抜け雀 落語|あらすじ・オチ「親にかごを描かせた」意味を完全解説
抜け雀(ぬけすずめ) は、絵から雀が飛び出す奇跡と親子絵師の再会を描いた古典落語。名人の描いた雀が絵から抜け出し、父が鳥籠を描き加えて救う展開の末、「現在、親にかごを描かせた」という親不孝を嘆く名オチが秀逸です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 演目名 | 抜け雀(ぬけすずめ) |
| ジャンル | 古典落語・芸道噺 |
| 主人公 | 絵師(息子)・老絵師(父) |
| 舞台 | 東海道小田原宿・宿屋 |
| オチ | 「現在、親にかごを描かせた」 |
| 見どころ | 絵から雀が飛び出す奇跡と親子の再会 |
3行でわかるあらすじ
貧乏絵師が小田原の宿屋で宿賃の代わりに衝立に雀の絵を描く。
翌朝、描いた雀5羽が絵から抜け出して飛び回り、宿屋は大評判で大繁盛する。
最後に鳥籠を描いた老人が絵師の父と判明し、「現在、親にかごを描かせた」のオチで締める。
10行でわかるあらすじとオチ
汚れた着物の貧乏絵師が小田原の宿屋に6日間滞在し、毎日酒を飲み続ける。
金がないため宿賃の抵当として衝立に雀5羽の絵を描いて去っていく。
翌朝、宿の主人が雨戸を開けると絵から雀が抜け出して外に飛び出す。
雀たちは戻ってきて絵の中に収まり、この不思議な現象が大評判となる。
宿屋は「雀のお宿」として押すな押すなの大繁盛となる。
大久保加賀守が千両で買おうとするが、主人は売るなと言われた約束を守る。
ある日、老人が現れて「雀は死ぬ」と言い、鳥籠を描き加えて去る。
雀たちは鳥籠に入るようになり、さらに評判となって二千両の値がつく。
絵師が戻ってきて、鳥籠を描いた老人が自分の父だと判明する。
絵師は父に向かって「現在、親にかごを描かせた」と親不孝を嘆く。
解説
「抜け雀」は、絵から雀が抜け出すという奇想天外な設定と、最後の言葉遊びのオチが見事な古典落語の名作です。貧乏絵師の描いた絵に命が宿るという超自然的な現象を軸に、宿屋の繁栄と親子の絆を描いています。
この噺の魅力は、まず絵から雀が飛び出すという視覚的にインパクトのある設定にあります。聴衆は落語家の巧みな語りによって、雀が「チュチュチュチュ」と鳴きながら飛び回る様子を想像し、その不思議さを楽しみます。また、大名が千両、二千両という大金を出しても売らない宿の主人の義理堅さも人情味があふれています。
そして何より秀逸なのは「現在、親にかごを描かせた」というオチです。これは「現在、親に籠を描かせた」の意味で、息子の不出来により父親に手助けをさせてしまった親不孝を表現しています。言葉遊びの巧妙さと、親子の情愛を同時に表現した名オチとして、古典落語屈指の完成度を誇ります。
あらすじ
東海道小田原宿の宿屋、小松屋清兵衛の前に立ったのが、汚れた着物の年の頃なら三十手前という男。「しばらく滞在したい。・・・金の五十両ぐらい先に預けておいたほうがよかろうのう」、「いいえ、お勘定はご出立の時にまとめてで結構でございます」
この男、毎日晩は一升、昼は五合の酒を飲んでぶらぶらして出立する気配もない。
宿のかみさんがぐずぐず言い出し、亭主「・・・酒代だけひとつ・・・お下げ渡しをいただきたいもんで」
男 「もう六日目になるなあ。宿代、酒代まとめてどれぐらいになるな」
亭主 「・・・一両三分ばかりになります」
男 「それは安いな。だが、それが無いのじゃ」、男は金の入る当ても、宿賃の抵当(かた)に入れる物も皆無と言って悪びれた様子もない。
呆れて困った亭主「・・・あんたの商売は何です」
男 「わしは絵師じゃ、・・・そうだ絵を描いてやろう」、気の進まない亭主に隣の部屋から張り替えたばかりの衝立を持って来させ、亭主に墨を摺らせて筆を取って、「・・・さて、何を描こうか」と、ちょっと考え、ツツツツツーと筆を走らせて衝立に絵を描いた。
亭主 「こりゃあ雀ですか?・・・雀五羽で二両・・・」
男 「これは宿賃の抵当(かた)だ。これを売ってくれと申す者があっても、わしがまた参るまでは売ってはならんぞ」
亭主 「誰がこんなもの買いますかいな」
男 「厄介になった」と、平気な顔で出立してしまった。
この絵を見たかみさんの怒ったこと。
翌朝はふてくされて起きてこないかみさんの代わりに、亭主が二階の雨戸と障子を開けると、衝立から五羽の雀が抜け出て、チュチュチュチュと騒がしく鳴きながら外へ飛び出して行った。
しばらくすると、戻って来て全員集合、衝立の中にピタッとおさまってしまった。
びっくりした亭主はかみさんを呼ぶ。
寝ぼけ眼で二階へ上がって来たかみさん、「・・・絵の雀が抜け出て・・・何を寝ぼけたこと言って」と、まるっきし信じない。
翌朝はかみさんが雨戸と障子を開けて納得、雀の絵をあちこちに宣伝して回った。
評判が評判を呼び、小松屋は押すな押すなの大盛況で大繁盛。
小田原城の大久保加賀守の耳にも入り、その雀を見たいとやって来て、「うーん、千両にて買い上げてつかわそう」、それでも亭主は売るなと言われた約束を守らねばと、これを断った。
千両もの値がついた雀の絵の”雀のお宿”はさらにその名を上げて行く。
ある日、人品卑しからぬ老人が雀の絵を見たいとやって来た。
衝立の前にピタッと座った老人、絵をじいーと見て、「亭主、この雀は死ぬぞ」
亭主 「絵にかいた雀が死ぬなんて・・・」
老人 「絵から抜けて飛び出す力を持っておる雀なら、力が尽きれば落ちて死ぬ。わしが一筆描き添えれば雀は死なん」と、亭主に墨を摺らせ、「衝立に鳥籠を描き加えた」と、言って去って行った。
なるほど次の朝、飛び立った雀たちは帰って来ると鳥籠へ入り、止まり木止って羽を休めチイチイと鳴いている。
これがまた大評判となって、またやって来た大久保の殿様は、二千両の値をつけたが、それでも亭主は約束を守って売らなかった。
ある日、ひょっこりと雀の絵を描いた男がやって来た。
ことの顛末を聞いて、「欲のないやつじゃ。
しかし約束を守ってよく売らないでくれた。あらためてあの絵はそなたに進呈する」
亭主 「ありがとうございます。ところで、この間いらした老人の方があの絵を見て、この雀は死ぬぞと言って、鳥籠を描き添えて行きました」
男 「なんと!その鳥籠を見せてもらおう」と、二階へ上がって、じーっと絵をにらんで、畳に両手をついて、「おなつかしゅうございます。・・・亭主、面目ない。
これはわしの父上じゃ。・・・かかる所に気づかざりしとは、まだまだ修行が足りません。不孝の罪は平にお許し願いとう存じます」
亭主 「・・・絵に描いた雀が抜けて出るなんて名人になったのに、何が親不孝なことなどありますまい」
男 「現在、親にかごを描かせた」
この噺は、絵から雀が飛び出すという奇跡的な設定と、「現在、親にかごを描かせた」という名オチが光る古典落語の傑作です。
落語用語解説
抜け雀(ぬけすずめ)
絵から雀が抜け出して飛び回ること。この噺の核心となる超自然的な現象で、絵師の名人芸を象徴しています。
小田原宿(おだわらじゅく)
東海道五十三次の宿場町。江戸時代の重要な交通拠点で、この噺の舞台となっています。
衝立(ついたて)
部屋を仕切る一枚の板。絵師がこれに雀の絵を描き、宿賃の抵当とします。
抵当(かた)
借金の担保。絵師は金がないため、雀の絵を宿賃の抵当として残します。
大久保加賀守(おおくぼかがのかみ)
小田原藩主。この噺では千両、二千両という大金で雀の絵を買おうとする人物として登場します。実在の大名家をモデルにしています。
千両(せんりょう)
江戸時代の大金。現代の価値で数千万円から1億円程度に相当します。大久保加賀守が最初につけた値段です。
二千両(にせんりょう)
千両の倍の大金。鳥籠が描き加えられた後、さらに価値が上がってつけられた値段です。
鳥籠(とりかご)
鳥を飼う籠。老絵師が描き加えたもので、雀たちがこの中で休むようになります。
名人芸(めいじんげい)
卓越した技術。絵から雀が飛び出すという現象は、絵師の名人芸の証とされています。
親不孝(おやふこう)
親に対して孝行を尽くさないこと。絵師は父に手助けさせてしまったことを親不孝だと嘆きます。
現在(げんざい)
現代語の「現在」ではなく、「このような状況で」という意味。オチの「現在、親にかごを描かせた」は「このような状況で親に籠を描かせてしまった」という意味です。
進呈(しんてい)
贈り物として差し上げること。絵師は約束を守った宿の主人に、雀の絵を進呈します。
よくある質問 FAQ
なぜ雀は絵から抜け出したのですか?
絵師の名人芸により、絵に命が宿ったからです。これは超自然的な現象で、落語ならではの奇想天外な設定です。絵師の技術が神業の域に達していることを示しています。
なぜ宿の主人は千両でも売らなかったのですか?
絵師から「売ってはならん」と約束されていたからです。江戸時代の商人にとって、約束を守ることは信用の基本でした。主人の義理堅さと誠実さを表しています。
なぜ老人は鳥籠を描き加えたのですか?
雀が力尽きて死なないようにするためです。絵から抜け出す力を持つ雀は、その力が尽きれば死んでしまう。鳥籠で休める場所を作ることで、雀を守ろうとしました。
このオチはどこが面白いのですか?
「現在、親にかごを描かせた」という言葉遊びの巧妙さです。「親に籠を描かせた」と「現在の状況で父に手助けさせた」の二重の意味を持ち、息子の不出来による親不孝を表現しています。言葉の響きと意味の深さが見事に融合したオチです。
なぜ絵師は父だと気づいたのですか?
鳥籠の描き方や筆致から、父の技術を見抜いたからです。名人は他の名人の技を一目で理解できます。また、自分の絵の欠点を補う発想ができるのは、師匠である父しかいないと悟ったのでしょう。
この噺に原話はありますか?
日本の伝承や中国の画家の逸話などが組み合わさった創作と考えられています。絵に命が宿るという発想は、東アジアの芸術観に共通するテーマです。
名演者による口演
この噺は視覚的なイメージを言葉で描く技術と、親子の情愛を表現する演技力が求められます。多くの名演者が演じてきました。
- 古今亭志ん朝 – 雀が飛び出す場面を軽妙に描き、オチの感動を巧みに表現した名演
- 三遊亭円生 – 格調高い語り口で、絵師の芸術性と親子の絆を丁寧に描いた名演
- 柳家小三治 – 間の取り方が絶妙で、雀の動きと絵師の心情を繊細に表現した秀演
- 立川談志 – 名人芸の凄さと親子の情愛を独特の解釈で描いた印象的な演出
- 桂米朝 – 上方落語版も存在し、関西弁の味わいで宿屋の繁盛ぶりを温かく描写した名演
関連する落語演目
鼠(ねずみ)
左甚五郎が彫った福鼠が動き出す噺。「抜け雀」と同様に、芸術作品に命が宿る奇跡を描いています。
死神(しにがみ)
超自然的な存在を描いた噺。「抜け雀」の奇跡と通じる、非日常的な世界を描いています。
文七元結(ぶんしちもっとい)
親子の情愛を描いた人情噺。「抜け雀」の親子の絆と通じるテーマがあります。
時そば(ときそば)
約束と信用を描いた噺。「抜け雀」の宿の主人の義理堅さと通じる誠実さを描いています。
目黒のさんま(めぐまのさんま)
殿様が登場する噺。「抜け雀」の大久保加賀守と同様に、身分の高い人物を描いています。
この噺の魅力と現代への示唆
「抜け雀」は、絵から雀が飛び出すという奇跡的な設定と、親子絵師の感動的な再会、そして「現在、親にかごを描かせた」という名オチが見事に融合した古典落語の傑作です。
この噺の魅力は、まず視覚的にインパクトのある設定にあります。雀が「チュチュチュチュ」と鳴きながら飛び回り、また絵の中に戻るという描写は、聴衆の想像力をかき立てます。落語家の巧みな語りによって、観客は実際に雀が飛んでいるかのような錯覚を覚えます。
宿の主人の義理堅さも印象的です。千両、二千両という大金を提示されても、「売るな」という約束を守り通します。これは江戸時代の商人の信用を重んじる精神を表しており、人間関係における誠実さの大切さを教えてくれます。
そして何より秀逸なのは、「現在、親にかごを描かせた」というオチです。これは「このような状況で父に籠を描かせてしまった」という意味で、息子の絵の不完全さを父が補ったことへの親不孝を嘆く言葉です。しかし同時に、親子の絆と師弟関係の深さも表現しています。名人である父も、息子の成長を見守り、必要な時には手助けする。この温かい関係性が、言葉遊びの中に込められています。
現代社会でも、親の助けを受けることを恥じる必要はありません。大切なのは、その助けに感謝し、さらに成長することです。この噺は、親子の絆と芸術の神髄を、奇跡と言葉遊びを通じて伝える名作です。
江戸時代の芸術観と人情が詰まった、視覚的イメージと感動が同居する傑作です。








