浮世風呂
3行でわかるあらすじ
江戸の湯屋の女湯で、耳の遠いお婆ちゃんが中村さんの奥さんに一年中会えなかった理由を長々と語りかける。
お婆ちゃんは12月から6月までの行事や病気の話を長々としているが、実は相手はとっくに帰っていた。
「いつ頃帰った?」「ちょうど3月頃でした」と言われ、「いやだ白酒でも差し上げればよかったのに」と答える。
10行でわかるあらすじとオチ
江戸の湯屋の風景を描いた話で、女湯は湯船の中で大人しく、流しでおしゃべりをする。
耳の遠いお婆ちゃんが中村さんの奥さんと会い、「久しぶりです」と挨拶を始める。
お婆ちゃんは暮れから正月、二月の初午、三月の雛祭り、四月の病気、五月の武者人形とちまき、六月のお祭りなど、ひたすら会えなかった理由を長々と語り続ける。
吉田さんが「お婆ちゃん誰と話しているんですか」と聞くと、「決まってるでしょ、中村さんの奥さんです」と答える。
しかし吉田さんに「もうとっくにお帰りになりましたよ」と言われ、「いつ頃ですか」と聞く。
「ちょうど3月頃でしたよ」と言われ、お婆ちゃんは驚いて「あら、いやだ白酒でも差し上げればよかったのに」と答える。
男湯では湯船の中で浄瑠璃や都々逸、新内などを歌い、特に伊勢屋の隠居の浄瑠璃が人気。
最後は年越しで番頭が一升枡で水を汲んで「風呂屋尽くし」で叫ぶ。
オチは、耳の遠いお婆ちゃんが一人で長々と折り目正しい挨拶をしていたこと。
解説
「浮世風呂」は、江戸時代の湯屋(銭湯)を舞台にした代表的な風俗落語です。
男湯・女湯それぞれの特徴や人々の様子を生き生きと描き、江戸の市井の人たちの日常生活を紹介した貴重な作品でもあります。
特に耳の遠いお婆ちゃんのエピソードは、一年中会えなかった理由を長々と語りかけるも、相手はとっくに帰っていたという皆皮なオチで、老人の特徴をユーモラスに描いています。
男湯では湯船の中で浄瑠璃や都々逸、新内などを歌い、特に伊勢屋の隠居の浄瑠璃が人気で、最後の「風呂屋尽くし」の口上は落語の名演として知られています。
この作品はストーリー性よりも風俗描写とキャラクター描写に重点が置かれ、江戸時代の湯屋文化や市井の人たちの生活を知る上でも貴重な資料となっています。
あらすじ
湯屋では女湯は湯舟の中は大人しく、流しではよく喋って賑やかだ。
女客 「先日は結構な品物を頂戴いたしまして、主人の大好物でございまして・・・どうかこれを一つお納め下さいませ」なんて、湯を汲んで返礼にしたりして。
中村さん 「まあ、吉田さんのお婆さんではございませんか」、耳が遠いお婆さんなので、自然と声も大きくなり、
吉田さん 「ちょいとお婆ちゃん、中村さんの奥さんですよ」
お婆ちゃん 「おや、まあまあ、お久しぶりでございます。いつもお世話にばかりなっておりまして、お伺いしなければいけないと思ってはおりましたが、暮れのうちは何やかやと忙しくてお伺いできませんで、正月は女の子は着物だ、男の子は凧上げだなどとうるさくて、とうとうお伺いできませんで、二月にはどうしても伺おうと思いましても初午でしょう、・・・とうとうお伺いできませんで、三月になったら何が何でもと思っていましたら雛祭で、・・・四月には是非とも伺おうと思っていましたら、神経痛やら熱が出て床に着いてしまいまして、とうとう・・・五月は必ず伺わなければ・・・武者人形を飾るとか、ちまきがどうだとかでとうとう・・・六月はお祭りでございましょう・・・」
吉田さん 「お婆ちゃん誰と話しているんですか」
お婆ちゃん 「決まってるでしょ、中村さんの奥さんですよ」
吉田さん 「もうとっくにお帰りになりましたよ」
お婆ちゃん 「あら、お帰りになった。いつ頃だい」
吉田さん 「ちょうど三月頃でしたよ」
お婆ちゃん 「あら、いやだ白酒でも差し上げればよかったのに」
男湯は湯舟の中の方が賑やかだ。
石榴口(ざくろぐち)をくぐって入るので薄暗くて顔がよく見えず、変な声を出しても誰か分からないから好都合なのだ。"てんでんに浄瑠璃洗う風呂の中"なんて川柳もある。
湯の中では都都逸が一番手ごろだ。
身体が温められて間延びしたあくび声になって、♪「あぁ~あぁ~、さぞや~、・・・あぁあ~さぞ~・・・なむあみだぶ、まむあみだぶ・・・」、隣では習いたての常磐津を調子っぱずれで歌っている。
ませた小僧が威勢よく湯を手ぬぐいで叩きながら、♪「お前待ち待ち蚊帳の外、蚊に喰れ、七つの鐘の鳴るまでも、コチャエ~、コチャエ」
客 「こらぁ、小僧、湯がかかるじゃねえか!」
小僧 ♪「こちゃかまやせぬ」
新内を歌ってた人が夢中になって我を忘れて裸のまま出て行こうとして番台が止めたりしている。
伊勢屋の隠居が口三味線で浄瑠璃を語り出した。
これを楽しみにしている客もいて、
「ご隠居さん、途中で出て行ってしまわないで最後まで聞かせてくれよ。もしも途中で湯気でひっくり返ることがあっても大勢揃っているからお前さんの家に担ぎ込んでやるから心配すんな」とせがんでいる。
その気になって、
隠居 ♪「三つ違いの兄さんとぉ~」、「よぉ、待ってました」
隠居 ♪「言うて暮らしているうちに・・・沢市さん、たとえ火の中水の底、未来までの夫婦じゃと思うばかりか・・・あっちちっち・・・お前のお目を治さんと・・・あっちちち・・・」
客 「よぉ、これからがいいところなんだ。遠慮しねえで心おきなく十分にやっておくれ」
隠居 ♪「演っていたいは~山々なれど~あたしのお尻の下よりも~、たぎりし湯玉が煮え上がりィ~、背筋えぇピリピリィ~滲みるのがぁ~、これがこらえ~てぇ~、ダハァ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、いらりょうか~」、そんなに熱けりゃ出ちまえばいいものを。
ちょうどその晩が年越しで番頭が一升枡に水をいっぱい入れたのを抱えて、
「あぁら目出度いな、目出度いな、目出度きことにて払いましょ。風呂屋尽くしで払うなら、一夜開ければ元朝の、鶴の声する車井戸、瓶(亀)へ汲み込む若水を、ぬるけりゃ炊け(竹)に梅松を、熱つけりゃうめ(梅)に鶯の、ほお~ぉ けっこうな湯加減の、中は湯上がり(二上がり)三下がり、粋な小唄のその中へ、いかなる垢人(悪人)来(きた)るとも、この三助がひっつかみ、西の海とは思えども、浮世風呂なれば、石榴口へ、ざぶぅり、ざぶり、エイ、御垢(厄)落としましょ垢(厄)落とし」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 湯屋(ゆや) – 江戸時代の銭湯。庶民の社交場として重要な役割を果たした。
- 石榴口(ざくろぐち) – 湯船への入り口。低くかがんで入るため、湯気を逃がさない構造。
- 三助(さんすけ) – 銭湯で客の背中を流したり世話をする男性従業員。
- 浄瑠璃(じょうるり) – 三味線の伴奏で語る音曲。義太夫節などが有名。
- 都々逸(どどいつ) – 七七七五の形式で歌う俗謡。恋愛を題材にしたものが多い。
- 新内(しんない) – 浄瑠璃の一種。哀愁を帯びた節回しが特徴。
よくある質問(FAQ)
Q: 耳の遠いお婆ちゃんのオチの意味は?
A: お婆ちゃんは中村さんの奥さんに一年中会えなかった理由を長々と語っていましたが、相手は3月にすでに帰っていました。「白酒でも差し上げればよかった」は3月の雛祭りにちなんだ言葉で、相手がいないことに気づかず話し続けた滑稽さを表しています。
Q: 「風呂屋尽くし」とは何ですか?
A: 風呂屋に関する言葉を使って縁起の良い口上を述べること。「垢(厄)落とし」「湯加減」「三助」など、風呂屋の言葉に掛詞を織り交ぜた年越しの口上です。
Q: なぜ男湯は湯船の中が賑やかなのですか?
A: 石榴口をくぐって入るので薄暗く、顔がよく見えないため、変な声を出しても誰か分からないからです。浄瑠璃や都々逸を歌う良い機会でした。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 五代目 古今亭志ん生 – 昭和の名人。湯屋の雑踏と人々の生き生きとした様子を巧みに演じました。
- 六代目 三遊亭圓生 – 昭和の名人。耳の遠いお婆ちゃんの描写が絶品でした。
- 三代目 三遊亭金馬 – 昭和の名人。風俗描写に定評があり、江戸の湯屋の雰囲気を伝えました。
関連する落語演目
同じく「湯屋・風呂」がテーマの古典落語


同じく「風俗描写」が特徴の古典落語


老人が登場する古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「浮世風呂」は、江戸時代の銭湯を舞台にした風俗落語の傑作です。男湯・女湯それぞれの特徴や、そこに集う人々の生き生きとした日常が描かれ、江戸の市井の生活を知る上でも貴重な作品です。
耳の遠いお婆ちゃんのエピソードは、高齢者あるあるとして現代にも通じる普遍的なユーモアがあります。相手がいなくなったことに気づかず長々と話し続けるという設定は、滑稽でありながらどこか愛おしさも感じさせます。
銭湯が社交場として機能していた時代の人間模様を描いた、江戸落語の魅力が詰まった一席です。


