人情けちん坊
今回も懲りずに新作落語です。
人情とけちん坊という、真逆の性質を一人の人間に詰め込んでみました。
無理がある設定ですが、まあ落語ですから。
けちで人情家という矛盾した男
あらすじ
江戸一番のけちん坊として有名な吉兵衛。
一文たりとも無駄遣いしないことで知られていた。
吉:「今日も一文も使わずに済んだ。めでたいことだ」
隣人:「吉兵衛さん、また井戸水でお茶を沸かしてるんですか」
吉:「茶葉がもったいない。白湯で十分だ」
隣人:「そんなにけちって、楽しいですか」
吉:「楽しいも何も、これが俺の生き方だ」
—
ところが、吉兵衛には誰も知らない一面があった。
道で泣いている子供を見つけると…
吉:「坊や、どうした」
子供:「お母ちゃんとはぐれちゃった」
吉:「そうか。じゃあ、飴でも舐めて待ってな」
吉兵衛は懐から飴を出して子供に渡した。
子供:「ありがとう、おじちゃん」
吉:「ちっ、また無駄遣いしちまった」
—
別の日、長屋の婆さんが困っていた。
婆:「薬代が払えなくて…」
吉:「いくらだ」
婆:「三百文です」
吉:「ちっ、しょうがねえな」
吉兵衛はこっそり金を置いていった。
婆:「あら、誰かが置いていってくれたのかしら」
吉:「(物陰から)また損しちまった…」
—
そんなことを繰り返しているうちに、吉兵衛の財布は軽くなっていった。
友人:「おい吉兵衛、最近顔色が悪いぞ」
吉:「飯を一日一食にしたんだ」
友人:「お前ほどの倹約家が、なんでそんなに金がないんだ」
吉:「さ、さあな…」
実は町中の困っている人を助けていたのだが、けちん坊の看板があるので言えない。
—
ある日、大家が吉兵衛の部屋を訪ねた。
大家:「吉兵衛、お前が皆を助けてるって聞いたぞ」
吉:「な、何のことだ」
大家:「隠すな。婆さんが見てたんだ」
吉:「ちっ、バレちまったか」
大家:「けちん坊で人情家なんて、初めて聞いたぞ」
吉:「けちは自分のため、人情は他人のため。別もんだ」
—
大家:「でも、このままじゃお前が餓死しちまう」
吉:「それも運命だ」
大家:「馬鹿言うな。これからは『人情けちん坊』って看板でも出したらどうだ」
吉:「人情とけちを一緒にするな」
大家:「じゃあ『人情破産』はどうだ」
吉:「縁起でもねえ!」
結局、吉兵衛は人助けで無一文になり、今度は皆に助けられる番になった。
まとめ
けちなのに人情に厚いという、矛盾だらけのキャラクターでした。
「人情破産」なんて言葉を作ってしまいましたが、実際にありそうで怖いです。
でも、こんな矛盾した人間の方が、落語っぽくていいですよね。
…って、自分で言うのもなんですが。


