辰巳の辻占 落語|あらすじ・オチ「娑婆で会ったきり」完全解説
辰巳の辻占(たつみのつじうら) は、道楽者と女郎が偽心中で互いを騙し合う古典落語の傑作。両方とも生きていて再会し、「娑婆で会ったきりじゃないか」という皮肉なオチが秀逸です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 演目名 | 辰巳の辻占(たつみのつじうら) |
| ジャンル | 廓噺・滑稽噺 |
| オチ | 「娑婆で会ったきりじゃないか」 |
| 舞台 | 深川(辰巳) |
| 主要人物 | 伊之助(道楽者)、お玉(女郎) |
| 見どころ | 辻占煎餅の伏線、偽心中の化かし合い |
3行でわかるあらすじ
道楽者の伊之助が辰巳の女郎お玉の真心を試すため、人を殺したから身を投げると偽の心中を持ちかける。
二人とも相手を騙して自分だけ助かろうと石を投げて相手が死んだと思わせるが、実は両方とも生きている。
結局お茶屋の前で出くわして「娑婆で会ったきりじゃないか」という皮肉なオチで幕となる。
10行でわかるあらすじとオチ
辰巳の女郎お玉に入れ揚げている道楽者の伊之助が、おじさんから女の真心を疑われて試すよう言われる。
伊之助はお玉を呼び出し、辻占煎餅で悪い占いが出た後、人を殺したから身を投げると嘘の話をする。
お玉は最初「死んでおしまいなさい」と言うが、なぜか一緒に死ぬと言い出す。
二人は手を取って大川へ向かい、「南無阿弥陀仏、ひのふのみい」で身を投げようとするが躊躇する。
お玉は木陰に隠れて石を投げ、伊之助が身を投げたと思わせて自分だけ助かろうとする。
しかし伊之助も助けに飛び込むふりをして石を投げ、おじさんに相談に行くと逃げ出す。
お玉も石の音を聞いて「本当に飛び込んだよ、ああせいせいした」と安心してお茶屋に戻る。
お茶屋の前で二人がばったり出くわし、お互い相手が死んだと思っていたので驚く。
伊之助が「あっ!お玉」と言うと、お玉が「あら伊之さん、しばらく」と答える。
最後にお玉が「だってお前さん、娑婆で会ったきりじゃないか」と言って皮肉なオチとなる。
解説
「辰巳の辻占」は江戸時代の花街を舞台にした廓噺の傑作で、男女の駆け引きと人間の身勝手さを巧妙に描いた古典落語です。この演目の最大の魅力は、互いに相手を騙そうとした結果、両方とも同じことを考えていたという皮肉な展開と、最後の「娑婆で会ったきりじゃないか」という絶妙なオチにあります。
物語の構成は、まず辻占煎餅による不吉な予兆、次に偽の心中劇、最後の化かし合いという三段構成になっており、特に辻占の内容が後の展開を暗示する仕掛けが見事です。また、江戸時代の遊郭文化や当時の恋愛観、さらには人間の本性を鋭く突いた社会風刺としても読める深みのある作品となっています。
この噺は廓噺という落語のジャンルの中でも特に完成度が高く、登場人物の心理描写や会話の妙、そして最後のどんでん返しまで、すべてが計算し尽くされた構成で現代でも多くの落語家によって愛され続けている古典落語の名作です。
あらすじ
辰巳の岡場所の女郎のお玉に入れ揚げ、お玉も自分にべた惚れと逆上(のぼ)せ上がっている道楽者の伊之がおじさんに呼ばれる。
伊之に金の無心をするというお玉を、「傾城の恋は誠の恋ならで 金もって来いが本のこいなり」と. 怪しんだおじさんは、お玉の本心を探る芝居をしてみろと知恵を授ける。
伊之がつまらないことから友達と喧嘩になり殺してしまい、生きていられなくなったので川へ身を投げるという筋書きだ。
おじさんはこれを聞いたお玉が一緒に死のうとでも言ったのなら、伊之の親父に話して二人を添わせてやろうと言う。
お玉の真心を信じて疑わない能天気な伊之は早速、辰巳のお茶屋へお玉を呼び出す。
二階の部屋で待っていると、辻占の巻煎餅が残っている。
食べながら辻占を開けてみると、「端(はな)はさほどに思わぬけれど 今でもさほどに思わない」、「あたしの方からあなたのお手へ 書いてやりたい離縁状」、三度目の正直と、「年季(ねん)が明けたらお前の元へ きっと行きます断りに」でがっくり。
そこへやって来たお玉は無心した金を持って来てくれたものと思っている。
しょんぼりしたフリで座っている伊之は、人を殺してしまったから、大川に身を投げて死ぬつもりだと芝居を始める。「あ、そう、死んでおしまいなさい」と平然としていたお玉も何を考えたのか、あたしも一緒に死んであげると言い出した。
行きがかり上、成り行きまかせで二人は手に手を取って大川へ、えせ心中の道行きだ。「南無阿弥陀仏、ひのふのみい」をきっかけに身を投げようとするが、お互い顔を見合わせてしまい飛び込めないでいる。
お玉はなんとか伊之を先に飛び込ませようと少し離れて木蔭に隠れ、石を拾い「南無阿弥陀仏、ひのふのみい」で石をドボーンと投げた。
本当にお玉が身を投げたと思った伊之は助けようと飛び込むと思いきや、「えらいことになった。おじさんの所へ行って相談して来るから」と、自分の身代りにと石をドボーンと放り込んでとんずらして、羽織が置いてあるお茶屋へ向かった。
一方、土手の木の陰でドボーンと聞いたお玉は「馬鹿だねぇ、本当に飛び込んだよ、ああせいせいした」と、お茶屋へと引き返す。
お茶屋の前でばったり出くわした二人、
伊之 「あっ!お玉」
お玉 「あら伊之さん しばらく」
伊之 「この野郎、なにがしばらくだ」
お玉 「だってお前さん、娑婆で会ったきりじゃないか」
落語用語解説
- 辰巳 – 江戸の深川地区を指す。江戸城から見て辰巳(東南)の方角にあることから名付けられた岡場所。
- 岡場所 – 幕府公認の吉原以外の私娼街。辰巳は特に粋を重んじる深川芸者で有名だった。
- 辻占煎餅 – 占いの紙が入った煎餅。縁日などで売られ、恋愛の行方を占った。
- 傾城 – 遊女のこと。その美しさで城を傾けるほどの力を持つという意味。
- 年季 – 遊女が勤める契約期間。年季が明けると自由の身になれた。
- 娑婆 – この世、現世のこと。仏教用語で、あの世との対比で使われる。
よくある質問(FAQ)
Q: 「娑婆で会ったきりじゃないか」というオチの意味は?
A: 二人とも相手が死んだと思っていたので、まだ生きている現世(娑婆)で会うはずがないという皮肉です。「しばらく」という挨拶に対して、あの世で会うはずだったのに娑婆で会ったという言葉遊びになっています。
Q: なぜお玉は最初「死んでおしまいなさい」と言った後に一緒に死ぬと言い出したのですか?
A: お玉も伊之助の本心を疑っており、一緒に死ぬふりをして逃げる計画を立てたと考えられます。結局、両者とも相手を試そうとしていたという皮肉な構図です。
Q: 辻占煎餅の占いはどんな意味がありましたか?
A: 三つとも悪い内容で、お玉が伊之助を本当には愛していないことを暗示しています。この伏線が後の展開を予告する仕掛けになっています。
名演者による口演
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人。伊之助とお玉の化かし合いを軽妙に演じました。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。辰巳の粋な雰囲気を見事に描写しました。
- 桂文楽(八代目) – 昭和の名人。オチの「娑婆で会ったきりじゃないか」の間合いが絶品でした。
関連する落語演目
同じく「廓噺」の古典落語
同じく「恋愛・男女」がテーマの古典落語
化かし合い・どんでん返しの古典落語
この噺の魅力と現代への示唆
「辰巳の辻占」は、男女の恋愛と人間の本性を鋭く描いた古典落語の傑作です。互いに相手の真心を疑い、試そうとした結果、両者とも同じことを考えていたという皮肉な展開は、人間関係の本質を突いています。
「傾城の恋は誠の恋ならで 金もって来いが本のこいなり」という古川柳が示すように、遊郭の恋は金銭が絡む複雑なもの。しかしこの噺では、お互いが相手を騙そうとしていた点で対等であり、むしろ似た者同士として描かれています。








