高尾
3行でわかるあらすじ
仙台公が吉原の高名な花魁高尾太夫を大金で身請けするが、高尾は島田重三郎との約束を理由に拒絶。
屋形船での舟遊び中に仙台公が刀を抜いて迫るが、能楽の鼓の音が流れてきて謡曲風のやり取りが始まる。
高尾の「いやぁ~」を仙台公が鼓の掛け声と聞き間違えて「ぽんぽん」と斬殺してしまう。
10行でわかるあらすじとオチ
吉原の高尾太夫の中でも特に有名な二代目仙台高尾は、美貌・教養、芸事に長けた名花。
仙台公(伊達藩主)が高尾に惚れ込み、文のやり取りから始まってすっかりのぼせ上がる。
仙台公は大金を払って高尾を身請けし、屋敷に連れてくるが、高尾は意のままにならない。
芝汐留の上屋敷から屋形船で舟遊びに出た際、仙台公が酒を勧めても高尾は拒絶する。
大川の三つ又あたりで、高尾が因州鳥取の浪人島田重三郎との約束を明かして仙台公を冷たく断る。
激怒した仙台公は刀を抜いて高尾に近づくが、死を覚悟した高尾の美しさに刀を振り下ろせない。
そこへ船上から能楽の鼓の音が流れてきて、謡曲風のやり取りが始まる。
仙台公が「これ高尾、なぜその方なびかぬぞぉ~」と詰め寄ると、高尾は「いやぁ~」と答える。
仙台公は高尾の「いやぁ」を鼓の掛け声「ヤア」と聞き間違えて、「ぽんぽん」と鼓を叩くように刀で斬ってしまう。
解説
「高尾」は、江戸時代の吉原遊郭に実在した高名な花魁高尾太夫を題材にした悲劇的な古典落語です。二代目高尾は「仙台高尾」や「万治高尾」とも呼ばれ、美貌と教養を兼ね備えた名花として多くの逸話が伝わっています。
この落語の特徴は、単なる恋愛譚ではなく、武士の面子と遊女の意地の衝突を描いた重厚な人情噺であることです。高尾の忠義と仙台公の執拗な情愛が対立し、最終的に悲劇を迎える構成になっています。
最後のオチは、能楽の鼓の掛け声を使った精巧な言葉遊びです。高尾の拒絶の「いやぁ~」を、仙台公が鼓の掛け声「ヤア」と聞き間違えて、「ぽんぽん」と鼓を叩くように刀で斬ってしまうという、能楽の素養が必要な高度な落し方です。このオチは、武士の教養である能楽と、遊郭の情緒という二つの世界を結び付ける精巧な仕掛けであり、古典落語の深みを示しています。
あらすじ
後世に名を残した者は数多あれど、士では曽我兄弟・赤穂浪士・伊賀上野鍵屋の辻の三大仇討、農では義民佐倉惣五郎、工では左甚五郎、商は紀伊国屋文左衛門が名高い。
遊女、花魁では落語『幾代餅』であなじみの幾代、もとは丹前風呂の湯女であった勝山、お金を知らず廊下に落ちていた穴あき銭を虫と言ったという薄雲など百花繚乱だが、なんと言っても有名なのは三浦屋の高尾で11代まで続いたという。
落語『紺屋高尾』は五代目で、高尾太夫の中でも多くの逸話を残すのが仙台(伊達)高尾・万治高尾ともいう二代目の高尾で、美貌はもちろん、教養も身につけ、和歌・俳諧から囲碁、将棋、さらには花札、丁半のサイコロまでお手の物だったとか。
文章も達者で、伊達の殿さまに、「夕日も波の上の御通わせ、御館(おやかた)の首尾いかがおわしますやと御見ののち、忘れぬばこそ思いいださず候かしく」と書いて、「君は今駒形あたりほととぎす」の句を添えて贈ったものだから、仙台公はすっかり高尾に惚れられているものとのぼせ上り、足しげく吉原通いとなった。
すっかり高尾の虜(とりこ)になった仙台公は大金を払って高尾を身請けし、屋敷に連れて来たが、高尾は意のままにならない。
ある日、芝汐留の上屋敷から屋形船で舟遊びに出た。
殿様は呑んだ大盃で酒を勧めるが、高尾は首を振って受けようとはしない。
舟は大川の三つ又あたりにさしかかった。
仙台公 「なぜ余の盃を受けぬ」
高尾 「わが身、廓(くるわ)にありし時に因州鳥取の浪人島田重三郎という二世と交わした夫の身・・・」と、冷たく断ってきた。
殿さまの心中はさしずめ「今さら何を言っていやがる、大金を払わせやがて、ふざけるな」で、往復ビンタで張っ倒したいところだろう。
そこは武士のはしくれ、黙って刀を抜き高尾に近づく。
高尾はじりじりと船べりににじり寄り入水の覚悟だ。
殿様は刀を大上段に振りかぶるが、死を覚悟した高尾の美しさに刀を振り下ろせない。
そこへ船上の能楽の連中の鼓の音が流れて来た。
(謡曲風に)殿さま「これ高尾、なぜその方なびかぬぞぉ~」
高尾 「いやぁ~」、殿さまは鼓の掛け声と聞いて、「ぽんぽん」と斬ってしまった。
落語用語解説
- 高尾太夫(たかおだゆう) – 吉原三浦屋の看板花魁の名跡。11代まで続き、特に二代目は「仙台高尾」として名高い。
- 仙台公 – 仙台藩主伊達家の当主。この噺では二代目藩主伊達忠宗とされる。
- 身請け(みうけ) – 遊女を大金を払って遊郭から引き取ること。
- 屋形船(やかたぶね) – 屋根と座敷のある遊覧船。大名の舟遊びに使われた。
- 鼓(つづみ) – 能楽で使われる打楽器。「ヤア」「ポン」などの掛け声をかけながら打つ。
- 謡曲(ようきょく) – 能の台詞や歌のこと。武士の教養として嗜まれた。
よくある質問(FAQ)
Q: 高尾太夫は実在の人物ですか?
A: はい、吉原の三浦屋で高尾の名は11代まで受け継がれました。特に二代目「仙台高尾」は、仙台藩主との悲劇的な逸話で知られ、多くの文芸作品に描かれています。
Q: 「いやぁ~」を「ヤア」と聞き間違えるオチの意味は?
A: 能楽では鼓を打つ際に「ヤア」と掛け声をかけ、「ポン」と打ちます。高尾の拒絶の「いやぁ」を鼓の掛け声と聞いた仙台公が、「ぽんぽん」と斬ってしまうという言葉遊びです。
Q: 島田重三郎とは誰ですか?
A: 高尾が廓にいた頃に二世を契った因州鳥取の浪人です。高尾は仙台公に身請けされても、この約束を守り続けたとされています。
名演者による口演
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。悲劇的な場面を情感豊かに演じました。
- 古今亭志ん朝 – 圓生門下の名手。謡曲風の台詞回しが見事でした。
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。高尾の気品を格調高く表現しました。
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この噺の魅力と現代への示唆
「高尾」は、実在した吉原の名花高尾太夫と仙台藩主の悲劇を描いた重厚な人情噺です。大金で身請けされても意地を通す高尾の気概と、面子を傷つけられた仙台公の激情が交錯する物語は、武士と遊女という異なる世界の価値観の衝突を描いています。
能楽の鼓の掛け声を使ったオチは、当時の武士の教養を前提とした高度な言葉遊びであり、古典落語の知的な深みを味わえる名作です。


