錦の袈裟
3行でわかるあらすじ
町内の若い衆が隣町に負けじと錦の褌で吉原で裸踊りをすることになるが、与太郎は錦がない。
女房の知恵で「狐憑きの娘に袈裟を掛けると落ちる」と嘘をついて寺から錦の袈裟を借りる。
吉原で袈裟の輪を見た遊女たちが大名の印と勘違いし、与太郎だけが大もてする。
10行でわかるあらすじとオチ
町内の若い衆が隣町の緋縮緬長襦袢での裸踊りに負けじと、錦の褌で吉原で対抗しようと計画する。
与太郎は錦が足りないため仲間外れになりそうになるが、女房が知恵をつける。
「親類の娘に狐が憑いたが、錦の袈裟を掛けると落ちる」と嘘をついて寺の和尚から借りることに。
与太郎は翌朝返すと約束して錦の袈裟を借り、無事仲間入りを果たす。
吉原で一斉に錦の褌一つになって裸踊りを始めるが、与太郎の袈裟には白い輪がついていた。
女将が「あの連中は大名家の隠れ遊びで、袈裟に輪があるのが殿様」と解釈し、与太郎だけが大もてする。
翌朝、振られた他の連中が与太郎を起こそうとするが、花魁が与太郎にしがみついて離さない。
花魁が「今朝はおまえさんを帰さないよ」と甘えると、与太郎は寺との約束を思い出す。
「えぇ、袈裟(今朝)返さねえとお寺で小言食う」と与太郎が答える地口落ち。
「袈裟」と「今朝」を掛けた言葉遊びで締めくくられる。
解説
落語「錦の袈裟」は、上方落語の「袈裟茶屋」を東京に移入し、明治期に初代柳家小せんが登場人物を増やして改作した作品です。
1940年9月に禁演落語53演目に含まれた歴史を持ちますが、現在では古典落語の代表作の一つとして知られています。
この噺の最大の特徴は、与太郎が女房持ちでありながら吉原でもてた唯一の噺という点です。
通常の与太郎は独身でおんぼろなキャラクターですが、この噺では女房の知恵に頼って機知を発揮します。
オチは「袈裟」と「今朝」を掛けた地口落ちで、落語の基本的なオチのパターンの一つである言葉遊びを巧みに使っています。
また、吉原という江戸時代の花街を舞台とした廓噺でもあり、當時の男性文化や遊廊文化を背景とした内容となっています。
袈裟の輪を大名の印と勘違いする発想など、江戸時代の人々の機知とユーモアを結びつけた秀逸な構成を持っています。
あらすじ
町内の若い衆が寄り集まって吉原へ繰り込もうという相談が始まる。
昨夜、隣町の連中が、吉原で芸者を総揚げして大騒ぎをしたあげく、緋縮緬の長襦袢一丁でかっぽれの総踊りをやらかし「隣町のやつらはしみったれで、こんな派手なまねはできめえ」と言って帰ったという噂を耳にし、こっちも負けないでおつな趣向で見返してやろうと息巻く。
あれこれ相談の末、向こうが緋縮緬ならこちらはもっと豪華な錦の褌(ふんどし)をお揃いでこしらへ、仲(吉原)へ繰り込んで、お引けの時に裸の総踊りと洒落れこもうということになる。
連中は質屋の質流れの錦で褌に仕立てるが、一人分足りない。
少し足りない与太郎があぶれそうになった。
仲間外れになるのはいやだし、吉原にも行きたい与太郎さん、鬼よりこわいおかみさんにうかがいを立て、仲間のつき合いだというのでやっと許してもらったはいいが、肝心の錦の算段がつかない。
与太郎さんと違い頭の回転の早く、知恵が浮かぶおかみさんは、寺の和尚に「親類の娘に狐が憑(つ)いたが、錦の袈裟を掛けてやると落ちるというから、一晩だけぜひ貸してくれ」と頼み込めと入れ知恵する。
早速、寺へ行った与太郎さん、翌朝には必ず返すと約束して借り受け、無事、女郎買いの仲間入りが出来た。
予定通りその晩はどんちゃん騒ぎ。
お引け前になって、一斉に錦の褌一つになり、裸踊りを始めたから廓の連中はびっくり。
中でも一際目立つのが与太郎さんだ、錦の袈裟も一段と立派だが、それに白い輪もついている逸品だ。
女将は「あの連中はどこかの大名家の隠れ遊びで、袈裟に輪があるのが殿様で、あの輪は小用の時、手が汚れるといけないから、チンをくぐぐらせて固定するチン輪だ」というチン説をまことしやかに披露し、花魁たちもなるほどと納得、その夜は与太郎さんだけが大もて、家来どもはすっかり振られてしまた。
翌朝、振られて面白くない家来連中が与太郎の部屋に行くと、まだ花魁と布団の中、「早く、起きろ」に、「起きたいけど花魁が起こしてくれない」とのろけられ、踏んだり蹴ったりだ。
花魁も「うるさいよ家来ども。
お下がり。ふふん、この輪なし野郎」で、頭に来た連中が与太郎さんを寝床から引きずり出そうとすると、花魁がしがみついて放さない。
与太郎 「花魁、起こしておくれよ」
花魁 「どうしてもおまえさんは、今朝帰さないよ」
与太郎 「えぇ、袈裟(今朝)返さねえとお寺で小言(こごと)食う」
落語用語解説
この噺に登場する落語ならではの用語を解説します。
- 錦の袈裟(にしきのけさ) – 錦織の豪華な袈裟。寺の宝物として大切に保管されていた。
- 与太郎(よたろう) – 落語の定番キャラクター。おっとりしていて抜けているが憎めない。この噺では珍しく女房持ち。
- 吉原(よしわら) – 江戸時代の遊郭。江戸の花街として栄えた。
- 廓噺(くるわばなし) – 吉原などの遊郭を舞台とした落語のジャンル。
- 花魁(おいらん) – 吉原の最高位の遊女。位の高い客を相手にした。
- かっぽれ – 江戸時代の陽気な踊り。「ちゃらちゃらっちゃら」のリズムで知られる。
- 総揚げ(そうあげ) – 遊郭の全ての遊女を呼び出すこと。大変な散財。
- お引け – 宴会が終わる時間。吉原では夜明け前。
- 地口落ち(じぐちおち) – 言葉遊びで落とす技法。「袈裟」と「今朝」を掛けた。
- 袈裟茶屋(けさぢゃや) – この噺の元ネタとなった上方落語。柳家小せんが改作した。
- 狐憑き(きつねつき) – 狐の霊が人に取り憑くこと。与太郎が袈裟を借りる口実に使った。
- チン輪 – 袈裟の白い輪を小用時の固定具と誤解させる笑いの仕掛け。江戸時代の風俗ユーモア。
よくある質問(FAQ)
Q1: なぜ与太郎だけがもてたのですか?
A: 袈裟についていた白い輪を、遊女たちが大名の印と勘違いしたからです。他の連中は錦の褌だけでしたが、与太郎だけが袈裟を身に着けていたため、「殿様」として特別扱いされました。
Q2: 「袈裟」と「今朝」のオチの意味は?
A: 花魁が「今朝帰さないよ」と言ったのに対し、与太郎が「袈裟(けさ)返さねえとお寺で小言食う」と答えた言葉遊びです。「今朝」と「袈裟」の音が同じことを利用した地口落ちになっています。
Q3: 与太郎が女房持ちなのは珍しいですか?
A: はい、非常に珍しいです。通常の落語では与太郎は独身のおんぼろキャラクターとして描かれますが、「錦の袈裟」では女房持ちで、しかも女房の知恵に頼って成功するという設定が特徴的です。
Q4: 寺から袈裟を借りた口実は何ですか?
A: 「親類の娘に狐が憑いたが、錦の袈裟を掛けると落ちる」という嘘を女房が考えました。当時は狐憑きが信じられていたため、和尚もこの話を信じて袈裟を貸しました。
Q5: この噺は禁演になったことがあるのですか?
A: はい、1940年9月に禁演落語53演目に含まれました。吉原という遊郭を舞台にした内容が理由と考えられます。現在は制限なく演じられています。
Q6: 元ネタの「袈裟茶屋」とはどう違うのですか?
A: 上方落語の「袈裟茶屋」を東京に移入し、明治期に初代柳家小せんが登場人物を増やして改作したのが「錦の袈裟」です。舞台を吉原に変更し、与太郎を主人公にしたことで江戸落語らしい作品になりました。
名演者による口演
この噺を得意とした演者たちをご紹介します。
- 柳家小三治 – 与太郎の純朴さと女房の機知のコントラストが見事。吉原での大もて場面が華やか。
- 古今亭志ん朝 – 花魁とのやり取りが艶やかで、地口落ちのタイミングが絶妙。吉原の雰囲気が生き生きと描かれる。
- 三遊亭圓生 – 与太郎のおっとりした性格と、仲間たちの悔しがる様子の描写が丁寧。オチの「袈裟返さねえと」が自然。
- 柳家さん喬 – 女房の知恵と与太郎の従順さが愛らしく描かれる。裸踊りの場面が豪快で笑いを誘う。
- 春風亭一朝 – 袈裟の輪をチン輪と解釈する女将の説明が滑稽。花魁の甘える様子と与太郎の困惑が面白い。
関連する落語演目
この噺に関連する演目をご紹介します。
- 時そば – 江戸の庶民の機知を描いた古典。言葉遊びのオチが共通する。
- 文七元結 – 夫婦の情愛を描いた人情噺。女房の賢さという点で通じる。
- 粗忽長屋 – 勘違いから生まれる笑い。袈裟の輪の誤解と似た構造。
- 死神 – 機知で窮地を脱する物語。与太郎が袈裟で成功する展開と共通。
- 初天神 – 庶民の欲望を描いた噺。吉原への憧れという点で通じる。
この噺の魅力と現代への示唆
「錦の袈裟」は、与太郎という落語の定番キャラクターに新しい側面を与えた名作です。
通常の与太郎は独身のおんぼろキャラクターですが、この噺では女房持ちという珍しい設定が採用されています。しかも女房の知恵に頼って成功するという展開は、夫婦の協力関係を温かく描いています。「狐憑きの娘に袈裟を掛けると落ちる」という嘘を思いつく女房の機転は見事です。
吉原という江戸時代の花街を舞台にした廓噺としての魅力も十分です。町内対抗で錦の褌を揃えて裸踊りをするという豪快な発想は、江戸っ子の気風を象徴しています。袈裟の白い輪を大名の印(チン輪)と勘違いする展開は、誤解が幸運を生むという落語ならではの面白さです。
オチの「袈裟(今朝)返さねえとお寺で小言食う」は、「今朝」と「袈裟」の音が同じことを利用した地口落ちの見本です。花魁が「今朝帰さない」と甘える場面から、寺との約束を思い出す与太郎の慌てぶりへの転換が絶妙で、聴衆を笑いに誘います。
現代においても、機転を利かせて困難を乗り越えることの大切さ、そして予想外の幸運が訪れることもあるという人生の妙味を教えてくれる作品です。
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