禍は下
3行でわかるあらすじ
船場の商家の旦那が「網打ちに行く」と嘘をついて妾のお孝さんの所で遊び、お供の定吉に嘘の土産を買わせて口裏合わせをする。
旦那は定吉に「禍は下から」(下の者のちょっとしたことから事がバレる)と注意するが、皮肉にもお孝さんがたたんだ袴のたたみ方が上手すぎて不倫がバレる。
内儀が袴のたたみ方で妾の存在を見抜き、定吉が「ああ、やっぱり旦さんの言やはったとおり、禍は下からや」と嘆く。
10行でわかるあらすじとオチ
船場の商家の旦那が「仲間うちで網打ちに行く」と内儀に嘘をついて、実は妾のお孝さんの所に遊びに行く。
お孝さんの家で酒を飲んで泊まることにし、お供の定吉に羽織と袴を持たせて先に帰らせる。
旦那は定吉に一円を渡して「網で捕れた魚を買って土産にしろ」と指示し、嘘の口裏合わせを頼む。
定吉に「禍は下から」(下の者のうっかりしたことから事がバレる)と注意を与える。
定吉は目刺し、チリメンジャコ、かまぼこを買い、残りは小遣いにして店に帰る。
内儀は怪しい土産を見て問い詰めるが、定吉は旦那との約束を守って嘘を通そうとする。
しかし内儀は羽織と袴のたたみ方を見て「羽織は定吉のたたみ方だが、袴は上手すぎて定吉にはできない」と指摘。
袴を崩して「もう一度たたんでみろ」と迫られ、定吉はついに「お孝はんがたたんだんで」と白状する。
内儀は「やっぱりお妾さんか」と妾の存在を確信し、袴のたたみ方で全てを見抜いたことを明かす。
最後に定吉が「ああ、やっぱり旦さんの言やはったとおり、禍は下からや」と嘆くオチ。
解説
「禍は下」は、上方落語の中でも特に巧妙な構成で知られる作品です。
タイトルの「禍は下」は「災いは身分の低い者から起こる」という意味で、旦那が定吉に注意した言葉ですが、実際には定吉のせいではなく、妾のお孝さんがたたんだ袴のたたみ方が上手すぎたために不倫がバレるという皮肉な展開になっています。
物語の核心は内儀の鋭い観察力にあり、羽織と袴のたたみ方の違いから真実を見抜く場面は、日本の伝統的な生活文化における女性の実用的な知恵を巧みに活用したオチとなっています。
定吉の嘘は完璧だったにも関わらず、物的証拠である袴のたたみ方で全てが発覚するという展開は、落語ならではの意外性と納得感を兼ね備えており、最後の定吉の「禍は下からや」という台詞は、旦那の言葉がそのまま自分たちに跳ね返ってきた皮肉を表現した見事な幕切れとなっています。
あらすじ
船場の商家の旦那、「仲間うちの寄り合いで天満橋から船を仕立てて夜網を打って、獲物を網彦か加賀伊あたりで料理さして一杯やろうというのじゃ」
内儀 「ほならお帰りは遅(おそ)なりますなあ。お供はどうしましょう」
旦那 「定吉にしておくれ。帰りの土産用に風呂敷を持たしとくように」と、旦那と定吉は店を出る。
定吉 「旦さん、こっちは天満橋ではおまへん」
旦那 「黙ってついて来い。
網打ちは嘘じゃ。お孝の所へ行くのじゃ」と、お孝さんの家へ直行する。
お孝さんの家で、定吉も相伴させて酒と魚屋にあつらえた料理で飲んでいるうちにけっこう酔いが回って来た旦那。
お孝さん「もう、袴(はかま)はお脱ぎのなったらどうでおます」
旦那は今晩はここに泊まると決めて、居眠りをしだした定吉に、「・・・その羽織と袴持って帰るように」
お孝 「定吉とん、羽織たたんでおくれやす。私はこの袴をたたみますよって」
旦那 「定吉、家に帰って旦さんはお仲間と獲った魚を網彦で料理して、お酒になって夜明かしなるやろうというので、私は先に帰って参りましたと、言うのやで。この一円で魚屋で網でとれたもんを買うて、お土産じゃと言うで持って帰んなはれ」
定吉 「この一円、みなお魚買わななりませんか」
旦那 「まあ、みつくろいでいいがな」、「ほな、おつりは」、「お前の小遣いにしなはれ」、「ほたら、魚二十銭で・・・」、「阿保なこと言うのやない。
家へ帰ったらあんじょう上手に言うのじゃぞ。下々の者がうっかりしたことを言うたりしたことから事がばれる、"禍(わざわい)は下(しも)から"と言う言葉があるねん」
定吉は羽織、袴を包んだ風呂敷包みを持ってお孝さんの家を出る。
遅くまでやっている魚屋に寄って、「網でとれた魚欲しいねん」、「うちは、みな網でとれた魚やがな」、定吉は目刺し、チリメンジャコ、かまぼこを買う。
むろんおつりはしっかりと計算してがっぽり小遣いに残すことに抜かりはない。
店に帰った定吉、旦那から小遣いをもらっているし、"禍は下"なんて言われないようにお内儀さんに「天満橋から船に乗りまして・・・お酒になって夜明かし・・・私は先に帰って参りました」と、すらすらと澱みなく喋り、羽織と袴の風呂敷包とお土産を前に出した。
目刺しにチリメンジャコにかまぼこを見た内儀さん「・・・ようそんなアホなこと言うな。・・・旦那さん、ほんまはどこに行きはったんや、正直に言いなはれ」、それでも定吉は旦那への義理立てか、男同士の約束からか、「・・・獲った魚を持って帰る途中で犬が飛びついて来て、魚をくわえて逃げて行てしもたんで、川筋のお魚屋で買うて来たんですねん」
そんな嘘はすぐに見抜いた内儀さんだがさらに、「これは誰がたたんだんや。
この羽織は定吉、お前やろ。
こんなに不細工にたたんであるがな。
こっちの袴はきちんとたたんで、紐の扱いやなんピシッとしてお前にはできやしない。この袴はだれがたたんだんや」
それでも定吉「いや、あの・・・これ、わたいが」、内儀さん袴をバラバラにくずして「さあ、もう一度きちんとたたんで見なはれ」と、たたみかける。
ついに定吉は白旗、降参して「お孝はんがたたんだんで」
内儀 「・・・やっぱりお妾(てかけ)さんか、うすうす私も分かってはいましたが・・・」
定吉 「ああ、やっぱりバレてしもた。お妾さんのこと、何で分かりました」
内儀 「この袴のたたみようで分かったんやがな」
定吉 「ああ、やっぱり旦さんの言やはったとおり、禍は下からや」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 船場(せんば) – 大阪の商業中心地。裕福な商家が多く集まっていた。
- 内儀(ないぎ) – 商家の主人の妻。女将。
- 妾(てかけ) – 正妻以外の女性。二号さん。
- 禍は下から – 災いは身分の低い者のちょっとした言動から起こるという戒め。
- 袴のたたみ方 – 武家や商家の作法として重視された。たたみ方で教養や身分が分かった。
- 網打ち – 投網で魚を捕ること。船遊びの一種として楽しまれた。
よくある質問(FAQ)
Q: 「禍は下からや」というオチの意味は?
A: 旦那が定吉に「下の者の言動から事がバレる」と注意したのに、皮肉にも妾のお孝さんがたたんだ袴(下にあるもの)のたたみ方で不倫がバレてしまったことを指しています。二重の意味で「下から」災いが来たオチです。
Q: なぜ袴のたたみ方で妾の存在が分かったのですか?
A: 内儀は定吉の不器用なたたみ方を知っていました。袴が上手にたたまれていたことから、定吉以外の女性(妾)がたたんだと見抜いたのです。当時は袴のたたみ方は女性の教養を示すものでした。
Q: 定吉はなぜ最後まで嘘を通そうとしたのですか?
A: 旦那への義理立てと男同士の約束を守ろうとする忠義心からです。しかし物的証拠である袴のたたみ方には勝てませんでした。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三代目 桂米朝 – 人間国宝。内儀の鋭い観察力と定吉の狼狽を巧みに演じ分けました。
- 二代目 桂枝雀 – 爆笑王。定吉の嘘がバレていく過程を大げさに演じて笑いを誘いました。
- 六代目 笑福亭松鶴 – 上方落語の重鎮。船場の商家の雰囲気を丁寧に描きました。
関連する落語演目
同じく「妾・不倫」がテーマの古典落語


同じく「船場・商家」がテーマの古典落語


嘘がバレる展開の古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「禍は下」は、旦那の言葉がそのまま自分に跳ね返ってくる皮肉な構成が魅力の上方落語です。定吉の嘘は完璧だったにも関わらず、物的証拠である袴のたたみ方で全てが発覚する展開は、落語ならではの意外性と納得感を兼ね備えています。
内儀の鋭い観察力は、日本の伝統的な生活文化における女性の実用的な知恵を巧みに活用したものです。袴という何気ない日用品から真実を見抜く展開は、現代の推理ものにも通じる面白さがあります。


