粗忽な警察
平成の世になっても、粗忽者というのはどこにでもいるものです。
特に、きちんとしていなければならない職業の人が粗忽だと、周りが大変な目に遭います。
この話は、そんな粗忽な警察官と、それに振り回される一般市民の珍騒動。
道に迷った時の交番での出来事ですが、助けを求めに行ったはずが、かえって迷子が増えてしまうという、なんとも情けない話でございます。
あらすじ
新宿で道に迷った吉田は、交番に駆け込みました。
吉田「すんません、道を教えてもらいたいんですが」
警察官「はい、どちらまで?」
吉田「歌舞伎町の〇〇ビルまで」
警察官「ああ、あそこね。えーっと…」
地図を広げました。
警察官「ここから真っ直ぐ行って、二つ目を右に曲がって…」
吉田「はい」
警察官「それで、コンビニが見えたら左に…いや、右だったかな」
吉田「右ですか、左ですか?」
警察官「うーん、ちょっと待って」
また地図を見直しました。
警察官「やっぱり左です」
吉田「ありがとうございます」
言われた通りに歩きました。
吉田「あれ?コンビニなんて、どこにもないでぇ」
30分歩いても、コンビニが見つかりません。
吉田「おかしいな…」
仕方なく、また交番に戻りました。
吉田「すんません、さっきの道、コンビニがないんですけど」
警察官「え?ないですか?」
吉田「はい」
警察官「そうですか…それは困りましたね」
吉田「もう一度、教えてもらえますか?」
警察官「はい。えーっと、どちらまででしたっけ?」
吉田「歌舞伎町の〇〇ビルです」
警察官「ああ、そうでしたね。えーっと…」
また地図を見始めました。
警察官「ここから真っ直ぐ行って、一つ目を左に…」
吉田「さっきは二つ目を右って言いましたけど」
警察官「あ、そうでした。二つ目を右に曲がって…」
吉田「その先は?」
警察官「えーっと、ファミレスが見えたら左に」
吉田「さっきはコンビニって」
警察官「あ、そうでした。コンビニが見えたら左に…」
吉田「右じゃなくて?」
警察官「右でしたっけ?」
吉田「だんだん分からなくなってきました」
警察官「そうですね…実は私も新任でして」
吉田「新任!?」
警察官「昨日から、この交番に」
吉田「それじゃあ、道なんて知らないでしょう」
警察官「すみません…」
そこへ、年配の警察官が戻ってきました。
年配警察官「お疲れ様です」
新任警察官「お疲れ様です。この方、道を聞かれてるんですが」
年配警察官「どちらまで?」
吉田「歌舞伎町の〇〇ビルです」
年配警察官「ああ、あそこね。簡単ですよ」
吉田「お願いします」
年配警察官「ここから真っ直ぐ行って、三つ目を右に曲がれば、すぐですよ」
吉田「三つ目?」
年配警察官「はい」
新任警察官「二つ目じゃないんですか?」
年配警察官「いや、三つ目だよ」
新任警察官「でも、地図では…」
年配警察官「地図?何の地図?」
新任警察官「この地図です」
年配警察官「それは隣の区の地図だろう」
新任警察官「え?」
年配警察官「新宿区じゃなくて、渋谷区の地図だよ」
吉田「それで道が分からなかったのか」
年配警察官「申し訳ありません」
吉田「じゃあ、正しい道を教えてください」
年配警察官「はい。ここから真っ直ぐ行って、三つ目を右に」
吉田「分かりました。ありがとうございます」
年配警察官「それで、コンビニが見えたら左に曲がってください」
吉田「やっぱりコンビニあるんですね」
年配警察官「あ、でも工事中で、今は見えないかもしれません」
吉田「じゃあ、どうすれば?」
年配警察官「工事の看板が見えたら左に」
吉田「分かりました」
言われた通りに歩きました。
吉田「あった!工事の看板」
左に曲がりました。
吉田「〇〇ビル…どこだ?」
辺りを見回しても、ビルが見つかりません。
吉田「また道を間違えたのか」
もう一度、交番に戻りました。
吉田「すんません、また道が分からなくて」
年配警察官「え?また?」
吉田「工事の看板を左に曲がったんですが」
年配警察官「左?右じゃなくて?」
吉田「左って言いましたよね」
年配警察官「いや、右だったと思うけど」
新任警察官「私も右だと思いました」
吉田「じゃあ、右に曲がってみます」
年配警察官「はい、頑張って」
今度は右に曲がりました。
吉田「あった!〇〇ビル!」
やっと目的地に着きました。
吉田「やれやれ、疲れた」
ビルの入り口で、友人が待っていました。
友人「遅かったね」
吉田「道に迷っちゃって」
友人「この辺りは複雑だからね」
吉田「交番で聞いたんだけど、警察官も道を知らなくて」
友人「それは困ったね」
吉田「でも、最後は正しい道を教えてもらえたよ」
友人「良かった良かった」
吉田「ところで、何の用事だっけ?」
友人「え?」
吉田「ここに来る用事」
友人「あ…実は、僕も忘れちゃった」
吉田「僕も思い出せない」
友人「まあ、会えたからいいか」
吉田「そうだね」
二人で笑いながら、そのまま帰りました。
吉田「あ、そうそう」
友人「何?」
吉田「僕、さっきから渋谷だと思ってたんだけど、ここ新宿だよね」
友人「当たり前だろう」
吉田「てことは、僕が最初に行きたかった歌舞伎町の〇〇ビルって…」
友人「新宿にあるビルでしょ?」
吉田「それが、渋谷の○○ビルだったんだよ」


