しびん
3行でわかるあらすじ
西国の侍が大坂の道具屋で尿瓶を珍しい花活けと勘違いして五両で購入する。
本屋から尿瓶の本当の用途を知らされて激怒し、道具屋に斬りかかるが嘘泣きに騙される。
最後は「ションベン(小便・破約)はでけん、尿瓶は向こうにある」という洒落で落とす。
10行でわかるあらすじとオチ
西国の侍が国元への土産を探しに大坂の道具屋に入り、庭の隅にある尿瓶を珍しい花活けと勘違いする。
道具屋は田舎侍と見くびり、本来なら売り物でない尿瓶を五両という法外な値段で売りつける。
侍は尿瓶を片手に意気揚々と宿に戻り、床の間に花を活けて満足する。
本屋が来て尿瓶に花が活けてあるのを見て驚き、病人や老人が小便をする道具だと教える。
真実を知った侍は激怒し、刀を手に道具屋へ乗り込む。
道具屋は逃げる間もなく、とっさに老母の病気のために朝鮮人参を買う五両が必要だったと嘘泣きする。
親孝行の話に感動した侍は「親孝心に免じて命は助けてやる」と帰っていく。
隣の道具屋が「あの侍、五両返せとも言わずに帰った」と言うと、道具屋は答える。
「当たり前だ、ションベン(小便・破約)はでけん」と洒落を言う。
「尿瓶は向こうにある」と付け加えて、騙し得を喜ぶ道具屋のずる賢さで落とす。
解説
しびんは、上方落語の代表的な滑稽噺で、無知な田舎侍と悪賢い大坂商人の対比が見事に描かれています。
尿瓶(しびん)は病人や老人が床で用を足すための便器ですが、侍はその独特な形状を珍しい花活けと勘違いします。
道具屋は侍の無知につけ込んで法外な値段で売りつけますが、後に真実を知った侍の怒りを、涙の親孝行話でかわすという二重の騙しが仕掛けられています。
オチの「ションベン(小便)はでけん」は「小便」と「商便(契約破棄)」を掛けた言葉遊びで、尿瓶という道具の性質と、一度売った物の返品はできないという商売の掟を掛け合わせた秀逸な洒落です。
侍の純朴さと道具屋のずる賢さの対比が、上方商人の商魂たくましさを表現しています。
あらすじ
西国のある藩から大坂へ出て来た侍。
明日は国元へ帰るという日、なにか土産物をと長町あたりの道具屋に入る。
店内を見回して、「花活けがだいぶ出たおるな。あれは有田、その隣は清水か九谷か?・・・おぉ、庭の隅に変わった形の花活けがあるではないか」と、近づいて手に取ろうとする。
道具屋 「あっ、旦那様、 それはおさわりになりませんように、お手が汚れます」
侍 「手が汚れたら洗えば済む。この不思議な形の花活けは何と申す?」
道具屋 「へぇへぇ、それはその"尿瓶(しびん)"でございます」
侍 「ほぉ、しびんと申すかか。
気に入った。値はいか程じゃ」
道具屋 「いえ、旦さん、それはちょっと・・・」
侍 「これこれ道具屋、売り惜しみはいかんぞ。
それとも、ほかに先約があらば、何とか口実を設けて身共に譲ってくれ。是非ともこの珍しい花活けを国元へ土産としたいのじゃ」
道具屋は侍の頭の先から足の先までをジロッと値踏みするように見て、こりゃあ物事を知らない田舎侍と値をつけ、尿瓶を売って一儲けを企む。
道具屋 「旦さまはお目が高うございます。それはちと値が張りまして・・・両いただきたいので」
侍 「うむ、何じゃ?・・・五両とでも申すか?」
道具屋 「へぇへぇ、さよで、 五両でございます」
侍 「五両とは安価じゃ。それでは五両受け取ってくれ」と、しびんを片手にぶら下げて店を出た。
通行人が大小を差した身なりの立派な侍が、尿瓶片手に意気揚々と歩いて行くのを不思議そうに、可笑しそうに見ている。
そんなことは一向に気づかない侍、宿屋に戻ると早速、床の間の花瓶の花を尿瓶に活けてさらに満足。
そこへ国元へ持ち帰る本を頼んでおいた本屋がやって来て床の間の尿瓶花を見てびっくり。
本屋 「おや、旦那様、尿瓶に花とは何かのご趣向で? それはサラでございましょうな?」
侍 「サラでは面白うない。先刻、古道具屋で五両で求めたものじゃ」
本屋 「失礼ではございますが旦那様は"尿瓶"というものをご存知ないと見えますなあ」
侍 「何が存ぜぬと申すのか?」
本屋 「尿瓶は花を活けるものではございません。立ち居不自由な老人や病人が、小便をするものでございます」
侍 「何っ!小便を・・・」と、血相を変えた侍、「憎っくき仇は道具屋、真っ二つにしてやる」と、おっ取り刀で道具屋に乗り込む。
一方の道具屋、古くて汚い尿瓶が五両で売れて笑いが止まらない。「これだから道具屋をやめることはでけんわい」と、一服していると、あの侍が目を血走らせ、刀の柄に手を掛けて、「道具屋ぁ~」と飛び込んできた。
道具屋は逃げ出す隙もなくとっさに、「お腹立ちはごもっともでございます。
お手討ちは覚悟のうえではございますが、ひと言申し上げたきことがございます。手前の老母の病いが・・・高価な朝鮮人参を買うためにはどうしても五両の金が要る・・・悪いこととは思いながらも親孝行のため・・・」と、涙ボロボロ、口から出まかせを連発。
侍 「くぅーっ、たわけ者! 我れにも一人の母がある、常々"そちは短気者、短慮を慎め・・・"とのご教訓。
憎っくきやつなれど、親孝心に免じて命は助けてやる。以後慎め!」と、帰って行った。
隣で店を出している道具屋、「お前は偉いやっちゃなあ。
母やとか病気やとか言うて涙までこぼしよって。父も母も無いくせして、あれだけの嘘ついて・・・」
道具屋 「ほんまや、我ながら感心してんねん」
隣の道具屋 「けど、あの侍、偉いのか、アホなのか?五両返せとも言わんと帰りよった」
道具屋 「そら当たり前だ。
ションベン(小便・破約)はでけん。尿瓶は向こうにある」
落語用語解説
- 尿瓶(しびん) – 病人や老人が寝たまま用を足すための便器。独特の形状をしていたため、知らない人は花活けと間違えることもありました。
- サラ – 新品のこと。「サラの尿瓶」なら未使用という意味で、使用済みよりましという皮肉が込められています。
- 長町 – 大坂の商業地区。道具屋や古物商が軒を連ねていました。
- 朝鮮人参 – 高麗人参のこと。江戸時代は非常に高価な薬で、万病に効くとされました。
- ションベン – 「小便」と商売用語の「商便(取引の破棄)」を掛けた言葉遊びです。
よくある質問(FAQ)
Q: 「ションベンはでけん」のオチの意味は?
A: 「小便」と商売用語の「商便(取引の破棄・約束の取り消し)」を掛けた洒落です。一度売った物の返品はできないという商売の掟と、尿瓶の用途を組み合わせた秀逸な言葉遊びになっています。
Q: なぜ侍は尿瓶を花活けと間違えたのですか?
A: 田舎の西国から来た侍は都会の道具を知らず、尿瓶の独特な形状を珍しい花活けと勘違いしました。この無知さが道具屋につけ込まれる原因となりました。
Q: 道具屋の親孝行話は本当ですか?
A: いいえ、完全な嘘です。隣の道具屋も指摘しているように、道具屋には父も母もいません。とっさの機転で涙まで流して騙したずる賢さが、この噺の面白さです。
名演者による口演
- 桂米朝(三代目) – 人間国宝。上方落語の重鎮として、大坂商人のずる賢さを見事に演じました。
- 桂枝雀 – 道具屋の嘘泣きと侍の純朴さの対比を、独特の表現力で笑いに変えました。
- 笑福亭仁鶴 – 大阪弁の軽妙なテンポで、オチの「ションベンはでけん」を印象的に決めました。
関連する落語演目
同じく「侍と商人」の駆け引きを描いた古典落語


上方落語の滑稽噺


言葉遊び・洒落が秀逸な古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「しびん」は、上方商人のしたたかさと田舎侍の純朴さを対比させた滑稽噺の傑作です。道具屋は侍の無知につけ込んで五両もの大金を騙し取り、さらに真実がばれた後も嘘泣きで切り抜けるという二重の騙しが仕掛けられています。
この噺が面白いのは、侍が完全に騙されていることに最後まで気づかない点です。「親孝行に免じて」と帰っていく侍の姿は、ある意味で純粋な美しさがありますが、それを利用する道具屋のずる賢さとの対比が笑いを生み出しています。
「ションベンはでけん」というオチは、商売の掟と尿瓶の機能を見事に掛け合わせた上方落語らしい洒落です。


