殿集め
3行でわかるあらすじ
18歳の美人が清水の舞台から飛び降りるという噂で大勢の男性見物人が殺到する。
男たちは眼病説・横根説・空飛び説・恋患い説など飛び降りる理由を勝手に推測して盛り上がる。
娘は舞台で群衆を見回して「これだけ殿御を集めても良い男はいないものじゃなあ」と言って帰る。
10行でわかるあらすじとオチ
京都の評判の18歳美人が清水の舞台から飛び降りるという噂が立ち当日となる。
境内には一目見ようと大勢の男性見物人が集まり、それも男ばかりで熱気むんむん。
見物人たちは飛び降りる理由を勝手に推測し、眼病・横根・空飛びなど様々な説を展開。
壮士は恋患いで自分に惚れていると主張し、下で抱き止めて婿養子になる算段を立てる。
いよいよ娘がお供の女中を連れて本堂参拝後、舞台の上に登場する。
がやがや騒いでいた群衆は波を打つように静まり返って舞台を見上げる。
見物人は「眼病でっか?横根でっか?空中散歩?恋患い?」と声をかける。
娘は舞台の上から群衆を隅から隅まで眺め回してくるりと後ろを向く。
そのままさっさと帰り出してお供の女中に話しかける。
「これだけ殿御を集めても良い男はいないものじゃなあ」というオチで終わる。
あらすじ
京都のご大家の娘さん、歳が十八で評判の別嬪さん。
この娘さんが何を血迷ったのか、「清水の舞台から飛び降りる」 という噂が立ち、口から口へと広がって今日はその当日。
清水寺境内は一目飛び降りるところを見ようと大勢の群衆、それも男ばかりで熱気むんむん。
皆それぞれに勝手なことを言っている。
見物人1 「十八の別嬪の娘はんが、今日この清水の舞台から、パ~ッと飛びはりまんのん。こら楽しみでんなぁ、女子(おなご)やさかいフンドシはしてませんわなぁ」
見物人2 「ほんまに飛び降りはるやどうか、わて知りまへん」
見物人1 「そら殺生だっせ。わたいわざわざ仕事休んで見に来てまんねんで」
見物人2 「ほな、仕事行きなはれ」
見物人1 「けど、仕事行たとたんに飛ばれてみなはれ、こんな悔しいことおまへんがな。ほんで、その十八の娘はん清水の舞台から何で飛ばはりまんのん?」
見物人2 「わたいが想像するところでは親の眼病のため・・・」
見物人1 「たかが親の眼病なんかで娘はんが飛び降りまっか?」
見物人3 「もし、もし、黙って聞いとったらようそんなええ加減なことを。
眼病やおまへん。病気は病気でも横根だす」
見物人1 「横根なんてもん女子にもかかりますか?」
見物人3 「そらあんた、男でも女ごでも皆かかりまんがな」
見物人2 「横根になったからちゅうて、何で娘さんこの清水の舞台から飛ばなあきまへんねん?」
見物人3 「あれ、高い所から飛んだら、痛さ知らずに膿(うみ)がみな外へ飛び散りまんねや。八里四方へ走ってる馬を越して飛び散りまっせ。"横根八里は馬でも越すが"ちゅうて」
見物人4 「横根の膿なんて汚いもんが飛ぶのやあらへんで。
娘さんの夢枕に立った仙人から"お前は空を飛べる"と、お告げがあったんや。
それから娘さん空飛んで見たいと思うようになっが半信半疑で、もし飛べずに落ちても安全なように噂を流してこんな大勢集めたんや。別嬪で軽い娘さんなら我も我もと手を差し伸べて抱き止めてくれるという算段や」
壮士 「これこれ勝手なことばかり言いよって。
眼病でも横根でも空飛びでもないわ。患いは患いでも恋患いじゃ」
見物人 「あぁ、なるほど、どっかの若旦那に惚れたか片思いとか、親が許してくれへんとか・・・」
壮士 「そうではない相手は壮士じゃ。つまりこの、国家の行く末を案じ、我が身を国体のために捧げんとする・・・早い話がこの我輩じゃ」
見物人1 「はっはっは、十八の娘はんがあんさんに?」
壮士 「黙れ!間違いなく娘御は我輩に惚れておる。恐らくどこぞで我輩が演説する雄姿をかいま見たのじゃろ」
見物人2 「じゃあ仮に娘はんがあんさんに一目惚れしたとして、何で飛び降りなきゃいかへんので?」
壮士 「おそらく親の決めた意に沿わぬ縁談でもあるのじゃろ」
見物人3 「ほな、これからどなしやはります?」
壮士 「一旦娘御にはこの舞台から飛び降りさせ、それをば下で我輩が大手を広げしっかりと抱き止める。
すぐに蘇生させれば娘御はわしの首っ玉へかじりつくであろう。吾輩は娘御の家の婿養子に入って一件落着、目出度し、目出度しじゃ」
まあ、こんな調子でみんな好き勝手なことを言って盛り上がっていると、さあ、いよいよ娘さんがお供の女中を連れて本堂へ参拝して、舞台の上に登場した。
下でがやがや騒いでいた連中は波を打ったように一瞬静かになって舞台を見上げて思い出したように、
見物人 「よぉ、待ってました。眼病でっか?横根でっか?空中散歩?それとも恋患い~?」、壮士のおっさんも毛深い腕を一ぱいに広げて待ち構えている。
すると娘さん、舞台の上からゆっくりと群衆を隅から隅まで眺め回して、くるりと後ろを向いてそのまますたすたと帰り出して、お供の女中に、
「これだけ殿御を集めても良い男はいないものじゃなあ」
解説
「殿集め」は、タイトルそのものがオチになっている古典落語の巧妙な作品です。一見すると清水の舞台からの飛び降り騒動という劇的な設定ですが、実際は18歳の美人による男性品定めという、現代でいう婚活作戦の物語となっています。
この噺の最大の魅力は、見物人たちの勝手な推測と現実のギャップにあります。眼病説から横根説、空中散歩説、恋患い説まで、男性陣が次々と展開する珍説は、それぞれが真剣に語られるほど滑稽さが際立ちます。特に「横根八里は馬でも越す」という語呂合わせや、壮士の自惚れた恋患い説は、当時の庶民の発想力と言語遊びの豊かさを示しています。
娘の行動は一貫して計算されており、最初から男性を集めることが目的でした。「清水の舞台から飛び降りる」という衝撃的な噂を意図的に流し、大勢の男性を一堂に集めて品定めするという発想は、江戸時代としては非常に斬新で現代的ともいえるでしょう。
オチの「これだけ殿御を集めても良い男はいないものじゃなあ」は、タイトルの「殿集め」と見事に呼応しています。娘にとっては成功した「殿集め」でしたが、品定めの結果は不合格という皮肉な結末が、聞き手に予想外の笑いを提供します。
この作品は、女性の主体性と男性の思い込みという普遍的なテーマを扱いながら、京都弁の軽妙な会話と清水寺という実在の名所を背景にした、関西落語らしい洒脱さを持った名作です。現代においても、男女の機微や一方的な思い込みの滑稽さという点で十分に通用する、時代を超えた面白さを持つ古典落語といえるでしょう。
落語用語解説
- 殿御(とのご) – 男性を指す京言葉。丁寧な言い方で、若い女性が使う言葉。
- 別嬪(べっぴん) – 美人のこと。関西でよく使われる表現。
- 清水の舞台 – 清水寺本堂の舞台。約13メートルの高さで「清水の舞台から飛び降りる」は思い切った決断の比喩。
- 横根(よこね) – 性病の一種を指す江戸時代の隠語。
- 壮士(そうし) – 明治時代の政治活動家。演説が得意で自信家が多かった。
- お告げ – 神仏から夢などで受ける啓示。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ娘はこんな回りくどい方法で男性を集めたのですか?
A: 江戸時代の女性は自由に外出して男性と出会う機会が限られていました。清水寺という公の場で、一度に大勢の男性を品定めできるこの方法は、当時としては合理的な「婚活」だったといえます。
Q: 実際に清水の舞台から飛び降りた人はいたのですか?
A: 江戸時代には「清水の舞台から飛び降りる」ことが願掛けの一つとされ、実際に飛び降りた人がいたという記録があります。生存率は意外に高かったとも伝えられています。
Q: オチの意味は?
A: 「殿御を集めても良い男はいない」という言葉で、娘の真の目的が「殿集め=男漁り」だったことが明かされます。タイトル「殿集め」がそのままオチになっている構成です。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 人間国宝。京都弁の繊細なニュアンスを活かした口演で知られます。
- 桂枝雀(二代目) – 爆笑王。見物人たちの珍説を大げさに演じて笑いを取りました。
- 笑福亭松鶴(六代目) – 上方落語の重鎮。娘の冷静な態度と群衆の対比が見事でした。
関連する落語演目
同じく「婚活・縁談」がテーマの古典落語


同じく「京都・上方」を舞台にした古典落語


勘違い・思い込みがテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「殿集め」は、女性の主体性と男性の思い込みをユーモラスに描いた傑作です。見物人たちが次々と展開する珍説(眼病・横根・空飛び・恋患い)は、人間が情報不足の時にいかに想像を膨らませるかを痛烈に風刺しています。
最も滑稽なのは壮士で、娘が自分に惚れていると勝手に解釈し、婿養子になる算段まで立てています。この一方的な思い込みは、現代のSNSでの誤解や憶測の拡散にも通じるものがあります。
娘の「これだけ殿御を集めても良い男はいない」という台詞は、逆説的に男性陣の品格を問うものであり、見かけだけで判断されることへの皮肉ともいえます。現代の婚活市場にも通じる普遍的な示唆を含んだ名作です。


