鉄拐
3行でわかるあらすじ
分身の術を使う仙人・鉄拐が商人の祝賀会で芸を披露して人気者となり、都会生活に染まって堕落していく。
ライバルの張果仙人が瓢箪から馬を出す術で人気を奪うと、鉄拐は馬を盗んで腹に入れ、客も腹の中に入れて見物させる。
腹の中で酔っ払った李白と陶淵明が喧嘩を始め、痛さに耐えかねた鉄拐が二人を吐き出してオチとなる。
10行でわかるあらすじとオチ
上海の大貿易商の創業記念日の余興を探していた番頭・金兵衛が、山中で分身の術を使う仙人・鉄拐に出会う。
口から自分の分身を吐き出す術に感動した金兵衛は、鉄拐を説得して商人の祝賀会に出演させる。
大成功を収めた鉄拐は各所から引っ張りだことなり、酒と女と金に溺れて完全に俗世に染まってしまう。
そこへライバルの張果仙人が現れ、瓢箪から本物の馬を出す術で人気を奪い、鉄拐は寄席から声がかからなくなる。
嫉妬した鉄拐は張果仙人の家に忍び込み、瓢箪から馬を吸い込んで自分の腹に入れてしまう。
張果仙人は馬が出せなくなり、鉄拐が再び寄席に復帰して「馬に乗った鉄拐を出す」と宣言する。
しかし口から出てきたのは鉄拐だけで、客から大ブーイングを受ける。
窮余の一策で「客を腹の中に入れて鉄拐と馬を見物させる」と提案し、これが大人気となる。
腹の中は連日満員となるが、ある日腹の中で酔っ払いが喧嘩を始めて鉄拐は痛みに耐えかねる。
二人の酔っ払いを吐き出してみると、なんと中国の詩聖・李白と陶淵明だったというオチ。
解説
「鉄拐」は、中国の仙人伝説を題材にした壮大なスケールの古典落語です。
鉄拐仙人は実在の道教八仙の一人で、分身の術という超能力から始まり、張果老(これも八仙の一人)の瓢箪から駒ならぬ馬を出す術、さらには観客を腹の中に入れるという奇想天外な展開が続きます。
仙人の俗世への堕落という風刺的な要素と、最後に登場する李白(詩仙)と陶淵明(田園詩人)という中国文学史上の巨人たちが酔っ払って喧嘩するという壮大なオチが秀逸です。
中国の古典的な要素を落語に取り入れた異色作で、スケールの大きさと意外性で聴衆を楽しませる作品となっています。
あらすじ
上海の大貿易商、上海屋唐右衛門の創業記念日が近づいて来たが、祝賀会恒例の余興の出し物が種切れで決まっていない。
主人の唐右衛門は商用を兼ねて、番頭の金兵衛を地方につかわし、変わった、面白い芸人を探して来るよういいつける。
金兵衛は行く先々でいろんな芸人と会ったが、どれもありふれた、陳腐な芸でとても祝賀会の余興のレベルではない。
ある日、どう間違ったのか山道に入ってしまい道に迷った頃、杖をついてボロをまとった小汚いの老人に出会った。
偏屈な爺さんは自分は鉄拐という仙人だという。
どうせまやかし者と信じない金兵衛に、鉄拐は一身分体の術ができるという。
口から息をはくと、鉄拐の体がもう一つでて来る術という。
是非、その術を見せて欲しいと懇願する金兵衛に折れて、鉄拐は呪文を唱えて口からもう一人の鉄拐を出した。
金兵衛はこれしかない、いい芸人を探し当てたと、「・・・是非、上海屋の余興に・・・」、はじめは「仙人が余興の座敷などに・・・」と、断り続けていた鉄拐だが、「人助けと思って・・・」と金兵衛はくいさがる。「人助けとあらば仕方ない」と、鉄拐は山を下りて上海へ行く気になった。
鉄拐の呼んだ雲に乗って上海屋へ飛んだ二人。
早速、主人に話すと大喜び。
綺麗な座敷に通してもてなしをと言う主人だが、鉄拐は綺麗な所は嫌だと物置に引っ込み、椎の実をかじっている。
さあ、創業記念日となって余興が繰り広げられる。
むろん目玉は鉄拐の一身分体の術だ。
いつもと同じようにボロを着て、ぼさぼさ頭をかきながら、のそのそと舞台に上がった鉄拐。
満員の観客が固唾を飲んで見守る中、見事口からもう一身の鉄拐を吹き出した。
分身は舞台をよたよた歩いたあと鉄拐の口に吸い込まれた。
やんややんやの大拍手、大喝采で祝賀会は大成功となった。
さあ、こうなると回りはこんなすごい術を使う鉄拐を放っておかない。
あちこちから引く手あまた、最初はうるさがり、面倒臭がっていた鉄拐だがあちこちと回っているうちに都会風にも慣れ、宴席では女の子をはべらせ酒も飲み始め、祝儀もがっぽりもらうようになった。
興行師がついて寄席にも出るようになり、出演料もどんどん入って来て、物置から大きな家に移り、今では厄拐、幽拐、・・・ら何人もの弟子持ちの師匠となってふんぞり返えっている。
こうなると高慢な鉄拐に嫌気がさし、評判を落としてやろうと企む者たちが出て来る。
すぐに二、三人連れで仙人探しに旅立った。
幸いにも山奥深くの岩陰で髭だらけの老人に出会う。
張果仙人と名乗り、「俺は口からなんぞ出さん、この酒の瓢箪から駒を出す」、「へぇー、"瓢箪から駒"じゃ洒落にもなりませんで・・・」
張果仙人「馬鹿を言うな、この瓢箪から馬を出す」、「そんな小さな口から本物の馬がでますか・・・」と疑る連中を前に、張果仙人が呪文を唱えると、煙のようにすーっと馬が出て来た。「是非、里に下りてこの術を披露して・・・」だが、張果仙人もはじめのうちは断るが、鉄拐の今の暮らしぶりを聞いて、面白そうと色気が出てきて鼻の下まで伸ばしはじめてOKとなった。
早速、上海に出てきて寄席に出ると、新し物好きの都会人には馬鹿受けの大人気。
一方の鉄拐は飽きられて人気は下がり一方、寄席からも声が掛からなくなる。
すっかり人間化して張果仙人に嫉妬し、しゃくに障る鉄拐は張果仙人の家に忍び込み、瓢箪の口から馬を自分の腹の中に吸い込んでしまった。
翌日、寄席に出た張果仙人だが、瓢箪から馬は出ない。
次の日も、次の日もダメ。
こうなると寄席も再び、鉄拐頼みとなる。
何食わぬ顔の鉄拐「よーし、今度は腹の中から馬に乗った鉄拐を出そう」と言い出す。
さあ、その晩、久しぶりに寄席の舞台に上がった鉄拐、「馬に乗った鉄拐を出してご覧に入れる」と、口から吐いたが出て来たのは鉄拐だけ。
観客は大ブーイングで、金返せの大合唱。
そこで鉄拐は窮余の一策、「お客様を私の腹の中に入れて、鉄拐と馬を見せます」で、これがうまくいった。
"腹の中で鉄拐と馬見物"が大人気となって、腹の中も連日押すな押すなの大騒ぎ。「・・・もう満員で入れません・・・」、「・・・噂を聞いてベトナムから来たんだ。あばら骨の三枚目あたりにでもぶら下がらせてくれ・・・」と、こんな調子だ。
そのうちに腹の中で酔っ払いが喧嘩を始めた。
鉄拐 「痛い!痛い!」ともうたまらず二人の酔っ払いを吐き出した。
よく見ると李白と陶淵明。
落語用語解説
- 鉄拐(てっかい) – 道教の八仙の一人。正式名は鉄拐李。分身の術を使う仙人として知られる。
- 張果仙人 – 道教の八仙の一人で張果老。瓢箪から駒(馬)を出す術で有名。
- 李白 – 中国唐代の詩人で「詩仙」と呼ばれる。酒を愛し、酔っ払いの代名詞的存在。
- 陶淵明 – 中国東晋の詩人で田園詩人として知られる。酒好きで有名。
- 一身分体の術 – 自分の体からもう一人の分身を出す術。鉄拐仙人の得意技。
- 瓢箪から駒 – ありえないことが起こる意味のことわざ。この噺では文字通り瓢箪から馬が出る。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ李白と陶淵明が腹の中にいたのですか?
A: 明確な説明はありませんが、二人とも酒好きで有名な中国の詩人であり、鉄拐の腹の中の宴会に紛れ込んでいたという設定です。歴史上の偉人が酔っ払いとして登場する意外性がオチの面白さです。
Q: 鉄拐と張果仙人は実在の人物ですか?
A: 二人とも道教の「八仙」と呼ばれる仙人伝説に登場する人物です。鉄拐李は分身術、張果老は白いロバに乗る姿で知られています。
Q: なぜ鉄拐は堕落してしまったのですか?
A: 最初は世俗を離れた仙人でしたが、芸人として人気が出ると酒と女と金に溺れ、嫉妬心まで持つようになりました。仙人でさえ俗世に染まるという風刺です。
名演者による口演
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。壮大なスケールの物語を臨場感たっぷりに演じました。
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人。鉄拐の堕落ぶりを滑稽に演じました。
- 桂文楽(八代目) – 昭和の名人。中国的な雰囲気を巧みに表現しました。
関連する落語演目
同じく「仙人・超能力」がテーマの古典落語


同じく「堕落・転落」がテーマの古典落語


中国を舞台にした古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「鉄拐」は、中国の仙人伝説を題材にした壮大なスケールの古典落語です。分身の術、瓢箪から馬を出す術、客を腹に入れる術と、次々とスケールアップしていく展開は落語としては異色の作品です。
仙人でさえ俗世の快楽に染まって堕落するという風刺は、人間の弱さを描いた普遍的なテーマです。最後に李白と陶淵明という中国文学史上の巨人が酔っ払いとして登場するオチは、教養がないと分からない高度な落ちになっています。


