【時事落語】逃走中のハンター(新作落語)
皆さん、テレビ番組『逃走中』ってご存知ですよね?
黒スーツにサングラス、無表情で追いかけてくるハンター。逃げる側のドキドキ感と、追う側の不気味さが絶妙なバランスで成り立っている人気番組です。
でも、ちょっと考えてみてください。あのハンターたちも人間ですよね?無表情の裏側には、どんな思いがあるんでしょうか。
今回は、江戸時代版「逃走中」のお話。追う側にも事情があるという、ちょっぴり切ない人情噺です。最後のオチで、きっと追手への見方が変わるはず…かもしれません。
新しい遊び
えー、毎度ばかばかしいお笑いを一席。
最近の子供らは、鬼ごっこ言うても色んな遊び方しよりますなぁ。
昔は単純に鬼が追いかけて、捕まえたら交代やったもんですが。
今は何やら複雑な決まりごとがあるらしい。
江戸の頃にも、そんな変わった鬼ごっこがありましてな。
「逃走中」っちゅう、ちょっと変わった遊びの話を…
江戸版逃走中の始まり
両国広小路、春の陽気に誘われて人が集まる。
瓦版屋「号外!号外!新しい見世物『逃走中』開催や!」
熊五郎「なんや、逃走中って」
瓦版屋「簡単や。黒装束の追手から一刻(約2時間)逃げ切ったら褒美がもらえる」
八兵衛「ほー、ただ逃げるだけか。楽勝やな」
瓦版屋「せやけど、追手は元岡っ引きの精鋭揃いやで」
熊「岡っ引き?そら厄介やな」
主催者の商人・越後屋が現れる。
越後屋「皆の衆!参加費は一人五文、逃げ切ったら一両の褒美や!」
八「一両!?そら大金やないか」
越後屋「その代わり、追手は容赦せんで。捕まったら即失格や」
黒装束の追手登場
やがて、黒装束の追手たちが現れる。全員無表情で、まるで人形のよう。
熊「なんや、気味悪いなぁ」
八「表情一つ変えへんな」
追手のリーダー・黒田が前に出る。
黒田「…」(無言で立っている)
越後屋「黒田殿は元南町奉行所の凄腕岡っ引きや。十年間で百人以上の盗人を捕まえた」
参加者たちがざわつく。
甚兵衛「そんな奴から逃げられるかいな」
与太郎「でも一両は魅力やなぁ」
逃走開始
太鼓の音と共に逃走開始。
熊「うわっ、来た来た!」
八「こっちや、路地に逃げるで!」
黒装束の追手たちが無表情で追いかける。その動きは機械のように正確。
甚兵衛「ひぃ!なんやあの走り方!」
与太郎「人間やないみたいや!」
追手A「…」(無言で追跡)
追手B「…」(無言で挟み撃ち)
次々と脱落
三十分経過。既に半分以上が捕まっている。
熊「八公!後ろや!」
八「もうあかん!」
追手に捕まる八兵衛。
八「ぐわっ!離せ!」
追手C「…」(無言で連行)
熊「八公があかんかった…」
異変発生
一時間経過。残っているのは熊五郎含め三人だけ。
そんな中、追手の一人が妙な動きを見せる。
追手D(涙を流しながら追いかけている)
熊「おい、あの追手、泣いとるで」
甚兵衛「無表情やのに涙だけ流れとる」
与太郎「なんや気味悪い」
追手の告白
休憩時間。越後屋が水を配る。
越後屋「あと少しや、頑張れ」
熊が泣いている追手に近づく。
熊「あの…大丈夫か?」
追手D「…」(無言だが涙は止まらない)
熊「なんで泣いとるんや」
追手Dがついに口を開く。
追手D「…すまん」
熊「え?」
追手D「本当は…ワシも逃げたいんや」
追手の事情
追手D「ワシには病気の母と、小さい子供が三人おる」
熊「そうか…」
追手D「岡っ引きクビになって、食うに困って、この仕事しかなかった」
甚兵衛「せやから追手やっとるんか」
追手D「一日追いかけて三分(約900円)。逃げられたら半分になる」
与太郎「そら必死になるわな」
追手D「でもな、追いかけながら思うんや」
熊「何を?」
追手D「ワシが一番逃げたいのは、この生活からや」
他の追手たちも
すると、他の追手たちも口を開き始める。
追手A「ワシは借金から逃げたい」
追手B「ワシは女房の小言から」
追手C「ワシは過去の失敗から」
黒田「…税金から」
全員「リーダー!?」
逆転の提案
熊「なあ、ちょっと待てや」
越後屋「なんや」
熊「追手も一緒に逃げたらどうや」
越後屋「は?」
八(捕まってたが戻ってきた)「それええな!追手も逃走者や!」
甚兵衛「誰が追いかけるんや」
与太郎「越後屋が追いかけたらええやん」
越後屋「ワシが!?」
新ルール
熊「新ルールや。越後屋が全員捕まえたら賞金没収」
八「逃げ切った人数で山分け」
追手たち「それや!」
越後屋「ちょっと待て!ワシ一人で二十人も追いかけられるか!」
黒田「今まで我々がどんな思いで追いかけてたか、わかってもらえますな」
越後屋「そ、それは…」
最後の逃走
結局、越後屋も含めて全員で鬼ごっこすることに。
熊「ほな、鬼は籤引きで決めよか」
全員で籤を引く。
八「誰が鬼や?」
籤を見た追手D「ワシや…また追いかける側かい!」
熊「まあまあ、今度は遊びやから」
追手D「ワシも逃げたいけど、家族養うために追いかけるしかないんや」
まとめ
いかがでしたでしょうか。人気番組『逃走中』を江戸時代の鬼ごっこに置き換えてみました。
無表情で追いかけるハンターも、実は生活のために必死。追う側の哀愁を描いた今回の落語、ちょっと切なくなりましたね。「ワシも逃げたいけど、家族養うために追いかけるしかない」という追手の本音に、現代社会で働く私たちも共感できる部分があるのではないでしょうか。
自己採点は80点。エンタメ要素と人情要素のバランスが取れた作品になったと思います。追う側と逃げる側、どちらにも事情があるという普遍的なテーマを、現代の番組フォーマットに乗せて表現できました。
これは完全なフィクションであり、創作落語です。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
当サイトでは他にも様々な時事ネタを江戸時代に置き換えた作品を公開しております。現代と江戸、時代は違えど人の悩みは変わらない。そんな普遍性を楽しんでいただければ幸いです。


