蛸坊主
3行でわかるあらすじ
生玉さんの門前で4人の偽坊主が精進料理の鰹節ダシを理由に店を強請ろうとする。
高野山勧学院の名僧が現れて偽坊主たちの正体を見破り、「タコ坊主」と罵倒する。
偽坊主たちが襲いかかるが池に投げ込まれ、逆さに突き立った4人の足を「蛸坊主」と呼ぶオチで幕となる。
10行でわかるあらすじとオチ
生玉さんの門前の小料理屋に人相の悪い4人の旅の僧が入り、高野山の僧と名乗って精進料理を注文。
料理を食べた後で鰹節のダシを使っていることを理由に、修行が無に帰したと店を強請り始める。
店主が困っていると、粗末な身なりの老僧が現れて仲裁に入ろうとするが、偽坊主たちは聞く耳を持たない。
老僧が高野山の何院何坊かと問うと、偽坊主たちは慌てて適当に答える。
老僧が「愚僧の顔に見覚えはないか」と問うと、偽坊主たちは「知らん」と答える。
老僧が高野山勧学院の僧であることを明かし、偽坊主たちを「大がたりのにせ坊主」と見破る。
老僧は偽坊主たちを「売僧坊主、えせ坊主、生臭坊主」などと罵倒し、最後に「タコ坊主」と呼ぶ。
偽坊主たちが「タコ坊主とは何だ」と怒って老僧に掴みかかる。
老僧は慌てず4人を次々と前の池へ投げ込み、4人は逆さまに池の中に突き立つ。
4人の足が8本並んだ様子を見て老僧が「それ、蛸坊主じゃ」と言ってオチとなる。
解説
「蛸坊主」は江戸時代から親しまれている古典落語の傑作で、偽坊主の悪行と高僧の機転を描いた勧善懲悪の物語です。この演目の最大の見どころは最後の「蛸坊主」という言葉遊びのオチで、逆さに池に突き立った4人の坊主の足が8本並んだ様子を蛸に例えた絶妙な表現となっています。
ストーリー展開も巧妙で、まず偽坊主たちの強請りの手口、次に老僧の登場と正体の暴露、最後の制裁という三段構成になっています。特に老僧が様々な坊主の悪口を並び立てる場面は落語ならではの言葉の面白さを楽しめ、「蛸坊主」という造語に繋げる構成が見事です。
この演目は仏教や寺院の知識も織り込まれており、高野山や勧学院といった実在の寺院を背景にしているため、江戸時代の人々の宗教観や社会情勢も垣間見える古典落語の名作として現代でも多くの落語家によって演じられています。
あらすじ
"生玉さん"の門前の小料理屋に入った、人相の悪い四人の旅の僧。
高野山の僧と名乗り、精進料理を注文する。
がつがつと料理をたいらげた旅僧、「実に美味い料理じゃった。ところでお椀の汁のダシは何から取った」、
主人 「当店では土佐の鰹節を・・・」と、気づいた時はもう遅く、旅僧は待ち構えていたように、
旅僧 「なに!精進修行中の身である我々に鰹節のダシとはけしからん。・・・十三年の修行が一瞬のうちに無に帰した。
もはや高野山へは帰られん。一同、この店で養うてもらうぞ」と、無理難題、強請(ゆす)り始めた。
店主も困って金を握らせて追っ払うしかないと思い始めた頃、ちょっと離れた所で食事をしていた粗末な身なりの老僧が近づいて来て、「許しておやりなされ。
悪意があってのことではなかろう。・・・口にもろもろの不浄を食べて、心にもろもろの不浄を食わずという。うっかり食わされた鰹節のダシに、目くじらを立てるということこそ、僧侶の道ではなかろう」。
そんな話をはなから聞く耳なぞ持っていない旅僧たちは、「もう、高野の山へは帰られん」の一点張り。
老僧 「先ほどから高野の山、高野の山と言っておるが、高野山の何院、何坊のお方たちじゃ」、四人は顔を見合わせて、「え、どない言おう」、「どこでもええがな、そんなもん」、「とにかく、高野の僧なのじゃ」と、あたふた。
老僧 「ならば、愚僧の顔に見覚えはないか?」
旅僧 「知らんな」、「知らん、知らん、どこの馬の骨か、そんなもん知らんわい!」
老僧 「この大がたりのにせ坊主どもめ!高野山学僧の束ねをなす、この勧学院の愚僧の面を知らぬはずかなかろう。
人の小さな過ちにつけ込んで、強請り、たかりを働く、人の風上にも置けぬ輩ども。
この売僧坊主。
えせ坊主、堕落坊主。
クソ坊主。生臭坊主、我利我利坊主、破戒坊主、インチキ坊主、かたり坊主、このタコ坊主めらが!」
旅僧 「けしからん、坊主、坊主を並べ立てて。・・・一番終いのタコ坊主とは一体何じゃ」、四人は目くばせすると一斉に老僧に掴みかかる。
老僧は少しも慌てず、四人を次々に前の池へ投げ込んだ。
四人の坊主は、逆さまに池の中に突き立ったようになって、ずらりと足が八本並んだ。
老僧 「それ、蛸坊主じゃ」
落語用語解説
- 生玉さん – 大阪の生國魂神社のこと。門前には飲食店や商店が並んでいた。
- 高野山 – 和歌山県にある真言宗の総本山。多くの僧侶が修行する聖地。
- 勧学院(かんがくいん) – 高野山にある学問僧の養成機関。学僧を束ねる重要な役職。
- 精進料理 – 肉や魚を使わない仏教の料理。鰹節のダシも本来は禁止。
- 売僧(まいす)坊主 – 金儲けのために堕落した僧侶を罵る言葉。
- 強請り(ゆすり) – 相手の弱みにつけ込んで金品を要求すること。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ鰹節のダシが問題になるのですか?
A: 仏教の精進料理では動物性の食材は禁止されています。鰹節は魚から作られるため、知らずに食べさせられたことを口実に強請りを働いたのです。
Q: 「蛸坊主」というオチの意味は?
A: 4人の偽坊主が逆さに池に突き立ち、足が8本並んだ様子が蛸の足に見えることから「蛸坊主」と呼んでいます。坊主の悪口を並べ立てた最後の「タコ坊主」が伏線になっています。
Q: 老僧が偽坊主を見破れた理由は?
A: 高野山の何院何坊か答えられなかったこと、勧学院という重要な役職を知らなかったことから、本物の高野山の僧ではないと見抜きました。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 上方落語の重鎮。偽坊主と老僧の対決を緊迫感たっぷりに演じました。
- 笑福亭松鶴(六代目) – 上方落語の大御所。坊主の悪口を並べ立てる場面が圧巻でした。
- 桂春団治(三代目) – 上方落語の名手。最後の「蛸坊主」の間合いが絶妙でした。
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この噺の魅力と現代への示唆
「蛸坊主」は、偽坊主の悪行と高僧の機転を描いた勧善懲悪の古典落語です。相手の弱みにつけ込んで強請る偽坊主と、正義を貫く老僧の対決は痛快な展開で、江戸時代の人々の宗教観も垣間見えます。
様々な「坊主」の悪口を並べ立てた末の「蛸坊主」というオチは、言葉遊びと視覚的なイメージが融合した見事な構成です。悪事は必ず罰せられるという教訓を、笑いとともに伝える名作です。


