皿屋敷
3行でわかるあらすじ
番町皿屋敷のお菊の幽霊を見に行った町内の連中が、美人のお菊に魅了されて通い詰める。
興行師が見世物にしたところ大人気となり、お菊も客を意識して演技が大げさになっていく。
ある夜、9枚のはずの皿を18枚まで数えたお菊は「明日休みだから」と2回分働いたという。
10行でわかるあらすじとオチ
隠居から番町皿屋敷にお菊の幽霊が出ると聞いた男が、町内の連中を誘って見物に行く。
9枚まで聞くと狂い死にするというので、6枚で逃げる算段を立てる。
丑三つ時に現れたお菊は絶世の美女で、皿を数え始めると皆見とれてしまう。
6枚で慌てて逃げ出すが、美人のお菊をまた見たくなり翌日も見に行く。
噂が広まり、興行師が10日間の見世物興行を始めると大盛況となる。
お菊も客を意識して演技が大げさになり、幽霊らしさが失われていく。
ある夜、混雑で逃げ遅れた見物人の前で、お菊は9枚を超えて18枚まで数える。
驚いた連中が理由を問い詰めると、お菊は酔っ払っていた。
「皿は9枚と決まっている」と抗議する連中に対して、お菊は答える。
「だから分からないかね、明日お休みなんだよ」というオチ。
解説
「皿屋敷」は、有名な番町皿屋敷の怪談を題材にした古典落語です。本来恐ろしいはずの怪談を、お菊が美人だったことから始まる人間の俗っぽさと、最後は労働者の休み前の心理という現実的な話に転換させる構成が秀逸です。
番町皿屋敷は、播州姫路や江戸番町に伝わる有名な怪談で、主家の家宝の皿を割った(または紛失した)罪で殺された女中お菊が、毎夜井戸から現れて皿を数えるという話です。この落語では、その恐怖譚を逆手に取り、お菊が人気者になって見世物興行になるという展開が面白さを生んでいます。
オチの「明日休みだから」は、休み前に2日分の仕事を片付けるという、現代でも通じる労働者の心理を描いています。幽霊も労働者として休みを取るという発想の転換が絶妙で、恐怖の対象だったお菊を親しみやすい存在に変えています。酔っ払っているという設定も、休み前の開放感を表現していて効果的です。
あらすじ
町内の隠居から番町の皿屋敷に今でもお菊の幽霊が出るという話を聞いた男。
お菊が皿を数えるのを9枚まで聞くと、狂い死にし、8枚でも熱病に犯されるという。
男は町内の脳天気な連中を誘い、お菊の幽霊を見に行くことにする。6枚まで数えたところで逃げ出す算段だ。
丑三つ時の鐘がなると、井戸からお菊さんが現れて、「一枚~、二枚~・・・」と、皿を数え始める。
見るとこれが飛びっ切りのいい女だ。
見とれているうちに6枚になり。
全員一目散で逃げ出す。
連中は恐い思いをしたが、いい女のお菊さんをまた見たくてたまらず次の日も見に行く。
この噂が、噂を呼びお菊さんは人気者になる。
これに目をつけた興行師がお上の許しを得て10日間の興行を始めた。
毎日大勢の見物人が来るのでお菊さんも客の目を意識して幽霊の仕草がわざとらしく、臭くなってくる。
今まではただで見ていた町内の連中は、見物料を取られ面白くないが今夜も見に行く。
待ってましたの声と拍手で、お菊さんが登場する。
皿を1枚、2枚を数えはじめ6枚のところで見物人は一斉に逃げ出すが、混んでいてなかなか前へ進まない。
お菊さんは7枚、8枚と数えていく、ついに9枚まで来てしまった。
ここでお終いのはずが、10枚、11枚とまだ皿を勘定している。
ついに18枚まで数えてしまった。
これを聞いた連中が、お菊さんになぜ18枚まで数えたんだと詰め寄る。
お菊さん「何枚数えようとこっちの勝手だろ」
よく見るとお菊さんは酔っ払っている。
なおも連中が皿は9枚に決まっているんだと問い詰めると、
お菊さん 「だから、わかんないかね、あしたお休みなんだよ」
落語用語解説
この噺をより深く理解するための用語解説です。
- 番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき) – 江戸番町に伝わる有名な怪談。主家の家宝の皿を割った罪で殺された女中お菊が、毎夜井戸から現れて皿を数えるという話。播州姫路にも同様の伝説があります。
- 丑三つ時(うしみつどき) – 午前2時から2時30分頃を指す時刻。幽霊が出るとされる時間帯で、怪談ではお約束の設定です。
- 興行師(こうぎょうし) – 見世物や芝居などの興行を企画・運営する人。この噺では幽霊見物を商売にしてしまう抜け目なさが描かれています。
- お上(おかみ) – 幕府や奉行所のこと。興行には許可が必要でした。
- 見世物(みせもの) – 江戸時代の娯楽の一つ。珍しいものや奇異なものを見せて料金を取る興行でした。
よくある質問(FAQ)
Q: 番町皿屋敷は実話ですか?
A: 番町皿屋敷は江戸時代から伝わる怪談で、実在のモデルがいたとされていますが、詳細は不明です。播州姫路の皿屋敷伝説と江戸番町の伝説があり、歌舞伎や講談でも有名になりました。落語はこの怪談を滑稽噺に転換しています。
Q: なぜ9枚まで聞くと狂い死にするのですか?
A: 怪談の設定では、お菊は10枚あった皿のうち1枚を割った(または紛失した)罪で殺されました。9枚まで数えても10枚目がないことを確認する瞬間が最も恐ろしいとされ、それを聞いた者は呪われるという設定です。
Q: オチの「明日休みだから」はどういう意味ですか?
A: 現代の労働者が休み前に2日分の仕事を片付けるのと同じ発想です。お菊は毎晩9枚数える「仕事」を、休み前だから18枚(2日分)まとめてやったということ。幽霊にも休日があるという発想の転換が笑いのポイントです。
Q: 現代でも演じられていますか?
A: はい、怪談噺を滑稽噺に転換した傑作として、現在も多くの落語家によって演じられています。特に夏の怪談シーズンに人気があります。
Q: お菊が人気者になった理由は?
A: 噺の中ではお菊が「飛びっ切りのいい女」つまり絶世の美女だったからです。怖いはずの幽霊を見に行った男たちが、美人のお菊に魅了されて通い詰めるという展開が笑いを誘います。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三遊亭圓生(六代目) – 昭和の名人。怪談の雰囲気を残しながらも、オチへの転換が見事な高座でした。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 江戸前の粋な語り口で、お菊の色気と酔っ払いぶりを絶妙に演じ分けました。
- 柳家小三治 – 現代の名人として、日常感覚を活かしたお菊の描写が観客の共感を呼びました。
- 立川談志 – 独自の解釈を加え、お菊の労働者としての悲哀をユーモラスに描いた高座でした。
関連する落語演目
同じく「幽霊・怪談」を題材にした古典落語



「怪談を笑いに転換」した古典落語



「見世物・興行」が登場する古典落語



この噺の魅力と現代への示唆
「皿屋敷」の魅力は、恐怖の対象だった幽霊を親しみやすい存在に変えてしまう発想の転換にあります。怪談として語り継がれてきたお菊が、美人だから見に行く、人気が出たから興行にする、という人間の俗っぽさが笑いを誘います。
また、オチの「明日休みだから2日分働いた」という発想は、現代のサラリーマンにも通じる心理です。連休前にまとめて仕事を片付けたい、休み前は少し気が緩む、という感覚は時代を超えて共感できます。幽霊にも労働と休日があるという設定は、どんな存在でも働く者の苦労は同じという普遍性を感じさせます。
お菊が酔っ払っているという設定も効果的です。休み前の開放感で一杯やってしまう、という庶民の日常が、幽霊という非日常的な存在に重ねられることで、笑いが生まれています。
実際の高座では、怪談らしい雰囲気の前半から、オチに向けての滑稽な転換が見どころです。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。


