水道のゴム屋
3行でわかるあらすじ
戦前の13歳の小僧が水道のゴム管を売り歩くが、どこに行っても断られ続ける。
水道のない家の男に怒られ、耳の悪い婆さんに炭屋と間違えられ、感心だと言いながら同じ質問を3回繰り返す男もいる。
最後は計算問題を出して計算機を売りつけようとする詐欺師が現れ「冗談じゃない」で終わる。
10行でわかるあらすじとオチ
戦前、12、13歳の小僧が水道のゴム管を売り歩いているが「あっさりと断られ」なかなか売れない。
最初の男は水道がないと怒り「俺に恥を掻かせるつもりだな」と追い返される。
耳の悪い婆さんは何度説明しても「炭屋の小僧」「酔狂な米屋」と間違える。
次の男は「感心な小僧だ」と言いながら年齢や出身を聞き、同じ質問を3回繰り返して結局「いらない」。
奥さんは夫への怒りから「精神的な復讐」としてガスのゴムを求め、小僧は「ガス殺人の手伝い」と逃げる。
最後の男は水道ゴムの長さを細かく計算させ、「百七十六尺三寸六寸でいくら」と複雑な問題を出す。
小僧が困っていると「九十九野八十一先生考案の完全無欠の計算機」を取り出す。
「これさえあれば高等数学まで一発」「デパートで5円が宣伝期間で3円、特別に1円50銭」と売りつけようとする。
小僧が「冗談じゃない」と断って終わる。
結局水道ゴムを売りに来た小僧が、逆に計算機を売りつけられそうになるという皮肉なオチ。
解説
「水道のゴム屋」は、戦前の庶民の生活を背景にした古典落語の滑稽噺です。水道設備が普及し始めた時代に、水道のゴム管を売り歩く小僧の苦労を通じて、当時の世相と人々の個性を描いた作品です。
この噺の面白さは、小僧が出会う様々な人物の個性豊かな反応にあります。水道のない家の男の怒り、耳の悪い婆さんの聞き間違い、親切そうで実は時間泥棒の男、夫への復讐を企む奥さん、そして最後の計算機詐欺師まで、それぞれが当時の社会の一面を表現しています。
特に興味深いのは、時代背景の描写です。小僧が「東京なんです」「江戸っ子じゃねえか」というやり取りや、水道設備の普及状況、計算機という新しい道具への関心など、戦前の日本社会の変化を垣間見ることができます。
最後のオチは「転倒オチ」の一種で、水道ゴムを売ろうとした小僧が、逆に計算機を売りつけられそうになるという皮肉な展開です。「九十九野八十一先生」という架空の発明家名や、「完全無欠の計算機」という誇大広告も、当時の商売人の手口をユーモラスに表現しています。
この作品は、営業の苦労という普遍的なテーマを扱いながら、戦前の社会情勢や人々の暮らしぶりを生き生きと描写した、時代性と普遍性を兼ね備えた秀作です。
あらすじ
戦前までは十二、三才の小僧さんが水道のゴム管を売りに歩いていた。
だが、「水道のゴム屋あっさりと断られ」で、なかなか売れない。
小僧(ゴム屋) 「うんちわ~、水道のゴムはいかが」
男1 「何お~!」、「あの、水道のゴムはいりませんか」
男1 「誰が、水道のゴム買うと言った!」、「いらないんですか?」
男1 「てめえ、俺に恥を掻かせるつもりだな。俺んとこには水道はねえんだ」、「さいならぁ~」
小僧 「うんちわ~、水道のゴムはいかが、お婆さぁ~ん」
婆さん 「どなたなじゃ。・・・ほおぉ、炭屋の小僧・・・」、「水道のゴム屋ですよ」
婆さん 「あぁ、酔狂な米屋・・・」、何度繰り返しても埒があかない。
小僧 「うんちわ~、水道のゴムはいかが」
男2 「おぉ、感心な小僧だ。おめえ年はいくつだ」、「へえ、十三で・・・」
男2 「そうか、がらが大きいから十五、六に見えた。学校へ行ったか?」、
小僧 「五年まで行ったんですが、お父っつぁんが病気して、それで奉公に出ちゃったんです」
男2 「惜しい事したな。
もう少しだっていうのに。
でも親のためなら仕方ねえや。
親大事にしてやれよ。どこだ国は?」
小僧 「へい、東京なんです」
男2 「そうか江戸っ子じゃねえか。
その心持を忘れんなよ。
今におめえが大きくなったら水道のゴムの会社化何か建てて、そこの社長になんなきゃいけねえなあ、そのつもりでしっかりやってくれ。・・・そうか、へへへ、感心な小僧だな。おめえ年はいくつだ」、「えっ、十三、十三」、「そうか、がらが大きいから十五、六に見えた・・・」、これを三度繰り返して、すっかり小僧が覚えてしまった。
あげくのはてに、
男2 「俺んとこじゃいらねえから脇へ持っててくれ」と、時間の無駄だった。
小僧 「うんちわ~、水道のゴムはいかが。・・・奥さん~」
奥さん 「うるさい!こん畜生め、うちの人が三日も帰って来ないや。
うちの人は悪魔よ、嘘つきよ、結婚する前に二十万円貯金がある、温室には四季の花が咲いているなんて嘘ばかり並べて、・・・温室があるのはお隣の家よ、・・・あたし決心したのよ。
復讐してやるわ。
精神的な復讐してやるのよ。・・・ねえゴム屋さん、あんた水道のゴムばかりじゃないんでしょ。ガスのゴムも持ってるんでしょ」
小僧 「さいなら! なにが精神的な復讐だい。ガス殺人の手伝いさせられるとこだった」
小僧 「うんちわ~、水道のゴムはいかがですが」
男3 「君は水道のゴム売ってるのか。一尺いくらだ」、
小僧 「へい、十九銭でございます」、男は二尺でいくら、三尺、四尺、五尺でいくらと聞いて来る。
ついには、「百七十六尺三寸六寸でいくらだ?」
小僧 「あなたそりゃあ、・・・ええと、一尺が十九銭で・・・」、小僧さん四苦八苦して計算しているが答えが出ないでいると、
男3 「君、無駄なところに頭を使っちゃいけないよ。
ここに取り出したのは、九十九野八十一先生が考案した完全無欠の計算機だ。
これさえあれば足し算、引き算はもとより、掛け算、割り算、代数分解、因数分解、高等数学に至るまで立ちどころに答えが一発だ。・・・君ィ、今の計算をやって見ようではないか。(計算機を指で動かして)・・・どうだい、厘の位までこのとおりだ。
この計算機があれば君の出世は間違いなしだ。・・・来週になればこの計算機はデパートで五円で売り出される。今は宣伝期間中で三円だが、今回は特別に君に一円五十銭で提供しよう」
小僧 「冗談じゃない」
落語用語解説
- 水道のゴム管 – 水道の蛇口に付けるゴム製のホース。戦前は訪問販売で売られていた。
- 十二、三才の小僧 – 江戸時代から戦前まで、商家に奉公に出る年齢。学校を中退して働く子も多かった。
- 三度飛脚 – 毎月三度大坂と江戸を往復する飛脚。この噺では同じ質問を三回繰り返す男が登場。
- 計算機 – 戦前の手動式計算機。この噺では詐欺師が売りつけようとする道具として登場。
- 九十九野八十一先生 – 架空の発明家名。「99」「81」という数字で計算に関係する人物という設定。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ水道のゴム管が売れなかったのですか?
A: 水道設備がまだ普及途中の時代だったため、水道のない家も多く、また必需品でも急いで買うものではなかったためです。
Q: 「冗談じゃない」というオチの意味は?
A: 水道ゴムを売りに来た小僧が、逆に計算機を売りつけられそうになるという皮肉な展開に対する小僧の怒りです。営業する側がされる側になる転倒オチです。
Q: この噺はいつ頃の時代設定ですか?
A: 戦前(昭和初期)の設定です。水道設備の普及状況や、「東京」「江戸っ子」という会話から、近代化が進む時代の様子が伺えます。
名演者による口演
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。小僧の苦労を愛嬌たっぷりに演じました。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。様々な客のキャラクターを見事に演じ分けました。
- 古今亭志ん朝(三代目) – テンポの良い語り口で小僧と客の掛け合いを楽しく描きました。
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この噺の魅力と現代への示唆
「水道のゴム屋」は、戦前の訪問販売の苦労を描いた滑稽噺です。水道のない家の男、耳の悪い婆さん、同じ質問を繰り返す男、復讐を企む奥さん、そして計算機詐欺師と、個性的な客が次々と登場します。
営業の苦労という普遍的なテーマを扱いながら、戦前の社会情勢や人々の暮らしぶりを生き生きと描写した、時代性と普遍性を兼ね備えた作品です。


