浮世根問
3行でわかるあらすじ
何でも知ったかぶりの隠居が八公の執拗な質問攻めに遭い、魚の語源から結婚式まで苦しい回答を重ねる。
隠居は鮭を「冷っけぇ」、鰻を「鵜難儀」、蒲焼を「バカ焼きをひっくり返して」などと無理やり説明する。
最後は極楽を仏壇と説明し、鶴亀は死んだら蝋燭立てになると言って八公を納得させる。
10行でわかるあらすじとオチ
何でも知ったかぶりの隠居のところへ八公がやって来て、執拗な質問攻めを始める。
隠居は最初は余裕で、がんもどきの裏表は「裏でない方が表、表でない方が裏」と禅問答で答える。
海がしょっぱい理由は「鮭がいるから」、魚の語源では鮭は「冷っけぇ」、鰊は「西の海」、鮪は「マッ黒」と苦しい説明。
鰻は「鵜が難儀した」から「鵜難儀」、蒲焼は「バカな魚を焼いてひっくり返すとカバ焼き」と続ける。
嫁入りは「四目入り」、結婚式の飾り物について松竹梅や鶴亀の縁起を説明するが、だんだん苦しくなる。
八公は以前にも吉田の旦那を質問攻めで困らせて一円もらった話をし、隠居にも金を要求する。
隠居は極楽について聞かれ、仏壇を指して「お位牌が仏様、蓮の花、線香の煙の紫雲」と説明する。
八公が「鶴亀も死んだらここに来るのか」と聞くと、隠居は「目出度いから来るが畜生ゆえ仏になれない」と答える。
「そんなら何になる」と問われ、隠居は仏壇を指して「ご覧、蝋燭立てになっておる」とオチをつける。
鶴と亀が蝋燭立ての形になっているという言葉遊びで八公を納得させる絶妙なオチ。
解説
浮世根問は、知ったかぶりの人間への風刺を込めた古典落語で、無理やりな語源説明と最後の言葉遊びオチが秀逸な作品です。
隠居の苦し紛れの説明は現代でも通用する面白さがあり、特に魚の語源では鮭「冷っけぇ」、鰻「鵜難儀」、蒲焼「バカ焼きをひっくり返してカバ焼き」など、こじつけの妙が楽しめます。
八公というキャラクターは一見単純に見えますが、実は隠居を追い詰める巧妙さを持っており、質問の仕方や金銭を要求する図々しさなど、庶民のしたたかさを表現しています。
最後の「蝋燭立て」オチは、仏壇の装飾品を利用した絶妙な落としどころで、宗教的な話題を笑いに転換する落語ならではの技法です。
知識自慢への皮肉と、庶民の知恵比べを描いた、江戸時代の社会性を反映した傑作といえます。
あらすじ
何でも知ったかぶりの隠居の所へ八公が質問攻めで困らせに来る。
八公 「ご隠居、どう考えても分からねえことがあるんで」
隠居 「何でもお聞き、"聞くは一刻の恥、聞かぬは末代の恥"と言うじゃろ」
八公 「松茸じゃなくて、がんもどきの裏表?」
隠居 「裏でない方が表、表でない方が裏」、なんて禅問答のような答え。
八公 「海の水はなんであんなにしょっぱいんで?」
隠居 「鮭(しゃけ)がいるからだ。そんなことも知らんのか、なしゃけ(情け)ねえ」と、まだ余裕綽々だが。
八公 「なんでシャケ(鮭)って言うんで?」
隠居 「北の海にいて水が"冷(しゃ)っけえ"からだ」
八公 「鰊(にしん)は?」
隠居 「西の海に居て、方言で"西ん"の海からだ」
八公 「鮪(まぐろ)は?」
隠居 「色がマッ黒に決まってるだろ」、八公は、鰯・秋刀魚・鯖・鯵・鰤・鮃としつこい。
隠居はもういいよと逃げ腰だが、
八公 「お終いにもう一つ、鰻(うなぎ)は?」
隠居 「昔はノロとかヌルと言ったな。鵜が呑み込もうとしたら首に巻き付いて難儀したからだ」
八公「えっ?」
隠居 「まだ分らんのか、鵜が難儀した、鵜難儀、ウナギだ」
八公 「焼くと蒲焼と名が変わるのは?」
隠居 「鵜に呑まれるような馬鹿な魚だ。それを焼いたからバカ焼き、カバ焼きになった」
八公 「バカをカバに何でひっくり返えすんだい?」
隠居 「ひっくり返さないと焦げるだろ」、八公は魚を諦めて、
八公 「伊勢屋で"嫁入りだ"と忙しそうですが、来てから嫁になるんで、"娘入り"ならいいけど、嫁入りは間違いじゃねえですか?」
隠居 「なるほど、お前さんのこねそうな理屈だが、嫁入りでいいんだ。
迎える男の目と、来る女の目を合わせて"四目入り"と言うんじゃ。これを目の子勘定という」
八公 「婚礼の席に飾ってある箒と熊手持っている爺いと婆あは何ですか?」
隠居 「蓬莱の島台と尉(じょう)と姥だ」
八公 「梅と竹と松は?」
隠居 「松竹梅だ。目出度いな」
八公 「鶴と亀は?」
隠居 「鶴は千年、亀は万年の齢(よわい)を保つ故、目出度い」
八公 「縁日で買ってきた亀は、その日のうちに死んじまったよ」
隠居 「その日がちょうど万年目だったということだ」
八公 「死んだら何処へ行くんです」
隠居 「極楽か地獄だ」
八公 「極楽は何処にあるんです?」
隠居 「地獄の隣じゃ」
八公 「地獄は?」
隠居 「極楽の隣じゃ」
八公 「極楽は?」、無間地獄のように続く八公の質問攻めに、
隠居 「あー、うるさい。
お前ぐらいしつこい奴はいないよ。お前、この間吉田の旦那にクドクド聞いて、一円取ったろ」
八公 「あれは取ったんでなく貰ったんです。
吉田の旦那も世の中のことは何でも知ってると言うから、日本から西へずーっと行くと何処へ行きますかと聞いたんです。その先は、その先は、・・・・・と二時間くらいやったらご隠居は喘息が出て、血圧が上がって、涙、鼻水を垂らして入れ歯がはずれて、"お前には敵わない、一円やるから帰っておくれ"と言ったから貰ったんです」、呆れている隠居に、
八公 「ご隠居も極楽が分からなければ、五十銭に負けて帰ってもいいよ」と、手を出す図々しさ。
隠居 「じゃあ、極楽を見せてやる」と、八公を仏壇の前へ座らせる。
八公 「仏壇が極楽?」
隠居 「そうじゃ、お位牌が仏様、蓮の花が供えてある。
鈴と木魚とお経で天上の音楽を奏でる。あたり一面、線香の煙の紫雲が棚引いておるじゃろ」、さすがの八公もこれには参ってぐうの音も出ない。
しばらくして、
八公 「すると人間も死ぬと、みんなここ(仏壇)へ来て仏になるんですかい?」
隠居 「まあ、そういうことだな」
八公 「鶴亀も死ぬてえとここへ来るんで?」
隠居 「鶴亀は目出度いから、ここには来るが、畜生ゆえ仏にはなれない」
八公 「そんなら、何になるんで?」
隠居 「ご覧、蝋燭(ろうそく)立てになっておる」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 根問(ねどい) – 根掘り葉掘り質問すること。執拗に問いただすこと。
- 蝋燭立て – 仏壇に置かれる蝋燭を立てる器具。鶴や亀の形をしたものが多い。
- 蒲焼(かばやき) – 鰻を開いてタレをつけて焼いた料理。江戸の名物。
- 四目入り – 噺の中での「嫁入り」の語源説明。男女の目を合わせて四つの目という意。
- 尉と姥(じょうとうば) – 能の「高砂」に登場する老夫婦。結婚式の飾り物として使われる。
- 蓬莱の島台 – 結婚式や祝い事で使われる飾り台。松竹梅や鶴亀を配置する。
よくある質問(FAQ)
Q: 「蝋燭立てになっておる」というオチの意味は?
A: 仏壇には鶴や亀の形をした蝋燭立てが置かれていることが多いです。「鶴亀は死んだら何になる」という質問に対して、「仏壇にある鶴亀の形の蝋燭立てになる」と答えた言葉遊びです。
Q: 八公はなぜ質問攻めをするのですか?
A: 八公は知ったかぶりの隠居を困らせて、お金をせびろうとしています。吉田の旦那からも同じ手口で一円をもらったことが語られます。
Q: 隠居の説明は本当ですか?
A: すべて嘘やこじつけです。鮭が「冷っけぇ」、鰻が「鵜難儀」などは語源として正しくありませんが、落語ならではのユーモアとして楽しむものです。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 五代目 古今亭志ん生 – 昭和の名人。八公のしつこさと隠居の苦し紛れの応酬を絶妙に演じました。
- 六代目 三遊亭圓生 – 昭和の名人。隠居の知識人ぶりと焦りの対比が見事でした。
- 八代目 桂文楽 – 昭和の名人。テンポの良い掛け合いで知られています。
関連する落語演目
同じく「隠居」が登場する古典落語


同じく「言葉遊び・駄洒落」がテーマの古典落語


質問攻め・やり込めがテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「浮世根問」は、知ったかぶりの人間への風刺を込めた古典落語の傑作です。隠居の苦し紛れの語源説明は、どれも無理やりなこじつけですが、それが逆に笑いを誘います。
八公というキャラクターは、単なる無知な庶民ではなく、知識人を追い詰める狡猾さを持っています。質問を繰り返すことで相手を疲弊させ、最後には金銭を要求するという図々しさは、庶民のしたたかな生存戦略ともいえます。
現代でも「何でも知っている」と自負する人はいますが、この噺はそうした人への皮肉として今も色褪せない魅力を持っています。最後の「蝋燭立て」オチは、宗教的な話題を笑いに転換する落語ならではの技法が光っています。


