さんま芝居
3行でわかるあらすじ
江戸から旅に出た二人連れが、漁村でサンマを食べた後、田舎の芝居見物に出かける。
幽霊の登場場面で煙がなく、代わりにサンマを焼く煙を使うと生臭い匂いが漂う。
「サンマの幽霊」と野次った客に、役者が「その大根おろして、早く晩飯が食いたい」と返す。
10行でわかるあらすじとオチ
江戸から旅に出た二人連れが漁村の宿屋に泊まる。
夕食にサンマと大根おろしをたらふく食べ、腹ごなしに村祭りの芝居見物へ。
田舎の粗末な芝居小屋で、大根役者による「蔦紅葉宇都谷峠」が上演される。
文弥が幽霊となって花道から登場する場面で、煙を出す花火を忘れたことが判明。
困った道具方は、一座の晩飯用に焼いているサンマの煙を団扇で舞台へ送る。
ドロンドロンと幽霊が出てくるが、生臭い匂いが場内に漂う。
田舎の観客は「幽霊が出る時は生臭い風が吹く」と感心している。
二人連れは馬鹿馬鹿しさに「サンマの幽霊」「日本一の大根」と野次を飛ばす。
すると幽霊役の役者が舞台から反撃の一言。
「その大根おろして、早く晩飯が食いたい」とサンマと大根を絡めたオチとなる。
解説
さんま芝居は、食べ物と芝居を巧みに組み合わせた作品である。
「大根役者」という演技の下手な役者を指す言葉と、実際に食べた大根おろしを掛け合わせている。
幽霊の登場に欠かせない煙の代用品としてサンマの煙を使うという発想が秀逸。
田舎の人々の純朴さと、江戸っ子の皮肉な視点の対比も見どころの一つ。
オチは役者が客の野次に対して機転を利かせて返す構成で、サンマ・大根・晩飯と食べ物づくしになっている。
三遊亭金馬(四代目)が得意とした演目として知られる。
あらすじ
江戸から旅に出た二人連れ、ある漁村の宿屋へ泊る。
獲れたて焼きたてのサンマにおろし立ての大根おろしをたっぷりかけて晩飯をたらふく食べ、二階から表を眺めていると、村人がぞろぞろと歩いて行く。
宿の女中に聞くと、今日は村の鎮守の祭りで、芝居小屋で江戸からの役者の芝居がかかると言う。
寝るまでの退屈しのぎ、腹ごなしに、田舎で江戸の役者を見るのも一興と二人はぶらぶらと芝居見物に出かける。
芝居小屋とは名ばかりなお粗末なもの、役者もどさ回りの旅芸人で、江戸の役者にはほど遠い大根役者だ。
二人は大根は晩飯で食べ過ぎてゲップが出そうだが、村人は満足そうに見物している。
今日の出し物は、「蔦紅葉宇都谷峠」の文弥殺しの場だ。
いよいよ伊丹屋十兵衛に百両奪われ殺されて谷底へ突き落された文弥が、幽霊となって花道から登場する場面で、場内は静まり返って見ているが、なかなか幽霊が出て来ない。
煙がないから出られないのだ。
道具方が煙用の花火を買うのを忘れたらしい。
幽霊の役者が、「早く、煙を出せ、出られねぇじゃねえか」と花道でウロウロ。
一座は芝居がはねた後が遅い晩飯で、外でたくさんのサンマを焼いている。
仕方なくこの煙で幽霊を出そうと、団扇(うちわ)でパタパタと舞台の方へ扇ぎ始めた。
やっと煙が出て、ドロンドロンと幽霊のお出ましかと見ていると、やけに生臭い匂いが漂って来た。
見物客 「こらぁ、生臭え煙だんべ」、「幽霊が出る時は生臭え風が吹くもんでぇ、さすが江戸の役者の芸は細けぇ」と、やっぱり田舎の人は人がいい。
これを見ていた二人連れ、あまりの馬鹿馬鹿しさに、「やいやい、サンマの幽霊、生臭幽霊、うらめしいとでも言って見ろ、日本一の大根~大根~」
幽霊の役者 「その大根おろして、早く晩飯(ばんめし)が食いたい」
落語用語解説
- 大根役者(だいこんやくしゃ) – 演技の下手な役者のこと。「当たらない(あたりが悪い)」ことと、大根は「食あたりしない」ことを掛けた言葉遊びとされています。
- 蔦紅葉宇都谷峠(つたもみじうつのやとうげ) – 歌舞伎の演目。文弥が百両を奪われて殺される場面が有名で、文弥の幽霊が登場する怪談仕立ての芝居です。
- 花道(はなみち) – 歌舞伎で舞台から客席を通って設けられた通路。役者の登場や退場に使われ、重要な演技が行われる場所です。
- 団扇(うちわ) – 風を起こす道具。この噺では、サンマの煙を舞台に送る道具として使われています。
- どさ回り – 地方を巡業する旅芸人のこと。都会の劇場に出られない三流の役者を指す言葉でもあります。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ幽霊の登場に煙が必要なのですか?
A: 歌舞伎や芝居では、幽霊が登場する際に煙や霧を使って神秘的な雰囲気を演出します。当時は火薬を使った花火で煙を出していました。
Q: サンマの煙で幽霊を出すのは本当にあったのですか?
A: これは落語の創作ですが、貧しい地方の芝居小屋では道具が不足し、様々な工夫をしていたことは事実です。この噺はそうした状況を誇張して笑いにしています。
Q: 最後のオチの意味は?
A: 「大根役者」と野次られた役者が、「その大根おろして晩飯が食いたい」と返すことで、二重の意味を持たせています。サンマの煙が出ているので大根おろしがあれば一緒に食べられるという意味と、「大根役者」という言葉を実際の大根に読み替えた言葉遊びです。
名演者による口演
この噺を得意とした・している落語家をご紹介します。
- 三遊亭金馬(四代目) – この噺を十八番としていました。軽妙な語り口で、田舎芝居の様子を生き生きと演じました。
- 古今亭志ん朝(三代目) – 明瞭な語り口で、役者と観客の掛け合いを美しく聞かせました。
- 柳家小三治 – 人間国宝。田舎の人々の純朴さと江戸っ子の皮肉を繊細に表現します。
関連する落語演目
同じく「芝居」がテーマの古典落語


食べ物ネタの古典落語


田舎と江戸の対比を描く古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「さんま芝居」は、食べ物と芝居を巧みに組み合わせた作品です。「大根役者」という言葉と実際の大根おろしを掛け合わせ、さらにサンマの幽霊という突飛な発想を加えた、多層的な言葉遊びが秀逸です。
田舎の人々が「幽霊が出る時は生臭い風が吹く」と感心する場面は、純朴さと無知を同時に表現しています。一方、江戸から来た二人連れは「サンマの幽霊」「日本一の大根」と野次を飛ばし、都会人の優越感を示します。
しかし最後に役者が「その大根おろして、早く晩飯が食いたい」と返すことで、形勢が逆転します。これは野次に対する機転の利いた返しであり、同時にサンマと大根おろしという食べ合わせの良さを思い起こさせる、粋なオチです。
現代でも、地方と都会の文化の違いや、演劇の現場でのハプニングは普遍的なテーマです。この噺は、そうした違いを笑いに転換する落語の力を示しています。
実際の高座では、演者によって幽霊の登場場面の演出が異なり、煙が舞台に流れる様子を仕草で表現する技量が見どころです。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。


