味噌蔵
3行でわかるあらすじ
けちん坊の味噌問屋けち兵衛が嫁の里帰り出産の見舞いで留守にしている間、番頭らが店で豪華な宴会を開く。
帰宅したけち兵衛が騒動を叱って収めた時、豆腐屋が焼けた田楽を持参し「焼けてきました」と声をかける。
けち兵衛は火事だと勘違いし、田楽の味噌の匂いで「味噌蔵にも火が入った」と慌てふためく。
10行でわかるあらすじとオチ
けちん坊で有名な味噌問屋のけち兵衛が、嫁の里帰り出産の見舞いに出かける前に番頭に火の用心を厳重に言いつける。
万一近所で火事が出たら商売物の味噌で蔵の目塗りをするよう指示して、汚い下駄を履いて出発する。
主人が留守の間、番頭を筆頭に店の者たちは普段食べられない豪華な料理を注文して大宴会を開く。
鯛の塩焼き、ブリの照り焼き、天ぷら、寿司、刺身など贅沢三昧で、田楽は焼きたてを少しずつ豆腐屋に頼む。
宴会の最中に心配になったけち兵衛が重箱を忘れた貞吉と一緒に帰宅し、騒ぎを発見して激怒する。
けち兵衛が店の者を叱りつけて寝かせた後、店の戸を叩く音がして豆腐屋がやってくる。
豆腐屋が「焼けてきました」と言うのを火事と勘違いしたけち兵衛が詳細を尋ねる。
豆腐屋は「2、3丁焼けて、あとからどんどん焼けてきます」と田楽の個数を答える。
けち兵衛が戸を開けると田楽の味噌の匂いがプーンと漂ってくる。
けち兵衛は「いけない、うちの味噌蔵にも火が入った」と味噌の匂いを火事と勘違いして大慌てするオチとなる。
解説
「味噌蔵」は江戸落語の代表的なけちん坊噺で、極度のけちが災いして勘違いを起こす滑稽さを描いた作品です。この噺の見どころは、けち兵衛の留守中に起こる番頭たちの「解放感」と、最後の言葉遊びによる勘違いオチです。
江戸時代の味噌は重要な調味料で保存食品でもあり、味噌問屋は相当な資産家でした。しかしけち兵衛は「女房くらい無駄なものはない」と言うほどの守銭奴で、火事の際も商売物の味噌で目塗りをしろと指示するほど商魂たくましい人物として描かれています。
オチの「焼けてきました」は豆腐屋が田楽の完成を知らせる言葉ですが、けち兵衛には火事の報告に聞こえ、田楽の味噌の匂いを嗅いで自分の味噌蔵が燃えていると勘違いします。この二重の誤解が生み出す滑稽さと、日頃から火事を異常に恐れているけち兵衛の性格が巧妙に組み合わされた秀逸な構成となっています。
あらすじ
味噌問屋の主人のけち兵衛は、名前のとおり大のけちん棒。
女房くらい無駄なものはないと言いなかなか嫁を取らなかったが、親類の骨折りでやっと嫁を迎える。
そのうちに子どもができ、嫁さんは里で出産すると言い里帰りする。
無事、男の子が生まれたとの知らせで、けち兵衛さんは番頭に火の用心と、もし近所から火事が出たら商売物の味噌で蔵の目塗りをするよう番頭に言いつけ、貞吉に重箱を持たせ、きたない下駄を履いて行くように言い出かける。
出た料理を重箱に詰め、新しい下駄を履いて帰るためだ。
主人は泊りがけで留守というので、店の者はこれ幸いにと、晩飯には好きな食べ物を注文する。
帳簿の方は番頭が「どがちゃか、どがちゃか」でごまかすという寸法だ。
「鯛の塩焼き」、「ぶりの照り焼き」、「天ぷら」、「寿司」、「刺身」、「たこの酢の物」、「さつま芋」、「味噌田楽」etc、そして酒の大盤振る舞いだ。
田楽は焼きたての物を2,3丁づづ持ってくるように豆腐屋に頼む。
番頭を筆頭に店の連中が食べて飲んで、酔いが回ってドンチャン騒ぎの真っ最中に、店のことが気がかりなけち兵衛さんが、料理を詰めた重箱を忘れてきた貞吉に小言を言いながら帰ってくる。
店の近くまで来るとこんな夜更けまで騒いでいる家がある。
まさかと思いきや、なんと自分の店だ。
主人はあわてふためく番頭をはじめ、店の者を叱りつけ寝かせてしまう。
すると、店の戸を叩く音、横丁の豆腐屋が焼けた田楽を持って来たのだ。
豆腐屋 「焼けてきました、焼けてきたんですがね」
けち兵衛 「どうもご親切に、どちらから焼けてきました」
豆腐屋 「横丁の豆腐屋からです」
けち兵衛 「どれほど焼けてきました」
豆腐屋 「2,3丁です」
けち兵衛 「火足が早いね、どんな様子です」
豆腐屋 「あとからどんどん焼けてきます」、けち兵衛があわてて戸を開けたとたんに田楽の味噌の匂いがプ~ンと入ってきた。
けち兵衛 「いけない、うちの味噌蔵にも火が入った」
落語用語解説
この演目に登場する落語ならではの言葉や、江戸時代の文化について解説します。
- けちん坊(けちんぼう):極度にけちな人のこと。けち兵衛は「女房くらい無駄なものはない」と言うほどの守銭奴として描かれる。
- 味噌問屋(みそどんや):味噌を製造・販売する商人。江戸時代、味噌は重要な調味料で保存食品でもあり、味噌問屋は資産家が多かった。
- 目塗り(めぬり):火事の際に土蔵の隙間を土や泥で塗り固めて延焼を防ぐこと。けち兵衛は商売物の味噌を使えと指示した。
- 田楽(でんがく):豆腐に串を刺して焼き、味噌を塗った料理。江戸時代から庶民に親しまれた料理で、焼きたてが美味。
- 重箱(じゅうばこ):料理を入れる漆塗りの箱。けち兵衛は出産祝いの料理を重箱に詰めて持ち帰るつもりだった。
- 里帰り出産(さとがえりしゅっさん):嫁が実家に帰って出産すること。江戸時代から続く習慣で、初産は特に里で産むことが多かった。
- どがちゃか:適当にごまかすこと。番頭が帳簿を「どがちゃか、どがちゃか」でごまかすという台詞が印象的。
- 丁(ちょう):豆腐の数え方の単位。一丁は豆腐一個分で、田楽も豆腐の数で数える。
- 火足(ひあし):火事の延焼速度のこと。「火足が早い」は火の回りが速いという意味で、けち兵衛が勘違いして使った。
- 下駄を履いて帰る:けち兵衛は汚い下駄を履いて行き、新しい下駄をもらって履いて帰るつもりだった。けちの極みを表す描写。
よくある質問 FAQ
Q1: なぜけち兵衛は商売物の味噌で目塗りをしろと言ったのですか?
A: 火事の際は土蔵の隙間を土や泥で塗り固めて延焼を防ぐのが通常ですが、けち兵衛は商売物の味噌を使えと指示しました。味噌は粘性があり目塗りに使えると考えたのでしょうが、商売物を火事対策に使うという発想自体が商魂たくましく、けちの度を超えた守銭奴ぶりを表現しています。
Q2: なぜ番頭たちは豪華な宴会を開いたのですか?
A: けち兵衛の下では普段から質素な食事しか出ず、番頭たちは不満を溜めていました。主人が泊りがけで留守という絶好の機会に、普段食べられない鯛の塩焼き、ブリの照り焼き、天ぷら、寿司など贅沢三昧の宴会を開いたのです。帳簿は「どがちゃか、どがちゃか」でごまかすという計画的な行動でした。
Q3: けち兵衛が重箱を持たせた理由は何ですか?
A: 出産祝いに出された料理を重箱に詰めて持ち帰るためです。さらに汚い下駄を履いて行き、新しい下駄をもらって履いて帰るつもりでした。祝いの席で出された料理や品物を全て持ち帰ろうとする、けち兵衛の徹底したけちぶりを表現する重要なエピソードです。
Q4: なぜけち兵衛は途中で帰ってきたのですか?
A: 店のことが気がかりになったからです。極度のけち兵衛は、番頭たちに任せることが不安で、重箱を忘れてきた貞吉に小言を言いながら帰ってきました。皮肉なことに、この心配性が番頭たちの宴会を発見することになり、最後の勘違いオチにもつながります。
Q5: 豆腐屋の「焼けてきました」という言葉の意味は何ですか?
A: 豆腐屋は注文されていた田楽が焼き上がったことを知らせるために「焼けてきました」と言いました。田楽は焼きたてが美味しいので、少しずつ焼いて運ぶ注文だったのです。しかしけち兵衛には火事の報告に聞こえ、「2、3丁焼けた」「あとからどんどん焼けてきます」という返答も火事の延焼状況と勘違いしました。
Q6: オチの「味噌蔵にも火が入った」とはどういう意味ですか?
A: 戸を開けた瞬間に田楽の味噌の匂いがプーンと漂ってきて、けち兵衛は自分の味噌蔵が燃えていると勘違いしたのです。日頃から火事を異常に恐れ、味噌のことばかり考えているけち兵衛だからこその勘違いで、言葉の誤解と匂いによる連想が重なった秀逸なオチです。
名演者による口演
この演目は多くの名人によって演じられてきました。
- 三遊亭圓生(六代目):けち兵衛のけちぶりと番頭たちの解放感、最後の勘違いまでを緻密に演じ分けた名演。
- 古今亭志ん生(五代目):けちん坊の滑稽さと宴会シーンの賑やかさの対比が見事で、オチの間が絶妙。
- 柳家小三治:けち兵衛の性格描写を丁寧に行い、「焼けてきました」の勘違いを自然に表現した演出。
- 桂米朝(三代目):上方版として演じ、けちの描写に関西弁の味わいを加えた独特の解釈。
- 春風亭柳朝(五代目):宴会の料理の列挙をテンポよく演じ、最後のオチへの展開が鮮やか。
関連する落語演目
けちや勘違いを描いた演目をご紹介します。
https://wagei.deci.jp/wordpress/dengakugui/
田楽を題材にした噺。同じ江戸の食文化を描いた演目です。
https://wagei.deci.jp/wordpress/umanodengaku/
田楽が登場する滑稽噺。食べ物にまつわる勘違いという共通点があります。
https://wagei.deci.jp/wordpress/sokotsunagaya/
勘違いを描いた噺。思い込みから生まれる滑稽さという点で類似しています。
https://wagei.deci.jp/wordpress/tenshiki/
家族の絆を描いた噺。出産という共通のテーマがあります。
https://wagei.deci.jp/wordpress/shibahama/
夫婦の情愛を描いた人情噺。家庭を描く古典落語の名作です。
この噺の魅力と現代への示唆
「味噌蔵」の最大の魅力は、けちの極致を描きながら、言葉遊びによる勘違いオチで笑いに変える構成の巧みさにあります。けち兵衛は「女房くらい無駄なものはない」と言い、出産祝いの料理を重箱に詰めて持ち帰り、汚い下駄を履いて行って新しい下駄をもらって帰ろうとし、火事の際は商売物の味噌で目塗りをしろと指示する徹底ぶりです。
このようなけち兵衛の性格が、留守中の番頭たちの解放感を引き立てます。普段は質素な食事しか出されない店の者たちが、鯛の塩焼き、ブリの照り焼き、天ぷら、寿司、刺身など贅沢三昧の宴会を開く場面は、抑圧からの解放という人間の自然な欲求を表現しています。
そして最後のオチは見事です。豆腐屋の「焼けてきました」という田楽の完成報告を火事と勘違いし、「2、3丁焼けた」「あとからどんどん焼けてきます」という返答も延焼状況と解釈し、極めつけは田楽の味噌の匂いを嗅いで「味噌蔵にも火が入った」と慌てふためきます。日頃から火事を異常に恐れ、味噌のことばかり考えているけち兵衛だからこその勘違いです。
現代社会でも、極度の節約志向や守銭奴的な行動は周囲との軋轢を生むことがあります。この噺は、けちの愚かさと、それが生み出す滑稽な状況を、笑いと共に教えてくれる作品と言えるでしょう。
関連記事もお読みください





