スポンサーリンク

【古典落語】猿丸太夫 あらすじ・オチ・解説 | 百人一首で墓穴を掘る!知ったかぶり旅人の大失態

スポンサーリンク
話芸の殿堂-古典落語-猿丸太夫
スポンサーリンク
スポンサーリンク

猿丸太夫

3行でわかるあらすじ

善光寺詣りの旅人が発句の宗匠「今芭蕉」を騙り、馬子にでたらめな発句を教える。
調子に乗って百人一首の猿丸大夫の歌を自作と偽って詠む。
馬子に全て見抜かれ「馬の上にいる猿丸太夫だ」と皮肉られる。

10行でわかるあらすじとオチ

江戸から善光寺詣りに向かう旅人が、海野宿の先で馬に乗る。
馬子が村で運座(発句の会)をやっていると聞き、旅人は発句の宗匠「今芭蕉」を騙る。
馬子が「鉢叩き」という題を出すと、旅人は「かっぽれ一座の大陽気」とでたらめを詠む。
「山梔子(くちなし)」の題には「口無しや鼻から下はすぐに顎」と適当に答える。
「春雨」の題には「船板へ喰いつけにけり春の鮫」と、雨を鮫と間違えた句を詠む。
馬子をからかった詫びに、旅人は新しい手ぬぐいをあげる。
馬子が本当の発句を求めると、旅人は百人一首の「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の」を詠む。
仲間の吾作が「その手ぬぐい、狐か狸にでも貰ったか」と聞く。
馬子は旅人の嘘を全て見抜いていた。
「なあに、馬の上にいる猿丸太夫だ」と、馬に乗った猿(旅人)と猿丸大夫を掛けて皮肉る。

解説

「猿丸太夫」は、知ったかぶりが墓穴を掘る様子を描いた旅噺の名作です。江戸から善光寺への道中という設定で、都会人の旅人が田舎の馬子を見下してからかうが、実は馬子の方が教養があったという痛快な逆転劇になっています。

見どころは、旅人が次々と繰り出すでたらめな発句です。「鉢叩き」を乞食と知らずに「かっぽれ一座」と詠んだり、「春雨」と「鮫」を取り違えたりと、無知を露呈しながらも堂々と宗匠を騙る姿が滑稽です。特に「口無しや鼻から下はすぐに顎」という句は、発句の体をなしていない単なる駄洒落で、旅人の教養のなさを端的に表しています。

オチは「地口オチ」の一種で、百人一首の作者「猿丸大夫」と、馬に乗った旅人を「猿」に見立てた「馬の上の猿丸太夫」を掛けた言葉遊びです。旅人が得意げに詠んだ有名な和歌が、実は誰もが知っている猿丸大夫の作であることを馬子は見抜いており、「あんたは馬に乗った猿(=偽物の猿丸大夫)だ」と皮肉っているのです。

田舎者を馬鹿にした都会人が、逆に田舎者に馬鹿にされるという構図は、落語によくある「逆転の美学」を体現しており、聴衆に痛快な笑いを提供する作品となっています。

あらすじ

江戸から中山道を通って、信濃追分から善光寺街道に入り善光寺詣りに向かう旅人。
海野宿の先あたりで馬に乗る。

旅人 「さっきの宿場で村人たちが寄り合って何かやっていたようだが、祭りの相談でもしていたのか?」

馬子 「そうではねえ。
あれは風流でがさぁ、江戸でも流行っているという運座でがさぁね。おらぁも仲間に入っているだよ」

旅人 「ほお、発句か。
こんな田舎でも流行っているとは驚いた。俺はその道の宗匠だ」

馬子 「へえ、宗匠か、何と言う名前だ」、「今芭蕉だ」

馬子 「そんなら一つ詠んでみてくだせえ。こないだは鉢叩きという題が出て困っただ」

旅人 「そんなの訳もない。"鉢叩きかっぽれ一座の大陽気"というのはどうだ」

馬子 「鉢叩きというのは何か叩いて物を貰って歩く乞食のことだがね」

旅人 「乞食だってたまにはかっぽれで騒ぐこともあるだろう」

馬子 「山梔子(くちなし)という題でも苦しんだ」

旅人 「そんな簡単な題で苦しむことはない。"口無しや鼻から下はすぐに顎(あご)"でどうだ」

馬子 「あははっ、こりゃえれえもんだ。
春雨という題で、中山道だから「板」か「橋」という字を結び込まねばならんというのは難しくて参った」

旅人 「難しいことなんぞあるもんか。"船板へ喰いつけにけり春の鮫"」

馬子 「魚の鮫ではねえですだ」

旅人 「雨が降ると鮫がよく出るという」

馬子 「雨どころか頭に日がかんかん照りつけやがって暑くていけねえ。ちょっと手ぬぐい被らせてもらうでよ」、旅人は口から出まかせ、ずいぶんと馬子をからかった詫びのつもりか、

旅人 「ずいぶんと汚い手ぬぐいだな。
破れたとこから日が頭に当たっているぞ。
ようし、俺も江戸の宗匠だ。お前を弟子と思ってこの新しい手ぬぐいをやろう」

馬子 「こりゃありげてえこった。
新しい手ぬぐいなんぞ被るのは何年ぶりかのう。宗匠さんよぉ、今までのは冗談ばっかしの発句だったが、今度は本当の発句を一つやっておくんなせえ」

旅人 「はははっ、そうか、このあたりはいい景色だから一つ詠んでみるか」

馬子 「おぉ、もう山の上の方も紅葉で染まってきたから、紅葉で詠んでおくんなせえ」

旅人 「紅葉なんてのは陳腐な題だがまあいいだろう。"奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき"とこんなもんか」

馬子 「へぇ~、こりゃあ確かにえれえ宗匠だ。句も歌も詠むところなんぞはさすがに江戸の宗匠だ」、すっかり見抜いて馬鹿にしている。
そこへ仲間の吾作が馬に重い荷を背負わせてすれ違った。

吾作 「おや、客人さ乗せて新しい手ぬぐい被ってええこった。
俺たち仲間には祭りでもなければそんなもん被らねえだ。その手ぬぐい、あまっ子か、狐か狸にでも貰ったか?」

馬子 「なあに、馬の上にいる猿丸太夫だ」


落語用語解説

この噺をより深く理解するための用語解説です。

  • 猿丸大夫(さるまるだゆう) – 平安時代の歌人。三十六歌仙の一人で、百人一首では「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき」の作者として知られています。
  • 運座(うんざ) – 俳句を詠み合う会のこと。江戸時代には庶民の間でも流行し、宿場町でも盛んに行われていました。
  • 鉢叩き(はちたたき) – 念仏を唱えながら鉢を叩いて物乞いをする人のこと。旅人はこれを知らず「かっぽれ一座」と間違えます。
  • 山梔子(くちなし) – クチナシの花のこと。実に口がないことから「口無し」と呼ばれます。発句の題としてよく使われました。
  • 善光寺詣り(ぜんこうじまいり) – 長野県の善光寺への参詣。「一生に一度は善光寺詣り」と言われるほど、江戸時代の庶民に人気がありました。
  • 馬子(まご) – 街道で旅人を馬に乗せて運ぶ人夫。この噺では教養ある馬子が都会人を皮肉る役回りです。

よくある質問(FAQ)

Q: オチの「馬の上にいる猿丸太夫」はどういう意味ですか?
A: 二重の意味があります。一つは「馬に乗った猿(旅人を馬鹿にした言い方)」、もう一つは「猿丸大夫の歌を盗作した偽者」という意味です。旅人が得意げに詠んだ歌が、実は百人一首で有名な猿丸大夫の作であることを馬子は見抜いており、皮肉を込めて言っています。

Q: 旅人は本当に発句の宗匠だったのですか?
A: いいえ、全くの嘘です。旅人は「今芭蕉」と名乗りますが、詠む句はどれもでたらめで、発句の基本も知りません。田舎の馬子を馬鹿にしようとして、逆に自分の無知を露呈してしまいます。

Q: 「春雨」と「鮫」を間違えたのはなぜ面白いのですか?
A: 「春雨」という題に対して、旅人は「春の鮫」と詠みました。馬子が「魚の鮫ではない」と指摘すると、旅人は「雨が降ると鮫が出る」と言い訳します。春雨(はるさめ)と鮫(さめ)の音の類似を利用した勘違いで、旅人の無教養さを示しています。

Q: 現代でも演じられていますか?
A: はい、知ったかぶりが失敗するという普遍的なテーマの噺として、現在も多くの落語家によって演じられています。百人一首の知識があると、オチがより楽しめます。

Q: 馬子は最初から旅人の嘘を見抜いていたのですか?
A: はい、馬子は最初から旅人が宗匠ではないことを見抜いていたと考えられます。「へぇ~、こりゃあ確かにえれえ宗匠だ」という台詞は皮肉であり、最後のオチで旅人をやり込めるための伏線になっています。

名演者による口演

この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。

  • 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。旅人の見栄っ張りな性格と、馬子の皮肉を見事に演じ分けました。
  • 古今亭志ん生(五代目) – 独特のとぼけた味わいで、旅人のでたらめな発句を絶妙に演じました。
  • 柳家小さん(五代目) – 人間国宝。田舎の風景描写と、馬子と旅人の掛け合いが秀逸でした。
  • 桂文楽(八代目) – 品格ある語り口で、旅噺の情緒を丁寧に描きました。

関連する落語演目

同じく「道中・旅」をテーマにした古典落語

【古典落語】三人旅 あらすじ・オチ・解説 | 尼さん婆を買わされた半ちゃんの珍道中
三人旅は江戸っ子三人組の京見物道中記。朝這い、馬子との掛け合い、宿場での珍騒動、最後は飯盛女を巡る騙し合いで半ちゃんが尼さん婆を買わされる爆笑の古典落語。
【古典落語】大山詣り あらすじ・オチ・解説 | 酒乱熊五郎の大復讐!女房たちを全員尼さんにした痛快仕返し劇
大山詣りは、酒癖の悪い熊五郎が大山参りで喧嘩して坊主にされるが、『船が転覆してみんな溺死』と嘘をついて女房たちを全員尼さんにする復讐劇。『お毛が(怪我)なかった』という地口オチが絶妙な江戸時代から演じられる古典落語の名作。
【古典落語】七度狐 あらすじ・オチ・解説 | 化かし狐の七つの復讐
喜六と清八を七度化かす復讐狐の話。古典落語「七度狐」のあらすじとオチを詳しく解説。麦畑を川に見せかけ、山寺での恐怖体験から大根オチまで。

「知ったかぶり・見栄」がテーマの古典落語

千早振る 落語|あらすじ・オチ「そのくらい負けておけ」意味を完全解説
古典落語「千早振る」のあらすじとオチを解説。娘から百人一首の「千早ふる」の意味を聞かれた金さんが、横町の自称物知りの隠居に教えてもらいに行く。隠居が龍田川という相撲取りと千早太夫の悲恋物語として無理やり解釈し、最後の『とは』を聞かれると『そのくらい負けておけ』と武切な答えで誤魔化したオチが絶妙な長屋噺をお伝えします。
転失気 落語|あらすじ・オチ「ブウブウ文句を言う」意味を完全解説【知ったかぶり】
【5分でわかる】転失気のあらすじとオチを完全解説。知ったかぶりの和尚が「転失気(屁)」を盃と勘違いして大恥。「ブウブウ文句を言う」の意味とは?
粗忽長屋 落語|あらすじ・オチ「抱いてる俺は誰だろう」意味を完全解説
【5分でわかる】粗忽長屋のあらすじとオチを完全解説。行き倒れを熊五郎の死体と勘違いし本人も信じ込む!「抱いてる俺は誰だろう」オチの意味とは?シュールな勘違い傑作。

「言葉遊び・地口」が秀逸な古典落語

青菜 落語のあらすじ・オチ「弁慶」の意味を解説|夏の定番・言葉遊びの傑作
【青菜 落語 あらすじ】「菜を食ろう判官」「義経」の粋な隠言を植木屋が真似したら「弁慶」と答えてしまう爆笑オチ!青菜の落語のあらすじとオチの意味を詳しく解説。夏の定番古典落語。
三方一両損 落語|あらすじ・オチ「たった一膳(越前)」意味を完全解説
【5分でわかる】三方一両損のあらすじとオチを完全解説。大岡越前の粋な裁きで三人とも一両ずつ損。「たった一膳(越前)」の意味とは?
寿限無 落語|あらすじ・オチ「こぶが引っこんじゃった」意味を完全解説【超長い名前】
【5分でわかる】寿限無のあらすじとオチを完全解説。熊さんが和尚から教わった縁起の良い名前を全部つけて超長い名前に。「こぶが引っこんじゃった」の意味とは?

この噺の魅力と現代への示唆

「猿丸太夫」の魅力は、知ったかぶりが墓穴を掘るという普遍的なテーマにあります。旅人は都会人であることを鼻にかけ、田舎の馬子を見下してからかいますが、実は馬子の方が教養があり、最後に皮肉られてしまいます。

現代のSNS時代でも、知ったかぶりや見栄を張った発言が後で恥をかく原因になることは珍しくありません。「今芭蕉」と大言壮語した旅人が、百人一首という誰もが知っている和歌を自作と偽る姿は、インターネット上での虚偽の自己紹介や盗作問題にも通じるものがあります。

また、田舎者を馬鹿にした都会人が逆にやり込められるという構図は、「見かけで人を判断してはいけない」という教訓を含んでいます。馬子は黙って旅人の嘘を聞き流し、最後の一言で鮮やかに皮肉る。この「勝負は最後」という姿勢も、落語が教えてくれる知恵の一つです。

実際の高座では、旅人のでたらめな発句と、それを冷静に聞く馬子の対比が見どころです。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。


関連記事もお読みください

タイトルとURLをコピーしました