浮世床
3行でわかるあらすじ
髪結床で薪屋の大将が戦記物を下手に音読し、王将のない将棋を指す者や居眠りからのノロケ話をする半公がいる。
床屋の親方が騒がしさに気を取られているすきに、印半纏のやせた客が料金を払わずに逃げてしまう。
親方が「畳屋の職人が床(とこ)を踏み(踏倒し)に来た」と言って、「床」と「踏倒し」をかけた言葉遊びで締める。
10行でわかるあらすじとオチ
江戸時代の髪結床(床屋)で若い連中がワイワイと馬鹿話に興じている中、薪屋の大将が姉川の合戦の戦記物を読んでいる。
皆にせがまれて音読を始めるが、読みが下手で「まからからから、しふろふざへもん(真柄十郎左衛門)」と支離滅裂な調子で大笑い。
片隅では将棋を指しているが、両方とも王将がない(片方は王手飛車取りで飛車を逃げ、もう片方は最初から懐に隠している)ヘボ将棋。
半公は騒がしい中でもグウグウ鼾をかいて寝ているが、「半ちゃん、飯だ」の一言ですぐに起きる。
起きた半公は芝居小屋で粋な年増と意気投合し、茶屋の二階で酒を交わして次の間の布団の中へという色っぽいノロケ話を始める。
皆が身を乗り出して「それから」と続きを求めると、半公は「これからという時に起こしたのは誰だ!」と肩すかし。
床屋の親方があまりの騒がしさに困って、お客に注意を払っていなかったと嘆く。
その隙に印半纏のやせた客が料金を払わずに逃げてしまったことを話す。
若い衆が「それなら畳屋の職人だ」と当てると、親方は得意げに言う。
「道理で、床(とこ)を踏み(踏倒し)に来たんだ」という、畳屋の技術用語と料金踏み倒しをかけた洒落でオチ。
解説
「浮世床」は古典落語の中でも特にオムニバス形式の構成が際立つ演目です。
もともと上方落語の演目で、初代柳家小せんが東京に移植したとされています。
江戸時代の髪結床(床屋)は単なる理髪店ではなく、町内の若い男性たちの重要な社交場でした。
この噺は式亭三馬の滑稽本「浮世床」に着想を得ており、複数の小話を組み合わせた構成が特徴です。
演者は持ち時間に応じて「本の部分」「将棋の部分」「夢の部分」など、どのエピソードを演じるかを調整できるため、時間調整にも重宝される演目です。
オチの「床を踏む」は畳屋が新畳のへりを踏んでならして落ち着かせる技術用語で、それと「踏み倒し(料金を払わない)」をかけた見事な言葉遊びとなっています。
3代目三遊亭金馬や6代目三遊亭圓生などの名人が得意とした演目として知られています。
あらすじ
髪結床で若い連中がワイワイと馬鹿話で盛り上がっている中に静かに薪屋の大将が本を読んでいる。
姉川の合戦の本多平八郎と真柄十郎左衛門の一騎打ちだというので、声を出して読んでくれとせがむ。
俺のは読みだすと立て板に水どころか立て板に豆で止まらなくなるから、同じところは二度と読まねえと、読み始めたのはいいが、「えー、ひとつ、ひ、ひとつ・・・・まからからから、しふろふざへもん(真柄十郎左衛門)、敵にむかむかむか・・・むかついて」、若い衆「そんなにむかつくなら金だらい持ってこようか」、「敵にむ、向かって一尺八寸の大太刀を・・・・・まつこう(真向)・・・・」、松公「今、呼んだか?」、「一尺八寸の大太刀を真向だ」、若い衆「一尺八寸は短かかねえか」、薪屋の大将「ちゃんとことわり書きがしてある。それは横幅で、前が見えるようにあちこちに窓を開けてある」なんて調子だ。
片隅では将棋を指している。
両方とも王将がいない。
片方は王手飛車取りにされた時に、飛車を逃げたから、もう一方は取られないように初めから懐にしまい込んであるというからヘボ将棋を通り越している。
こんなにうるさい中でも、半公はグウグウと鼾(いびき)をかいて寝ていて、揺すっても起きないが、「半ちゃん、飯だ」ですぐ起きて、最近は女に惚れられて疲れて身がもたないなんてノロケ話を始めた。
芝居小屋で粋な年増と意気投合し、茶屋の二階で酒杯を差しつ差されつするうちに、次の間の布団の中へ・・・・」、若い衆「うまくやりやがって、それから」と身を乗り出すと、半公は「これからという時に起こしたのは誰だ!」と肩すかしだ。
床屋の親方が、あんまり周りが騒がしいので、
親方 「少しは静かにしてくれ。
うるさいのに気を取られているすきに、銭を払わずにに帰っちまった奴がいる。印半纏(しるしばんてん)のやせた・・・・」
若い衆 「それなら、畳屋の職人だ」
親方 「道理で、床(とこ)を踏み(踏倒し)に来たんだ」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 髪結床(かみゆいどこ) – 江戸時代の床屋。髪を結う場所から「床」と呼ばれた。
- 床を踏む – 畳屋が新畳のへりを踏んでならして落ち着かせる技術。
- 印半纏(しるしばんてん) – 職人が着る、店名や屋号が染められた半纏。
- 姉川の合戦 – 1570年に織田・徳川連合軍と浅井・朝倉連合軍が戦った合戦。
- 真柄十郎左衛門 – 姉川の合戦で活躍した朝倉方の豪傑。
- 王将 – 将棋で最も重要な駒。これを取られると負けとなる。
よくある質問(FAQ)
Q: 「床を踏みに来た」というオチの意味は?
A: 畳屋の職人が「床を踏む」という技術用語と、料金を払わない「踏み倒し」をかけた言葉遊びです。畳屋だから床を踏みに来たのだ、という洒落で締めています。
Q: なぜ髪結床が社交場だったのですか?
A: 江戸時代の男性は髪を結う必要があり、定期的に床屋に通いました。順番待ちの時間が長く、その間に世間話や将棋、読み物などで時間を潰したため、自然と社交場になりました。
Q: 半公の夢の話は何がオチですか?
A: 芝居小屋で粋な年増と意気投合し、いい雰囲気になったところで「これからという時に起こしたのは誰だ!」と肩すかしをするオチです。聴衆の期待を裏切る構成です。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三代目 三遊亭金馬 – 昭和の名人。髪結床の雑然とした雰囲気と登場人物のキャラクターを巧みに演じ分けました。
- 六代目 三遊亭圓生 – 昭和の名人。オムニバス形式の各エピソードを緩急つけて演じました。
- 初代 柳家小せん – 上方から東京に移植した功労者。江戸の床屋文化を定着させました。
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この噺の魅力と現代への示唆
「浮世床」は、江戸時代の髪結床を舞台にしたオムニバス形式の傑作です。戦記物の下手な音読、王将のないヘボ将棋、居眠りからのノロケ話など、様々なエピソードが髪結床という空間で展開されます。
この噺の魅力は、江戸時代の庶民の日常をリアルに切り取った群像劇にあります。待ち時間を潰す人々の姿は、現代の美容院や理髪店での光景とも重なります。
最後の「床を踏みに来た」というオチは、職業用語と日常語をかけた江戸落語らしい洒落です。オムニバス形式なので演者が持ち時間に合わせて構成を変えられる点も、この噺が長く演じ続けられている理由の一つです。


