馬の田楽
3行でわかるあらすじ
馬方が味噌樽を積んだ馬を山権商店前につなぐが、子どもの由松が尻尾を抜いて馬が逃げる。
馬方は必死に馬を探して人に聞いて回るが、なかなか見つからない。
最後に酔っ払いに「味噌つけた馬」を聞くと「馬の田楽は見たことない」と返される。
10行でわかるあらすじとオチ
馬方が堺筋の山権商店前に味噌樽を積んだ馬をつなぐ。
悪ガキたちが馬の回りで遊び始める。
由松が仲間入りのため馬の尻尾を5-6本抜く。
馬が痛がって歩き出し、手綱がほどけて逃げてしまう。
馬方が店から出てくると馬がいないので慌てる。
子どもたちに聞くと由松が尻尾を抜いたと白状する。
馬方は馬を探して通行人に声をかけるが話が通じない。
道端の人に聞くと竹ぼうきで叩いて追い払ったという。
最後に酔っ払いに「味噌つけた馬を知らないか」と聞く。
酔っ払いは「馬の田楽は見たことないわい」と答える。
解説
「馬の田楽」は言葉遊びを中心とした軽妙な落語です。
物語の前半は子どもたちのいたずらで馬が逃げるという日常的な騒動を描き、後半は馬方が馬を探す過程での人々との会話が見どころとなっています。
オチの「馬の田楽」は、「味噌をつけた馬」を田楽料理に見立てた絶妙な言葉遊びです。
田楽は豆腐や茄子などに味噌をつけた料理で、酔っ払いが「味噌つけた馬」を聞いて「馬の田楽」を連想するという発想の転換が笑いを生んでいます。
関西弁の会話の妙と、庶民の日常を描いた親しみやすい作品です。
あらすじ
堺筋の山権商店の前へ、味噌樽を二つ積んだ馬を引いて来た馬方が、腕木に手綱を巻いて馬をつなぎ店の中に入って行った。
近くで遊んでいた悪ガキどもがぞろぞろと馬の回りに集まって来る。
ガキ大将「この馬のお腹の下くぐって遊びまひょか」、「この間、お腹の下くぐったらお腹の下でぶらぶらしている棒で打たれ、馬に頭かぶられたん・・・」、みんな恐がって尻込みしている。
お芋を食べていた由松が、仲間に入れてもらおうと「わたいがくぐりますわ」、ガキ大将「あんたはお芋食べてたらええのやがな。・・・そなら馬の尾一本抜きなはれ。わたいが釣りに行く時のてぐすにしますのや」、ガキたちは、「わたいも」「わたいも」と騒ぎ始める。
由松はここで抜かなければ仲間はずれになると、馬の後ろに回って、尾をつかんでグィツと引っ張った。
まとめて五、六本抜けたのはよかったが、馬は痛がって足を踏み出した。
すると腕木にしっかりとは結ばれていなかった手綱がほどけて馬はヒョコヒョコと歩き出してしまった。
馬方が店から出て来ると馬の姿がない。
物陰から様子を見ているガキどもに、「おい、ここにつないでおった馬知らんか。・・・こら、返事ぐらいしたらどやねん。ここらの小倅(せがれ)、ほんま悪い奴ちゃなあ」
ガキ大将 「おっさん、偉そうに言いなはんな。人にもの教えてもらうのにそんな言い方あらへんで」
馬方 「こらぁ、わしが悪かった。・・・まあ、機嫌直して教てな、なあ、ぼんぼん」
子ども 「由松つぁんが馬の尾を五、六本抜いたら、馬はヒヒーンと言うてそっちの方へヒョコヒョコ歩いて行きはった」
馬方は慌てて後を追い、すれ違う人に聞く、「馬をご存知やおまへんかいな」
通行人 「えー、何じゃて。
乳母かいな。乳母はな、・・・ちょいと暇くれ言うて帰ったきりまだ戻ってきやへん」と、全然通じない。
道端で掃除をしている人に聞くと、「・・・馬が馬子も連れずに用事しよる。えらいもんじゃと見ていたら、そこに止まって草食いだしたんで、これ、こんな所で道草食ってたら使いが遅れるちゅうて、竹ぼうきで尻ピシャーとどついたら、びっくりしてあっちへ走って行ったやがな」
馬方 「・・・もう皆寄ってたかって、わしの馬ワヤにしやがって・・・」、今度は向こうから酔っ払いがふらふらしながらやって来た。
藁(わら)にもすがる思いで、
馬方 「大将、ここを今、味噌樽積んだ馬、通りまへなんだか」
酔っ払い 「なんやて」
馬方 「・・・味噌荷、味噌をつけた馬は知りなはらんか」
酔っ払い 「なに、味噌つけた馬・・・アッハハ・・・わしゃまだ、馬の田楽は見たことないわい」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 田楽(でんがく) – 豆腐や茄子などに味噌を塗って焼いた料理。味噌をつけた食べ物の代表。
- 馬方(うまかた) – 馬を引いて荷物を運ぶ職業の人。
- 味噌樽 – 味噌を入れて運ぶための樽。江戸時代の流通では馬で運搬された。
- 腕木 – 馬をつなぐための木製の柱や棒。
- 手綱(たづな) – 馬を操るための革紐。馬の口にかけて引いて方向を制御する。
- 堺筋 – 大阪の南北に走る主要な通り。商業の中心地だった。
よくある質問(FAQ)
Q: 「馬の田楽」というオチの意味は?
A: 馬方が「味噌をつけた馬」を探していると言ったのを、酔っ払いが料理の「田楽」(味噌をつけた食べ物)と勘違いして、「馬の田楽は見たことない」と答えた言葉遊びです。
Q: 子どもたちはなぜ馬の尻尾を抜いたのですか?
A: ガキ大将が「釣りに行く時のてぐすにする」と言ったからです。馬の尻尾は丈夫で、釣り糸として使われることがありました。
Q: この噺は上方落語ですか?
A: はい、関西弁で語られる上方落語です。堺筋という大阪の地名も登場し、大阪の商店街を舞台にしています。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三代目 桂米朝 – 人間国宝。子どもたちの生き生きとした様子と馬方の焦りを巧みに演じました。
- 二代目 桂枝雀 – 爆笑王。酔っ払いとの会話を大げさに演じて爆笑を誘いました。
- 六代目 笑福亭松鶴 – 上方落語の重鎮。大阪の下町の雰囲気を温かく描きました。
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この噺の魅力と現代への示唆
「馬の田楽」は、子どものいたずらから始まる騒動と、酔っ払いとの絶妙な言葉遊びが魅力の上方落語です。馬方が必死に馬を探す様子と、それに協力しない通行人たちのやりとりが笑いを誘います。
最後のオチは、「味噌をつけた馬」と「田楽」(味噌をつけた料理)をかけた言葉遊びで、酔っ払いならではの突拍子もない発想が効いています。
子どものいたずら、道草を食う馬、とんちんかんな通行人、そして酔っ払いと、登場人物それぞれが個性的で、大阪の下町の活気ある日常を描いた楽しい一席です。


