笑い葺
3行でわかるあらすじ
45年間一度も笑ったことがない仏頂さんが医者から「笑い葺」というキノコをもらって飲むと笑いが止まらなくなる。
「笑う門には福来る」で世界中の金が仏頂さんの家に集まり大富豪になるが、天と地で緊急対策会議が開かれる。
お月さんが笑って金を取り返そうとするが、仏頂さんが「あれは空笑いだ」と言って金を手放さずオチとなる。
10行でわかるあらすじとオチ
生まれてから45年間一度も笑ったことがない仏頂さんの妻が、夫の笑顔を見たいと町の医者に相談に行く。
医者は「笑い葺」という紅葉の根方にできるキノコを酒に浸して飲ませれば笑うようになると教えてくれる。
妻が帰って仏頂さんに薬を飲ませると、最初は効かないと言っていたが次第に「ウフフ」と笑い始める。
仏頂さんは笑いが止まらなくなり、「こんなお多福を女房にしているなんて」と妻を見て大爆笑する状態になる。
夫婦で笑い続けていると、「笑う門には福来る」の言葉通り、日本中世界中天上天下の金が全て仏頂さんの家に集まって大金持ちになる。
一方で天上でも地獄でも金が全部なくなって、月も星も閻魔も奪衣婆も赤鬼青鬼みんな貧乏になってしまう。
天と地で緊急対策会議が開かれ、地獄には笑える者がいないのでお月さんに笑ってもらって金を吸い上げようと決まる。
お月さんが仏頂さんの家で満月となって大声で笑い始めると、金がぞろぞろと出て行こうとする。
仏頂さんが金に「これからどこへ出掛けるのだ」と聞くと、金は「天上でお月さまが笑っているので天に戻ろうと思って」と答える。
しかし仏頂さんが「出て行くにはおよばないよ、ありゃみんな空笑いだ」と言って、言葉遊びのオチで金を手放さずに終わる。
解説
「笑い葺」は古典落語の中でも特に壮大なスケールで展開される幻想的な演目で、笑いがもたらす福運という民間信仰を極限まで拡大して描いた傑作です。45年間笑ったことがない仏頂面の男性という極端な設定から始まり、最終的には宇宙規模の経済問題に発展するという荒唐無稽な構成が魅力的です。
この噺の核心となる「笑い葺」は、架空のキノコですが、実際に「紅葉葺」という植物名を模した命名が巧妙です。医者が「酒に浸して飲ませる」という具体的な処方を示すことで、荒唐無稽な設定にリアリティを持たせています。また、笑いの効果が段階的に現れる描写(「ウフフ」から始まって「ハハハハハ」まで)は、薬効が徐々に効いていく様子を表現した見事な演出です。
「笑う門には福来る」という日本の諺を文字通り極限まで実現させる発想は、落語らしい誇張表現の典型例です。個人の笑いが世界経済を左右するという設定は、現代のグローバル経済の概念を先取りしたような壮大さがあります。天上天下すべての金が一箇所に集まるという描写は、富の偏在という社会問題を笑いに昇華させた表現とも解釈できます。
天と地での「緊急対策会議」という設定も秀逸で、宗教的・神話的な世界観を持ち込みながらも、現代の危機管理会議のような実務的なニュアンスを含んでいます。地獄に笑える者がいないため月に頼むという発想は、地獄の陰鬱さと天上の明るさという対比を巧みに利用した構成です。
オチの「空笑い」は、「そら(空・虚)」と「そら(天空)」の掛詞になっており、月の笑いが天空からのものであると同時に、中身のない偽りの笑いであることを示しています。仏頂さんが最後まで金を手放さないのは、彼が笑いを始めてからも本質的には強欲な人間性を保っていることを示唆しており、人間の業深さを軽やかに表現した見事なオチとなっています。
この演目は単なる笑い話を超えて、笑いの持つ力、富と幸福の関係、そして人間の欲深さについて考えさせる、哲学的な要素も含んだ深みのある作品です。
あらすじ
生まれてから四十五年、一度も笑ったことがないという仏頂さん。
女房も連れ添って十五年になるが笑い顔を見たことがなく、心配になって町の医者に相談に行く。
女房 「うちの人の笑う顔を是非とも見たいのですが、そういうお薬はございませんでしょうか?」
医者 「紅葉の根方にできる茸(キノコ)で紅葉葺というものがある。
これを酒に浸して飲ませると、どんなに笑わない者でも自然と笑い出す。
これを俗に"笑い葺(わらいだけ)"と呼ぶ。ちょうど、ここにあるから持って行って飲ませておやりなさい」
女房 「こんな小さな葺を飲んだだけで笑うなんて、・・・ウフフ、ウフフフフ、・・・」
医者 「お前さんは笑わなくてもいいんだよ。まあ、騙されたと思って試してごらん」、家に帰って、
女房 「あたしは一度でもいいから、あなたの笑う顔が見とうございます」
仏頂 「いくら何と言われようとも、俺は笑うことができないのだ」
女房 「実はお医者さまからこれを頂いてまいりました。この笑い葺を飲めばどんな人でも自然と笑い出すと・・・」
仏頂 「こんな物、効くはずがない。
お前はあの薮医者に騙されているんだよ。まあ、どうしてもと言うんなら飲んでやろう・・・さあ、飲んだよ、・・・ちっとも笑わないじゃないか」
女房 「そりゃ、あなたまだお薬が体に回っていませんもの」
仏頂 「こんな物で笑うわけがありません。こうなればあたしも意地だから絶対に笑いません」
女房 「そんなこと言わないで一度でいいから笑ってくださいな」
仏頂 「馬鹿馬鹿しい、私はどんなことがあっても・・・ウフフ・・・笑いません・・・ウフフフ・・・」
女房 「まあ、お笑いなすったじゃありませんか」
仏頂 「そんな・・・ウフフ・・・笑ってなんか・・・気のせいだよ・・・ウフフフ、ウフフフ・・・こりゃおかしくなってきた。ハハハハハ、こんなお多福を女房にしているなんて、・・・ハハハハハ・・・ああ、おかしい・・・何から何までおかしくなってきた、ハハハッハハハ・・・」、ついに仏頂さん、笑いっぱなしになってしまった。
女房も仏頂さんの笑い顔を見て嬉しくて笑い通しで、「笑う門には福来る」で、日本中、世界中、天上天下のお金がみんな仏頂さんのところへ集まって来て、大金持ちになった。
一方、天上でも地獄でもお金が全部、仏頂のところへ吸い寄せられてしまって、月も星も閻魔も奪衣婆も赤鬼、青鬼みな貧乏になってしまった。
天と地で緊急対策会議が開かれ、地獄では笑える者はいないので、お月さんに笑ってもらって、仏頂の家のお金を吸い上げようという結論に達した。
早速、お月さんは仏頂の家で満月となって、大声で笑い始めた。
これを聞いた仏頂のお金がぞろぞろと出て行こうとするので、
仏頂 「ウハハハ、お前たち、これからどこへ出掛けるのだ」、「へえ、天上でお月さまが笑っていますので、また天に戻ろうかと思いまして」
仏頂 「アハハハハ、お前たち、出て行くにはおよばないよ」、「それはどうしてで?」
仏頂 「ありゃみんな空笑いだ」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 笑い葺(わらいだけ) – 架空のキノコ。紅葉葺をもじった名前で、飲むと笑いが止まらなくなるとされる。
- 仏頂面 – 無表情で不機嫌そうな顔つき。仏像の頂面のように感情を表さないこと。
- 笑う門には福来る – 笑いの絶えない家には幸福が訪れるという諺。
- 空笑い(そらわらい) – 心から笑っていない、うわべだけの笑い。作り笑い。
- 閻魔 – 地獄で死者を裁く王。閻魔大王。
- 奪衣婆(だつえば) – 三途の川で死者の衣を剥ぐ老婆。閻魔の配下。
よくある質問(FAQ)
Q: 「空笑いだ」というオチの意味は?
A: 「そら」が「天空」と「虚(中身がない)」の掛詞になっています。月は天空(そら)で笑っているが、それは心のこもっていない空(から)笑いだから効果がない、という二重の意味で金を手放さないオチです。
Q: なぜ「笑う門には福来る」で金が集まるのですか?
A: 落語特有の誇張表現で、諺を文字通りに実現させた荒唐無稽な設定です。個人の笑いが世界経済を左右するという壮大なスケールが笑いを生んでいます。
Q: 地獄に笑える者がいないのはなぜですか?
A: 地獄は苦しみの場所であり、笑いとは無縁の世界として描かれています。対照的に天上は明るい世界なので月に笑ってもらう展開になっています。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三代目 三遊亭金馬 – 昭和の名人。仏頂さんの笑いが止まらなくなる様子を段階的に演じる技が見事でした。
- 六代目 三遊亭圓生 – 昭和の名人。天と地の対策会議など壮大な場面を格調高く演じました。
- 五代目 古今亭志ん生 – 昭和の名人。仏頂さんの強欲さを痛快に表現しました。
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この噺の魅力と現代への示唆
「笑い葺」は、笑いの力を宇宙規模で描いた壮大なスケールの落語です。45年間笑ったことがない男という極端な設定から始まり、最終的には天地を巻き込む経済問題に発展するという荒唐無稽な展開が魅力です。
「笑う門には福来る」という諺を極限まで実現させる発想は、落語らしい誇張表現の極致といえます。最後の「空笑いだ」というオチは、天空と虚の掛詞で、仏頂さんが最後まで強欲な本性を保っていることを示しており、人間の業深さを軽やかに表現した名作です。


