狸の札
3行でわかるあらすじ
子狸を助けた八五郎に恩返しのため子狸が五円札に化けて縮み屋の勘定を支払う。
しかし商人が札を折ったりがま口に入れたりしたため狸が苦しくなり逃げ出す。
狸はお土産としてがま口にあった三枚の五円札を持ち帰ってくる。
10行でわかるあらすじとオチ
子どもたちにいじめられた子狸を助けた八五郎のところに、子狸が恩返しのためにお礼に来る。
八五郎が翌日の越後の縮み屋からの四円五十銭の勘定のために一円札五枚に化けて欲しいと頼む。
しかし子狸は一人で五枚は無理なので五円札一枚に化けることで合意。
翌朝、子狸は何度か失敗しながらも、ついに立派な新品の五円札に化けることに成功。
ただし折り曲げたり、畳んだり、回転させることは厳禁で、頭と尻も天地無用と注文がつく。
縮み屋がやってきて新品の五円札で勘定を支払い、お釣りもいらないと商人が帰っていく。
商人が疑ってお日様に透かしてみたり、くしゃみが出そうになったりしたが、本物と納得して小さく折りたたんでがま口に入れる。
苦しくなった子狸ががま口の底を食い破って逃げ出して八五郎のところに戻ってくる。
子狸が「お土産にがま口の中にあった五円札三枚を持ち帰った」と言うオチで、恩返しが予想以上の結果になる。
解説
「狸の札」は、日本の民間信仰で古くから人を化かすと言われている狸(たぬき)を主人公にした心温まる古典落語です。この演目の特徴は、動物と人間の交流を描いた「動物噺」の一つであり、恩返しという伝統的な価値観をユーモラスに表現していることです。
狸の化け能力を使った設定が秀逸で、特にお札に化ける際の様々な制約(折り曲げ禁止、天地無用等)がリアルで笑いを誘います。これらの注文は、物理的な制約でありながら、同時に狸の立場を考慮した人間らしい配慮でもあることが、この落語の温かみを生み出しています。
最後の「お土産に三枚の五円札を持ち帰った」というオチは、単なる恩返しが予想を超えた大収穫になるというユーモアで、況けば鶴の恩返しという日本の民話の伝統的パターンを蹏襲しつつ、より一層コミカルに描いたものです。この結末は、良い行いは必ず報われるという信念と、同時に狸のお茶目さを表現した絶妙なバランスで構成されています。
あらすじ
昼間、子どもたちからいじめられた子狸を助けた八五郎の所に子狸が礼に来る。
親狸から助けられた恩返しをしないのは人間にも劣る狸の道にももとることだと諭されて来たという。
お礼をして帰らなければ勘当になると言う。
八五郎が翌日に越後の縮み屋が四円五十銭の勘定を取りに来るので、一円札五枚に化けてくれと頼むと、一人?一役で、五枚は無理だから、五円札に化けると言う。
むろんOKでその晩は子狸は土間で自分の四畳半に包まって寝た。
翌朝、子狸は五円札に化けると、大き過ぎたり、小さ過ぎたり、裏に毛が生えていたりしたが、なんとか見事な新品の五円札に化けることに成功した。
ただし、折り曲げたり、畳んだり、回転させることは厳禁、頭と尻も天地無用と注文がつくが。
お札をお膳の上に寝かせ準備万端で待ち構えている所へ縮み屋がやって来た。
新品の五円札で勘定全部を払い、つり銭もいらないというから、びっくりだが文句はない。
縮み屋は八五郎からお札の取り扱い注意事項を厳しく言われて帰って行った。
八五郎は子狸のおかげで勘定が支払えたことを喜ぶが、子狸がこのまま親元から離れ、越後に連れて行かれてしまうのかと思うと複雑な心持ちだ。
すると子狸が駆け込んできた。
外へ出た縮み屋は、八五郎がこんな大金を持っているのを不審に思って、にせ札かも知れないとお日様に透かして見たりして、まぶしくてくしゃみが出そうになった。
やっと縮み屋は本物のお札と納得して、小さく折りたたんでがま口に入れた。
苦しくてしょうがないので、ガマ口の底を食い破って逃げ出して来たと言う。
八五郎 「そうか、よく帰って来たな」
子狸 「へぇ、ついでにがま口の中に、五円札が三枚あったから、お土産に持って参りました」
落語用語解説
- 縮み屋 – 越後(新潟)の縮み(ちぢみ)を行商で売り歩く商人。縮みは夏の着物地として重宝された。
- 五円札 – 明治時代以降に発行された紙幣。当時としては大金で、庶民の月収にも匹敵する額。
- がま口 – 口金が開閉式になった財布。その形が蝦蟇(がま)の口に似ていることから名付けられた。
- 恩返し – 受けた恩義に報いること。日本の昔話に多いテーマで、動物が人間に恩返しをする話が多い。
- 勘当 – 親子の縁を切ること。狸の親子関係にも人間と同様の掟があるという設定。
- 天地無用 – 上下を逆さまにしてはいけないという意味。荷物の取り扱い注意の言葉。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ子狸は五円札一枚に化けたのですか?
A: 八五郎が一円札五枚に化けてほしいと頼みましたが、子狸は一人で五枚に分身することはできないため、五円札一枚に化けることで解決しました。化け能力にも限界があるという設定がリアルです。
Q: 「お土産に五円札三枚」というオチの意味は?
A: 子狸ががま口から逃げる際に、商人の財布の中にあった五円札三枚を持ち帰ってきたというオチです。恩返しのつもりが、結果的に商人から15円を盗んでしまったという皮肉が効いています。
Q: この噺は「狸の鯉」や「狸の釜」と関係がありますか?
A: はい。「狸の札」「狸の鯉」「狸の釜」は同じ八五郎と子狸のシリーズ物で、子狸が様々なものに化けて恩返しをする連作となっています。
名演者による口演
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人。子狸の健気さと八五郎のやり取りを絶妙に演じました。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。縮み屋が札を疑う場面の臨場感が見事でした。
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。最後のオチの間合いが絶品でした。
関連する落語演目
同じく「狸」がテーマの古典落語


同じく「動物の恩返し」がテーマの古典落語


お金・商売がテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「狸の札」は、動物の恩返しという心温まるテーマと、予想外の結末が楽しい古典落語の名作です。子狸がお札に化ける際の様々な制約(折り曲げ禁止、天地無用など)は、化けることの難しさをリアルに描いており、聴衆の想像力を刺激します。
最後の「お土産に五円札三枚を持ち帰った」というオチは、善意の恩返しが結果的に窃盗になってしまうという皮肉が効いており、良い行いが必ずしも良い結果につながるとは限らないという人生の教訓も含んでいます。


