さんでさい
3行でわかるあらすじ
お人好しの甚兵衛が妻の留守中に悪友の熊公と源公に騙されて博打場を提供する。
イカサマのサイコロを使った博打で全財産を奪われ、親父の形見まで持っていかれる。
大家に「三で賽(サイ)を取られた」と訴えるが「産で妻を取られた」と聞き違えられる。
10行でわかるあらすじとオチ
髪結いの甚兵衛はぐずでお人好し、妻は出産で実家に帰っている。
亡くなった父親から博打は絶対にするなと遺言されていた。
悪友の熊公と源公が甚兵衛を騙して金品を巻き上げる計画を立てる。
旦那衆が博打をするから奥座敷を貸してくれと頼み込む。
甚兵衛を胴親にして博打を始めるが、使うのはイカサマのサイコロ。
どう振っても三しか出ないサイコロで熊公たちは大儲け、甚兵衛は大損。
熊公たちはわざと喧嘩を始めて場を混乱させる。
どさくさに紛れて全財産と親父の形見の象牙のサイコロまで奪って逃走。
甚兵衛が大家に「三で賽(サイ)を取られた」と泣きつく。
大家は「産で妻を取られた」と聞き違え、テラ銭を寺と勘違いして大騒動になる。
解説
「さんでさい」は、聞き違いによる言葉遊びが秀逸な古典落語の名作です。タイトルの「さんでさい」自体が「三で賽」という博打用語と「産で妻」という聞き違いの両方を表現している巧妙な作りになっています。
この噺の見どころは、お人好しの甚兵衛のキャラクター設定と、悪友たちの狡猾な手口の対比です。イカサマのサイコロという小道具を使った騙しの手口も実に巧妙で、江戸時代の庶民の生活感がよく表れています。
オチは二重の聞き違いで構成されており、「三で賽(サイ)」を「産で妻」と聞き違え、さらに「テラ銭」を「寺」と勘違いするという言葉遊びの連鎖が笑いを誘います。博打の専門用語と日常語の音の類似を利用した、日本語ならではの洒落が効いた作品です。
あらすじ
髪結いの亭主の甚兵衛さん。
ぐずでうすのろ、おまけにお人良しなのでいつも女房に世話、面倒をかけ、女房の言いなりで頼り切っている。
その女房はお産で実家に帰っている。
こんな甚兵衛さんを心配して、博打の名人でチョボ一の亀と恐れられていた親父は死ぬ間際に、「決して勝負事には手を出すな」と、きつく戒めて世を去った。
甚兵衛の女房の留守を幸いに町内のワルの熊公と源公が、甚兵衛を博打でだまして金品を巻き上げようとの悪だくみをする。
熊公 「金持ちの旦那方がなぐさみに勝負事をするんで、奥座敷を貸してくれ。テラ(寺)銭はウンと出すから頼むよ」
甚兵衛 「そんなことが女房に知れたら追い出されてしまう」
源公 「夜中にこっそり集まって静かに勝負をするだけで、誰にも気づかれる心配なんぞありゃしねえよ」、と二人からしつこくせがまれるので、人のいい甚兵衛さんは仕方なく承知してしまった。
熊公と源公は不良仲間を旦那に仕立てて甚兵衛の家に行き、
熊公 「もう一人の旦那が来れなくなっちまった。すまねえが甚兵衛さん、胴を取ってくれ」、親父からの博打禁止の遺言はあるが、胴親がもうかることぐらいは百も承知の甚兵衛さん、欲に目がくらんで博打に手を出してしまった。
源公たちはどう振っても必ず三が出るイカサマのサイコロを振らせて勝負する。
むろん三にばかり張って大儲け。
胴親の甚兵衛はつぶれて大損だ。
そのうちに熊公たちはなれ合いのイカサマ喧嘩を始めた。
止めに入った甚兵衛さんを巻き込んで、どさくさ紛れに場の銭、テラ銭、さらに箪笥から金と親父の形見の象牙のサイコロまで、みんなかっさらって逃げてしまった。
甚兵衛さんは子どもみたいに大声を上げて泣き出してしまった。
その声を聞きつけた大家が駆けつけて、
大家 「どうしたんだ甚兵衛さん、泣いてたんじゃわからんじゃないか」
甚兵衛 「大家さん、大変だ、三で賽(サイ)を取られてしまいました」
大家 「なに、産で妻を取られた。
そりゃあ大変だ。して、寺はどこだ」
甚兵衛 「ああ、テラ(銭)は源さんが持って行きました」
落語用語解説
- テラ銭(てらせん) – 博打の胴元が場代として取る手数料。寺銭とも書き、音が「寺」と同じなのでこの噺のオチに使われています。
- 胴親(どうおや) – 博打の主催者、場を仕切る人。参加者から場代(テラ銭)を取る代わりに場所を提供します。
- チョボ一(ちょぼいち) – 博打で常に勝ち続ける達人を指す言葉。甚兵衛の父親がこう呼ばれていました。
- 髪結い(かみゆい) – 髪を結う職業。江戸時代の理髪師にあたります。甚兵衛の妻がこの仕事をしていました。
よくある質問(FAQ)
Q: なぜ「三で賽」と「産で妻」が聞き違えられたのですか?
A: 日本語の音の類似性を利用した言葉遊びです。「さんでさい」という音が「三で賽(サイコロ)」と「産(お産)で妻」の両方に聞こえることを利用しています。
Q: イカサマのサイコロは本当に存在したのですか?
A: はい、実際に細工されたサイコロは存在しました。重心をずらして特定の目が出やすくする手口は、江戸時代から行われていたイカサマの手法です。
Q: なぜ甚兵衛は簡単に騙されたのですか?
A: 甚兵衛は「ぐずでうすのろ、お人好し」という設定で、妻に頼り切りの性格です。妻の留守中という弱みに付け込まれ、さらに胴親なら儲かると欲に目が眩んだため騙されました。
名演者による口演
- 古今亭志ん朝(三代目) – 明瞭な語り口で甚兵衛の愚かさと悪友たちの狡猾さを見事に演じ分けました。
- 柳家小三治 – 人間国宝。甚兵衛の純朴さを温かく描き、オチの言葉遊びをキレよく決めます。
- 春風亭一朝 – テンポの良い語り口で、博打の場面を臨場感たっぷりに演じます。
関連する落語演目
同じく「聞き違い」がオチの古典落語



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お人好しが騙される古典落語


この噺の魅力と現代への示唆
「さんでさい」は、聞き違いによる言葉遊びの妙が光る傑作です。タイトル自体が「三で賽」と「産で妻」の両方を表現している巧妙な作りになっており、最後まで聞かないとオチの仕掛けがわからない構成が見事です。
お人好しの甚兵衛が悪友に騙される展開は、現代でも「詐欺に遭う善良な人」という普遍的なテーマとして共感を呼びます。欲に目が眩んで父親の遺言を破ってしまう人間の弱さも、リアルに描かれています。
実際の高座では、演者によって甚兵衛のお人好しぶりや悪友たちの狡猾さの表現が異なり、それぞれの個性が楽しめます。機会があれば、ぜひ生の落語会や動画配信でお楽しみください。


