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【古典落語】猿後家 あらすじ・オチ・解説 | 楊貴妃が「ようひひ」?猿顔コンプレックスの傑作失言劇

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話芸の殿堂-古典落語-猿後家
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猿後家

3行でわかるあらすじ

猿顔にコンプレックスを持つ後家さんに取り入って小遣い稼ぎをしている太兵衛。
伊勢参りから帰って「猿沢の池」と口を滑らせて後家さんを激怒させてしまう。
謝罪で楊貴妃に例えようとしたが「ようひひ」と猿の鳴き声のように言ってしまう。

10行でわかるあらすじとオチ

川上屋の後家さんは猿顔で、店では「サル」という言葉は禁句になっている。
太兵衛は後家さんにおべっかを使って小遣いをもらう生活をしている。
伊勢参りに行き、餞別までもらって帰ってきた太兵衛。
土産話の最中、うっかり「猿沢の池」と言ってしまい後家さんが激怒。
番頭から前任の又兵衛の失敗と挽回方法を聞く。
又兵衛は美人の錦絵を持参して許されたが、また失言した話を聞く。
番頭から古今東西の美女の名前を教わった太兵衛が謝罪に向かう。
「さむそうの池」と言い間違いだったとごまかして許してもらう。
後家さんを美女に例えようと楊貴妃の名前を出そうとするが、
「ようひひ」と猿の鳴き声のように言ってしまい、また失敗するオチ。

解説

「猿後家」は、コンプレックスを題材にした人間の心理を巧みに描いた古典落語です。猿顔という容姿へのコンプレックスが、周囲の人間関係まで歪めてしまう様子を風刺的に描いています。

この噺の妙味は、太兵衛の二度の失言にあります。最初の「猿沢の池」は純粋な失言ですが、二度目の「ようひひ」は、緊張のあまり最も言ってはいけない猿の鳴き声のような発音をしてしまうという皮肉な展開です。楊貴妃という中国の絶世の美女の名前が、「ようひひ」という猿の鳴き声に変わってしまうところに、落語特有の言葉遊びの面白さがあります。

また、又兵衛のエピソードが伏線として効いており、「同じ失敗を繰り返す」という人間の愚かさも描かれています。コンプレックスに過敏になるあまり、かえってそれを引き寄せてしまうという心理的な真理も含まれた、奥深い作品です。

あらすじ

顔が猿にそっくりで猿後家とあだ名されている、川上屋という大店の後家さん。
当人はひどく気にしていて、店では「サル」とつく言葉は禁句になっている。

この店に出入りしている太兵衛という男、後家さんに取り入り、べんちゃらを並べて機嫌を取るのが上手いので気に入られている。
今日も後家さんの部屋で、大津絵の藤娘そっくりだなんて言って後家さんを喜ばせて、酒、肴のご馳走を振舞われている。
太兵衛がしばらく町内の若旦那連中と伊勢参りに行ってくると言うと、後家さんはさびしがり、早く帰るようにと餞別を与え、店の者からも無理やり餞別を出させる。

伊勢参りから帰った太兵衛が店に来る。
みやげ話をしている時、奈良の町の様子を話しているうちにうっかり「猿沢の池」と口をすべらせた。
これを聞いた後家さん、かんかんに怒り、太兵衛に煮え湯を浴びせて、店からつまみ出せという騒ぎだ。

番頭から今日のところは家に帰れと言われた太兵衛だが店の出入りを差し止めになると、後家さんをほめて収入を得ている生活の算段がつかなくなるので、なんとか取りなしてもらおうと番頭に願い出る。

番頭は太兵衛の前に後家さんに取り入っていた又兵衛という男の話をする。
又兵衛は、うっかり「さるお家に・・・」と言ってしくじったが、数ヶ月たって美人の錦絵を持ってきて、あなたによく似たこの錦絵を家の壁に張り、毎日お詫びを申していますというと、後家さんはたちまち機嫌が直った。
ただ、この後、「ご当家をしくじったら木から落ちた猿も同じでございます」と言ってまたしくじってしまったのだが。

これを聞いた太兵衛は、番頭から古今東西の美女の名前を教わり、さっそく後家さんのところへ行く。
怒っている後家さんに、さっきは「さむそうの池」といったのだとごまかすと、

後家さん 「そうかい、わたしの聞きようが悪かったんや。堪忍してや」

太兵衛 「いいえ、どういたしまして。ところでお家はんを昔の美女にたとますと、わが朝の日本では小野小町、照手姫か衣通姫、唐土(もろこし)では、玄宗皇帝の想い者で・・」

後家さん 「玄宗皇帝の想い者で、一体、誰に似ているというのや」

太兵衛 「ようひひ(楊貴妃)に似てござります」


落語用語解説

この噺をより深く理解するための用語解説です。

  • 後家(ごけ) – 夫に先立たれた未亡人のこと。この噺では大店を切り盛りする女主人として描かれています。
  • 猿沢の池 – 奈良にある有名な池。興福寺の五重塔が水面に映る景勝地として知られています。「猿沢」という地名に「猿」が含まれているため、後家さんの逆鱗に触れてしまいました。
  • 大津絵(おおつえ) – 滋賀県大津の追分で売られていた民衆絵画。藤娘は美人画の代表的な図柄で、後家さんを美女に例える太兵衛のお世辞に使われています。
  • 楊貴妃(ようきひ) – 中国唐代の玄宗皇帝の寵姫。世界三大美女の一人とされる絶世の美女です。
  • べんちゃら – お世辞、おべっかのこと。太兵衛が後家さんの機嫌を取るために並べる甘い言葉を指します。
  • しくじる – 失敗する、出入り禁止になることを指す言葉。

よくある質問(FAQ)

Q: オチの「ようひひ」は何を意味していますか?
A: 楊貴妃(ようきひ)と言おうとして、緊張のあまり「ようひひ」と猿の鳴き声のような発音になってしまったという設定です。最も言ってはいけない「猿」を連想させる言葉を言ってしまうという皮肉な展開がオチのポイントです。

Q: なぜ「猿」という言葉が禁句なのですか?
A: 後家さんが猿に似た顔をしていて、そのことを強くコンプレックスに思っているからです。店の者は「去る」「猿沢」など、猿を連想させる言葉を一切使わないよう気を配っています。

Q: 又兵衛のエピソードは何の役割がありますか?
A: 伏線として、同じパターンの失敗が繰り返されることを予告しています。又兵衛も一度許されたのに再び失言してしまった。太兵衛も同じように、許された直後に「ようひひ」と失言してしまうという構成です。

Q: 現代でも演じられていますか?
A: はい、コンプレックスと失言という普遍的なテーマを扱った噺として現在も多くの落語家によって演じられています。「言ってはいけない言葉をつい言ってしまう」という心理は時代を超えて共感を呼びます。

Q: 後家さんは本当に猿に似ていたのですか?
A: 落語の中では「猿にそっくり」と設定されていますが、実際の高座では演者の解釈によって様々です。後家さんが過敏に気にしすぎているという解釈もあり、コンプレックスの怖さを描いているとも言えます。

名演者による口演

この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。

  • 桂米朝(三代目) – 人間国宝。上方落語の名手として、後家さんのコンプレックスと太兵衛の狼狽を見事に演じ分けました。
  • 桂枝雀(二代目) – 独特の爆発的な笑いで、太兵衛の失言場面を大爆笑に導きました。
  • 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。後家さんの心理描写が繊細で、人間の愚かさを愛嬌たっぷりに演じました。
  • 桂文珍 – 現代的な間とテンポで、失言の瞬間の「間」が絶妙です。

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この噺の魅力と現代への示唆

「猿後家」の魅力は、人間のコンプレックスと、それを巡る周囲の人々の振る舞いを風刺的に描いている点にあります。後家さんは「猿」という言葉を禁句にすることで、かえって周囲の緊張を高め、失言を誘発してしまいます。これは現代のタブーや禁句にも通じる心理です。

また、太兵衛が「ようひひ」と言ってしまう場面は、「言ってはいけないと思うほど、つい言ってしまう」という人間心理を見事に表現しています。緊張すればするほど失敗する、という経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

さらに、又兵衛と太兵衛が同じパターンで失敗を繰り返すことは、「人は同じ過ちを繰り返す」という普遍的な真理を示しています。他人の失敗を見ても、自分は同じことをしないとは限らないのです。

実際の高座では、後家さんの機嫌が直った瞬間から「ようひひ」への急転直下が見どころです。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。


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