樟脳玉
3行でわかるあらすじ
愛妻家の捻兵衛を狙った詐欺師二人組が樟脳玉で火の玉を作り、亡妻の幽霊を演出して着物をだまし取る。
金も狙って再び幽霊詐欺を働くが、捻兵衛がお雛様の箱を開けると樟脳玉の匂いがする。
「昨夜の魂の匂いがした」という捻兵衛の言葉で、詐欺師の正体がバレてしまう。
10行でわかるあらすじとオチ
愛妻家の捻兵衛が女房を亡くし、悲しみに暮れて仏壇の前で念仏を唱えている。
捻兵衛が金持ちという噂を聞いた詐欺師の兄弟分二人組が悪巧みを企てる。
二人は樟脳の長太郎玉に火をつけて青白い火の玉を作り、女房の幽霊を演出する。
天井から糸で火の玉を垂らしてゆらゆら振り、捻兵衛を脅して騙すことに成功。
翌朝、八公が女房が着物に気を残していると説明し、高価な着物をごっそりかすめ取る。
欲深い二人は金も狙って再び火の玉幽霊を出現させる。
翌朝、八公が金についても説明するが、捻兵衛は「もう一文もない」と答える。
八公がしつこく尋ねると、捻兵衛はお雛様の箱を持ってきて蓋を開ける。
捻兵衛が「女房はこれに気を残している」と言い、その理由を聞かれると答える。
「今、蓋を開けたら昨夜の魂の匂いがした」という言葉で、樟脳玉の詐欺がバレる。
解説
樟脳玉は、詐欺師の巧妙な手口とその破綻を描いた滑稽噺の傑作です。
樟脳(しょうのう)は防虫剤として使われる白い結晶で、独特の強い匂いがあります。
詐欺師たちは樟脳の「長太郎玉」に火をつけて青白い光を作り、亡妻の幽霊を演出しました。
しかし皮肉にも、お雛様の防虫剤として使われていた樟脳玉の匂いが証拠となって詐欺がバレるという、見事な因果応報の構造になっています。
捻兵衛の「昨夜の魂の匂いがした」という表現は、表面上は霊的な体験を装いながら、実際には詐欺の手口を見抜いていることを暗示する絶妙な表現です。
愛妻家の純朴さと詐欺師の浅知恵の対比、そして物証による真相発覚という展開が、観客に痛快な結末をもたらします。
あらすじ
お人良しで気が弱く、正直者で愛妻家の捻兵衛(ねじべえ)さんが、女房に先立たれ落胆と悲しみのあまり仕事も手に着かない。
家に籠りっきりで、朝から晩まで仏壇の前に座って泣きながら念仏を唱えている。
捻兵衛は金を相当貯め込んでいるという噂で、女房も元はお屋敷奉公していた衣装持ちで、これに目をつけて稼ごうと悪巧みを考えた兄弟分の二人組。
捻兵衛の前に女房の幽霊を出して、着物と金に気が残っているから浮かばれずに幽霊となって出るのだと脅し、寺へ納めてあげようと言いくるめて、全部いただいてしまおうという策略だ。
その夜、二人は樟脳の長太郎玉に火を着けて青白い火の玉をこしらえ捻兵衛の家の天井の引き窓から糸を付けて垂らし、仏壇に手を合わせている捻兵衛の前に降ろしてゆらゆらと振った。
捻兵衛さんは肝をつぶして作戦は大成功だ。
翌朝、弟分の八公が何食わぬ顔で捻兵衛の所へ行き、「あんな立派な葬式を出したからには仏さんもきっと浮かばれて成仏したことでしょう」と鎌を掛けると、捻兵衛は「まだ浮かばれていない、迷っている」と、昨日の火の玉幽霊の一件を話し出した。
八公は、「それはおかみさんが着物に気が残っているからだ」と筋書き通りに話を進め、寺へ納めてあげるからと、まんまと捻兵衛の思い出が詰まる高価な着物をごっそりとかすめ盗ってしまった。
だが八公は上手く行過ぎて肝心の金を盗るのを忘れてしまった。
欲深い二人は、その夜また火の玉幽霊を出して振り回す。
そして翌朝、八公は捻兵衛の家に行って、まだ金に気が残っているから幽霊が出るのだと持ちかける。
すると捻兵衛さんは、「葬式で使って、もう一文もありません」と意外な答え。
それでも八公は、「まだ大切にしていた物が残っているでしょう」としつこい。
捻兵衛さんは少し考えてお雛様の箱を持って来て蓋を開けた。
捻兵衛 「あぁ、分かりました。女房はこれに気を残しています」
八公 「え!どうして分かりました」
捻兵衛 「今、蓋を開けたら昨夜の魂の匂いがいたしました」
落語用語解説
- 樟脳(しょうのう) – クスノキから採れる白い結晶。防虫剤として使われ、独特の強い匂いがある。
- 長太郎玉 – 樟脳を固めて作った玉。火をつけると青白い炎を出すため、火の玉の演出に使われた。
- お雛様 – 雛人形。大切に保管するため、防虫剤として樟脳を入れることが多かった。
- 捻兵衛(ねじべえ) – この噺の主人公。愛妻家で正直者として描かれる。
- 兄弟分 – 義兄弟の関係。この噺では詐欺師二人組を指す。
よくある質問(FAQ)
Q: 「昨夜の魂の匂いがした」というオチの意味は何ですか?
A: お雛様の箱に入っていた防虫用の樟脳玉の匂いが、詐欺師が使った火の玉(樟脳玉)と同じ匂いだったことで、詐欺がバレたことを示しています。
Q: なぜ樟脳玉は火の玉に見えるのですか?
A: 樟脳に火をつけると青白い炎を上げて燃えるため、暗闘で吊るして揺らすと幽霊の火の玉のように見えます。
Q: 捻兵衛は詐欺に気づいていたのですか?
A: お雛様の箱を開けた時に樟脳の匂いを嗅いで、火の玉の正体に気づいたと思われます。表面上は霊的な体験を装いながら、実際には詐欺の手口を見抜いています。
名演者による口演
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。詐欺師と捻兵衛の対比を見事に演じました。
- 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。捻兵衛の純朴さを愛嬌たっぷりに演じました。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 火の玉の場面を臨場感たっぷりに演じました。
関連する落語演目
同じく「詐欺・騙し」がテーマの古典落語


幽霊・怪談がテーマの古典落語


匂い・物証がテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「樟脳玉」は、詐欺師の巧妙な手口とその破綻を描いた滑稽噺の傑作です。樟脳玉で火の玉を作って亡妻の幽霊を演出するという発想が見事で、当時の防虫剤の知識を活用した設定になっています。
皮肉にも、お雛様の防虫剤として使われていた樟脳玉の匂いが証拠となって詐欺がバレるという、見事な因果応報の構造になっています。
「昨夜の魂の匂いがした」という表現は、霊的な体験を装いながら詐欺を見抜いた捻兵衛の機転を示す絶妙なオチです。


