須磨の浦風
3行でわかるあらすじ
鴻池家に紀州公がお忍びで来る際、番頭が須磨の浦風を長持ちに詰めて運ぶ奇抜な趣向を提案。
人足たちが途中で暑くなり涼風を使い果たし、代わりに屁を詰めて鴻池家に運び込む。
紀州公の前で長持ちを開けると臭い匂いがして、殿様が「須磨の浦風が腐ったのであろう」と機転を利かせる。
10行でわかるあらすじとオチ
鴻池家に紀州公がお忍びで来ることになり、主人が店の者とおもてなしを相談する。
番頭が夏の暑い時期に冬仕立ての趣向として、須磨の浦風を長持ちに詰めて運ぶ案を提案。
百棹の長持ちを人足五百人でかついで須磨の浦へ行き、朝の涼しい風を詰めて帰路につく。
湊川の土手で休んだ人足たちが疲れて寝てしまい、太陽が真上に来る頃に起き出す。
暑さに我慢できなくなった人足たちが長持ちを開けて涼み、すべての須磨の浦風を使い果たしてしまう。
困った人足たちが代わりに屁を詰めて長持ちを満たし、何食わぬ顔で鴻池家に運び込む。
紀州公の御成となり、冷たい炬燵や雪景色のもてなしに殿様は大満足する。
主人が須磨の浦風の長持ちを開けさせると、何とも言えない臭い匂いが立ちこめる。
主人が誰がこんな風を持ってきたのかと叱ると、紀州公が「善右衛門、そう叱るでない」と制する。
最後に紀州公が「きっとこの暑さで須磨の浦風が腐ったのであろう」と機転を利かせてオチとなる。
解説
「須磨の浦風」は上方落語の傑作で、大坂の豪商・鴻池家と紀州藩主を描いた商家噺の名作です。この演目の魅力は、荒唐無稽な趣向設定と、最後の紀州公の機転ある対応にあります。風を長持ちに詰めて運ぶという突拍子もない発想から始まり、人足たちの人間味あふれる失敗、そして殿様の品格ある機知で締めくくられる構成が絶妙です。
特に注目すべきは紀州公のキャラクター設定で、臭い匂いに対して怒らず、むしろ「須磨の浦風が腐った」という洒脱な解釈で場を収める人格の高さが描かれています。これは江戸時代の理想的な武家像を表現したものでもあり、単なる笑い話以上の深みを持った作品となっています。
この噺は関西の地名や商家の風習が多く登場する典型的な上方落語で、関西弁の味わいと商人気質、そして武家の品格を対比させた文化的背景も楽しめる古典落語の代表作の一つです。
あらすじ
鴻池家に紀州公がお忍びで来ることになった。
主人(善右衛門)が店の者を集めどんなもてなし方がようかろうと相談する。
番頭 「この暑い盛りに冬仕立ての趣向はどうでっしゃろ。
薩摩上布の布団で炬燵(こたつ)を作ります。
足がさわっただけでチリチリとして汗が引こうというもの。
その下に水盤を置き、冷たい水を張って、火の代わりに金魚か小さな緋鯉を泳がしときます。
涼しい冷たい炬燵で、庭は雪景色にしまひょ。綿と木綿で芝居の舞台のように作って涼しい風を送ります」
主人 「今時、涼しい風?どないすんねん」
番頭 「須磨の浦風を取り寄せたらええかと。
長持ちの中に須磨の浦風を納めて、漏れんように目張りをして持ち帰ります。紀州公の御前で封じを切れば涼しい浦風が流れ出るという趣向はいかかで」
主人 「なるほど、そりゃ結構だ」、早速百棹もの長持ちを人足五百人ほどがかついで須磨の浦へ。
海岸で夜明けを待って、朝の涼しい風を長持ちに一ぱい納めて紙で目張りをして東へ向かった。
だんだんと暑くはなるし、夜通し走っているのでさすがの人足連中もフラフラになって、湊川の土手まで来るとみな一休みのつもりが寝てしまった。
太陽が真上にぎらぎら照る頃に起き出してきて、「暑くてかなわんがな。ここに入っちょる須磨の浦風、これ開けたらどなんやろ」、みんな一応は止めるが、「百もあるんや。一つぐらい開けたかてわからへんがな」で、目張りをはずすと、涼しい風がすーっと。
その気持ちいいこと。
こうなればこう止まらない。
我も我もと人足たちは長持ちを開けて涼みだした。
すぐに長持ち全部が開けられてしまって須磨の浦風は煙と消えてしまった。
さあ、大変、今から須磨へ行って風を取ることもできない。
人足1 「何ぞ、代わりの風詰めたらよいがな」
人足2 「風なんかそよとも吹いておらんがな」
人足3 「どや、屁でも仕込んどいたろか」、おもろいおもろいと、人足どもは長持ちの中にブゥーブゥーブゥー。
長持ちを毒ガスで満タンにして出発、無事、鴻池家に運び込んだ。
さあ、紀州公の御成となって、冷たい炬燵に雪景色に、「余のためにしつらえてくれたる馳走、礼を言うぞ」と大満足。
主人 「今一つ、涼しい須磨の浦風を・・・」、店の者が次々に長持ちの封じ目を切ると、何とも言えぬ匂いがフワーッと、
主人 「こりゃ何じゃ、誰じゃこんな風を持って来よたんは!」
紀州公 「善右衛門、そう叱るでない。きっとこの暑さで須磨の浦風が腐ったのであろう」
落語用語解説
- 鴻池家 – 大坂の豪商。江戸時代最大の商家の一つで、両替商や酒造業で財を成した。
- 紀州公 – 紀州藩(現在の和歌山県)の藩主。徳川御三家の一つで、八代将軍吉宗を輩出した名門。
- 須磨の浦 – 現在の神戸市須磨区の海岸。平家物語の舞台としても知られる景勝地。
- 長持ち(ながもち) – 衣類や布団を入れる長方形の大きな箱。棹を通して担いで運んだ。
- 三度飛脚 – 毎月三度大坂と江戸を往復する飛脚。この噺では人足として登場。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ須磨の浦風を長持ちに詰めようとしたのですか?
A: 夏の暑い時期に紀州公をもてなすため、涼しい須磨の浦風を運んで冬のような涼しさを演出するという奇抜な趣向でした。
Q: 「須磨の浦風が腐った」というオチの意味は?
A: 実際には人足たちが屁を詰めた臭い匂いでしたが、紀州公は風が暑さで腐ったのだと解釈し、誰も叱らずに場を収めました。殿様の機転と人格の高さを表現しています。
Q: この噺は実話ですか?
A: 実話ではありませんが、鴻池家と紀州藩は実際に深い関係がありました。大坂の豪商と武家の交流を描いた商家噺の一種です。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 上方落語の重鎮。商家の風格と紀州公の品格を見事に演じ分けました。
- 笑福亭松鶴(六代目) – 上方落語の大御所。人足たちのドタバタを豪快に演じました。
- 桂文枝(五代目) – 昭和の名人。長持ちを運ぶ場面を臨場感たっぷりに描きました。
関連する落語演目
同じく「商家・豪商」がテーマの古典落語


殿様・武家がテーマの古典落語


上方落語の名作


この噺の魅力と現代への示唆
「須磨の浦風」は、荒唐無稽な趣向設定と、紀州公の機転ある対応が見どころの上方落語の傑作です。風を長持ちに詰めて運ぶという発想から、人足たちが屁を詰めるという展開、そして殿様が「須磨の浦風が腐った」と場を収める結末まで、見事な構成です。
特に紀州公のキャラクターは、臭い匂いに怒らず洒脱な解釈で場を収める人格の高さが描かれており、理想的な上司像としても読み取れます。


