柳田格之進
3行でわかるあらすじ
元彦根藩士の柳田格之進が質屋での対局中に五十両が紛失し盗みを疑われ、娘きぬが吉原へ身を売って金を工面し父の名誉を守る。
後に金は額縁の裏から発見され、出世した格之進が約束通り万屋主従を呼び出し刀を振り下ろす。
しかし主従の真心に感動して手元が狂い、碁盤が真っ二つになって二人の命は助かる武士道人情のオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
元彦根藩士で浪人の柳田格之進が、八月十五夜に質屋万屋での碁の対局中に五十両が紛失し盗みを疑われる。
番頭の徳兵衛に問い詰められた格之進は潔白を主張し、明日まで五十両を用意すると約束する。
娘のきぬは父の自害を察し、自ら吉原の半蔵松葉に身を売って五十両を工面し父の汚名を晴らす。
格之進は金を渡して長屋を去る際、疑いが晴れたら万屋主従の首をもらうと約束させる。
年末の煤払いで額縁の裏から五十両が発見され、万屋源兵衛が対局中にふと置いたのを忘れていたと判明。
翌年の正月、番頭は湯島で偶然格之進と再会し、彼が帰藩して江戸留守居役三百石に出世したことを知る。
格之進は万屋に金が見つかったことを聞き、約束通り明日主従の首をもらいに行くと告げる。
翌朝万屋で格之進は源兵衛と番頭を並べ、大上段に振りかぶって一刀両断に斬り下ろす。
しかし主従がお互いをかばい合う真心に感動して手元が狂い、刀は床の間の碁盤を真っ二つに割る。
格之進は娘を身請けし、番頭ときぬを夫婦にして万屋の養子とし、二人の子を自分の跡継ぎにする大団円となる。
解説
柳田格之進は、武士道精神と人情を巧妙に織り交ぜた古典落語の代表的な人情噺である。
物語の核心は父の名誉のために身を犠牲にする娘の孝行心と、約束を果たそうとする武士の義理堅さにある。
格之進が刀を振り下ろすクライマックスは、復讐劇から一転して人情劇に変わる劇的な転換点として機能している。
碁盤が真っ二つになるオチは、武士の威厳を保ちながら人の命を奪わない絶妙な解決法を提示している。
この作品は江戸時代の身分制度、武士の名誉観、庶民との関係を背景に、最終的に身分を超えた人間愛を描いた名作である。
吉原という遊郭を舞台にした身売りの設定も、当時の社会情勢と女性の立場を反映した重要な要素となっている。
あらすじ
元彦根藩士の柳田格之進は、文武両道に優れ、清廉潔白だが正直過ぎて人に疎まれ、讒言(ざんげん)されて今は浪々の身。 浅草阿倍川町の裏長屋に17になる娘のきぬと二人暮らし。
八月の十五夜の月見の晩、気の合った碁仇の浅草の馬道一丁目の質屋、万屋源兵衛の店の離れで対局中に、水戸家から届いた五十両が紛失した。
番頭の徳兵衛は柳田を怪しみ、長屋に行って問い詰める。
柳田は「わしは知らん、人の物を盗むという事は決してない。
裁きになれば疑いは晴れるが汚名は消えない。明日まで五十両つくる」と言って番頭を帰す。
もとより五十両のあてなどない柳田は腹を切るつもりだが、娘のきぬはそれを見抜き、、自分が吉原へ身を沈めて金を作るという。
きぬはもし疑いが晴れたら、万屋の主人と番頭の首を刎ねてくれと頼み、その日のうちに吉原の半蔵松葉という店に行き、五十両の金ができた。
翌日、柳田は番頭に五十両を渡し、後日金が出たら、その時は番頭と主人源兵衛の首をもらうと約束させ、長屋を引き払う。
その年も押し迫った煤払いの日、万屋の離れの額縁の裏から五十両が出てきた。
源兵衛が柳田と対局中に、ふと置いたのをすっかり忘れていたのだ。
源兵衛は柳田を捜させたが、その年は見つからなかった。
年が明けた年始の挨拶回りの日、番頭は小雪の降る湯島の切通しで、蛇の目傘をさし、宗十郎頭巾を被った身なりのいい、身分の高そうな侍から呼び止められる。
なんとこれが柳田格之進で、帰藩が叶い江戸留守居役に三百石で取り立てられたという。
湯島天神境内の茶店で番頭は五十両が出てきたことを話し詫びる。
柳田は明日の昼頃万屋に行くので、主人共々首をよく洗って置けと言い残し立ち去る。
翌朝、万屋の店で柳田はお互いをかばい合う万屋源兵衛と番頭を並べて、大上段に振りかぶり一刀両断と斬り下ろす。
すると床の間の碁盤が真っ二つ。
主従の真心が響いて手元が狂い2人は命を取り留めたのだ。
早速、吉原の半蔵松葉から娘のきぬを身請けしてきて、娘に詫びると娘も父上のためならと快く応じた。
この後、前よりも柳田と万屋源兵衛は深い付き合いをするようになり、番頭の徳兵衛ときぬは万屋の夫婦養子になった。
そして2人の間に生まれた男の子を柳田格之進が引き取り、家名を継がせたという、柳田の堪忍袋の一席でございました。
落語用語解説
浪人(ろうにん)
主君を失い、仕える藩がなくなった武士のこと。江戸時代には讒言(悪口や告げ口)によって主君から放逐される武士も多かった。格之進もその一人として描かれている。
五十両
江戸時代の貨幣単位。現在の価値に換算すると約500万円から1000万円程度に相当する大金。庶民が簡単に工面できる金額ではなかった。
吉原(よしわら)
江戸時代の公認遊郭。女性が身を売る(身請けされる)場所として、落語にも頻繁に登場する。きぬが身を沈める先として設定されている。
質屋(しちや)
品物を担保に金銭を貸す商売。江戸時代には庶民の金融機関として重要な役割を果たしていた。万屋源兵衛は質屋の主人。
碁(ご)
囲碁のこと。江戸時代には武士から庶民まで広く親しまれた知的遊戯。格之進と源兵衛は碁仇(碁の対戦相手)として交流があった。
讒言(ざんげん)
人を陥れるための嘘の告げ口。格之進が浪人になった理由として挙げられている。
身請け(みうけ)
遊女を遊郭から買い取って自由の身にすること。この噺では格之進が出世後に娘きぬを身請けしている。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ格之進は刀を振り下ろしたのに二人を殺さなかったのですか?
A: 格之進は約束通り刀を振り下ろしましたが、万屋主従がお互いをかばい合う姿に心を打たれ、手元が狂いました。武士の面目を保ちつつ、人の命を奪わない絶妙な解決法として描かれています。
Q: 娘のきぬはなぜ自ら身を売ったのですか?
A: 父の名誉を守るためです。格之進が盗みの濡れ衣で自害しようとしていることを察し、五十両を工面する唯一の方法として吉原に身を沈めることを選びました。これは江戸時代の孝行の極みとして描かれています。
Q: この噺の「碁盤が真っ二つ」というオチにはどんな意味がありますか?
A: 碁盤は格之進と源兵衛を結びつけた縁の象徴です。それが真っ二つになることで、過去の嫌疑にまつわる関係が清算され、新しい関係が始まることを象徴しています。また、武士の刀の威力を示しつつ人命を奪わない結末として機能しています。
Q: 最後に番頭ときぬが夫婦になるのはなぜですか?
A: 番頭の徳兵衛は格之進を疑った人物ですが、主人をかばって命を差し出す覚悟を見せました。この誠意と、万屋との新しい関係を築くために、きぬと夫婦にして養子とする円満な結末が用意されています。
Q: この噺は実話に基づいていますか?
A: 完全な創作ですが、江戸時代の武士の名誉観、身分制度、遊郭の文化など、当時の社会背景を反映した作品です。類似の逸話は講談などにも見られます。
名演者による口演
六代目 三遊亭円生
人情噺の名手として知られ、「柳田格之進」を得意演目とした。格之進の武士としての威厳と人情味を見事に演じ分け、長時間の演目を飽きさせずに聴かせた。
五代目 古今亭志ん生
独特の語り口で「柳田格之進」を演じ、格之進の清廉さと番頭の狼狽ぶりを対照的に描いた。
三代目 古今亭志ん朝
父・志ん生譲りの話芸で「柳田格之進」を継承。きぬの親孝行を涙なしには聴けないほど感動的に演じた。
関連する演目
同じく「武士の名誉」を描いた古典落語


同じく「吉原・身売り」が登場する古典落語


同じく「人情噺」の名作


この噺の魅力と現代への示唆
「柳田格之進」の魅力は、武士道精神と人情が見事に融合した点にあります。格之進は約束を守って刀を振り下ろしますが、最終的には人の命を奪わない選択をします。これは「義理と人情」という日本文化の根幹をなすテーマを体現しています。
現代社会でも、約束や信義を守ることと、相手の事情を汲むことの間で葛藤する場面は少なくありません。この噺は、厳格なルールを守りながらも、最終的には人間性に基づいた判断を下すことの大切さを教えてくれます。
また、娘きぬの自己犠牲は、現代の感覚では問題視されるべき設定ですが、江戸時代の価値観における「孝行」の極みとして描かれています。この噺を通じて、当時の社会における家族愛のあり方を知ることができます。
実際の高座では、格之進が刀を振り下ろす場面の緊張感と、碁盤が真っ二つになる瞬間の解放感が見どころです。落語会で「柳田格之進」がかかった際には、演者がどのように武士の威厳と人情を演じ分けるかに注目してみてください。


