馬のす
3行でわかるあらすじ
釣り好きの男が夜釣りでテグス(釣り糸)を忘れ、馬の尻尾を3本抜いて代用しようとする。
友人の勝ちゃんがそれを見つけて「馬の尻尾を抜くと大変なことになる」と脅し、男を不安にさせて酒と枝豆をたっぷりご馳走になる。
散々飲み食いした後、勝ちゃんは「馬のしっぽを抜くと馬が痛がるんだよ」という当たり前すぎるオチで男を呆れさせる。
10行でわかるあらすじとオチ
釣りに凝った男が夜釣りに出かけるが、うっかりテグス(釣り糸)を忘れてしまう。
そこに馬方が馬を木につないで立ち去ったので、男は馬の尻尾をテグス代わりに3本抜いて失敬する。
そこに友人の勝ちゃんが通りかかり、男が尻尾を抜く場面を目撃する。
勝ちゃんは「馬の尻尾、それも白馬の尻尾を抜くなんて、えらいことをした」と思わせぶりに深刻そうな顔で言う。
男は気になって仕方なく「尻尾を抜くとどうなるんだ」と教えを請うが、勝ちゃんは酒を一杯ご馳走しろと要求する。
仕方なく男は勝ちゃんを家に入れ、他所からもらった一升壜2本の酒と、ちょうど茹でていた枝豆を出す。
男が早く教えろとせがむが、勝ちゃんは「俺も馬の尻尾を抜いた時に年配の人から恐ろしい祟りがあると教えられた」と気を持たせる。
そのうちに酒も枝豆もすっかり空にしてしまい、勝ちゃんは十分に飲み食いを満喫する。
やっと勝ちゃんが「馬の尻尾を抜くとどうなるか教えてやろう」と言い出し、男が真剣な不安な面持ちで身を乗り出す。
勝ちゃんは「馬のしっぽを抜くとね、馬が痛がるんだよ」という当たり前すぎる答えでオチとなる。
解説
「馬のす」は、人のよい男が悪友にタカられる構図を描いた古典落語です。
釣り糸の代用として馬の尻尾を使うという発想は、江戸時代の庶民の知恵を表していますが、それを悪用して酒食をたかる友人の図々しさが笑いの中心となっています。
勝ちゃんの「馬の尻尾を抜くと大変なことになる」という脅しは、相手の不安を煽って利益を得る典型的な詐欺の手口を戯画化したものです。
最後のオチ「馬が痛がるんだよ」は、聴衆の期待を大きく裏切る肩透かしで、大げさに煽られた恐怖が一気に日常的な当たり前の事実に転換する落語特有の技法です。
この作品は、人間関係の機微と、騙す側と騙される側の心理的な駆け引きを軽妙に描いた傑作といえます。
あらすじ
釣りに凝った男が夜釣りに出かけるが、うっかりテグス(釣り糸)を忘れた。
すると通りかかった馬方が馬を木につないで行った。
その尻尾を見て、男はテグスに使えると尻尾を3本抜いて失敬した。
そこへ通りかかったのが友達の勝ちゃん。
男が尻尾を抜くのを見ていて、「お前、今尻尾を抜いたろ、えらいことをした、馬の尻尾、それも白馬の尻尾を抜くなんて」と思わせぶり、深刻そうな顔で言う。
男は気になって仕方がない。「尻尾を抜くとどうなるんだ、教えろ」と頼むが、勝ちゃんは俺もただで習ったんじゃないから、酒を一杯ご馳走しろとせがむ。
男のかみさんが他所からもらった一升壜2本をぶら下げていたのを見て知っているのだ。
仕方なく男は勝ちゃんを家に入れ酒を出す。
つまみはちょうどかみさんが茹でていた枝豆だ。
男は早く教えろとせがむが、勝ちゃんは飲んで食ってなかなか教えない。
それどころか、俺も馬の尻尾の毛を抜いてると、年配の人にこういう祟りがあると教えられ恐ろしさに震え上がっただのと、気を持たせる。
そのうちに酒も枝豆も空にしてしまった。
やっと勝ちゃん「馬の尻尾を抜くとどうなるか教えてやろう」、男は真剣な不安な面持ちで身を乗り出す。
勝ちゃん 「馬のしっぽを抜くとね」
男 「うん」
勝ちゃん 「馬が痛がるんだよ」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- テグス(天蚕糸) – 釣り糸のこと。蚕の一種から取った糸で、丈夫で透明。
- 馬のす – 馬の尻尾の毛。丈夫で釣り糸の代用として使われた。
- 馬方 – 馬を引いて荷物を運ぶ職業の人。
- 白馬 – 白い毛色の馬。特別な意味を持たせて脅しに使われた。
- 一升壜 – 一升(約1.8リットル)入りの酒瓶。
- 枝豆 – 酒のつまみの定番。茹でて塩をふって食べる。
よくある質問(FAQ)
Q: 「馬が痛がるんだよ」というオチの意味は?
A: 勝ちゃんが大げさに「馬の尻尾を抜くと大変なことになる」と脅して散々酒をたかっておきながら、結局の答えが「馬が痛がる」という当たり前のことだった、という肩透かしオチです。
Q: 馬の尻尾は本当に釣り糸になったのですか?
A: はい、江戸時代には馬の尻尾や鬣(たてがみ)の毛は丈夫で、テグス(釣り糸)の代用として実際に使われていました。
Q: 勝ちゃんはなぜこんな脅しをしたのですか?
A: 男の家に酒と枝豆があることを知っていて、それをご馳走になるために、馬の尻尾を抜いたことを口実に脅して酒食をたかったのです。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 五代目 古今亭志ん生 – 昭和の名人。勝ちゃんの図々しさと男の人の良さの対比を絶妙に演じました。
- 六代目 三遊亭圓生 – 昭和の名人。勝ちゃんが酒を飲みながら気を持たせる様子が見事でした。
- 八代目 桂文楽 – 昭和の名人。オチの「馬が痛がる」の間の取り方が絶品でした。
関連する落語演目
同じく「馬」がテーマの古典落語


同じく「たかり・騙し」がテーマの古典落語


釣りがテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「馬のす」は、人の不安を煽って利益を得る悪友と、それに引っかかるお人好しを描いた古典落語です。勝ちゃんの「馬の尻尾を抜くと大変なことになる」という脅しは、現代でいう「詐欺」や「たかり」の原型ともいえます。
しかしこの噺の面白さは、勝ちゃんの手口が巧妙というよりも、男があまりにもお人好しで騙されやすいところにあります。散々酒と枝豆をご馳走した挙げ句、答えが「馬が痛がる」という当たり前のことだったという肩透かしは、落語らしい痛快なオチです。
人間関係における駆け引きと、騙す側・騙される側の心理を軽妙に描いた、江戸庶民の生活感あふれる一席です。


