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【古典落語】落語家の兵隊 あらすじ・オチ・解説 | 軍隊で落語披露!金語楼の天然ボケが上等兵を翻弄

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話芸の殿堂-古典落語-落語家の兵隊
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落語家の兵隊

3行でわかるあらすじ

夜に靴を磨く二等卒の柳家金語楼が軍隊批判の歌を歌っているところを上等兵に見つかる。
上等兵が落語を披露しろと命令するが、金語楼は忠臣蔵や軍神の話を知らないと答える。
一般的な落語を始めるが、登場人物の詳細を聞かれて「それが分からない」と天然ボケで答える。

10行でわかるあらすじとオチ

夜、靴を磨く二等卒の柳家金語楼が「下士官のそばへ行きゃめんどくさい」と軍隊批判の歌を歌う。
背後に上等兵が現れて歌を歌っていたかと詰問し、金語楼は否定するがバレて歌い直しを命じられる。
今度は歌いながらも「めんどくさくありません」「生意気ではありません」と言い訳を挟む。
官姓名を聞かれて「陸軍歩兵二等卒、山下ケッタロウ」と名乗る。
入隊前の職業を聞かれて「東京で落語家」と答えると、上等兵が「らくごかとは何か」と聞き返す。
金語楼が「噺をする商売で一人でやる」と説明すると、上等兵が実演を命じる。
「忠臣蔵や広瀬中佐、乃木将軍をやれ」と言われるが、金語楼はどれも知らないと答える。
仕方なく一般的な落語を始め「今日はご隠居」「やあ、熊さんか」と会話を披露する。
すると上等兵が「その隠居と熊はどこの何者だ?」と真面目に質問してくる。
金語楼が「それが分からないのであります」と天然ボケで答えて、落語の本質を表現したオチとなる。

解説

「落語家の兵隊」は実在の落語家・柳家金語楼の軍隊体験を基にした異色の作品です。戦時中の軍隊という厳格な組織の中で、自由な発想を持つ芸能人がどのような体験をしたかを描いた貴重な記録でもあります。

この噺の最大の魅力は、硬直した軍隊組織と柔軟な芸能の世界との文化的ギャップから生まれるユーモアにあります。上等兵が落語を理解できず、登場人物の詳細を真面目に質問する場面は、落語という芸能の本質を逆説的に表現しています。落語の登場人物は型にはまった定型的な存在であり、具体的な身元や背景設定などは重要ではないという落語の特徴を、軍人の質問によって浮き彫りにしているのです。

金語楼のキャラクターも秀逸で、軍隊批判の歌を歌いながらも途中で言い訳を挟んだり、忠臣蔵を知らないと平然と答えたりする天然ボケっぷりが絶妙です。最後の「それが分からないのであります」という答えは、単なるボケではなく、落語という芸能の抽象性や普遍性を表現した深いオチとなっています。

あらすじ

夜、靴を磨いている二等卒の柳家金語楼、寒いので歌を歌い始める。
♪「チャチャンチャンチャン 下士官のそばへ行きゃ、めんこ(面倒)くさい、伍長勤務は生意気で、粋な上等兵にゃ金がない、可愛い新兵さんにゃ暇がない、なっちょらん、なっちょらん・・・」♪、すると目の前に上等兵がすくっと立った。

上等兵 「貴様、そこで何をしとるか」

金語楼 「くっくっくっ・・・・靴を磨いていたのでありまーす」

上等兵 「貴様、今、歌を歌っていただろう」

金語楼 「いえ、歌なんか歌ってないのでありまーす」

上等兵 「嘘つけ、ずっと後ろで聞いていたぞ」

金語楼 「はい、歌っていたでありまーす」

上等兵 「もう一度、歌ってみろ」

金語楼 「忘れたでありまーす」

上等兵 「今歌ったばかりだろ、忘れる奴があるか」

金語楼 「歌うでありまーす、♪下士官のそばへ行きゃ、めんこ(面倒)くさい♪ いいえめんこくさくありませーん。♪伍長勤務は生意気で♪、生意気ではありませーん、♪粋な上等兵にゃ、(むにゃむにゃ)がない」♪

上等兵 「上等兵に、何だはっきり歌え」

金語楼 「歌うでありまーす、♪下士官の・・・・粋な上等兵にゃ金がない・・・なっちょらん、なっちょらん♪ これは日本の上等兵ではないのでありまーす」

上等兵 「貴様こそなっちょらんぞ、官姓名を名乗れ!」

金語楼 「陸ぅ、陸ぅ~陸軍~・・・」

上等兵 「陸軍は分かっとる。官姓名を言ってみろ」

金語楼 「陸軍歩兵・・・」

上等兵 「陸軍歩兵何等卒だ」

金語楼 「陸軍歩兵二等卒でありまーす」

上等兵 「元ーい、姓名を言え」

金語楼 「山下ケッタロウでありまーす」

上等兵 「貴様、何をしておった」

金語楼 「靴を磨いていたのでありまーす」

上等兵 「ここへ入隊する前だ」

金語楼 「東京で落語家でありまーす」

上等兵 「・・・らくごかとは何か」

金語楼 「噺をする商売でありまーす」

上等兵 「誰と話をするのだ」

金語楼 「一人でするのでありまーす」

上等兵 「妙な商売だな。
一つここでやって見ろ。
大いに勇壮活発なものをやれ。忠臣蔵なんかがいいぞ」

金語楼 「その噺は知らんのでありまーす」

上等兵 「なに、忠臣蔵を知らない。
お前それでも日本人か。広瀬中佐か乃木将軍をやれ」

金語楼 「それも知らんのでありまーす」

上等兵 「何でもいいからやってみろ」

金語楼 「はっ、それではそろそろ始めるでありまーす。"へぇ、今日はご隠居"、"やあ、熊さんか、久しぶりだねぇ"・・・」

上等兵 「おいおい、その隠居と熊はどこの何者だ?」

金語楼 「それが分からないのでありまーす」

上等兵 「分からないで、話ができるか?」

金語楼 「やっているのでありまーす」

落語用語解説

二等卒(にとうそつ)

旧日本陸軍の最下級の階級。兵卒の中で最も位が低く、入隊した新兵はまず二等卒からスタートします。この噺では柳家金語楼が二等卒として登場し、上等兵に見つかって落語を披露させられます。軍隊の厳格な階級制度において、下級兵士は上官の命令に絶対服従しなければならず、金語楼も上等兵の命令に従って落語を演じることになります。

上等兵(じょうとうへい)

旧日本陸軍の兵卒の階級の一つで、二等卒、一等卒の上に位置します。古参兵として新兵の教育を担当することも多く、この噺では金語楼に落語を披露させる役割を担っています。上等兵は兵卒の中では上位ですが、下士官(伍長、軍曹など)よりは下の階級です。金語楼の歌に「粋な上等兵にゃ金がない」とあるのは、給料が少ないことを皮肉ったものです。

下士官(かしかん)

伍長、軍曹、曹長などの階級の総称。兵卒と将校の間に位置する中間管理職的な存在です。金語楼が歌う「下士官のそばへ行きゃめんどくさい」という歌詞は、下士官が新兵に対して厳しく指導することを皮肉ったものです。下士官は兵卒を直接指揮する立場にあり、軍隊生活において最も接する機会が多い上官でした。

柳家金語楼(やなぎやきんごろう)

実在の落語家(1901-1972)。本名は山下敬太郎。この噺は金語楼自身の軍隊体験を基にした実話的要素を持つ作品です。金語楼は戦時中に召集され、実際に軍隊生活を経験しました。戦後は映画やテレビでも活躍し、独特の天然ボケキャラクターで人気を博しました。この噺も金語楼の天然ぶりが存分に発揮された代表作の一つです。

忠臣蔵(ちゅうしんぐら)

江戸時代の赤穂浪士の仇討ち事件を題材にした物語。上等兵が金語楼に「忠臣蔵をやれ」と命じる場面がありますが、金語楼は「知らない」と答えます。忠臣蔵は当時の日本人なら誰でも知っているような有名な物語であり、それを知らないと答える金語楼の天然ぶりが際立ちます。軍隊では忠義や武士道精神を重視したため、忠臣蔵のような忠義の物語を演じるよう命じたのです。

広瀬中佐(ひろせちゅうさ)

日露戦争で活躍した軍神・広瀬武夫海軍中佐。旅順港閉塞作戦で戦死し、軍神として崇められました。上等兵が金語楼に演じさせようとした題材の一つです。当時の軍隊では、こうした軍神の話を題材にした演説や演芸が推奨されていました。しかし金語楼は「それも知らない」と答え、軍隊の期待とは全く異なる一般的な落語を始めます。

乃木将軍(のぎしょうぐん)

日露戦争で旅順攻略を指揮した陸軍大将・乃木希典。明治天皇崩御の際に殉死し、武士道精神の象徴として軍神視されました。上等兵が金語楼に演じさせようとしたもう一つの軍神です。しかし金語楼はこれも知らないと答え、結局「今日はご隠居」「やあ、熊さんか」という一般的な落語の会話を始めます。この対比が、軍隊文化と庶民文化のギャップを象徴しています。

よくある質問

Q1: この噺は実話に基づいているのですか?

はい、この噺は実在の落語家・柳家金語楼(1901-1972)の軍隊体験を基にした作品です。金語楼は戦時中に召集され、実際に軍隊生活を経験しました。ただし、この噺は完全な実話というよりも、金語楼の体験をベースに脚色や誇張を加えた創作作品と考えられます。金語楼の天然ボケキャラクターは戦後の映画やテレビでも発揮され、この噺もそうした金語楼らしさが表現されています。

Q2: 「それが分からないのであります」というオチの意味は何ですか?

このオチは、落語という芸能の本質を表現しています。落語の登場人物(ご隠居や熊さんなど)は、具体的な住所や職業、家族構成などの詳細設定を持たない抽象的な存在です。彼らは「型」としての役割を担っており、話の展開に必要な性格や関係性だけが設定されています。上等兵の「どこの何者だ?」という真面目な質問に対して、金語楼が「それが分からない」と答えるのは、落語の登場人物の普遍性・抽象性を端的に表現した深いオチなのです。

Q3: なぜ金語楼は忠臣蔵や軍神の話を知らないと答えたのですか?

これは金語楼の天然ボケキャラクターを表現した演出です。実際には、当時の日本人で忠臣蔵や広瀬中佐、乃木将軍を知らない人はほとんどいません。特に落語家なら忠臣蔵は基本的な演目の一つです。しかし金語楼は「知らない」と平然と答え、軍隊が期待する勇壮活発な題材ではなく、一般的な庶民の会話から始まる落語を披露します。これは軍隊文化への無自覚な抵抗とも解釈でき、金語楼の芸人としての自由な精神を象徴しています。

Q4: 軍隊批判の歌を歌うのは危険ではなかったのですか?

当時の軍隊において、軍隊批判や上官批判は厳しく処罰される行為でした。金語楼が歌った「下士官のそばへ行きゃめんどくさい」「粋な上等兵にゃ金がない」という歌詞は、明らかに軍隊の現実を皮肉ったものです。しかし噺の中では、金語楼は途中で「めんどくさくありません」「生意気ではありません」と言い訳を挟んだり、「これは日本の上等兵ではない」と弁解したりすることで、何とか許されます。この緊張感とユーモアのバランスが、この噺の魅力の一つです。

Q5: この噺から何を学べますか?

この噺は、異なる文化や価値観が出会った時に生まれるユーモアと理解の難しさを描いています。軍隊という規律と忠義を重視する組織と、自由な発想を持つ芸能の世界という対照的な文化が衝突し、そこから笑いが生まれます。また、「それが分からない」というオチは、落語という芸能の本質(登場人物の抽象性・普遍性)を逆説的に表現しており、芸術の本質について考えさせられる深いメッセージが込められています。現代でも、異なる価値観の衝突から生まれるユーモアと相互理解の大切さを教えてくれる作品です。

名演者による口演

初代 柳家金語楼

この噺は金語楼自身の体験を基にした作品であり、金語楼本人による口演が最も有名です。金語楼独特の天然ボケキャラクターと、軍隊での体験を基にしたリアルな描写が魅力です。戦後、NHKラジオ「語り芸の世界」などで口演され、金語楼の代表作の一つとして知られています。金語楼の演じる二等卒の間の抜けた様子と、上等兵との噛み合わない会話が絶妙で、実体験に基づく臨場感が聞き手を引き込みます。

桂米朝

上方落語の大名跡・米朝師匠もこの噺を演じています。米朝師匠は金語楼の天然ぶりを上方風にアレンジし、軍隊と芸能の世界の文化的ギャップを丁寧に描き出します。特に「それが分からない」というオチを、落語の本質を表現した深い言葉として強調する演出が特徴です。米朝師匠の演じる軍隊噺は、戦争の記憶を語り継ぐ意味でも貴重な記録となっています。

古今亭志ん朝

志ん朝師匠による演出は、金語楼の軽妙さと軍隊の厳格さの対比を際立たせます。志ん朝師匠の美声で歌われる軍隊批判の歌は、皮肉とユーモアが絶妙にブレンドされています。上等兵との会話では、志ん朝師匠の演じる金語楼の天然ぶりが笑いを誘い、最後の「それが分からない」というオチを、落語の普遍性を表現した名セリフとして印象的に締めくくります。

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この噺の魅力と現代への示唆

『落語家の兵隊』は、軍隊という厳格な組織と自由な芸能の世界が出会った時に生まれるユーモアを描いた異色の作品です。実在の落語家・柳家金語楼の体験を基にしており、戦時中の軍隊生活のリアルな一面を知ることができる貴重な記録でもあります。

この噺の最大の魅力は、異なる文化や価値観の衝突から生まれる笑いです。上等兵が落語の登場人物の詳細を真面目に質問する場面は、軍隊文化(具体性・実証性を重視)と芸能文化(抽象性・普遍性を重視)のギャップを端的に表現しています。「それが分からない」というオチは、単なるボケではなく、落語という芸能の本質を逆説的に説明した深い言葉です。落語の登場人物は具体的な身元を持たない「型」であり、だからこそ時代や場所を超えて普遍的な人間の姿を描けるのです。

現代社会でも、異なる文化や価値観を持つ人々が出会う機会は増えています。この噺は、そうした文化の違いを笑いに変え、相互理解のきっかけとする知恵を教えてくれます。また、軍隊という極端に厳格な組織の中でも、金語楼のような自由な精神を持つ人間が存在したという事実は、どんな状況でも人間性を失わないことの大切さを示唆しています。

金語楼の天然ボケは、単なる笑いではなく、軍隊文化への無自覚な抵抗でもあります。忠臣蔵や軍神を演じるよう命じられても「知らない」と答え、一般的な庶民の会話を始める姿勢は、芸人としての矜持と自由な精神を象徴しています。戦争の記憶を語り継ぐ意味でも、この噺は貴重な文化遺産と言えるでしょう。

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