天王寺詣り
3行でわかるあらすじ
愛犬クロが子供たちにいじめられて死んでしまった男が、友達と大阪の四天王寺へ引導鐘をつきに行く。
坊さんが引導鐘をつくと『クワァ~ン』とクロの泣き声のように鳴り響く。
男が自分でも鐘をつかせてもらうと、同じく『クワァ~ン』と鳴って『無下性にはどつけんもんや』とつぶやく。
10行でわかるあらすじとオチ
大阪の四天王寺ではお彼岸に七日間、無縁仏の供養のために北撞堂の引導鐘をつく。
愛犬クロが子供たちにいじめられて死んだ男が、友達にクロの供養をしたいと相談する。
男は『クワァ~ン』と泣いたのがこの世の別れと涙ながらに語る。
友達は『犬に引かれて天王寺参り』と、男を連れて天王寺へ向かう。
下寺町を抜け、安井の天神や一心寺に参り、石の鳥居をくぐって天王寺境内へ。
北撞堂でクロの戒名を坊さんに渡すと、引導鐘をついてくれる。
鐘の音が『ボォ~ン、クワァ~ン、クワァ~ン』とクロの泣き声のように響く。
男は『あと一つ自分に撞かせてください』と頼む。
男が鐘をつくと『クワァ~ン』と鳴る。
『あぁ、無下性にはどつけんもんや』と男が言って終わる。
解説
「天王寺詣り」は、大阪を舞台にした人情味あふれる古典落語です。四天王寺の引導鐘という実在の仏教儀式を背景に、愛犬を失った男の悲しみと供養の心を描いています。
引導鐘は実際に四天王寺で行われていた風習で、お彼岸の期間中に無縁仏の供養のために撞かれる鐘です。その音は「十万億土」まで届くと言われ、亡くなった者の魂を極楽浄土へ導くとされています。
この噺の特徴は、通常は人間のための供養である引導鐘を、愛犬のために撞きに行くという設定にあります。「牛に引かれて善光寺参り」をもじった「犬に引かれて天王寺参り」という言葉遊びも効いています。
最大の見どころは、引導鐘の音が犬の鳴き声「クワァ~ン」に聞こえるという演出です。実際の鐘の音と犬の鳴き声を重ね合わせることで、男の悲しみと愛情が音として表現されます。
オチの「無下性(むげしょう)にはどつけんもんや」は大阪弁で「むやみやたらに叩いてはいけない」という意味。最初にクロが子供たちに叩かれて死んだことと、最後に引導鐘を撞く(叩く)行為を掛けた言葉で、悲しみと諦めが込められた締めくくりです。
あらすじ
大阪の四天王寺ではお彼岸に七日のあいだ無縁の仏の供養、極楽往生を願って北撞堂の引導鐘をつく。
その音は十万億土まで聞こえると言う。
愛犬のクロが子どもたちにいじめられて死んでしまった男が、友達の所へクロの往生供養のため引導鐘をつきたいと言ってくる。
男 「子どもたちに棒で叩かれ"クワァ~ ン"と泣いたのが、この世の別れ。無礙性(無下性)にはどつけんもんでんなぁ」と泣きながら言うので、友達は「牛に引かれて善光寺参り」ならぬ「犬に引かれて天王寺参り」で、天王寺さんへ連れて行くことにする。
坂沿いに寺が並び坊さんが行き交う下寺町を抜け、逢坂は合法ヶ辻(がっぽうがつじ)から、安井の天神さん一心寺に参り、日本三鳥居の石の鳥居をくぐって、参詣人で賑わう天王寺の境内に入る。
二人は人混みをかき分け北撞堂にたどり着いて、クロの戒名の書いてある紙を坊さんに渡すと、「・・・・今日、引導鐘の功力を以って、三月十五日の諸霊俗名クロ・・・・・」で、坊さんが引導鐘をつくと、"ボォ~ン、クワァ~ ン~クワァ~ ン~"とクロの泣き声のように鳴り響いた。
男 「坊さん、引導鐘は三つやと聞いてまんねん。あと一つわてに撞かしとくなはれ」
坊さん 「撞いてあげなされ、功徳になりますで」
男 「おおきに、クロ、えぇ声で頼むで。ひぃのふのみっつ」
"クワァ~ン~"
男 「あぁ、無下性にはどつけんもんや」
落語用語解説
- 引導鐘 – 四天王寺の北撞堂で撞かれる鐘。亡くなった者の魂を極楽浄土へ導くとされた。
- 四天王寺 – 大阪市天王寺区にある和宗の総本山。聖徳太子が建立したとされる日本最古の官寺。
- 無縁仏 – 供養してくれる遺族のいない亡者。お彼岸に引導鐘で供養された。
- 十万億土 – 阿弥陀仏の極楽浄土までの距離。引導鐘の音はそこまで届くとされた。
- 無下性(むげしょう) – 大阪弁で「むやみやたらに」「無茶に」という意味。
- 下寺町 – 大阪市天王寺区の地名。坂沿いに多くの寺が並ぶ寺町。
よくある質問(FAQ)
Q: 「無下性にはどつけんもんや」の意味は?
A: 大阪弁で「むやみやたらに叩いてはいけない」という意味です。クロが子供たちに叩かれて死んだことと、引導鐘を撞く(叩く)行為を掛けた言葉遊びになっています。
Q: 「犬に引かれて天王寺参り」は何のもじりですか?
A: 「牛に引かれて善光寺参り」のもじりです。本来は思いがけないきっかけで信仰心が芽生えることを指す言葉ですが、ここでは愛犬の供養がきっかけという意味で使われています。
Q: 引導鐘は実際に存在するのですか?
A: はい、四天王寺の北撞堂で実際に行われていた風習です。お彼岸の期間中に無縁仏の供養のために撞かれていました。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 上方落語の重鎮。クロへの愛情と悲しみを繊細に表現し、鐘の音の演出が秀逸でした。
- 笑福亭松鶴(六代目) – 上方落語の大御所。大阪の風情と人情を見事に描きました。
- 桂文枝(五代目) – 上方落語の名手。天王寺詣りの道中の描写が生き生きとしていました。
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大阪を舞台にした古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「天王寺詣り」は、愛犬を失った男の悲しみと供養の心を描いた大阪の人情落語です。通常は人間のための引導鐘を愛犬のために撞くという設定が、動物への深い愛情を表現しています。
引導鐘の音が「クワァ~ン」とクロの鳴き声に聞こえる演出は、男の悲しみを音で表現した秀逸な仕掛けです。ペットロスが社会問題となる現代において、動物への愛情と供養の心を描いたこの噺は、今なお多くの人の心に響きます。


