商売根問
商売根問(しょうばいねどい) は、怠け者の喜六が魚屋、うどん屋、雀捕りなど次々と商売に挑戦しては全て失敗し、最後に河童を捕まえようとして自分が河童と間違えられるという上方落語の傑作。**「ガタロが出たー、ガタロだー」**と子どもに棒で突かれるオチが秀逸です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 演目名 | 商売根問(しょうばいねどい) |
| ジャンル | 古典落語・滑稽噺 |
| 主人公 | 喜六(怠け者)・甚兵衛(説教役) |
| 舞台 | 大阪・本町の橋 |
| オチ | 「ガタロが出たー、ガタロだー」と棒で突かれる |
| 見どころ | 失敗商売の連続コンボ、関西弁の言葉遊び |
3行でわかるあらすじ
怠け者の喜六が甚兵衛から説教を受け、これまでの失敗した商売について語り始める。
魚屋、物売り、うどん屋、雀捕り、鶯捕りなど次々と挑戦するも全て失敗で大損続き。
最後に河童を捕まえようと川で尻を出して待っていたら、通行人に笑われ、川に落ちて自分が河童と間違えられて子どもに棒で突かれる。
10行でわかるあらすじとオチ
怠け者の喜六が甚兵衛から「働かないかん」と説教され、これまでの商売の体験談を語る。
魚屋では「味ない鯖」と言葉足らずで売れず、茶栗柿麩売りでは「チャックリカキフッ」の変な売り声で子どもがついて回り失敗。
爪楊枝削りは儲けが薄く「茶も飲めん」有様で、うどん屋では湯切りの際にうどん玉を落とし客に怒られる。
雀を一度に捕まえようと、みりん粕で酔わせて落花生を枕にする作戦を考えるが落花生の音で雀が逃げる。
ウグイス捕りでは腕に絵の具を塗って木の枝に化けるも梯子から落ちてあばらを折る始末。
最後の河童捕りでは、本町の橋の下で尻を出して河童が手を伸ばすのを待つ作戦を立てる。
何時間も尻丸出しで待っているうちに通行人が集まって「何してなはんねん」とがやがや騒ぐ。
「わたいこないして河童釣ってまんねん」と答えると皆が笑い、その笑い声でふらついて川にドボーンと落ちる。
向こう岸に泳ぎ着いて這い上がろうとすると、遊んでいた子どもたちが寄ってくる。
子どもたちが「河童が出た〜、河童だ〜」と言って棒で突いてくるというオチで締めくくられる。
解説
「商売根問」は、関西弁で語られる典型的な失敗談を連続して描いた上方落語の傑作です。主人公の喜六は何をやってもダメな怠け者として描かれ、魚屋から始まって河童捕りまで、6つもの商売に挑戦するものの全て失敗に終わるという構成が笑いの中心となっています。
この噺の構成は、失敗談を「積み重ね」ていく手法が特徴です。最初は魚屋や爪楊枝削りという現実的な商売から始まり、雀捕り、鶯捕りと次第に荒唐無稽になり、最後には河童捕りという完全に非現実的な商売に行き着きます。この「エスカレーション」構造によって、聴衆は次に何が来るかという期待感を持ちながら笑いが増幅されていきます。
特に最後の河童捕りの場面では、河童を捕まえようとした本人が河童と間違えられるという皮肉なオチが秀逸です。河童は尻子玉を抜くという伝説から、尻を出して待つという喜六の作戦はある種の論理的思考に基づいていますが、その結果自分が河童になってしまうという因果応報の笑いが見事に決まっています。
また、「味ない鯖」や「チャックリカキフッ」など関西弁の言葉遊びが随所に散りばめられています。「味ない鯖」は「鯵(あじ)がない鯖」の略で言葉足らずを笑うものであり、「チャックリカキフッ」は茶・栗・柿・麩を早口で唱えた音がおかしいという聴覚的な笑いです。こうした言語的な工夫が、上方落語ならではの味わいを生んでいます。
成り立ちと歴史
「商売根問」は上方落語の古典演目で、江戸時代後期に成立したとされています。「根問(ねどい)」という言葉は「根掘り葉掘り問いただす」という意味で、甚兵衛が喜六の商売遍歴を一つ一つ詳しく聞き出す形式を指しています。上方落語には「動物根問」「植木根問」など「根問もの」と呼ばれる一連の演目群があり、「商売根問」はその中でも人気の高い演目です。
上方落語の特徴である「喜六・清八」コンビの喜六を主人公とした作品で、喜六は上方落語における代表的な「アホ」キャラクターです。何をやらせても上手くいかないが憎めない人物として、多くの演目に登場します。甚兵衛は横町のご隠居として説教役を務める定番キャラクターで、この二人の掛け合いが上方落語の基本形の一つです。
演者の系譜としては、桂米朝(三代目)が喜六の間抜けぶりを愛嬌たっぷりに演じたことで広く知られ、この演目の代表的な演者とされています。桂枝雀(二代目)は爆発的な笑いを生む独特のテンポで演じ、笑福亭松鶴(六代目)は甚兵衛との掛け合いに重きを置いた渋い語り口で評価されました。現代でも上方の若手落語家が取り上げる定番演目として親しまれています。
あらすじ
仕事もしないでぶらぶらしている喜六を横町の甚兵衛はんが説教する。「・・・人間とにかく働かないかんやないか。銭儲けが肝心や、お前は今までどんな仕事をしたことがあるのんや」
喜六 「魚屋になって天秤棒担いで鯵(あじ)と鯖(さば)を売りに歩いたら、鯵がすぐ売れて鯖が残ったので、"鯵(味)ない鯖"と、売っていたら誰も買わなかった」
甚兵衛 「そりゃ、言葉が足らんのじゃ」
喜六 「茶と栗と柿と麩(ふ)を売りに出て、"チャックリカキフッ、チャックリカキフッ"と、素っ頓狂の声を上げたので、子どもたち面白がってついて来て全然売れなかったので、ころっと仕事を変えて、爪楊枝削りちゅうのを一時やってた」
甚兵衛 「爪楊枝削りなんて儲けの薄い商売なんかで、飯は食えんやろう」
喜六 「茶も飲めん」と情けない。
喜六 「元手をかけてのも儲けようと、屋台を借りてうどん屋を始めたんで」
甚兵衛 「もうかったんか」
喜六 「それがあきまへんねん。
イカキ(笊)にうどん玉入れて、湯切ってイカキを高く上げ過ぎてうどん玉を後ろに落としたり、低過ぎて犬の糞をすくってしまったりして、何度やってもどうしても上手くいかん。長く待たされた客は怒って屋台蹴倒して去んでしもて、えらい損で」
今度はいろいろ考えて、雀を一度に五十羽、百羽捕まえる方法を考えたと言う。
上町の知り合いの寺の庭に、みりん粕の伊丹のこぼれ梅をばらまく。
雀たちが寄って来て、それを食べてほろ酔いになって眠くなる。
そこへ落花生をばらまけば、雀たちはいい枕が来たと、そこでぐっすり寝てしまう。
それを箒(ほおき)でかき集めるという。
甚兵衛 「ようそんな阿保なこと考えたな。ほんまにそれやったんか」
喜六 「やりましたがな。雀たちが酔ってきたところまでは上手いこと行ったんやど、落花生まいたらその音にびっくりして雀はみな逃げてしもうた」
こぼれ梅と落花生代の損害を取り戻そうと、一羽でも金になるウグイス(鶯)捕獲作戦に出たと言う。
絵の具と墨を腕に塗って、木の枝のように見せかけ、鶯を止らせ捕まえるという段取りだが、こんな阿保なことで捕まるような間抜けな鶯なんかいやしない。
それどころか梯子から落ちてあばらを二本を折る大損害となった。
甚兵衛 「お前、損ばっかりやねん」、喜六は逆転の一発を狙い、天王寺動物園にもいないガタロ(河童)を捕まえ、動物園に売り込もうと考えたと言う。
甚兵衛 「どこでそんなもん捕まえるんや」
喜六 「本町の橋の下でんがな。ガタロは人間のケツから生き血を吸ったり、尻子玉を抜くちゅうから、川の方にケツを出して、ガタロが手を伸ばしてきたら、その手を捕まえて引きずり上げ、縄で縛って動物園まで棒で担いで行くのやねん」
甚兵衛 「お前、ほんまにそんなことやったんか。
えらい男や。それでガタロは来たんか」
喜六 「来まへんがな。何時間も尻丸出しで冷えて来て、ひょいと橋の上を見たら大勢の人ががやがや騒いでまんねん」
橋の上の人 「あんたそんなとこにしゃがんで、何をしてなはんねん」
喜六 「わたいこないしてガタロ釣ってまんねん言うたら、みんな笑いよって。
その笑い声でふらついて後ろへドボーン。泳いでやっと向こう岸にたどり着いてはい上がろうとしたら、遊んでいた子らが寄って来て、"ガタロが出たー、ガタロだー"と、棒でど突かれた」
落語用語解説
- 根問(ねどい) – 根掘り葉掘り問いただすこと。この噺では甚兵衛が喜六の商売歴を詳しく聞き出す様子を指す。
- ガタロ(河童) – 関西での河童の呼び名。川に住む妖怪で、人間の尻子玉を抜くという伝説がある。
- イカキ(笊) – うどんやそばの湯切りに使う竹製の笊。関西での呼び名。
- こぼれ梅 – みりん粕のこと。みりんを搾った後のかすで、甘い香りがある。
- 尻子玉 – 河童が人間から抜き取ると言われる架空の臓器。河童伝説の重要な要素。
よくある質問(FAQ)
Q: 喜六が河童と間違えられたのはなぜですか?
A: 川に落ちてずぶ濡れで這い上がってきた姿が、水から出てきた河童のように見えたためです。河童を捕まえようとした本人が河童と間違えられる皮肉なオチになっています。
Q: なぜ雀を酔わせる作戦は失敗したのですか?
A: 雀がみりん粕で酔ったところまでは成功しましたが、落花生をまいた時の音に驚いて逃げてしまったからです。詰めの甘さが喜六らしい失敗です。
Q: この噺は上方落語ですか?
A: はい、関西弁で語られる典型的な上方落語です。「ガタロ」「イカキ」など関西特有の言葉が使われています。
Q: 「味ない鯖」はなぜ売れなかったのですか?
A: 「鯵(あじ)がなくなったので鯖だけです」と言うべきところを、「味ない鯖」と短縮してしまったため、「味のない鯖」と聞こえてしまい、誰も買わなくなったのです。言葉足らずが生む笑いの典型例です。
Q: 「根問もの」とはどんなジャンルですか?
A: 上方落語で、一つのテーマについて根掘り葉掘り問答する形式の演目群です。「商売根問」のほか「動物根問」「植木根問」などがあり、知識や雑学を面白おかしく語る教養落語の一種です。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 人間国宝。喜六の間抜けぶりを愛嬌たっぷりに演じました。
- 桂枝雀(二代目) – 失敗談の連続を爆笑の渦に巻き込む名演で知られました。
- 笑福亭松鶴(六代目) – 甚兵衛との掛け合いを絶妙に演じました。
- 桂文枝(五代目) – 喜六の商売遍歴を丁寧に語り込み、一つ一つのエピソードに味わい深い笑いを加えた口演で評価されました。
関連する落語演目
同じく「失敗談」がテーマの古典落語


商売・商人がテーマの古典落語


河童・妖怪がテーマの古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「商売根問」は、何をやってもダメな怠け者・喜六の失敗談を連続して描いた上方落語の傑作です。魚屋から始まって河童捕りまで、6つもの商売に挑戦して全て失敗する様子が笑いを誘います。
特に最後の河童捕りの場面では、河童を捕まえようとした本人が河童と間違えられるという皮肉なオチが秀逸です。
「味ない鯖」「チャックリカキフッ」など関西弁の言葉遊びが随所に散りばめられた名作です。
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