つる
3行でわかるあらすじ
物知り顔の甚兵衛が鶴の語源について「オンが『ツ~~』メンが『ル~~』と飛んできたのでツルと呼ぶ」とでっち上げた説話を披露する。
男がこの話を友達にしようとするが記憶力が悪く、「オンがツル~」「オンがツ~~で松にル」と何度も間違える。
最後に友達が「メンがどうしたんや」と聞くと男が「黙って飛んできた」と答えて「メン(雌)」と「メン(黙)」をかけたオチとなる。
10行でわかるあらすじとオチ
横町の物知り顔で自称「生き字引」の甚兵衛のところに男がやって来て、鶴がなぜ日本の名鳥と呼ばれるのか質問する。
甚兵衛は鶴の美しさと操正しい性質について説明するが、男が首の長さを指摘すると「昔は首長鳥と呼んでいた」と答える。
なぜ鶴と呼ぶようになったかという質問に、甚兵衛は作り話を始める。
昔、老人が浜辺で沖合いを眺めていると、首長鳥のオンが「ツ~~」と飛んできて松に「ポイ」と止まったという。
続いてメンが「ル~~」と飛んできて松に「ポイ」と止まり、老人が「これはツルじゃな」と言ったので鶴と呼ぶようになったと説明する。
男はこの話を友達に教えに行くが、記憶力が悪く「オンがツル~と飛んできた」と間違えてしまう。
甚兵衛のところに戻って話を聞き直し、今度は「オンがツ~~と飛んできて松にルと止まった」と別の間違いをする。
友達は呆れながらも「メンがどうしたんや?」と尋ねる。
男は甚兵衛の話では「メンがル~~と飛んできた」はずなのに、とっさに「黙って飛んできたんや」と答えてしまう。
これは「メン(雌)」と「メン(黙)」をかけた言葉遊びのオチで、男の記憶力の悪さが最後まで貫かれる。
解説
「つる」は知ったかぶりと記憶力の悪さという二つの人間の弱点を軽妙に描いた古典落語で、庶民の知識欲と記憶力の限界を笑いの対象にした傑作です。江戸時代の町人文化の中で、物知りであることは一種のステータスであり、甚兵衛のような「生き字引」的な人物は近所で重宝されていました。
甚兵衛の語源説話は完全なでっち上げですが、非常に巧妙に構成されています。「オン(雄)」が「ツ~~」と鳴いて飛来し、「メン(雌)」が「ル~~」と鳴いて飛来するという設定で、この二つの鳴き声を合わせると「ツル」になるという論理は、一見もっともらしく聞こえます。浜辺の松の木という具体的な情景描写も、話に真実味を持たせる効果があります。
この噺の最大の笑いどころは、男の記憶力の悪さによる連続した間違いです。「オンがツル~と飛んできた」という最初の間違いは、話の核心部分である「ツ」の部分を先取りしてしまう初歩的なミス。二度目の「オンがツ~~と飛んできて松にルと止まった」は、鳴き声と止まる音を混同してしまう別のタイプの間違いで、記憶が曖昧な人が陥りがちな典型的なパターンです。
オチの「メンが黙って飛んできた」は、「メン(雌)」と「メン(黙)」をかけた見事な地口オチです。甚兵衛の説話では雌鳥は「ル~~」と鳴いて飛んでくるはずなのに、男は記憶が混乱して「黙って」と言ってしまいます。これは単なる記憶違いを超えて、音的にも「メン」という共通点を持った言葉遊びとなっており、聴衆に最後の大笑いを提供します。
また、この落語は江戸時代の口承文化の特徴も反映しています。情報が口から口へと伝わる過程で内容が変化していく様子は、当時の庶民にとって身近な現象でした。記憶力に頼った情報伝達の不確実性を笑い飛ばすことで、人間の記憶の曖昧さを肯定的に受け入れる文化的な寛容さも表現されています。
あらすじ
横町の物知り顔で、自称「生き字引」の甚兵衛さんの所に来た男、鶴はなぜ「日本の名鳥」というのか聞く。
甚兵衛さんは鶴は姿が優雅で美しい上に、一度、雌雄のツガイが決まると他には目もくれず、生涯、操(みさお)正しい鳥だからと言う。
男は鶴は姿形は美しいが異様に首が長いと言う。
すると甚兵衛さんいわく「昔は鶴とは言わず首長鳥(くびながどり)言った」、半分納得しかけた男は「なぜ、首長鳥を鶴と呼ぶようになったのか」としつこい。
甚兵衛さんいわく、「昔、ひとりの老人が浜辺へ立って遥かな沖合いを眺めていると、唐土(もろこし)の彼方から首長鳥のオン(雄)が一羽、"ツ~~"と飛んで来て、浜辺の松へ"ポイ"と止まった。
そこへ、首長鳥のメン(雌)が"ル~~"と飛んで来て、これも浜辺の松の木へ"ポイ"と止まった。これを見ていた老人が これは首長鳥じゃと思っていたが、これはツル(鶴)じゃな」で鶴と呼ぶようになったとからかう。
これを聞いた男は町内に言って回ると、甚兵衛さんが止めるのも聞かず出て行く。
早速、友達の家に来た男、「首長鳥が鶴になったいわれを聞かせようとするが、友達は「要らん」とつれない。
どうしても喋らなければ収まらない男は、「昔ひとりの老人が浜辺へ立って遥かな沖合いを眺めて・・・・」と始めた。「唐土の彼方からまず最初、首長鳥のオンが"ツル~" と飛んで来て、浜辺の松へポイッと止まったんや、あとへメン がお前、メンが・・・・・、さいなら」と甚兵衛さんの家へ駆け戻った。
あんな恥ずかしいこと何べんも言えないという甚兵衛さんからもう一度言わせて、また友達の所へ舞い戻る。
「また来よった」と呆れる友達に、今度は間違わないと「昔ひとりの老人が・・・・」と始めた。「唐土の彼方から、まず最初首長鳥のオンが一羽"ツ~~"と飛んで来て、浜辺の松へ"ル"と止まったんや」、「あとへメンが・・・メンがやでお前・・・、メンがやで・・・」
友達 「メ ンがどぉしたんや?」
男 「黙って飛んで来たんや」
落語用語解説
- 生き字引(いきじびき) – 何でも知っている物知りのこと。辞書のような人。
- オン – 雄(おす)のこと。鳥や動物の雄を指す。
- メン – 雌(めす)のこと。鳥や動物の雌を指す。
- 首長鳥(くびながどり) – この噺で甚兵衛が作った架空の鶴の古名。
- 唐土(もろこし) – 中国のこと。昔の呼び名。
- ツガイ – 雄と雌の一組。つがい。
よくある質問(FAQ)
Q: オチの「黙って飛んできた」の意味は?
A: 男は「メン(雌)がル~と飛んできた」と言うべきところを忘れ、とっさに「メン(黙)って飛んできた」と答えました。「メン」が「雌」と「黙」の両方に聞こえる言葉遊びです。
Q: 甚兵衛の鶴の語源説話は本当ですか?
A: 完全なでっち上げです。「オンがツ~、メンがル~」で「ツル」になるという話は甚兵衛の創作で、落語の中での作り話です。
Q: なぜ男は何度も間違えてしまうのですか?
A: 記憶力が悪いという設定です。「ツル」「ツ」「ル」の順番や組み合わせを覚えきれず、何度も言い間違えてしまうのが笑いどころです。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 人間国宝。男の記憶違いの過程を丁寧に演じました。
- 笑福亭松鶴(六代目) – 上方落語の重鎮。甚兵衛の物知り顔を巧みに表現しました。
- 桂枝雀(二代目) – 爆笑王。言い間違いの場面を大げさに演じて爆笑を誘いました。
関連する落語演目
同じく「言い間違い」がテーマの古典落語


同じく「知ったかぶり」がテーマの古典落語


同じく「地口オチ」の古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「つる」は、知ったかぶりと記憶力の悪さという二つの人間の弱点を軽妙に描いた古典落語の傑作です。甚兵衛の語源説話は完全なでっち上げですが、「オンがツ~、メンがル~」という論理は一見もっともらしく聞こえます。
この噺の最大の笑いどころは、男の記憶力の悪さによる連続した間違いです。「オンがツル~」「オンがツ~で松にル」と何度も言い間違える過程は、聞き手に「覚えられないの?」とツッコミを入れたくなる展開です。
最後の「メンが黙って飛んできた」というオチは、「メン(雌)」と「メン(黙)」を掛けた見事な地口です。現代でも、人に何かを伝えようとして途中で内容を忘れてしまうことは珍しくありません。この噺は、記憶の曖昧さを笑い飛ばす温かいユーモアに満ちた作品です。


