正月丁稚
3行でわかるあらすじ
正月の朝、丁稚の定吉が井戸に供える歌を縁起の悪いものに変えて旦那を困らせる。
大福茶の俳句、雑煮の箸の意味、餅の中の五十銭玉まで、すべてを縁起の悪い方向に解釈して旦那をからかう。
最後は布団を持ち出して「夜具(厄)払いましょう」と言って旦那を呆れさせる地口オチで幕となる。
10行でわかるあらすじとオチ
元旦の朝、丁稚の定吉は旦那から井戸に橙と「新玉の年立ち返るあしたには若柳水を汲みそめにけり」という歌を供えるよう言われる。
しかし定吉は「目の玉のでんぐり返る明日には末期の水を汲みそめにけり」という縁起でもない歌に変えて困らせる。
店の皆で大福茶を飲む際、番頭や太助が縁起の良い俳句を詠むが、定吉は「大福や茶碗の中に昆布と梅干の土左衛門」と縁起悪い俳句を披露。
雑煮を食べる時、旦那が正月箸の太い部分の意味を縁起良く説明すると、定吉は「先がまた細くなる」と反論。
雑煮を食べていた定吉が突然泣き出し、上の歯が抜けたと言って旦那を「目上の人が死ぬ」と脅かす。
口から出てきたのは五十銭銀貨で、旦那は運が良いと喜ぶが、定吉は「餅の中から金が出るから身代持ち(餅)かね(金)る」と解釈。
番頭が「裏閉め(浦島)太郎は八千歳」、太助が「東方朔は九千歳」と縁起良い話で場を盛り上げる。
権助やお清も縁起の良いことを言って旦那の機嫌を直すが、定吉が布団を持ち出してくる。
旦那が何をするのかと心配すると、定吉は「夜具(厄)払いましょう」と答える。
この地口オチで旦那は完全に参ってしまい、正月早々から定吉にしてやられる痛快な噺で幕となる。
解説
「正月丁稚」は江戸時代から愛され続ける新春の定番古典落語で、商家を舞台にした店噺の傑作です。この演目の魅力は、機転の利いた丁稚が旦那を次々と困らせる痛快な展開と、正月らしい縁起担ぎを逆手に取った巧妙な言葉遊びにあります。
物語の構成は非常に巧妙で、井戸の歌から始まって大福茶の俳句、雑煮の箸、餅の中の五十銭玉まで、正月の風物詩を次々と登場させながら、すべてを定吉が縁起の悪い方向に解釈していく様が絶妙です。特に「身代持ち(餅)かね(金)る」や「夜具(厄)払い」などの地口(言葉遊び)は、落語ならではの機知に富んだユーモアを楽しめます。
この演目は単なる丁稚いじめの話ではなく、商家の主従関係を描きながらも、実は丁稚の方が一枚上手であることを示す痛快な逆転劇として構成されており、現代でも多くの落語家によって演じられ続けている古典落語の名作です。
あらすじ
元旦の朝、丁稚の定吉はかつぎ屋の旦那から井戸に橙を、「新玉の年立ち返るあしたには若柳水(わかやぎみず)を汲みそめにけり」と歌を添えて供えて来るように言われる。
寝ぼけ眼で戻って来た定吉は、「目の玉のでんぐり返る明日には末期の水を汲みそめにけり」と、縁起でもない歌を添えて来たと、旦那を正月早々からいたぶっている。
店の者は新年の祝に大福茶を味わう。
番頭が「大福や 茶碗の中に 開く梅」と、元日から旦那にべんちゃらを始める。
太助どんも負けずに「大福や 茶碗の中に 匂う梅」だ。
ちょっとしか変わってない盗作寸前なのに旦那はよくできた、目出度い、目出度いと喜んでいる。
本当にお目出度い旦那だ。
すかさず定吉は「大福や 茶碗の中に 昆布と梅干の土左衛門」と、縁起でもないことを言って待ったをかける。
さあ、次はお雑煮だ。
定吉は正月用の箸(はし)の真ん中が太いのは何故かと聞く。
待ってましたとばかりに旦那は、「はじめはどこの家の身代も細いもんや。それが段々太くなる、その太なった所をしっかりとつかむのが、人間の運をつかむのと同じことだ」と、得意げに話す。
定吉は「今は太くなっていても、先がまた細くなってまっしゃろ。若旦那の代になったらまた細なる」と、まことに尤もな言い様だ。
ゲンの悪いことばかりを並べる定吉に、旦那は早く雑煮を食べてしまえと口封じに出た。
がつがつと雑煮をほおばっていた定吉が突然泣き出した。
上の歯が抜けたという。
旦那は正月早々縁起でもないと顔をしかめるが定吉は、「下の歯が抜けたときは、目下のもんが死んで、上の歯が抜けたときは目上の人が死ぬ」と、おっ母さんから聞いていると言って旦那をニヤリと見上げ、旦那は青くなっている。
定吉は口の中の餅をかき分けて歯を取り出したら、なんと五十銭銀貨だった。
旦那は、「毎年お餅つく時に五十銭玉を放り込んで置くのや。
それが当たったもんは、その年は運がえぇねん。定吉、お前は運がえぇぞ」とご機嫌になったが、今泣いた烏の定吉は、「金の中から餅が出たら金持ちなるけど、餅の中から金が出てんさかい、ここの身代持ち(餅)かね(金)る」と、また旦那を奈落の底へ突き落した。
そこから引き上げるのが、よいしょ番頭の仕事だ。「雨が降って来たので裏を閉めました。裏閉め(=浦島)太郎は八千歳ではどうでっしゃろ」で、旦那の顔も明るくなった。
さらに太助どんが「方々を閉めて、東方朔(とうぼうさく)は九千歳」と手を差し伸べた。
皮肉屋の飯炊きの権助、女中のお清までも縁起のいいことを言ってくれて、旦那はすっかり機嫌良くなった。
すると定吉が布団を持ち出して来た。
また何か縁起でもないことを始めるのかと旦那は気が気でない。
旦那 「そんなとこへ布団持って来てどうしたんじゃ」
定吉 「へぇ、夜具(=厄)払いましょう」
落語用語解説
- 丁稚(でっち) – 商家に奉公する少年。住み込みで働きながら商売を学ぶ。定吉はこの噺の主人公。
- 大福茶(おおぶくちゃ) – 正月に飲む縁起物のお茶。昆布や梅干しを入れて飲む。
- 若柳水(わかやぎみず) – 正月に井戸から汲む縁起の良い水。若返りの力があるとされた。
- 地口(じぐち) – 言葉の音が似ていることを利用した言葉遊び。「夜具」と「厄」を掛けるなど。
- 裏閉め(うらしめ) – 雨が降って裏戸を閉めること。浦島太郎に掛けた縁起担ぎ。
よくある質問(FAQ)
Q: 「夜具払い」というオチの意味は何ですか?
A: 「夜具(よぐ)」と「厄(やく)」の音が似ていることを利用した地口です。布団を持ち出して「厄払いしましょう」という縁起担ぎのつもりが、逆に縁起でもない言葉遊びになっているというオチです。
Q: なぜ定吉は縁起の悪いことばかり言うのですか?
A: 定吉は旦那をからかっているのです。縁起担ぎに熱心な旦那を困らせることで、主従関係の中での小さな反抗と笑いを生み出しています。
Q: 正月箸の真ん中が太い意味は本当ですか?
A: 落語の中での縁起担ぎの説明ですが、実際に正月箸は両端が細く真ん中が太い形をしており、縁起を担ぐ意味があるとされています。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 人間国宝。上方での正月落語の定番として演じました。
- 桂枝雀(二代目) – 定吉の憎めないキャラクターを爆笑で演じました。
- 笑福亭仁鶴(三代目) – 旦那と定吉の掛け合いを絶妙に演じました。
関連する落語演目
同じく「正月・季節行事」がテーマの古典落語


丁稚・奉公人がテーマの古典落語


言葉遊び・地口オチの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「正月丁稚」は、正月の縁起担ぎを逆手に取った痛快な言葉遊びの落語です。丁稚の定吉が旦那を次々と困らせる展開が笑いを誘います。
井戸の歌から始まって大福茶の俳句、雑煮の箸、餅の中の五十銭玉まで、正月の風物詩を次々と登場させながら、すべてを縁起の悪い方向に解釈していく構成が見事です。
最後の「夜具(厄)払い」は、落語らしい地口オチの傑作として知られています。


