よいよいそば
3行でわかるあらすじ
田舎者の治郎作と茂平がそば屋でそばの食べ方がわからずに困っている。
威勢のいい男が「よいよい」と言って去り、店主がそれを褒め言葉だと嘘を教える。
二人が芝居で成田屋に「よいよい」と言って怒られるが、悪口だと知らずに喜ぶ。
10行でわかるあらすじとオチ
田舎から江戸見物に来た治郎作と茂平が浅草のそば屋に入る。
二人ともそばを見るのは初めてで食べ方がわからない。
汁をそばにかけたり寝ころんで食べようとしたりして大騒ぎ。
威勢のいい半被姿の男がやってきて見事な箸さばきでそばを食う。
男は「釘が出てきた、よいよい」と言ってそば代を置いて去る。
二人が「よいよい」の意味を聞くと、店主が褒め言葉だと嘘を教える。
猿若町の芝居見物に行き、成田屋の登場場面で使おうと決める。
茂平が「ようよう、ええど、ええど、このよいよい!」と叫ぶ。
見物人が「成田屋にヨイヨイとは何だ!てめえたちこそヨイヨイ野郎だ」と怒る。
茂平は「ありがてぇ、おらたちまで褒められた」と喜ぶ。
解説
「よいよいそば」は江戸と田舎の文化的格差を題材とした代表的な与太郎噺です。
物語の前半はそばの食べ方を知らない田舎者の滑稽な様子が描かれ、後半は「よいよい」という言葉の誤解から生まれる騒動が展開されます。
「よいよい」は江戸時代の悪口・罵り言葉で「馬鹿者」「愚か者」という意味ですが、田舎者の二人はそれを知らず、そば屋の店主の嘘を信じて褒め言葉だと思い込みます。
オチでは芝居小屋で怒られても、それすら褒められたと勘違いする純粋さが笑いを誘います。
江戸時代の階級意識や地域格差を背景に、無知な者の無邪気さを愛らしく描いた秀作です。
あらすじ
田舎から江戸見物に出て来た治郎作と茂平の二人連れ。
見るもの聞くもの田舎とは大違いで目を白黒、口をパクパク、あんぐりで昼飯を食うのも忘れてあちこち見物している。
さすがに腹が減って来たのに気づいて、浅草雷門近くのそば屋に入った。
ところが二人ともそばを見るのは初めてで、出て来たもりそばの食い方も割り箸の使い方も分からない。
治郎作 「江戸ちゅうとこは一本の箸で食うんだべか?」
茂平 「あそこで丼持って食ってる人見てみい。二本の箸で食ってるべえ」、なるほど割り箸は二つに割って使うことは分かったが、せいろに盛られたそばを見て、
治郎作 「こりゃあ、どうやって食うもんだんべ」
茂平 「この汁をそばの上にぶっかけて食やええだろ」と、汁をせいろの上からぶっかけたもんだから、だらだらと汁は漏れてしまう。
治郎作 「それにしてもこのそばちゅうもんはずいぶんと長えもんだ。これどうやって食うだんべ」、二人で腕組みして真剣に考えて、
茂平 「おめえ、上向いて寝ころべや。おらが上から箸でそばつまんで口ん中入れてやる」、「おお、そうすんべ」だが、そばの先が揺れてなかなか口に入らず、鼻や目にそばや汁が入って、くしゃみやらおならやらが出て大変な騒ぎ。
そこへ飛び込んで来たのが半被姿の威勢のいい兄(あん)ちゃん。「おう、もり一杯急いでやってくれ」、割り箸を口で割り、出て来たそばを見事な箸さばきで、つつう~っ、とたぐって一気に食っていく。
すると、「おい、そばん中から釘が出てきたぜ、あぶねえじゃねえか。気をつけろい、このよいよい」、この兄ちゃん、店にいちゃもんつけて銭でもせびる悪(わる)かと思いきや、ちゃんとそば代を置いてまた威勢よく飛び出して行った。
見ていた二人は嵐のように来て過ぎ去っていた男の格好の良さに度肝を抜かれ、すっかり感心してそばを食うのも忘れて放心状態。
茂平 「今ん人、最後にヨイヨイって言いやしたが、あれは何のことでがんす」
そば屋 「ああ、あれは近頃江戸で流行っている褒め言葉ですよ。手前どものそばが美味いというので、よいよい(良い良い)と褒めたんですよ」と、上手くごまかした。
いいことを聞いた、どこかでやろうと、猿若町に芝居見物に行って、いよいよ主役の成田屋の登場する場面となって、ここぞとばかりに、
茂平 「ようよう、ええど、ええど、このよいよい!」
見物人 「こら、天下の成田屋にヨイヨイとはなんだ!てめえたちこそヨイヨイ野郎だ」
茂平 「あっ、ありがてぇ、おらたちまで褒められた」
落語用語解説
よいよい
江戸時代の悪口・罵り言葉で「馬鹿者」「愚か者」という意味。脳卒中などで手足が不自由になった状態を指す言葉から転じた蔑称。
もりそば
ざるに盛られた冷たいそば。つゆにつけて食べる。田舎者の二人はこの食べ方を知らなかった。
割り箸(わりばし)
二つに割って使う使い捨ての箸。江戸時代にはそば屋などで使われ始めた。
猿若町(さるわかまち)
江戸の芝居町。天保の改革で浅草に移転させられた三座(中村座・市村座・森田座)が集まっていた場所。
成田屋(なりたや)
市川團十郎家の屋号。歌舞伎界の名門で、観客から「成田屋!」と声をかけることは最高の賛辞。
半被(はっぴ)
職人や商人が着る短い上着。威勢のいい男の象徴的な服装として描かれている。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜそば屋の店主は「よいよい」が褒め言葉だと嘘をついたのですか?
A: 威勢のいい男から「よいよい」と悪口を言われたことを、田舎者の二人に知られたくなかったからです。店の恥を隠すために咄嗟に嘘をついて誤魔化しました。
Q: 田舎者の二人はなぜそばの食べ方を知らなかったのですか?
A: 江戸時代、そばは主に江戸で発達した食文化で、地方ではうどんや雑穀が主食でした。そばを見たことがない田舎者が江戸に来て戸惑う様子が描かれています。
Q: オチの「おらたちまで褒められた」の面白さは?
A: 見物人から「てめえたちこそヨイヨイ野郎だ」と怒られているのに、「よいよい」を褒め言葉だと信じ込んでいる二人は、怒られていることに気づかず喜んでしまいます。無知ゆえの勘違いが笑いを誘います。
Q: 成田屋に「よいよい」と言うことがなぜ問題なのですか?
A: 成田屋は歌舞伎界の最高峰の名門であり、観客から声をかけることは敬意の表れです。そこに悪口の「よいよい」を言うことは最大の侮辱であり、周囲の客が激怒するのは当然です。
Q: この噺の教訓は何ですか?
A: 知ったかぶりをせずに正直に聞くことの大切さです。しかし同時に、二人の無邪気さと純粋さも描かれており、無知であっても悪意がなければ憎めないという人情も表現されています。
名演者による口演
五代目 古今亭志ん生
田舎者の二人の純朴さを愛嬌たっぷりに演じ、そばを食べようと四苦八苦する場面で爆笑を誘った。
六代目 三遊亭円生
江戸と田舎の文化的格差を丁寧に描き、威勢のいい男と田舎者の対比を鮮やかに演じ分けた。
三代目 三遊亭金馬
そばの食べ方がわからずに寝転がる場面の滑稽さを存分に表現し、与太郎噺の名手として人気を博した。
関連する演目
同じく「田舎者」が主人公の古典落語


同じく「そば」が登場する古典落語


同じく「言葉の勘違い」がテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「よいよいそば」の魅力は、江戸と田舎の文化的格差を笑いに変えている点にあります。そばの食べ方を知らない二人が寝転がって食べようとしたり、汁をせいろにかけたりする場面は、現代でも海外で箸の使い方に戸惑う観光客の姿に通じます。
また、「よいよい」という悪口を褒め言葉だと信じ込んでしまう純粋さは、情報社会の現代でも教訓的です。SNSやネット上で言葉の意味を誤解したまま使ってしまうことは珍しくありません。この噺は、知らないことは恥ではなく、素直に聞くことの大切さを教えてくれます。
同時に、そば屋の店主が自分の恥を隠すために嘘をついたことが騒動の発端になっています。小さな嘘が大きな騒動につながるという教訓も含まれています。
実際の高座では、そばを食べようと四苦八苦する場面と、芝居小屋で「よいよい」と叫ぶ場面のコントラストが見どころです。落語会で「よいよいそば」がかかった際には、演者がどのように田舎者の無邪気さを演じるかに注目してみてください。


