二人癖
3行でわかるあらすじ
「のめる」が口癖の男と「つまらん」が口癖の辰ちゃんが、お互いの口癖を言ったら1円の罰金を払う賭けをする。
男は甚兵衛さんの知恵を借りて、大根の詰め物や詰将棋などの計略で辰ちゃんに「つまらん」と言わせようと試みる。
詰将棋作戦で成功し辰ちゃんから1円もらうが、喜んで「一杯のめるわ」と言ってしまい、結局差し引きゼロになってしまう。
10行でわかるあらすじとオチ
「のめる」が口癖の男と「つまらん」が口癖の辰ちゃんが、お互いの口癖を言ったら1円の罰金を払う賭けをした。
男は甚兵衛さんの知恵を借り、「大根百本を二斗樽に詰まるか?」と聞いて辰ちゃんに「つまらん」と言わせる作戦を立てる。
しかし辰ちゃんに見破られ「入らん」と切り抜けられ、逆に男が「兄貴とこ新築祝いか、一杯のめるな」と言って1円を取られる。
悔しい男は再び甚兵衛さんに相談し、今度は詰将棋を使った作戦を授けられる。
絶対に詰まない詰将棋を考えているふりをして、辰ちゃんに一緒に考えさせてから「どうや、詰まるか?」と聞く計略だ。
夕方、風呂に誘いに来た辰ちゃんに詰将棋作戦を実行すると、見事に成功した。
辰ちゃんは「こら、つまらん」とうっかり発言してしまい、男は大喜びで胸倉を掴んで「さあ、1円」と催促する。
事情を理解した辰ちゃんは「恐れ入った。感心したさかい倍の2円やるわ」と男を褒めて2円を渡す。
男は「ありがたい、一杯のめるわ」と喜んでしまい、自分の口癖を言ってしまう。
辰ちゃんは「それで差し引きやがな」と指摘し、結局男は1円も得することなく終わってしまった。
解説
『二人癖』は「なくて七癖」という言葉通り、誰にでもある口癖をテーマにした古典落語の秀作です。この演目の最大の見どころは、相手の口癖を引き出そうとする男同士の知恵比べにあります。
特に詰将棋を使った計略は非常に巧妙で、将棋好きの辰ちゃんの性格を利用した心理戦が展開されます。「詰まるか?」という問いかけに対して、将棋のことしか頭にない辰ちゃんが「つまらん」と答えてしまう仕掛けは、言葉の二重性を活用した落語らしい技法です。
このオチの秀逸さは、勝利の喜びに浮かれた男が自分の口癖を忘れてしまうという人間の心理の描写にあります。相手を出し抜いたと思った瞬間に、自分が同じ落とし穴に落ちるという皮肉な展開は、落語の醍醐味そのものです。
また、甚兵衛さんという知恵袋的な人物の存在も重要で、二つの異なる計略を提案することで物語に変化と深みを与えています。最終的に「差し引きやがな」という辰ちゃんの一言で全てが水の泡となる構成は、聴衆に爽快感と可笑しさを同時に提供する落語の真骨頂といえるでしょう。
あらすじ
誰にでも癖はあるもので、「なくて七癖」なんて言います。「のめる」が口癖の男が、「つまらん」が口癖の辰ちゃんと賭けをする。
お互いの口癖を言ったら1円の罰金を払うというものだ。
すぐに男は辰ちゃんを策略にかけ「つまらん」と言わせそうになったが、気づかれてそうは問屋が卸さない。
何とか辰ちゃんに「つまらん」と言わせたい男は甚兵衛さんに知恵を借りに行く。
甚兵衛さんも面白がり、「田舎の親類からもらった大根百本を漬けもんに漬けよおと思うが、二斗樽一つに百本の大根、詰まるかな?」と辰ちゃんに聞いて見ろという。「そらつまらん」と言うだろうという計略を授ける。
早速、男は辰ちゃんの所へ行って、この作戦を実行するが、危うく見破った辰ちゃんは「入らん」、「そこが抜ける」と切り抜け、「今日はお前の相手はしてられん、兄貴の新築祝いに行くんや」で、男は思わず、「兄貴とこ新築祝いか、一杯のめるな」で呆気なく、1円取られてしまう。
くやしくて仕方がない男、どうしても仕返ししなくては今晩は寝られないと、また甚兵衛さんに相談に行く。
甚兵衛さん今度は辰ちゃんが好きな将棋を使っての作戦を編み出した。
真ん中の王を角と金と歩が三枚で詰ますのだが、これは絶対詰まない詰将棋だ。
これを一生懸命考えているような振りをする。
辰ちゃんは横から口を出して来て一緒にあれこれと指して考えるだろう。
頃合いを見計らって、「どうや、詰まるか?」と聞けば、詰将棋しか頭にない辰ちゃんは、「こら、つまらん」とうっかり言うという寸法だ。
夕方に風呂に誘いに来た辰ちゃんに男は詰将棋作戦で大成功、ついに辰ちゃんは「こら、つまらん」と発した。
喜んだ男は辰ちゃんの胸倉を掴み、「さあ、1円」と催促する。
やっと事情が呑み込めた辰ちゃん、「ほなお前、あれを言わすために、こんなわけの分からん詰め将棋考えさしやがったのか、えらい男やなぁ、恐れ入った。感心したさかい倍の2円やるは」
男 「ありがたい、一杯のめるわ」
辰ちゃん 「それで差し引きやがな」
この噺は、口癖という誰にでもある習性を題材にした巧妙な知恵比べの物語です。勝利の喜びに浮かれて自分の口癖を忘れてしまう人間の滑稽さが絶妙に描かれています。
落語用語解説
二人癖(ににんぐせ)
二人の人間がそれぞれ持つ癖のこと。この噺では「のめる」と「つまらん」という口癖を持つ二人の男が、互いの癖を利用した駆け引きを繰り広げます。
なくて七癖(なくてななくせ)
誰にでも最低七つの癖があるという諺。本人は気づいていなくても、必ず何かしらの癖を持っているという意味です。この噺の前提となる格言です。
のめる
酒を飲めるという意味の関西弁。男の口癖で、何かにつけて「一杯のめる」と言ってしまいます。お祝い事や嬉しい時に反射的に出る言葉です。
つまらん
面白くない、価値がないという意味。辰ちゃんの口癖で、何かにつけて否定的な評価をしてしまいます。この言葉を「詰まらん」(詰将棋が解けない)とかけるのがこの噺の肝です。
詰将棋(つめしょうぎ)
将棋の一種で、限られた駒を使って王将を詰ます問題。この噺では「詰まるか?」という問いかけに対して「つまらん」と答えさせる仕掛けとして使われます。
二斗樽(にとだる)
容量が二斗(約36リットル)の樽。甚兵衛さんが最初に提案した作戦で、大根百本が二斗樽に「詰まるか」と聞く仕掛けに使われます。
差し引き(さしひき)
相殺すること。オチの「それで差し引きやがな」は、男が2円もらって1円払うので、結局プラスマイナスゼロという意味です。
甚兵衛さん(じんべえさん)
男に知恵を授ける知恵袋的な人物。二つの異なる作戦を提案し、男を助けます。長屋の賢者的存在です。
胸倉を掴む(むなぐらをつかむ)
相手の胸元の着物を掴むこと。男が辰ちゃんから1円を取り立てる場面で使われ、勝利の興奮を表現しています。
恐れ入る(おそれいる)
感心する、敬服するという意味。辰ちゃんが男の作戦の巧妙さに感心して、倍の2円を払う場面で使われます。
頃合いを見計らう(ころあいをみはからう)
適当な時機を選ぶこと。詰将棋作戦で、辰ちゃんが十分に没入したタイミングを見て「詰まるか?」と聞く場面で使われます。
問屋が卸さない(とんやがおろさない)
物事がうまくいかないこと。最初の大根作戦が辰ちゃんに見破られて失敗する場面で使われます。
よくある質問 FAQ
なぜ二人は口癖を賭けの材料にしたのですか?
互いの口癖を意識させることで、日常の無意識な習慣を面白おかしく競い合うためです。口癖は無意識に出るものなので、それを抑えるのは難しく、賭けとして面白い材料になります。人間の習性を利用した遊びです。
なぜ詰将棋作戦は成功したのですか?
辰ちゃんが将棋好きで、詰将棋に没頭してしまったからです。「詰まるか?」という問いかけに、将棋のことしか頭になかった辰ちゃんは反射的に「つまらん」と答えてしまいます。相手の性格と興味を利用した巧妙な心理戦です。
なぜ男は最後に自分の口癖を言ってしまったのですか?
勝利の喜びに浮かれて、口癖を抑えることを忘れてしまったからです。2円もらえると喜んだ瞬間に、反射的に「一杯のめるわ」と言ってしまいます。人間は興奮すると無意識の習慣が出やすくなるという心理を巧みに描いています。
このオチはどこが面白いのですか?
苦労して2円を勝ち取ったのに、自分の口癖で1円を払うことになり、結局差し引きゼロになってしまう皮肉です。相手を出し抜いたと思った瞬間に自分が同じ罠にかかる展開が、落語らしい痛快さを生み出します。
なぜ辰ちゃんは倍の2円を払ったのですか?
男の作戦の巧妙さに感心したからです。わざと詰まない詰将棋を考えさせて「つまらん」と言わせる策略は、確かに見事な心理戦です。辰ちゃんの器の大きさと、男への敬意が表れた行動です。
この噺は現代でも通用しますか?
口癖という普遍的な人間の習性を扱っているため、時代を超えて共感を呼びます。現代でも「マジで」「やばい」「なるほど」など、無意識に繰り返す言葉は誰にでもあります。この噺は、そうした人間の本質を笑いとともに描いています。
名演者による口演
この噺は二人の男の性格対比と、詰将棋の場面の緊張感が見どころです。多くの名演者が演じてきました。
- 桂米朝 – 関西弁の味わいを活かし、男と辰ちゃんの性格を巧みに演じ分けた名演
- 桂枝雀 – 詰将棋の場面での緊張感と、オチの爽快感を最大限に引き出した秀演
- 桂文枝(五代目) – 甚兵衛さんの知恵袋ぶりと、男の必死さを丁寧に描写した名演
- 桂南光 – 軽妙な語り口で、二人の駆け引きをテンポよく描いた秀演
- 桂吉朝 – 詰将棋の専門的な描写と、心理戦の巧妙さを繊細に表現した名演
関連する落語演目
時そば(ときそば)
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知恵比べを描いた噺。「二人癖」と同様に、相手を出し抜く策略とその失敗を描いています。
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文七元結(ぶんしち)
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人情噺の対極として。「二人癖」の軽妙さとは対照的な、真面目な人間ドラマです。
この噺の魅力と現代への示唆
「二人癖」は、口癖という誰にでもある無意識の習慣を題材にした巧妙な知恵比べの物語です。男と辰ちゃんは互いの口癖を言ったら罰金を払うという賭けをしますが、この設定自体が人間の習性を利用した面白い遊びです。
この噺の最大の魅力は、詰将棋を使った心理戦の巧妙さにあります。相手の興味と性格を利用して、「詰まるか?」という問いかけに「つまらん」と答えさせる仕掛けは、言葉の二重性を活用した落語らしい技法です。将棋好きの辰ちゃんが詰将棋に没頭し、反射的に「つまらん」と言ってしまう様子は、人間が興味のあることに集中すると周りが見えなくなる性質を巧みに描いています。
そして何より秀逸なのは、勝利の喜びに浮かれた男が自分の口癖を忘れてしまうという展開です。2円もらえると喜んだ瞬間に「一杯のめるわ」と言ってしまい、結局差し引きゼロになる。この皮肉な結末は、人間は興奮すると無意識の習慣が出やすくなるという心理を見事に表現しています。
現代社会でも、「マジで」「やばい」「なるほど」など、無意識に繰り返す口癖は誰にでもあります。この噺は、そうした人間の本質を笑いとともに描き、自分の習慣を意識することの大切さを教えてくれます。
江戸時代の庶民の知恵と人間観察が詰まった、笑いと心理描写が同居する名作です。
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