温泉旅行計画
今回の落語は温泉旅行の計画を立てるお話です。最近は旅行の計画を立てるのが趣味という方も多いですね。インターネットで情報収集をして、完璧な旅行を目指す。でも、計画に凝りすぎて肝心の旅行が疎かになったりして。私も落語の構成を考えすぎて、かえって面白くなくなることがあります。今回は関西弁で、そんな計画フェチの男性のお話をお聞かせします。
まくら
旅行の計画を立てるのは楽しいものです。しかし、完璧を求めすぎると、思わぬ落とし穴が待っているのです。
あらすじ
「佐藤はん、今度の連休、温泉旅行行きまへんか?」
「ええですね、田中はん。どこかええとこ知ってはりますか?」
「それが、完璧な旅行を計画してるんですわ」
「完璧な旅行?」
「3 ヶ月前から準備してまんねん。完璧な温泉旅行ガイドブック作りましたで」
「3 ヶ月も?そら力入ってるなあ」
「絶対に失敗できまへんからね」
「そんなに気合い入れること?」
「旅行は人生の縮図ですがな。手抜きは許されまへん」
計画の全貌
田中は分厚いファイルを取り出した。
「見てくださいよ、この計画書!」
「うわ、電話帳みたいやな」
「温泉の泉質比較表、宿の設備一覧、周辺観光地の詳細情報、全部入ってまっせ」
「すごいな…でも、見るだけで疲れるわ」
「それだけやありまへん。天気予報の過去データも調べました」
「過去データって、そこまでせんでも」
「雨が降る確率を計算して、最適な出発日を算出したんですわ」
「もう研究論文やん」
詳細すぎるスケジュール
田中のスケジュールは分刻みで組まれていた。
「朝 7 時に出発、9 時 15 分にパーキングエリアで休憩」
「細かいなあ」
「10 時 45 分に宿到着、11 時にチェックイン」
「まだ朝やで」
「11 時 30 分から温泉、12 時 15 分で上がって昼食」
「温泉 45 分って短くない?」
「効率を考えたら、これがベストなんですわ」
「効率って…温泉はのんびり入るもんやろ?」
予約作戦
田中の予約作戦は軍事作戦並みだった。
「宿の予約は3 ヶ月前に取りました」
「そら早いな」
「それも5 軒同時に仮予約して、最終的に 1 軒に絞ったんですわ」
「他の 4 軒は?」
「キャンセルしましたがな。選択肢を確保するためですわ」
「それ、迷惑やないの?」
「完璧な旅行のためには仕方ありまへん」
レストランの予約も事前調査済み。
「昼食の店は3 ヶ月前からメニューの写真撮らせてもろうて、栄養バランスも計算済みですわ」
「栄養バランスまで?」
「旅行先での体調管理も大事やからね」
「もう修学旅行の先生みたいやん」
持ち物チェック
田中の持ち物も完璧だった。
「着替えは 3 日分、雨具は 2 セット、薬は 5 種類持参します」
「1 泊やろ?」
「万が一に備えてですがな。体温計、血圧計、歩数計も必須や」
「歩数計?」
「どれだけ歩いたか記録して、旅行の思い出にしまんねん」
「思い出が数字って…」
「客観的データがあった方が、正確な記憶になりますやん」
いざ出発当日
出発当日、田中は朝 5 時から準備していた。
「佐藤はん、計画通り 7 時に出発しまっせ」
「まだ眠たいわ」
「完璧なスケジュールやから、1 分の狂いもあきまへん」
「1 分って…そんなにきっちりせんでも」
「計画が崩れたら、全てが台無しになりまっせ」
車に乗ると、田中はGPSと地図と時刻表を確認し始めた。
「最短ルートで行きまっせ。渋滞情報もチェック済みや」
「でも、景色の良い道もええんちゃう?」
「景色?効率を考えたら、高速道路一択ですがな」
予想外の事態
ところが、工事による通行止めが発生していた。
「なんでや!工事の情報は調べたのに!」
「急な工事かもしれへんで」
「計画が狂う!どうしよう!」
「別の道行ったらええやん」
「別の道?計画にない道は通られへん!」
「そんなアホな…」
田中はパニック状態になり、1 時間も路上で悩んでいた。
宿での混乱
やっと宿に着いたのは予定より 2 時間遅れ。
「すみません、チェックインの時間過ぎちゃいました」
「大丈夫ですよ、お部屋の準備できてます」
「でも、スケジュールが…温泉の時間が…」
「温泉は24 時間入れますよ」
「24 時間?そんなん計画にない…」
田中は新しいスケジュールを作り始めた。
「15 分で新しい計画を立て直します」
「田中はん、もう適当でええやん」
「適当?適当は計画の敵ですがな」
「計画の敵って…楽しむことが目的やろ?」
「楽しむ?計画通りいくことが楽しいんですわ」
ついに爆発
佐藤はついに怒った。
「田中はん!もうええ加減にせえや!」
「え?何がですか?」
「計画計画って、旅行楽しんでへんやないか!」
「楽しんでますよ。完璧な計画を実行するのが楽しいんです」
「それは旅行やない、作業や!」
「作業?」
「温泉にのんびり浸かって、美味しいもん食べて、適当にぶらぶらするのが旅行やろ!」
田中ははっと気がついた。
「そうか…計画を立てることが目的になってたんか…」
計画を捨てた旅行
その後、田中は計画を放り投げて、佐藤と一緒にのんびり過ごした。
「温泉、気持ちええなあ」
「計画よりずっと楽しいですわ」
「何時まで入るとか決めんでええねん」
「自由って、こんなに楽しいもんやったんか」
夕食も計画にない地元の居酒屋に入った。
「この地酒、うまいなあ」
「計画にない出会いって、こんなに楽しいもんやったんですね」
「偶然の方が面白いこともあるねん」
「完璧より不完璧の方が人間らしいですなあ」
翌日、帰り道で田中が言った。
「佐藤はん、ええ旅行やった」
「そやろ?計画通りやったか?」
「計画と真逆やったけど、一番楽しかった旅行やった」
「計画を立てる楽しみと旅行する楽しみは別もんやったんやな」
「今度は無計画旅行を計画しまっせ」
「無計画を計画って…それも変やで」
まとめ
今回は温泉旅行の計画にまつわるお話でした。準備万端で挑むのも良いですが、計画にこだわりすぎて本来の目的を見失ってしまうことってありますよね。私もこの落語を書く時、構成を考えすぎて面白さを忘れそうになることがあります。
田中さんの「計画を立てることが目的になってた」という気づきは、現代人にとって大切な教訓かもしれません。「完璧より不完璧の方が人間らしい」という佐藤さんの言葉も、なかなか含蓄があります。


