指南書
3行でわかるあらすじ
短気な清吉が和尚から指南書をもらい、草津への旅でその教訓に従って行動する。
指南書の『急がば回れ』で船ではなく歩いて行き、矢橋船の水難を免れる。
帰宅後、草津名物『うばが餅』が腐っていて、指南書を見ると『うまい物は宵に食え』というオチ。
10行でわかるあらすじとオチ
京都の商家の若旦那・清吉は短気で喧嘩っ早く、やきもち焼きであった。
大旦那が心配し、檀那寺の和尚のもとで修業させる。
和尚は最後に『指南書』を渡し、困った時に読んでから行動するよう指導。
清吉は草津の叔父の店に百両を届けることになり、道中『旅は道連れ世は情け』で道連れを作る。
矢橋船に乗ろうとしたが、指南書の『急がば回れ』で歩いて行くことに。
間もなく矢橋船が水難で二隉転覆し、道連れの人も水死してしまう。
帰宅すると女房が男と寝ていたが、『七たび尋ねて人を疑え』で確認すると兄だった。
翻朝、草津名物の『うばが餅』を出すと腐っている。
指南書を見ると『うまい物は宵に食え』と書いてある。
オチ:餅が腐った理由を指南書の教訓で説明する落ち。
解説
「指南書」は、人生の教訓や格言をオチに使った旅落語の代表作です。
清吉が従う指南書の教訓はすべて実際に存在することわざや格言で、『旅は道連れ世は情け』『急がば回れ』『七たび尋ねて人を疑え』など、日本人に馴染み深い教訓です。
特に『急がば回れ』は、矢橋船の水難という実際の歴史的事実を背景にし、その教訓の有効性を証明しています。
最後の『うまい物は宵に食え』は、冷蔵庫のない時代の生活の知恵で、餅が腐った理由を見事に説明するオチとなっています。
この落語は、教訓を守ることの大切さと、同時にその時代の生活の知恵を伝える教育的な一面を持っています。
あらすじ
京都の商家の若旦那の清吉、短気で喧嘩っ早く、たいそうなヤキモチ焼き。
大旦那は心配して檀那寺の和尚のところへ修業に日参させる。
そのうちに清吉は人間もだいぶ変わって来た。
和尚は修業の最後の日に、「おまはんはまだ仕上がっていないところがある。この本を渡しとくさかいに、何か迷ったり、困った時、腹が立ったりした時には、この本を読んでから行動するように」と、一冊の書物、"指南書"をくれた。
ある日、清吉は急に草津の叔父の店に百両届けることになった。
店の者は忙しくて清吉一人だけで東海道を東に向かう。
懐に大金を持っているので道中、そばに来る人たちがみな胡散臭そうに見えて仕方がない。
「草津に行かはるんやったら、ご一緒に喋りながら行きまひょか」と話しかけられると、胡麻の蠅が懐を狙って近づいて来たんやなと疑ってかかる。
指南書を開くと、"旅は道連れ世は情け"で、道連れにして話ながら楽に逢坂山を越えて行った。
琵琶湖のほとりまで来ると矢橋船が出るところだ。
道連れになった人は、「ちょうどええ、歩いたら三里、船なら一里で楽ですがな」、清吉も乗ろうとしたが指南書を開くと、"急がば回れ"だ。
清吉 「わて、急ぎますよって歩いて回ります」、「えっ、おかしな人やな」だが、清吉はてくてくと草津へと向かう。
瀬田の唐橋まで来ると急に雨が降り出した。
急いで橋を渡ってしまおうかどうしようか迷って、指南書を見ると、"急がずば 濡れざらましを 旅人の あとより晴るる 野路の村雨"で、橋の袂の茶店で雨宿りをしているとすぐに雨は上がった。
無事に草津の叔父さんの店に着くと、
叔父さん 「おぉ、どないして来たんじゃ」
清吉 「東海道を歩いて来ました」
叔父さん 「あぁ、それでよかった。さっきのあの夕立で、矢橋船が二隻ひっくり返ったちゅうて浜は大騒ぎやで」、清吉が浜に行って見ると、さっきまで道連れだった人の水死体も上がっている。 この噂は京都にも伝わっているだろうと、叔父さんが泊って行けと言うのを振り切って京都へトンボ帰りだ。
夜も更けてやっとわが家に帰り着くと、女房が男と布団を並べて寝ている。
カッとなって、二人ともたたき殺してやると思ったが、指南書を開くと、"七たび尋ねて人を疑え"、女房を起こして、
清吉 「おい、ここに寝てるのん、誰や」
女房 「私の兄さんやないかいな。
矢橋船がひっくり返ったと聞いて、心配して来てくれたん。明日、一緒に様子見に行こう、言うてたんや」
清吉 「そうやったんか、面目ない。・・・兄さんどうか勘弁しておくれやす」、兄さんにも謝ってその夜は寝てしまった。
翌朝になって、
清吉 「ゆうべは、えらいどうもすんまへんでした。草津名物の"うばが餅"買うて来たんで食べまひょ」、取り出してみると、なんと腐っている。
清吉 「こんなもん、こない早う腐るはずがないで・・・」、またも指南書を見ると、
"うまい物は宵に食え"
落語用語解説
- 指南書 – 人生の教訓や格言をまとめた書物。この噺では和尚から授かった人生の道しるべとして登場します。
- 頭陀袋(ずだぶくろ) – 僧侶や旅人が首からかける袋。死者の副葬品として六文銭を入れる風習がありました。
- 矢橋船(やばせぶね) – 琵琶湖の矢橋から大津へ渡る渡し船。「急がば回れ」の語源となった船です。
- うばが餅 – 草津宿の名物餅。「姥が餅」とも書き、餡を餅でくるんだお菓子です。
- 瀬田の唐橋 – 琵琶湖から流れ出る瀬田川にかかる橋。東海道の要所として知られました。
よくある質問(FAQ)
Q: 「急がば回れ」の語源は本当にこの噺ですか?
A: いいえ、「急がば回れ」は実際に矢橋船の危険を避けて瀬田の唐橋を回った方が安全という実話から生まれたことわざです。この噺はそのことわざを取り入れています。
Q: 指南書に書かれていた教訓はすべて実在するものですか?
A: はい、「旅は道連れ世は情け」「急がば回れ」「七たび尋ねて人を疑え」「うまい物は宵に食え」はすべて実際の日本のことわざ・格言です。
Q: なぜ「うまい物は宵に食え」で腐ったのですか?
A: 冷蔵庫のない時代、美味しいものは早く食べないと腐ってしまうという生活の知恵です。清吉は餅を持ち帰って翌朝まで待ったため腐ってしまいました。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 人間国宝。教訓話を説教臭くならずに軽妙に演じました。
- 桂枝雀 – 清吉の短気な性格と指南書に従う素直さの対比を見事に表現しました。
- 桂文珍 – 現代的な感覚で教訓の意味を分かりやすく伝えました。
関連する落語演目
同じく「旅・道中」がテーマの古典落語


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人情噺の傑作


この噺の魅力と現代への示唆
「指南書」は、人生の教訓や格言を物語に織り込んだ旅落語の代表作です。短気で喧嘩っ早い清吉が、和尚の教えに従って行動することで災難を免れるという構成が見事です。
「急がば回れ」で矢橋船の水難を避け、「七たび尋ねて人を疑え」で女房の誤解を解く展開は、格言の有効性を証明する説得力があります。
最後の「うまい物は宵に食え」で餅が腐るオチは、どんな教訓にも適用範囲があることを示す皮肉な締めくくりです。


