の古典落語


同じく「親子の情」を描いた古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「よかちょろ」の魅力は、道楽息子の孝太郎の破天荒な言い訳と、それに振り回される家族の姿をコミカルに描いている点にあります。「ひげ剃り代に5円」「よかちょろに45円」という理屈にならない理屈は、現代でも「何に使ったかわからないけど金がない」という状況に通じるものがあります。
また、父親が「安くて儲かるもの」と聞いて身を乗り出すところは、商人の性を見事に描いています。どんな状況でも商売のことが気になる父親と、それを逆手に取って踊りを見せつける息子の対決は、親子関係の普遍的な葛藤を表しています。
最後の夫婦喧嘩は、子どもの責任を押し付け合うという、どこの家庭でもありそうな光景です。「畑と鍬」という農業の比喩を使った掛け合いは、下ネタを匂わせながらも品があり、落語らしい洒落た表現になっています。
実際の高座では、孝太郎が「よかちょろ」を踊る場面が最大の見どころです。落語会で「よかちょろ」がかかった際には、演者がどのように踊りを演じるかに注目してみてください。


