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【古典落語】矢橋船 あらすじ・オチ・解説 | 琵琶湖渡し船の珍騒動記

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古典落語-矢橋船
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矢橋船

3行でわかるあらすじ

琵琶湖の矢橋から大津への渡し船で、様々な乗客が色問答や無理問答などの言葉遊びを楽しんでいる。
隠居が尿瓶で酒を飲み始め、喜六が間違えて本物の小便を飲んでしまう大騒動が起こる。
名刀小烏丸をめぐる争いで刀を抜いたところ雀が群がり、「烏群がる」はずが雀で、よく見たら竹光(偽の刀)だったオチ。

10行でわかるあらすじとオチ

喜六・清八の二人連れが琵琶湖の矢橋から大津への渡し船に乗り、様々な乗客と乗り合わせる。
船には商人、侍、鳥刺し、隠居風の旦那、お婆さん、病人などが乗っており、琵琶湖の風景を楽しみながら進む。
退屈しのぎに色問答が始まり、赤・青・白・黒の物を組み合わせた言葉遊びで盛り上がる。
隠居が酒を飲みたがるが燗徳利を忘れたため、尿瓶を代用して酒を飲み始め、回し飲みとなる。
喜六が酒に釣られてがっつくが、間違えて病人の本物の小便を飲んでしまい「こんなションベン飲ましやがって!」と大騒動。
その後、無理問答という「丸くて四角くて長くて短い」などの謎かけが行われ、一人旅の侍も参加する。
二人連れの侍が一人旅の侍の刀を名刀小烏丸と見て、ぜひ見せてくれと迫るが断られる。
しつこく迫った末、二人は侍を押さえつけて刀を奪い取り、鞘が鳥刺しの駕籠に突き刺さって雀が逃げ出す。
侍が刀を抜いて構えると、逃げた雀が群がって下りてくる。
侍は「小烏丸を抜くときは烏群がる」と言うが、群がったのは雀で、よく見たら竹光(偽の刀)だったというオチ。

解説

「矢橋船」は上方落語の代表的な道中噺で、琵琶湖の矢橋から大津への渡し船を舞台とした群像劇です。
実際に江戸時代から明治初期まで運航されていた矢橋の渡し船は、東海道の旅人にとって重要な交通手段でした。

この噺の魅力は多彩な登場人物と次々に起こるトラブルの連続にあります。
色問答や無理問答といった江戸時代の知的遊戯が紹介され、当時の庶民文化が活写されています。
尿瓶酒の騒動は落語らしい下品なユーモアの典型で、喜六の勘違いから生まれる大騒動が聴衆の笑いを誘います。
オチの小烏丸(平安時代の名刀)の話は、「烏が群がる」という言い伝えと実際に群がった雀とのギャップ、そして竹光という予想外の結末が重なった見事な構成です。
3代目桂米朝などの上方落語の名人が得意とした演目として知られています。

あらすじ

喜六、清八の二人連れは草津の宿のうばが餅屋の角を曲がり、近江八景「矢橋の帰帆」で有名な琵琶湖の矢橋(やばせ)の湊に向かう。
大津まで矢橋船の船旅を楽しもうという趣向だ。
無一文だったはずの二人が贅沢な船旅とは。
ここが落語の面白い所、いい加減な所か。

舟には商人、一人旅の侍、紛失したお家の名刀の小烏丸を探し、諸国を巡っている二人連れの侍、幾羽もの雀を駕籠に入れた鳥刺し、供を連れた大店の隠居風の旦那、風呂敷包みを持ったお婆さん、戸板に乗せられた病人らが乗り合わせる。

湖上は穏やかで、比叡の山、比良の連山、俵藤太のムカデ退治で有名な近江富士の三上山の姿を楽しみながら舟は大津へと進んでいく。
大ムカデは三上山を七巻半したというが、八巻(鉢巻)にはちょっと短いなんて洒落ている人もいる。

退屈しのぎにと色問答が始まる。
まずは、赤い物を3つ重ねる。「金時が鯛ぶら下げて火事見舞い、赤い赤いが赤いなりけ り」、「ほおずきで赤子をあやす笹(酒)きげん」、青い物は、「晴天に海原晴れて松林」と綺麗に決まった。
白は「雪の上塩と砂糖と舐めてみる」、黒は「中は子か、右と左は親ガラス」でなるほど。
お次は黒、赤、白の三色変わりだ。「堅炭(かたずみ)の熾(おこ)った後は灰になり」と色問答は続いている。

隠居風の旦那が色問答を面白がって、聞きながら一杯やりたいと供の久助に言う。
久助は上等の酒と肴は持って来たのだが、燗徳利を忘れて来た。

すると草津で買ったさらの尿瓶(しびん)を貸してやろうと言う人が現れた。
旦那は、旅の空の下での一風変わった趣向もよかろうと尿瓶酒を旨そうに飲み始める。
回りの人にもと、尿瓶酒の回し飲みが始まった。

色問答のような風流なことには、無関心・不調法で舟の端で居眠りをしていた喜六と清八だが、酒と聞き、上等の酒の匂いがしてくると、もう我慢ができず黙ってはいない。

しゃしゃり出てきて意地汚く「俺にも飲ませろ」とせがみ、喜六はがっついてそこにあった尿瓶酒を飲むが、これが本物の小便で、「ウッウ-、ゲッ- こんなションベン飲ましやがってッ!」と怒るが、あせって戸板の病人の尿瓶と取り違えたのだ。
戸板の病人も間違えて、酒入りの尿瓶にションベンをしたりして、舟の中は大騒ぎになったりする。

やっと尿瓶酒騒ぎもおさまると、今度は無理問答だ。「丸くて四角くて長くて短い」は「釣瓶縄(つるべなわ)、井桁の中に月の影」なるほど見事だ。
すると一人旅の侍から「身共もまいろうか」と声が掛かる。「大小の鍔に四つ目の紋所」とうまいもんだ。

これを聞いて、侍の差している刀が名刀の小烏丸と見た二人連れの侍が近づいて来て、腰の刀を是非見せてくれと頼む。
侍はこんな船中にて刀を抜くのは他の迷惑、異なものだと断るが、二人はならば大津の宿にてとしつこく迫る。「くどい!」と断ると、ならばと二人は侍を押さえつけ、刀を腰から奪い取った。

そのはずみに鞘が鳥刺しの駕籠に突き刺さって、網が破れて中の雀が一斉に大空へ飛び立った。
「何をするんじゃ、わしがせっかく捕ま えてきた雀、逃がしやがって」 と怒る鳥刺し。
すると侍が鞘を払って抜いた刀を構えている所へ、空へ舞 い上った雀がザァ~、パタパタパタ~と群がって下りて来た。

侍 「"小烏丸を抜くときは烏群がる"とこそ伝え聞きしに、かく雀の群がるとは」、ようく見たら竹光でございました。


落語用語解説

矢橋(やばせ)
滋賀県草津市にあった琵琶湖の渡し場。東海道の旅人が大津まで近道するために利用した船着場で、「矢橋の帰帆」は近江八景の一つとして有名。

竹光(たけみつ)
竹で作った偽の刀のこと。貧乏な侍や浪人が、刀を質に入れてしまった際などに体裁を繕うために差していた。本物の刀を持てない侍の滑稽さを表す落語の定番小道具。

色問答(いろもんどう)
色をテーマにした言葉遊び。同じ色のものを3つ重ねて俳句のように詠む知的遊戯で、江戸時代の庶民の間で流行した。

無理問答(むりもんどう)
「丸くて四角い」「長くて短い」など相反する性質を組み合わせた謎かけ。頓知を競う言葉遊びで、落語でも多く登場する。

尿瓶(しびん)
病人などが寝たまま用を足すための容器。この噺では新品の尿瓶を酒の徳利代わりに使うという下品なユーモアが展開される。

鳥刺し(とりさし)
鳥を捕まえて売ることを生業とする人。竿の先に鳥もちをつけ、小鳥を捕まえていた。

小烏丸(こがらすまる)
平安時代から伝わるとされる名刀。伊勢神宮の神官の夢に八咫烏が現れて授けたという伝説があり、「抜くと烏が群がる」という言い伝えがある。

一里(いちり)
江戸時代の距離の単位。約4キロメートル。矢橋から大津までは約3里(約12キロメートル)の距離があった。


よくある質問(FAQ)

Q: 矢橋船とはどんな船ですか?
A: 矢橋船は、滋賀県草津市の矢橋から大津までを結んでいた渡し船です。東海道を旅する人が、陸路の瀬田の長橋を回るより近道になるため、多くの旅人に利用されました。江戸時代から明治初期まで運航され、「急がば回れ」のことわざの元になったとも言われています(矢橋の近道は危険なので、遠回りでも瀬田を回れという意味)。

Q: 小烏丸は実在する刀ですか?
A: はい、小烏丸は実在する日本刀で、現在は皇室の御物として保管されています。平安時代の刀工・天国(あまくに)の作とされ、日本刀の原型ともいわれる名刀です。「烏が群がる」という伝説は、落語のオチのために脚色された部分もあります。

Q: 近江八景とは何ですか?
A: 近江八景は、琵琶湖周辺の8つの景勝地を選んだもので、中国の瀟湘八景にならって室町時代に選定されました。「矢橋の帰帆」はその一つで、夕暮れ時に矢橋に帰ってくる帆船の風景を詠んだものです。

Q: この噺は江戸落語でも演じられますか?
A: 「矢橋船」は主に上方落語の演目として知られています。喜六・清八という上方落語特有のコンビが登場し、琵琶湖という関西の地理が舞台となっていることから、江戸落語ではあまり演じられません。

Q: オチの意味を教えてください
A: オチは二重の皮肉になっています。侍は名刀小烏丸を持っていると見せかけていましたが、実際は竹光(偽の刀)でした。「小烏丸を抜くと烏が群がる」という伝説に対し、実際に群がったのは雀だったことで、偽物であることが暴露されるという巧みな構成です。


名演者による口演

三代目 桂米朝
人間国宝にも認定された上方落語の巨匠。「矢橋船」を得意演目とし、色問答や無理問答の知的な言葉遊びを格調高く演じながらも、尿瓶酒の騒動では下品なユーモアを巧みに織り交ぜる緩急自在の芸を見せた。

二代目 桂枝雀
独特の高座で知られる上方落語の名人。喜六・清八の掛け合いを誇張した表現で演じ、尿瓶酒を飲む場面では観客を爆笑の渦に巻き込んだ。


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この噺の魅力と現代への示唆

「矢橋船」の魅力は、一隻の船という閉じた空間で様々な人間模様が展開される群像劇にあります。商人、侍、鳥刺し、隠居など多彩な乗客が織りなす人間関係は、現代の電車やバスの中でも見られる光景に通じるものがあります。

色問答や無理問答といった知的遊戯は、SNS時代の大喜利文化にも通じる日本人の言葉遊び好きを象徴しています。また、見栄を張って偽物の刀を差していた侍の滑稽さは、現代のブランド志向や見栄っ張りな行動への風刺としても楽しめます。

実際の高座では、船の揺れや乗客たちの動きを体全体で表現する演者の技量も見どころです。落語会で「矢橋船」がかかった際には、ぜひ演者の船上描写にも注目してみてください。

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