狸娘
3行でわかるあらすじ
芝居小屋で男二人が美しいお嬢様と女中の二人連れと相席になり、芝居よりも女性に夢中になる。
芝居後に料理屋で酒を飲み、女性二人が身づくろいで席を外した隙に男達の財布が盗まれる。
後に女性達が「狸穴の狸娘のおきん」という詐欺師だったことが判明し、「道理で尻尾を出しやがった」とオチをつける。
10行でわかるあらすじとオチ
猿若町の芝居小屋で枡席を借り切った男二人の元に、若い衆が美しい女性二人連れの相席を依頼する。
入ってきたのは20歳頃の美しいお嬢様と30歳頃の女中で、男達は芝居よりも女性達に夢中になる。
女中が「狸穴のしかるべきお屋敷のお嬢様」と身分を明かし、お礼にご飯をと花屋敷の常盤屋に誘う。
酒も入って打ち解けた頃、女中が亀沢町のお屋敷の寮に泊まろうと男達を誘う。
女性二人が身づくろいのため部屋を出て行った隙に、男達は残った酒と料理を食べ続ける。
なかなか戻らない女性達を心配して帳場に聞くと、既に車で帰ったと告げられる。
勘定は男達持ちだと言われ、さらに財布も盗まれていることに気づいて狼狽する。
やがて手が回って女達が捕まり、実は「狸穴の狸娘のおきん」というお尋ね者だったと判明する。
男は騙されたことを悔しがり、狸穴(地名)と狸(動物)をかけて言葉遊びをする。
最後に「狸娘か、道理で尻尾を出しやがった」と、詐欺師の正体が露見したことを狸の尻尾に例えてオチとする。
解説
「狸娘」は江戸時代の美人局(つつもたせ)詐欺を題材にした古典落語で、現代でいう結婚詐欺や恋愛詐欺の原型ともいえる演目です。芝居小屋という娯楽の場を舞台にして、男性の色欲につけこんだ巧妙な手口を描いており、江戸時代にも既にこうした詐欺が横行していたことがうかがえます。
この噺の秀逸な点は、詐欺師の手口が非常にリアルで巧妙なことです。まず芝居小屋での偶然の出会いを装い、身分のある家のお嬢様という設定で男性の興味を引きます。そして「お礼に」という口実で食事に誘い、最後は宿泊まで提案するという段階的なアプローチは、現代の詐欺師の手法と変わりません。特に「狸穴のしかるべきお屋敷」という曖昧な表現で高い身分をほのめかしながら、具体的な名前は明かさないという手法は心理的に巧妙です。
狸穴(まみあな)は現在の港区麻布台付近の地名で、江戸時代には武家屋敷が多く立ち並ぶ高級住宅地でした。この実在の地名を使うことで、詐欺師の話により真実味を持たせています。
オチの「道理で尻尾を出しやがった」は、狸穴(地名)と狸(動物)をかけた絶妙な地口オチです。狸が化けているときに正体がバレることを「尻尾を出す」と表現するのは、狸が完全に人間に化けきれずに尻尾だけ残ってしまうという俗信に基づいています。詐欺師の正体が露見したことを、狸の化けの皮が剥がれたことに重ね合わせた見事な言葉遊びとなっています。
また、男性二人が女性が去った後も料理を食べ続ける描写は、騙されやすい人間の浅ましさや愚かさを表現しており、単なる詐欺の話を超えて人間観察の要素も含んだ作品となっています。
あらすじ
猿若町の芝居小屋で枡席を借り切って、男二人で芝居を楽しんでいる。
そこへ若い衆が、「ご婦人のお二人連れですが、ちょいと相席を願えませんでしょうか」
女二人なら異存はない、連れておいでというと、入って来たのが二十一、二の極上なお嬢さんと、三十一、二のお付きの女中。
男のほうはしめしめと鼻の下を伸ばして、芝居なんぞはそっちのけで、菓子や弁当を勧めたりの大忙し。
芝居が終わると、
女中 「今日はまことにありがとうございました。
実はお名前は申し上げられませんが、狸穴(まみあな)のしかるべきお屋敷のお嬢様です。よろしければお礼にどこかでご飯でもご一緒に・・・」
男二人は願ったり叶ったりで花屋敷の常盤屋へ。
酒も入って打ち解けてきた頃、
女中 「今日はだいぶ遅くなってしまい、お嬢様も少し酔ってしまわれたご様子なので、わたしたちは亀沢町のお屋敷の寮に泊まります。どうかお二人もご一緒にいらっしゃいませ」
女二人は身づくろいのため部屋から出て行った。
男どもは残っている酒と料理をもったいないとがっついて食っている。
なかなか女たちが戻ってこないので帳場へ下りて見る。
女たちはどうしたのか聞くと、
帳場 「さきほど車を呼んでお帰りになりました」
男 「勘定は払って行ったんだろうな」
帳場 「いいえ、まだでございます。二階の連れのお方からいただくようにと・・・」、さては食い逃げされたかと仕方なく勘定を払おうとしたが、財布もなくなっている。
してやられたかと地団太踏んで悔しがっていると、手が回って女たちは捕まったという。
帳場 「なんでも、さっきの女は大変なワルで、狸穴の狸娘のおきんというお尋ね者だそうで・・・」
男 「狸娘か、道理で尻尾を出しやがった」
落語用語解説
- 狸穴(まみあな) – 現在の東京都港区麻布台付近の地名。江戸時代には武家屋敷が多く立ち並ぶ高級住宅地だった。
- 美人局(つつもたせ) – 女性を使って男性を騙す詐欺の手口。江戸時代から存在した犯罪。
- 猿若町 – 現在の台東区浅草にあった芝居町。中村座、市村座、森田座の三座が集まっていた。
- 枡席(ますせき) – 芝居小屋の区切られた座席。複数人で借り切って観劇した。
- 尻尾を出す – 隠していた正体がバレること。狸が化けても尻尾は消せないという俗信から。
- お尋ね者 – 指名手配犯。江戸時代にも犯罪者の情報が回っていた。
よくある質問(FAQ)
Q: 「狸穴の狸娘」というオチの意味は?
A: 狸穴は実在の地名で、詐欺師が「狸穴のしかるべきお屋敷」と嘘をついていました。その詐欺師のあだ名が「狸娘」だったことで、狸穴(地名)と狸(動物)が掛け言葉になり、「尻尾を出した」という言葉遊びが成立しています。
Q: なぜ男達は騙されたのですか?
A: 美しい女性と高い身分をほのめかす話に心を奪われ、冷静な判断ができなくなったためです。江戸時代から現代まで変わらない人間の弱点を突いた詐欺の手口です。
Q: 江戸時代の美人局は本当に横行していたのですか?
A: はい。江戸時代には芝居小屋や茶屋を舞台にした詐欺が多発しており、この噺もそうした当時の社会問題を反映した作品です。
名演者による口演
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。詐欺師の巧みな話術と騙される男の愚かさを見事に演じ分けました。
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人。男二人の浮ついた様子と最後の落胆の対比が絶妙でした。
- 桂文楽(八代目) – 昭和の名人。江戸の芝居町の雰囲気を巧みに描写しました。
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芝居・芝居小屋がテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「狸娘」は、江戸時代の美人局詐欺を題材にした古典落語で、現代でも通じる人間の弱点を鋭く描いた作品です。美しい女性と高い身分という二つの要素に心を奪われた男達が、冷静な判断を失って騙されるという構図は、恋愛詐欺やロマンス詐欺が横行する現代社会にも通じます。
狸穴(地名)と狸(動物)をかけた「尻尾を出しやがった」というオチは、落語の地口オチの秀作で、詐欺師の正体暴露と狸の化けの皮が剥がれることを巧みに重ね合わせています。


