探偵うどん
3行でわかるあらすじ
日本橋の袋物屋の手代が集金した財布をスリに盗まれ、交番に届け出て非常線が張られる。
犯人はなべやきうどん屋に服を交換して変装し、安全な場所まで運んでもらって逃亡を図る。
しかしそのうどん屋が実は刑事で、「一杯食わせやがった」の地口オチで逮捕される。
10行でわかるあらすじとオチ
日本橋横山町の袋物屋・近源の手代が洲崎の集金で得た300円入りの財布をスリに盗まれる。
被害者がすぐに交番に駆け込み、巡査が本署に電信連絡して非常線が張られる。
犯人は高橋脇で商売しているなべやきうどん屋に逃げ込み、喧嘩の加勢から逃げたと嘘をつく。
犯人はうどん屋に着物と荷を交換してもらい、変装して非常線突破を図る。
うどん屋に化けた犯人は弥勒寺橋、二之橋、吾妻橋を渡って花川戸から弁天山まで逃亡。
安全な場所で犯人が実情を白状し、着物と荷を返して礼金5円を差し出す。
しかしうどん屋は金を受け取らず、代わりにうどんを一杯食べろと強要する。
犯人は「うどんは嫌だ、そんなメメズみたいなもん食えるか」と拒否するが押し問答が続く。
うどん屋が犯人の胸倉をつかんで「おれは刑事だ」と正体を明かす。
犯人が「とうとう一杯食わせやがった」と言って、「ひっかかった=うどんを食わされた」の地口オチで幕となる。
解説
「探偵うどん」は明治時代の文明開化を背景にした古典落語で、近代的な警察制度(交番、電信、非常線)が登場する珍しい演目です。この作品の最大の魅力は「刑事にひっかかった」と「うどんを一杯食わされた」をかけた秀逸な地口オチにあります。
物語の構成も巧妙で、まずスリ事件と警察の対応、次に犯人の逃亡計画と実行、最後に正体の暴露という三段構成になっています。特に犯人がうどん屋に変装して逃げるという発想と、そのうどん屋が実は刑事だったという二重の騙し合いが見どころです。
この演目は明治時代の東京の地理(日本橋、洲崎、高橋、各橋梁名)や当時の商売(袋物屋、なべやきうどん屋)、新しい警察制度など、時代背景を色濃く反映した作品として、古典落語の中でも特に時代性の強い貴重な演目として現代でも親しまれています。
あらすじ
日本橋横山町の袋物屋、近源の手代が洲崎の得意先から集金した三百円入りの財布を持って帰る途中、前から来た男がすれ違いざまにぶつかって来て、懐(ふところ)の財布を盗まれてしまった。
すぐに閻魔堂近くの交番に駆け込むと、巡査は本署へ電信で連絡し非常線が張られた。
ちょうどその頃、高橋(たかばし)脇で荷をおろして商売をしているなべやきうどん屋に男が入って来る。
男は、「近くで喧嘩をしたら七、八人の加勢が現れたのでここまで逃げて来た。礼はずむから着ているものをそっくり交換して、荷をかつがせて安全なところまで行かせてくれ」と言う。
男はうどん屋をつれて弥勒寺橋、二之橋と渡り、どんどん北へ進み、吾妻橋を渡って花川戸から弁天山まで行ってしまった。
やっと寂しげな所で荷を置いた男は、喧嘩は嘘でさっき通り掛かりの男から財布を盗んだが、すぐに交番へ駆け込まれて手配され、あたり一帯に非常線が張られるだろうから、うどん屋に化けて非常線を突破したのだと白状する。
隅田川を渡ってここまで来ればもう大丈夫だろうからと、着物と荷を返し礼に五円を差し出す。
うどん屋 「そんな金なんぞはもらうわけには行きませんや。その代わりにうどんを一杯食ってくださいな」
泥棒 「おれはうどんは嫌えだ。そんなメメズみたいなもん食えるか」
うどん屋 「そんなこと言わないで、一杯食ってくださいよ」
泥棒 「そんなもん食えるか」、「一杯食って」、「嫌だ」の押し問答を繰り返していたが、うどん屋はどうしても食わせると、男の胸倉をつかんだ。
泥棒 「なにをしやがる!」
うどん屋 「おれは刑事だ」
泥棒 「ああ、とうとう一杯食わせやがった」
落語用語解説
- 交番 – 明治時代に設置された警察の派出所。文明開化の象徴的な施設。
- 電信 – 電気を使った通信手段。明治時代に導入され、警察の連絡網に活用された。
- 非常線 – 犯人の逃走を防ぐために警察が周囲を封鎖すること。
- 袋物屋 – 財布や巾着など布製の袋物を扱う商店。
- なべやきうどん – 鍋で煮込んだ熱々のうどん。屋台や路上で売られた。
- スリ – 人の懐や鞄から財布などを盗む窃盗犯。江戸から明治にかけて都市部で多発した。
よくある質問(FAQ)
Q: 「一杯食わせやがった」というオチの意味は?
A: 「一杯食わされる」は「騙される」「ひっかかる」という意味で、うどん屋が「うどんを一杯食え」と言ったことと、刑事に騙されて逮捕されたことの二重の意味がかかった地口オチです。
Q: なぜ犯人はうどん屋に変装したのですか?
A: 当時の非常線は人相や服装で怪しい者を見分けていたため、商売人に変装すれば怪しまれずに通過できると考えたためです。しかし、そのうどん屋こそが刑事だったという皮肉な展開になっています。
Q: この噺は実話に基づいていますか?
A: 実話かどうかは不明ですが、明治時代の警察が犯罪者を捕まえるために変装捜査を行っていたのは事実です。この噺は当時の新しい警察制度を題材にした時事的な落語として作られました。
名演者による口演
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。明治の風俗を生き生きと描写し、オチへの伏線を巧みに張りました。
- 古今亭志ん生(五代目) – 昭和の名人。泥棒と刑事のやり取りにスリリングな緊張感を持たせました。
- 桂文楽(八代目) – 昭和の名人。地口オチの間合いが絶妙で、「一杯食わせやがった」の余韻が見事でした。
関連する落語演目
同じく「泥棒・盗人」がテーマの古典落語


同じく「地口オチ」の古典落語


食べ物が絡む古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「探偵うどん」は、明治時代の文明開化を背景にした貴重な古典落語です。交番、電信、非常線といった近代的な警察制度と、伝統的なスリや変装といった要素が融合した時代性豊かな作品です。
「一杯食わせやがった」という地口オチは、うどんを食わせるという物理的な意味と、騙されて逮捕されたという比喩的な意味の二重性が見事に効いています。知恵比べの末に犯人が捕まるという勧善懲悪の展開も、聞き手に爽快感を与える名作です。


