粗忽の使者
3行でわかるあらすじ
粗忽者の地武太治部右衛門が使者として派遣されるが、肝心の口上を忘れてしまう。
尻をつねられると思い出すという癖があるが、尻にタコができていて普通につねっても効果がない。
大工職人が釘抜きで尻をひねって「思い出してござる」と言うが、実は「聞かずに参った」というオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
杉平柾目正の家来・地武太治部右衛門は生来の粗忽者だが殿様に気に入られている。
赤井御門守が面白い家来に会いたいと言うので、使者として派遣されることになる。
道中では馬を豚と言い違えたり、馬に後ろ向きに乗って「この馬には首が無い」と言う始末。
先方の屋敷で家臣の田中三太夫に使者の口上を聞かれるが、どうしても思い出せない。
物忘れした時は尻をつねられると思い出すという癖があり、三太夫に頼むが効果なし。
尻にタコができていて、蚊がとまった程度にしか感じないという。
作事に来ていた大工の留さんが、釘を引き抜く力があると名乗り出る。
留さんは釘抜きを使って治部右衛門の尻を思い切りひねる。
さすがに効いたようで治部右衛門は「思い出してござる」と言う。
三太夫が「して、お使いの御口上は」と聞くと「聞かずに参った」と答える。
解説
「粗忽の使者」は、粗忽者(そこつもの:うっかり者、そそっかしい人)を主人公にした古典落語の滑稽噺です。地武太治部右衛門という長い名前の武士が、その名前に恥じない粗忽ぶりを発揮する姿がユーモラスに描かれています。
この噺の面白さは、主人公の一貫した粗忽ぶりにあります。馬を豚と言い間違え、馬に後ろ向きに乗って「首が無い」と言うなど、出立から既に粗忽者の面目躍如です。そして肝心の使者の口上を忘れるという、使者として最も基本的なことができないという設定が絶妙です。
物忘れの際に「尻をつねられると思い出す」という独特の癖も、落語ならではの設定です。しかも尻にタコができていて効かないという展開は、粗忽者らしい間抜けさを表現しています。
大工職人の留さんが釘抜きを使うという発想も秀逸で、職人の道具を使った現実的な解決方法が提示されます。そして最後のオチ「聞かずに参った」は、尻をつねられて「思い出した」はずなのに、実は最初から口上を聞いていなかったという二段構えの笑いを生んでいます。
これは古典落語でよく使われる「考えオチ」の一種で、観客に「なるほど、そういうことだったのか」と納得させる巧妙な構成になっています。
あらすじ
杉平柾目正という大名の家来の地武太治部右衛門(じぶたじぶえもん)は生来の粗忽者だが、なぜか殿様に気に入られている。
殿様の親類筋の赤井御門守が杉平家には面白い家来がいるというので一度会いたいと言ってくる。
そこで殿様は治部右衛門を赤井屋敷へ使者ということにして行かせることにする。
いざ出立の時、馬を豚と言い違えたり、犬を馬と間違えたり、馬に後ろ向きに乗ってこの馬には首が無い、なんて早くも粗忽者の面目躍如だ。
さて先方の屋敷に着き、家臣の田中三太夫に使者の口上を聞かれたがどうしても思い出せない。
治部右衛門は子供の頃から、物忘れをした時は尻をつねられるとその痛さで思い出すので自分でつねったが全然感ぜず、三太夫に尻つねりを頼む。
三太夫が尻をつねるが、尻中タコができていて、力一杯つねっても全然効き目が無い。
蚊がとまった程にしか感じないという。
治部右衛門は当家の家臣で指先に力のある者を探して尻をつねってくれと頼む。
それでも口上を思い出さない時は、使者としての面目が立たないので、当家で切腹するという立派な?覚悟だ。
これをふすまの陰から覗いて一部始終見ていたのが、作事に来ていた大工職人の留さん。
留さんは三太夫に尻つねりの役を買って出る。
自分は板に打った五寸釘を指先で引き抜いてしまうくらい力があるとふれ込む。
三太夫は留さんを自分の家来の中田留太夫ということにして、紋服、はかまをつけさせ治部右衛門の前へ出る。
治部右衛門はもう三太夫のことを忘れ、指先に力のある家来に尻をつねってもらうことを頼んだこともすっかり忘れている有様だ。
留さんは三太夫を隣の部屋に追いやり絶対にのぞくなと釘をさし、部屋の戸を閉めて治部右衛門に尻を出させ、いざ留さんは商売道具の釘抜きを取り出す。
最初は手加減して釘抜きで尻をひねっていたが、感じないので思い切りひねる。
さすがにこれは効いたようで、
治部右衛門 「思い出してござる」
ふすまを開けて、三太夫 「して、お使いの御口上は・・・」
治部右衛門 「聞かずに参った」
落語用語解説
- 粗忽者(そこつもの) – そそっかしい人、うっかり者のこと。落語では愛すべきキャラクターとして描かれることが多い。
- 使者 – 主君の命を受けて他家に赴き、口上を伝える役目。武家社会では重要な任務だった。
- 口上(こうじょう) – 使者が伝えるべき正式な挨拶や用件のこと。
- 作事(さくじ) – 建築工事のこと。武家屋敷の修繕などを行う。
- 釘抜き – 釘を引き抜くための大工道具。てこの原理で強い力を発揮する。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ治部右衛門は尻をつねられると思い出すのですか?
A: これは落語特有のナンセンスな設定で、痛みによる刺激で記憶が蘇るという滑稽な癖を持たせることで笑いを生んでいます。
Q: 「聞かずに参った」というオチの意味は?
A: 尻をつねられて「思い出した」と言ったものの、実は最初から口上を聞いていなかった(覚えていなかった)という二段構えのオチです。思い出す以前の問題だったという落ちです。
Q: 地武太治部右衛門という名前に意味はありますか?
A: 「じぶたじぶえもん」という響きの面白さと、武士らしい堅苦しい名前でありながら粗忽者であるというギャップを狙った命名です。
名演者による口演
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。粗忽者の愛嬌と武士の威厳の対比を絶妙に演じました。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。武家言葉と職人言葉の使い分けが見事でした。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 治部右衛門の天然ぶりを軽妙に演じました。
関連する落語演目
同じく「粗忽もの」がテーマの古典落語


武士が登場する古典落語


職人が活躍する古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「粗忽の使者」は、粗忽者を主人公にした古典落語の傑作です。地武太治部右衛門という長い名前の武士が、使者という重要な役目を任されながらも、肝心の口上を忘れてしまうという設定が絶妙です。
尻をつねられると思い出すという独特の癖、尻にタコができていて効かないという展開、そして大工の釘抜きで解決しようとする発想など、次々と笑いが展開されます。
最後の「聞かずに参った」というオチは、思い出す以前の問題だったという二段構えの笑いで、古典落語の巧みな構成を堪能できます。


