【AI落語】正常位置の話(新作落語)
研究というのは時として人を困惑させるもので、特に専門用語が出てくると妙な想像をしてしまうことがございます。
今日はそんな親の心配から生まれる騒動を一席。
私も研究には疎いですが、人の心配なら理解できます。
初冬の寒さを感じながらお聞きください。
息子の研究テーマ
十二月の寒い夕方、大阪の住宅街に雪がちらつき始めている。
田中家のコタツでは、みかんが山盛りになった籠が湯気を立てている。
大学院生の息子健太郎が、重いリュックサックと共に帰宅した。
眼鏡を曇らせながら、研究資料をぎっしり詰めたファイルを抱えている。
健太郎「ただいま」
コートを脱ぎながら、疲れた様子で肩を回している。
田中がコタツから顔を上げる。
テレビのリモコンを置いて、息子の方を振り返る。
田中「お帰り。今日も研究で遅かったな」
健太郎が机の上に分厚いファイルを置く。
健太郎「うん、正常位置について調べものしてたんや」
田中の手に持っていたみかんがポロリと床に転がる。
田中「正常位置?どんな…研究や?」
健太郎が資料をペラペラめくりながら興奮気味に話す。
健太郎「人間の身体の理想的な位置関係について調べてるねん」
田中の表情が複雑に歪む。コタツの中で足をソワソワ動かす。
田中「身体の…位置関係?」
健太郎「上下の関係とか、前後の位置とか、角度とかな」
そう言いながら健太郎が身振り手振りで説明する。
田中が青ざめて立ち上がる。
田中「角度まで…?」
妻への深夜の相談
その夜、寝室で田中が妻に心配を打ち明ける。
外では北風がガラス窓をガタガタと揺らしている。
田中が布団の中で身をよじりながら呟く。
田中「健太郎が正常位置の研究してるって言うねん」
妻が読みかけの本を閉じて振り返る。
妻「正常位置?変な研究ね」
田中が枕に顔を埋めながら声を潜める。
田中「身体の位置関係とか角度とか調べてるらしいわ」
妻が眼鏡を外して田中を見つめる。
妻「角度って…まさか…」
田中「心配で夜も眠れんわ」
布団を頭まで被って丸くなる。
妻がベッドサイドランプを点ける。
妻「一度大学に行って確かめてみたら?」
田中の目がギラリと光る。
田中「そうや。息子のためや」
近所での情報収集
翌日の昼下がり、田中が近所の佐藤宅を訪問。
庭では佐藤が雪かきをして汗をかいている。
田中が雪の積もった道を滑りそうになりながら歩み寄る。
田中「佐藤さん、正常位置って知ってる?」
佐藤がスコップを止めて振り返る。
息を白くしながら首をかしげる。
佐藤「正常位置?何の位置や?」
田中が周りをキョロキョロ見回しながら小声で答える。
田中「息子が大学で研究してるねん」
佐藤が軍手を脱いで腰に手を当てる。
佐藤「どんな研究や?」
田中「身体の位置関係とか角度やって」
声を震わせながら話す。
佐藤が眉をひそめて考え込む。
佐藤「身体と角度…?ちょっと心配やな」
田中「俺もそう思うんや」
深刻そうに腕組みをする。
佐藤が雪まみれの手で田中の肩を叩く。
佐藤「大学に確かめに行った方がええで」
大学での調査
数日後、田中が息子の通う大学を訪れる。
キャンパスには雪が積もり、学生たちがマフラーを巻いて歩いている。
田中が大学の案内板を見上げながらうろつく。
田中「健康科学部…ここかな?」
通りすがりの学生に声をかける。
田中「すみません、正常位置の研究室って知りませんか?」
学生がスマホを見ながら首をかしげる。
学生「正常位置?聞いたことないですね」
田中「身体の位置関係を研究してるところなんですが…」
困った表情で説明する。
学生「身体…?よく分からないです」
そそくさと去っていく。
田中が一人でキャンパスに立ちすくむ。
田中「どこで研究してるんやろ?」
整体学研究室での偶然の発見
迷いながらキャンパスを歩いていると、研究棟の窓から息子の声が聞こえる。
窓の向こうでは学生たちが人体模型を囲んで議論している。
田中が窓に近づいて覗き込む。
健太郎が白衣を着て、真剣な表情で発表をしている。
健太郎「脊椎の正常位置から3度ずれると痛みが生じます」
指示棒で背骨の模型を指しながら説明する。
田中が目を見開く。
田中「脊椎?背骨のこと?」
指導教授らしき年配の男性が健太郎に質問する。
教授「正常位置からのずれをどう測定するかね?」
健太郎「X線画像で角度を測り、正常値と比較します」
資料を見せながら答える。
田中が窓に張り付くようにして見入る。
田中「医学的な研究…?」
研究室での真相発見
田中が意を決して研究棟に入る。
廊下には消毒液の匂いが漂い、医学書のポスターが貼られている。
受付の男性職員が田中に声をかける。
職員「見学でいらっしゃいますか?」
田中が恐る恐る尋ねる。
田中「息子が正常位置の研究をしてると聞いて…」
職員が明るい笑顔を見せる。
職員「ああ、整体医学の正常位置研究ですね」
田中が驚いて身を乗り出す。
田中「整体医学?身体の治療?」
職員がパンフレットを手に取る。
職員「人間の身体の正しい位置を研究して、腰痛や肩こりを治す学問です」
田中の表情が安堵に変わる。
田中「医学の研究やったんか…」
職員「姿勢矯正の専門分野なんですよ」
詳しく説明してくれる。
教授との面談
研究発表が終わった後、指導教授が田中のもとにやってくる。
白髪の紳士的な老教授で、優しそうな表情をしている。
教授「息子さんのお父様ですね」
穏やかな声で話しかける。
田中が深々と頭を下げる。
田中「お世話になっております」
教授が微笑みながら説明する。
教授「健太郎君は優秀な研究者になりそうです」
田中が興味深そうに身を前に出す。
田中「正常位置って、どんな研究なんですか?」
教授が人体模型を指しながら説明する。
教授「人間の骨格や筋肉がどの位置にあるのが最も健康的かを研究する分野です」
田中が感心してうなずく。
教授「現代人の姿勢の悪さを科学的に矯正するんです」
実際に姿勢を正して見せる。
息子との再会
研究室で健太郎が実験データを整理していると、田中が現れる。
健太郎の机には論文や骨格の写真が散らばっている。
健太郎「お父さん?なんでここに?」
驚いた表情で立ち上がる。
田中が安心したように微笑む。
田中「正常位置研究の正体確かめに来たんや」
健太郎が首をかしげる。
健太郎「整体医学やで。何を心配してたん?」
田中が頭をかきながら恥ずかしそうに答える。
田中「変な想像してしもた」
健太郎が白衣を脱ぎながら笑う。
健太郎「人間の正しい姿勢を研究してるだけやで」
田中「立派な医学研究やったんやな」
誇らしそうに息子の肩を叩く。
健太郎が実験データを見せる。
健太郎「腰痛患者の9割が正常位置からずれてるねん」
自宅での家族団らん
その夜、田中家のリビングで家族が夕食を囲んでいる。
コタツの上には鍋料理が湯気を立て、温かい雰囲気に包まれている。
田中が妻に報告する。
田中「正常位置研究の正体分かったで」
妻がレンゲを止めて振り返る。
妻「どうだった?」
田中「整体医学の研究やった」
ホッとした表情で鍋をつつく。
妻が嬉しそうに微笑む。
妻「医学研究だったのね。安心したわ」
健太郎が得意そうに話す。
健太郎「将来は姿勢矯正の専門医になりたいねん」
田中「素晴らしい目標やないか」
感動しながら息子を見つめる。
健太郎「お父さんも姿勢悪いから治したろか?」
冗談めかして言う。
田中「頼むわ。腰痛がひどいねん」
真剣に答える。
姿勢矯正の体験
数日後、健太郎が父親の姿勢をチェックしている。
リビングで田中が立った状態で、健太郎が測定器を当てている。
健太郎「お父さん、背骨が5度曲がってるで」
データを見ながら指摘する。
田中が鏡を見ながら驚く。
田中「ほんまや!曲がってるな」
健太郎が父親の肩に手を置く。
健太郎「正常位置に戻すにはこの角度で立つねん」
実際に姿勢を矯正してくれる。
田中「楽になった!すごいな」
感動して背筋を伸ばす。
健太郎「毎日この正しい位置を意識するんや」
丁寧に指導する。
田中「息子に教えてもろて感謝やわ」
嬉しそうに正しい姿勢を保つ。
近所への報告
翌日の夕方、田中が佐藤に報告しに行く。
雪が止んで、夕陽が雪化粧した町を照らしている。
田中が背筋を伸ばして歩いている姿を見て、佐藤が驚く。
佐藤「田中さん、姿勢良なったやないか」
田中が誇らしげに胸を張る。
田中「息子に正常位置教えてもろたんや」
佐藤が感心してうなずく。
佐藤「正常位置研究って姿勢矯正やったんか」
田中「整体医学の研究で、腰痛治療にも役立つねん」
専門用語を使いながら説明する。
佐藤が興味深そうに聞く。
佐藤「俺も腰痛がひどいねん。教えてもらえるか?」
田中「息子に頼んでみるわ」
嬉しそうに答える。
佐藤「立派な息子さんやなあ」
感心して田中を見つめる。
最後の驚き
その夜、田中が健太郎と研究について話している時。
コタツで向かい合って、研究資料を見ながら。
田中「正常位置研究、本当に素晴らしい学問やな」
資料をめくりながら感心している。
健太郎が照れくさそうに笑う。
健太郎「ありがとう、お父さん」
田中「ところで、その正常位置って、他にも意味があるんか?」
何気なく尋ねる。
健太郎が少し恥ずかしそうに答える。
健太郎「実は…医学用語ではもう一つの意味もあるねん」
田中が身を乗り出す。
田中「どんな意味?」
健太郎「産科学ではお産の時の体位も正常位置って言うねん」
小声で説明する。
田中の箸が止まる。
田中「お産の…?」
健太郎「赤ちゃんが生まれる時の母親の姿勢のことや」
医学書を見せながら説明する。
田中「まさか…」
顔が青ざめる。
健太郎が慌てて付け加える。
健太郎「でも俺の研究は骨格矯正の方やで!勘違いせんといて!」
田中が立ち上がりながら呟く。
田中「産科の正常位置も研究してるんか?」
健太郎「卒業論文のテーマが『出産時の理想的姿勢と腰痛予防』やねん」
田中「結局正常位置は正常位置やないか!」
まとめ
というわけで、正常位置の研究は整体医学の姿勢矯正でしたが、最後に明かされたのは医学用語として出産時の体位も正常位置と呼ぶという事実。
田中の最初の心配も、ある意味では的外れではなかったという、なんとも皮肉なオチでございました。
でも息子の立派な研究で腰痛が治ったんだから、結果オーライということで。


