牛の丸薬
3行でわかるあらすじ
雨で濡れた大和炬燵の土をこねて丸薬に見立てた清やんが、喜六と組んで村の金持ちを狙った詐欺を働く。
喜六が牛の鼻に胡椒の粉を吹きかけて牛を苦しめ、清やんが偽薬で治療したように見せかけて村人から大金を騙し取る。
帰り道で喜六が「懐が温くなった」と言うと、清やんが「温くなるはずや、もとは大和炬燵や」と返すオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
暖かくなって縁側に放り出した大和炬燵が雨で濡れて柔らかくなり、清やんがこれを丸い土の玉にして偽薬詐欺を思いつく。
喜六を二円の日当で誘い、風呂敷包を背負わせて朝早くある村へと向かう。
茶店で婆さんから情報を聞き出し、村で一番の金持ち次郎兵衛さんを標的に決める。
清やんは干鰯屋になりすまして次郎兵衛の家に入り、喜六には裏の牛小屋で牛の鼻に胡椒の粉を吹きかけるよう指示。
喜六が煙管で胡椒の粉をフーッと牛の鼻に吹きかけると、牛は地べたに鼻をこすりつけて苦しみ出す。
清やんは「和泉で流行っている牛の病気で三日で死ぬ」と偽り、土で作った丸薬を牛の口に入れるふりをして実は鼻を水で洗う。
胡椒が洗い流されて牛が元気になると、次郎兵衛は薬の効果に驚いて一粒一円で十粒を購入。
話を聞いた村人が続々とやって来て、清やんは持参した百粒以上の偽薬を完売する。
帰り道で喜六が「懐が温くなったな」と言うと、清やんは「温くなるはずや、もとは大和炬燵や」と答える。
「懐が温かい(儲かった)」と「大和炬燵(暖房器具)」を掛けた秀逸な言葉遊びのオチ。
解説
牛の丸薬は、詐欺をテーマにした古典落語の代表作である。
大和炬燵という江戸時代の暖房器具の土を利用した発想が巧妙で、当時の庶民の生活用品を詐欺の道具に転用する着眼点が面白い。
清やんと喜六の役割分担は完璧で、一方が偽装工作、もう一方が偽病の演出を担う手口の巧妙さが描かれている。
胡椒の粉で牛を一時的に苦しめるという手法は、害はないが効果的な偽装工作として計算されている。
オチの「温くなるはずや、もとは大和炬燵や」は、「懐が温かい(儲かった)」という慣用句と炬燵(暖房器具)の機能を掛けた絶妙な言葉遊び。
この作品は詐欺の手口を描きながらも、最後の言葉遊びによって憎めない軽妙さを演出した古典落語の傑作として親しまれている。
あらすじ
暖かくなったので、清やんが大和炬燵を縁側に放り出しておいたら、雨で濡れて柔らかくなってしまった。
指で押すと穴が開き、指先でこねると丸い土の玉がいくつでも出来る。
この丸薬に見える丸い玉でひと儲けができると考えた清やんは、喜六を二円の日当で誘い、あくる朝早く風呂敷包を背負わせて、城の馬場を斜めに突っ切り、片町から野辺へ、朝霧のかかる田舎道を、ある村の入口までやって来た。
茶を飲みながら茶店の婆さんから村の様子、情報を聞き出す。
清やんは婆さんの話から村で一番金持ちそうな次郎兵衛さんの家に目をつける。
そばでまだ駄菓子をほうばっている喜六を引っ張って、次郎兵衛さんの家の近くまで来ると清やんは、「わしはあの家に干鰯(ほしか)屋のふりをして入って行く。・・・この煙草入れには胡椒の粉が入れてある。
わしが合図したら、おまえはそっと裏の牛小屋に行って、牛の鼻に煙管(きせる)で胡椒の粉を吹き込むのや。それで二円の日当だから、しっかりやれ」
清やんは、靭(うつぼ)の干鰯屋になりすまし次郎兵衛さんに取り入り、話をしながら頃合いを見計らって喜六に合図。
喜六は段取り通り牛小屋に回って、煙管に詰めた胡椒の粉をフーッと牛の鼻に吹きかけた。
しばらくすると牛は地べたへ鼻をこすりつけて苦しみ出した。
家の者の騒ぎで驚く次郎兵衛さんに清やん、「・・・近頃、和泉のほうでこんな牛の病気がはやっとります。
急に苦しみ出して、三日もたたないうちに死んでしまう。ほかの牛にもうつって、牛小屋全部、村の牛全部が死んだところもおます。・・・ちょうどこの病気に効く薬を持ってますんで・・・」と、例の丸薬をおもむろに取り出し、手桶の水で牛の口へ流し仕込むように見せかけ、牛の鼻の中にザブザブ。
すっかり胡椒を洗い流してしまった。
牛は何事もなかったように、「モォー」と、もう何ともない。
喜ぶ次郎兵衛さん、「よく効く薬やなぁ、何という薬や、どこで売ってるのや」、清やんはもったいぶって、「まだ数が少なく高すぎて、薬屋などでは売っておまへん」、そう言われるとなおさら欲しくなる次郎兵衛さんに清やんは、「ほんなら、一粒一円で十粒だけ」と、売りつけた。
話を聞いた村人が続々とやって来た。
困ったふりを装いながら、清やんは持ってきた百粒以上の偽丸薬を完売御礼。
帰り道を急ぎながら喜六 「おまえはえらい男やなあ。ちょっとの間に、あれだけの金、だいぶ懐(ふところ)がぬ(温)くなったな」
清やん 「ぬくなるはずや。もとは大和炬燵や」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 大和炬燵 – 炬燵の一種で、土を固めた丸い形の暖房器具。灰の中に炭を入れて使用した。
- 干鰯(ほしか) – 乾燥させた鰯。肥料として農村で使われ、干鰯屋は農村との取引が多かった。
- 丸薬 – 丸い形に固めた薬。江戸時代は様々な民間薬が丸薬として売られていた。
- 胡椒 – 香辛料の一種。刺激が強く、牛の鼻に入ると激しく反応する。
- 懐が温い(ぬくい) – 懐が暖かい、つまりお金が入って裕福になったことを表す慣用句。
- 城の馬場 – 城下町にあった馬場。ここでは道中の目印として使われている。
よくある質問(FAQ)
Q: 「温くなるはずや、もとは大和炬燵や」というオチの意味は?
A: 「懐が温い(儲かった)」という慣用句と、偽薬の原料である大和炬燵(暖房器具で温めるもの)を掛けた言葉遊びです。お金の温かさと炬燵の温かさを重ねた秀逸なオチです。
Q: なぜ胡椒で牛を苦しめることができるのですか?
A: 胡椒の粉は刺激が強く、牛の鼻に入ると激しくくしゃみや不快感を引き起こします。ただし一時的なもので、水で洗い流せば元に戻るため、偽装工作に使われました。
Q: この詐欺は実際に行われていたのですか?
A: 落語の創作ですが、江戸時代には様々な偽薬や詐欺が存在したことは事実です。この噺はそうした時代背景を反映した作品といえます。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三代目 桂米朝 – 人間国宝。清やんの悪知恵と喜六の素朴さを対比させて演じました。
- 六代目 笑福亭松鶴 – 上方落語の重鎮。詐欺の手口を面白おかしく描きました。
- 二代目 桂枝雀 – 爆笑王。牛が苦しむ場面を大げさに演じて爆笑を誘いました。
関連する落語演目
同じく「詐欺・騙し」がテーマの古典落語


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言葉遊びオチの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「牛の丸薬」は、詐欺をテーマにしながらも憎めない軽妙さを持つ上方落語の傑作です。大和炬燵という日用品を詐欺の道具に転用する着眼点が巧妙で、清やんと喜六の役割分担も完璧に描かれています。
最後の「温くなるはずや、もとは大和炬燵や」というオチは、懐が温かい(儲かった)という慣用句と炬燵の機能を掛けた絶妙な言葉遊びです。詐欺の手口を描きながらも、この洒落たオチによって後味の悪さを残さない、落語ならではの軽やかさが魅力の作品です。


