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【古典落語】猫の忠信 あらすじ・オチ・解説 | 三味線に化けた猫が引き起こす歌舞伎パロディ怪談

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話芸の殿堂-古典落語-猫の忠信
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猫の忠信

3行でわかるあらすじ

浄瑠璃の美人師匠お静さんに恋する次郎吉が、恋敵の常吉が二か所に同時にいる怪現象に遭遇。
正体は三味線にされた親猫を慕って化けた猫で、歌舞伎『義経千本桜』になぞらえる。
最後は化け猫が「にゃあう」と鳴いて正体を現すオチ。

10行でわかるあらすじとオチ

浄瑠璃の美人師匠お静さんに次郎吉と六さんが恋をしている。
六さんは次郎吉に、お静には常吉という男がいると嘘をつく。
次郎吉が覗き見すると確かに常吉とお静が酒を飲んでいる。
怒った次郎吉は常吉の嫉妬深い妻おとわに告げ口をする。
おとわが稽古屋を覗くと常吉がいるが、家にも常吉がいる不思議。
常吉本人も稽古屋に行くと、自分そっくりの偽物がいた。
偽常吉を問い詰めると、三味線にされた親猫を慕う化け猫だと判明。
次郎吉は歌舞伎『義経千本桜』になぞらえて配役を決める。
狐忠信ならぬ「猫の忠信」、静御前はお静さんだと言う。
お静が「私みたいなお多福が」と言うと、猫が「にゃあう」と鳴く。

解説

この噺は歌舞伎の名作『義経千本桜』のパロディ落語として知られています。
原作では狐が親の皮で作られた鼓を慕って佐藤忠信に化けますが、この落語では猫が親の皮で作られた三味線を慕って常吉に化けるという設定に置き換えられています。
「猫の忠信」という題名自体が「狐忠信」のもじりで、「猫のただ飲む」という洒落も含まれています。
浄瑠璃の稽古場という設定も巧みで、歌舞伎の世界と落語の世界を自然に融合させています。
二人同時に存在する常吉の謎から化け猫の正体が明かされる展開は、怪談噺としての要素も持ちながら、最後は歌舞伎のパロディとして笑いに転じる構成が見事です。

特に秀逸なのは、登場人物の名前が歌舞伎の配役と重なる点で、お静(静御前)、次郎吉(駿河次郎)、常吉(佐藤忠信)と対応しています。

最後の「にゃあう」という猫の鳴き声は、それまでの芝居がかった展開を一気に現実に引き戻す効果的なオチとなっています。

あらすじ

若くて別嬪の浄瑠璃のお師匠さんに稽古に通う次郎吉と六さん。
あわよくば、師匠のお静さんをものにしようと狙っている「あわよか連」、「狼連」の稽古仲間だ。

次の会の義経千本桜で端役をあてがわれた六さんは面白くない。
六さんは次郎吉にお静さんにはもう常吉という可愛い男がいるから、稽古に通っても無駄だから止めた方がいいと言う。
さっき久しぶりに稽古屋へ行くと、中から声が聞こえるので覗くとお静さんと常吉が二人肩を寄せ合い酒を飲んでいるのを見たと言う。

次郎吉は半信半疑で稽古屋へ行き障子に穴を開け中を覗くと、確かに二人が肩を寄り添って酒を飲んでいる。
腹の虫が収まらない次郎吉。
町内で悋気、やきもち焼で知れ渡っている常吉の女房のおとわの家へ行く。

おとわは常吉の着物を縫っている。
次郎吉はおとわにお前がこんなに亭主につくしても、常吉は稽古屋のお静とうまくやっていると告げる。
おとわは腹を立て、あわや縫っていた着物を引き裂こうとする。

次郎吉は、今現場を見てきたばかりだから間違いない、着物を引き裂き、皿や鉢、茶碗、丼も割ってしまえとおとわをけしかける。
すると、おとわは冷静になり、亭主は奥の部屋で寝ている、ふざけたことを言わないで帰ってくれという。

そこへ、起きてきた二人の話を聞いていた常吉が現れ、お前とはもう友達の縁を切るからうちへ来ないでくれと次郎吉を追っ払おうとする。

次郎吉は合点が行かないので、稽古屋までおとわさんと一緒に行って確かめさせてくれと頼む。
おとわはそんなアホらしいことは嫌だというが、常吉が一緒に行ってやれと言われ稽古屋に行く。

おとわが稽古屋の障子の穴から覗くと確かに常吉がいる。
次郎吉は稽古屋からおとわの家まで真田の抜け穴のような道でも掘ってあるのだろうと言う。

二人が急いでおとわの家に戻ると常吉がいる。
二人から話を聞いた常吉は次郎吉と稽古屋へ行く。
確かに中に自分がいる。
常吉はこれは狐狸妖怪のしわざに違いないから、次郎吉に中に入り酒を注げという。
そしてもし、相手の手の先が丸かったらキセルで頭をどついて、俺を呼べという。

しぶしぶ中に入った次郎吉、注がれた酒を飲み、ご返盃と差出し盃を受け取ろうとした相手の手をつかむと先が丸い。「先が丸い、丸い!」と叫ぶと常吉が入ってくる。
常吉が二人になり、びっくりするお静さん。

常吉はお前は誰だと、にせ常吉を打ち始める。
すると、笛、鳴物が入り、芝居がかりでにせ常吉が白状する。
自分の両親は昔、鼠がはびこった時、博士の占いで生皮をはがれ三味線にされた猫で、その三味線がこの家にあるので両親恋しさで常吉に化けて逢いに来るのだという。

これを聞いた次郎吉、こんどの会は千本桜の役割が揃っているので大当たりだという。
吉野屋の常吉の義経、猫が化けてここで毎日酒を飲んでいたので、猫のただ飲む、猫の忠信で狐忠信、自分が駿河屋の次郎吉で駿河の次郎という訳だ。

常吉 「肝心の静御前は」

次郎吉 「ここの稽古屋のお師匠さん、名前もお静さんなら器量もいい、静御前にぴったりやがな」

お静 「あほらしい、わて見たいなお多福、なんの静に似合うかいな」

すると猫が顔を上げて、「にゃあう」

落語用語解説

猫の忠信(ねこのただのぶ)

この噺のタイトルで、歌舞伎『義経千本桜』に登場する「狐忠信」のパロディです。狐が親の皮で作られた鼓を慕って佐藤忠信に化けるように、猫が親の皮で作られた三味線を慕って常吉に化けるという設定です。「猫のただ飲む(タダで酒を飲む)」という洒落も含まれています。

義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)

歌舞伎の三大名作の一つで、源義経が吉野山に逃れる物語。佐藤忠信に化けた狐が、親の皮で作られた初音の鼓を慕って現れるという「狐忠信」の段が有名です。この噺はこの場面を落語風にパロディ化したものです。

浄瑠璃(じょうるり)

三味線の伴奏で物語を語る伝統芸能。この噺では浄瑠璃のお師匠さんお静が登場し、稽古場が舞台となります。江戸時代には浄瑠璃のお稽古は教養のある女性の習い事として人気がありました。

あわよか連(あわよかれん)

「あわよくば」と期待している人々の集まりのこと。この噺では、美人のお師匠さんお静を「あわよくばものにしよう」と狙う男たちを指します。不純な動機で稽古に通う「狼連」とも呼ばれています。

悋気(りんき)

嫉妬心、やきもち焼きのこと。常吉の妻おとわは町内で有名な悋気焼きとして描かれ、夫が浮気していると聞いて激怒します。江戸時代の女性の感情を表す代表的な言葉です。

真田の抜け穴(さなだのぬけあな)

大阪城から真田丸まで掘られたとされる伝説の地下道。次郎吉は常吉が稽古屋と自宅を瞬時に行き来できる理由を、この抜け穴に例えて説明しようとします。江戸時代から有名な伝説でした。

狐狸妖怪(こりようかい)

狐、狸、妖怪などの化け物の総称。常吉は自分が二人いる不思議な現象を見て、狐狸妖怪の仕業だと確信します。江戸時代には化け物の存在が広く信じられていました。

先が丸い

猫や狐などの化け物が人間に化けた時、手の指先が人間のように分かれておらず、丸い状態のままだという言い伝え。常吉は次郎吉に、相手の手の先が丸かったら合図をするよう指示します。

博士の占い(はかせのうらない)

陰陽師や占い師による占いのこと。噺中では、鼠がはびこった時に博士が「猫の生皮を剥いで三味線にせよ」と占ったとされています。当時は占いが生活に密接に関わっていました。

笛、鳴物(ふえ、なりもの)

歌舞伎や芝居で使われる効果音楽。化け猫が正体を明かす場面で「笛、鳴物が入り」と描写され、芝居がかった演出になります。落語でも演者が口三味線や効果音を真似ることがあります。

静御前(しずかごぜん)

源義経の愛妾で、『義経千本桜』のヒロイン。この噺では浄瑠璃のお師匠さんお静が静御前に見立てられます。次郎吉は「名前もお静さんなら器量もいい」と言いますが、お静本人は「お多福」と自虐します。

お多福(おたふく)

丸顔でふくよかな顔立ちの女性のこと。転じて器量の良くない女性を指す言葉としても使われます。お静が自分を「お多福」と謙遜すると、化け猫が「にゃあう」と鳴いてオチとなります。

よくある質問 FAQ

Q1: なぜ猫は常吉に化けたのですか?

A: 親猫の皮で作られた三味線がお静の稽古屋にあり、その三味線に会いたい一心で常吉に化けました。『義経千本桜』で狐が親の皮で作られた鼓を慕って佐藤忠信に化けたように、猫も親を慕う気持ちから化けたのです。常吉に化けた理由は、彼が稽古屋に出入りしているため、自然に三味線に近づけるからでしょう。

Q2: 次郎吉はなぜわざわざおとわに告げ口をしたのですか?

A: 次郎吉はお静に恋していましたが、常吉が先に関係を持っているのを見て嫉妬しました。悋気深い常吉の妻おとわに告げ口すれば、おとわが常吉を責めて二人の関係が壊れ、自分にチャンスが巡ってくると考えたのです。しかし結果的にこれが化け猫の正体発覚につながりました。

Q3: 常吉はなぜすぐに狐狸妖怪の仕業だと気づいたのですか?

A: 常吉は自分が二か所に同時に存在するという物理的にありえない現象を目の当たりにしました。江戸時代の人々は化け物の存在を信じていたため、このような不可思議な現象は狐や狸などの妖怪の仕業だと考えるのが自然でした。また、「手の先が丸い」という化け物の特徴も知っていました。

Q4: なぜ鼠がはびこったら猫の皮で三味線を作るのですか?

A: これは噺の中の設定で、博士(占い師)が「鼠退治のために猫の生皮を剥いで三味線にせよ」と占ったとされています。実際の三味線は猫の皮を使いますが、生きた猫から剥ぐのは残酷な行為として描かれています。この残酷さが、化け猫の悲哀と親を慕う心を際立たせる効果があります。

Q5: お静が「お多福」と言ったのに猫が「にゃあう」と鳴いたのはなぜですか?

A: これがこの噺の秀逸なオチです。次郎吉は「お静さんは器量もいい、静御前にぴったり」と褒めましたが、お静本人が「わて見たいなお多福、なんの静に似合うかいな」と謙遜(または自虐)しました。すると化け猫が思わず「にゃあう」と鳴いてしまったのです。これは「その通り、お多福だ」と同意したとも、「いや美人だよ」と否定したとも取れる曖昧なオチで、聞き手の想像に委ねられています。

Q6: 「猫のただ飲む」とはどういう意味ですか?

A: 「ただ飲む」とは「タダで酒を飲む」という意味の洒落です。化け猫は常吉に化けて稽古屋で毎日お静と酒を飲んでいましたが、本物の常吉ではないので「タダで飲んでいた」ことになります。これを「忠信(ただのぶ)」に掛けて「猫のただ飲む=猫の忠信」という言葉遊びになっています。歌舞伎の「狐忠信」を「猫の忠信」にもじった巧妙なオチです。

名演者による口演

古今亭志ん生(ここんていしんしょう)

志ん生の「猫の忠信」は、次郎吉と六さんの色恋沙汰の部分を丁寧に描き、化け猫が登場してからの芝居がかった展開との対比が見事でした。特に最後の「にゃあう」という一声の間が絶妙で、それまでの大げさな芝居を一気に崩す笑いを生み出していました。

三遊亭円生(さんゆうていえんしょう)

六代目円生の演じる「猫の忠信」は、『義経千本桜』の知識を前提とした格調高い演出が特徴です。化け猫が正体を明かす場面では、歌舞伎の口調を巧みに真似て、落語と歌舞伎の融合を見せました。教養ある観客に向けた上品な笑いを提供する演目として評価されています。

桂米朝(かつらべいちょう)

米朝師匠の「猫の忠信」は、上方落語らしい人情味のある演出が光ります。化け猫が親を慕う心情が丁寧に描かれ、怪談でありながら温かみのある仕上がりになっています。お静の「お多福」発言と猫の「にゃあう」のタイミングも絶妙で、上方らしい柔らかい笑いを生み出していました。

柳家小三治(やなぎやこさんじ)

小三治師匠の「猫の忠信」は、登場人物それぞれの心理描写が細やかです。次郎吉の嫉妬心、おとわの悋気、常吉の困惑など、人間模様が繊細に描かれます。化け猫が登場してからも、妖怪としてだけでなく親を慕う子としての感情が丁寧に表現されています。

春風亭柳朝(しゅんぷうていりゅうちょう)

八代目柳朝の「猫の忠信」は、歌舞伎の『義経千本桜』を忠実に下敷きにした演出が特徴です。芝居の知識がある観客ほど楽しめる仕掛けが随所にあり、「狐忠信」との対応関係を明確に示しながら、落語ならではのユーモアで仕上げていました。

関連する落語演目

野ざらし

https://wagei.deci.jp/wordpress/nozarashi/
化け物が登場する怪談噺という点で「猫の忠信」と共通しています。「野ざらし」では骸骨が化けて登場しますが、最終的には人間と心を通わせる展開になります。どちらも怪談でありながら人情味のある結末が特徴的な噺です。

まんじゅうこわい

https://wagei.deci.jp/wordpress/manjukowai/
落語における「見立て」や「パロディ」の手法が共通しています。「まんじゅうこわい」は怖いものを茶化す噺ですが、「猫の忠信」は歌舞伎の名場面を落語風にアレンジしています。どちらも既存の文化を巧みに取り込んだ噺です。

死神

https://wagei.deci.jp/wordpress/shinigami/
超自然的な存在(死神、化け猫)が人間の世界に現れるという構造が共通しています。「死神」では死神が貧乏人に金儲けの方法を教え、「猫の忠信」では化け猫が親を慕って現れます。どちらも人間と異界の存在との交流を描いた噺です。

芝居の喧嘩

歌舞伎や芝居を題材にした噺という点で共通しています。「猫の忠信」は『義経千本桜』のパロディですが、「芝居の喧嘩」は芝居見物での騒動を描きます。どちらも江戸時代の庶民にとって芝居が身近な娯楽だったことを示す噺です。

三味線栗毛

三味線が重要な小道具として登場する点が共通しています。「猫の忠信」では親猫の皮で作られた三味線を慕って化け猫が現れますが、「三味線栗毛」では三味線の音色を巡る騒動が描かれます。どちらも三味線という楽器の文化的背景を活かした噺です。

この噺の魅力と現代への示唆

「猫の忠信」の最大の魅力は、歌舞伎の名作『義経千本桜』を落語風にアレンジした巧妙なパロディ構造にあります。狐が親の皮で作られた鼓を慕うという感動的な場面を、猫が親の皮で作られた三味線を慕うという設定に置き換え、さらに「猫のただ飲む(タダで酒を飲む)」という洒落まで加えた言葉遊びの妙が光ります。

この噺が現代にも通じるのは、「パロディ」や「オマージュ」という創作手法の面白さを教えてくれる点です。元ネタを知っている人はその対応関係を楽しめ、知らない人でも化け猫の物語として楽しめるという二重構造になっています。現代のポップカルチャーでも、既存の名作をアレンジして新しい作品を生み出す手法は広く使われており、この噺はその先駆けと言えるでしょう。

また、化け猫が親を慕う心情は、怪談でありながら人情味のある物語を生み出しています。残酷にも生きたまま皮を剥がれた親猫への愛情が、化け猫の行動の動機となっており、単なる怖い話ではなく、親子の情愛を描いた感動的な要素も含んでいます。

次郎吉の嫉妬から始まった騒動が、最終的には化け猫の正体発覚につながるという展開も巧みです。人間の小さな恋愛感情と、化け猫の深い親への愛情が交錯し、最後は歌舞伎の配役に見立てて笑いに転じるという構成は、落語ならではの軽妙さと深みを併せ持っています。

最後の「にゃあう」という一声は、それまでの芝居がかった大仰な展開を一気に現実に引き戻す効果的なオチです。お静が「お多福」と自虐したことに対して化け猫が思わず鳴いてしまうという、聞き手の想像に委ねられた余韻のある締めくくりは、落語の醍醐味と言えるでしょう。

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